■Aciculosporium take (タケ天狗巣病菌)

■ 2019年06月02日 撮影

少し前からキノコ狩り時の移動中にチラチラ車中から目に入ってて気になっていました。 せっかく植物寄生菌類を集中して探していた期間だったのでしっかり観察してみました。 その名の通りタケ類に特徴的な天狗巣状の病徴を形成する病害菌です。 近年は竹林が手入れされておらず、そのため本種が猛威を奮っています。

タケの花が咲いた」として紹介される写真にチラホラと本種が混じっています。 タケ類の花は仮に天狗巣のようになっても先端部に花が作られて太くなります。 本種に感染した部位は先端まで細い枝のままなので区別は容易です。 ササ天狗巣病菌タケ黒穂病菌も天狗巣病に似た症状を示しますが、病徴の雰囲気が異なります。


■ 2019年06月02日 撮影

本種に感染した部位を観察してみました。非常に細い枝が大量に発生しています。 このような状態を叢生と呼びます。 感染初期はつる状の枝が長く伸び、そこに小さな葉を付けます。


■ 2019年06月02日 撮影

感染が進むと小枝の発生が進み、竹箒のような状態になります。 こうなると正常な葉が出せなくなり、酷くなるとタケ全体が枯死します。 そりゃ光合成を行う葉が減って、枝の発生に栄養を奪われるのだから当然ですね。


■ 2019年06月02日 撮影

サクラ天狗巣病では葉の裏側に子嚢が形成されていましたが、本種は見た目菌らしき部分が見られません。 しかしじっくりと天狗巣を観察していると不思議なことに気付きました。 そう、枝の先の新芽の部分が白く肥大しているんですよね。


■ 2019年06月02日 撮影

帰宅後に感染部位を黒バック撮影してみました。違和感の正体はコレだったのですね。 先端の葉のすぐ下、葉鞘に抱かれた稈が不自然に膨らんでいるんです。 新芽にしては異様なほど白く、明らかに正常な植物体ではありません。


■ 2019年06月02日 撮影

実はこの白く膨らんでいる部分こそが本種の胞子形成器官である分生子座、いわば本体です。 この部分に胞子が形成され、それが雨粒によって周囲に運ばれることで感染を広げます。 タケの密度が高い場所では湿度も上がるため本種の温床となってしまいます。 また手入れされていない竹林だと感染対象となる枝が落とされていないため、本種の温床となってしまいます。


■ 2019年06月02日 撮影

分生子座を削り取って顕微鏡観察してみると、無数の胞子が見られました。


■ 2019年06月02日 撮影

本種の胞子は子座の名前からも分かるように分生子なのでクローンで増えます。 何か細長くて見慣れた冬虫夏草の子嚢胞子みたいに見えますね。


■ 2019年06月02日 撮影

分生子を拡大してみました。やや太めの糸状で長さは50μm前後のものが多いです。 実はコレ3つの細胞でできており、中央が細く長いヌンチャク形をしています。 これ撮影時には知らずにただの糸状だと思ってました。はずかちぃ・・・。 完全世代も出来るそうなので、ソチラも見てみたいですね。

植物寄生菌類ですので食えるわけないです。 むしろ本種はタケノコの収穫に悪影響を与えるので忌むべき存在ですね。 本種に感染することでタケは弱りますので、当然新たな稈を出しづらくなりますので。 西日本では放置された竹林が増えているため本種の感染規模も無視できないレベルになっています。

■ 2020年06月06日 撮影

植物寄生菌類を重点的に探す目的でフィールドに出ました。 前回観察し忘れたことがあったので、今回はコイツも採取するつもりでした。 地元ではかなり被害が拡大しており、探さずとも容易に出会えます。 ありがたいやら迷惑やら・・・。


■ 2020年06月06日 撮影

やはり葉鞘に抱かれように白色の分生子座が形成されています。 昨年はここに子嚢殻が形成されることを知りませんでした。今年こそは! ちなみにすぐ隣にタケ黒穂病菌も発生していて、タケにとっては地獄でした。


■ 2020年06月06日 撮影

ちなみに撮影時にマクロレンズ越しに気付いたのですが、分生子座から何か飛び出しています。 最初は内部に虫が侵入した跡かと思ったんですが、どうも雰囲気が違います。 調べてみるとコレ完全世代の出来始めのようです。 本種の子嚢殻子座は表面を覆うのではなく、分生子座から飛び出してくるんですね。


■ 2020年06月06日 撮影

分生子座を傷付けて水に溶き、顕微鏡観察してみると大量の分生子が確認できました。 ここまでは前回と同じ。まぁちょっとは見やすく撮れたとは思いますが。


■ 2020年06月06日 撮影

画像を少し加工して見やすくしてみました。油浸対物レンズで観察した本種の分生子です。 初めて観察した際は糸状で中程が細いヌンチャク形だと思っていました。 しかし後に文献を読んで知ったのですが、これ3個の細胞から成ってたんですね。 中央の細胞が長細いためヌンチャク形に見えていただけで良く見ると隔壁が見られます。
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