■Aecidium mori (クワ赤渋病菌)

■ 2019年05月19日 撮影

毎年キツネノワンとキツネノヤリタケを観察しに行くクワの大木。 クレマチスさび病菌を見ようと時期外れに立ち寄ったらまさかの出会いが。 春にクワの葉にさび胞子堆を形成する担子菌門サビキン目の「クワ赤渋病菌」です。 ちなみにこの周囲ではウツギさび病菌まで見付かる植物寄生菌類天国ですね。いや地獄か。

本種は宿主交代しない生態を持つため、クワのみを宿主として生活します。 分布はアジア地域のみで、特にインドに多く分布しています。 いまだ養蚕の盛んな中国ではカイコの飼育に対して猛威を奮っているのだそうです。

ところで、属名の「Aecidium」ですが、これはPuccinia属のアナモルフとされているハズ。 しかしこの病徴はさび胞子世代なので有性世代、つまりテレオモルフのハズです。 なのに何故この属名で広く用いられているのでしょうか・・・? 図鑑によっては「Peridiopsora mori」として掲載されていますが、これはシノニム扱いのようです。 良く分かりませんね。


■ 2019年05月19日 撮影

「赤渋」と表現されていますが、実際にはオレンジ色で遠目だと黄色っぽく見えます。 しかし深い緑色のクワの葉に発生していると非常に目立ちますね。


■ 2019年05月19日 撮影

本種に感染した部位は肥大しつつ菌えいそのものがオレンジ色を帯びます。 感染部位は葉の裏では分散しますが、葉の表では葉脈に沿って発生することが多いです。


■ 2019年05月19日 撮影

感染部位を拡大してみました。表面に見えるオレンジ色の小さなつぶつぶがさび胞子堆です。 ただ本種のさび胞子堆はプクキニア属のものと比べると非常に小型で形状もハッキリしないため、肉眼では観察が困難です。


■ 2019年05月19日 撮影

葉の裏側の感染部位です。葉脈近辺に巣食う本種は葉に大きなダメージを与えます。 役目を終えた感染部位は枯死するため、葉脈を断ち切られた葉は枯れ落ちてしまいます。 当然ながら植物にとって葉を失うことは大きなリスクです。


■ 2019年05月19日 撮影

葉の裏はこんな感じで感染部位が分散しています。


■ 2019年05月19日 撮影

まだ胞子を飛ばす前のさび胞子堆です。 本種は見たところプクキニアのようなコップ状のさび胞子堆にならないようですね。 いや、もしかしてそう言う構造なのかも知れませんが、さび胞子が盛り上がってただ吹き出しただけに見えます。 胞子を飛ばす前は水ぶくれのような状態になっていて、何か見てて痒くなってきます。


■ 2019年05月19日 撮影

さび胞子堆があまりさび胞子堆っぽくなく、むしろ夏胞子堆っぽい形状をしているので一応顕微鏡観察してみました。 若干不安でしたが・・・うん、確かにさび胞子っぽい・・・かな?ちょっと自信無いけど。


■ 2019年05月19日 撮影

油浸対物レンズで高倍率で撮影したさび胞子です。 オレンジ色の部分の周囲に厚い透明な層のような構造が確認できます。 これは他のサビキン目のさび胞子でも確認できます。 表面が少しザラついて見えますが、これもやはり表面に小疣があるのでしょうか? 情報が少なくて自信が持てませんけど。

食不適に決まってます。植物の病気です。 近年は良く効く薬剤が販売されているので防除は難しくないようですね。 まったく、植物活動にはあまり影響を与えないキツネペアを見習ってもらいたいものです。

■ 2019年05月19日 撮影

良く見ると膨らみかけのクワの果実にまで感染が広がっています。 クワは葉が軟らかいので分かりづらいですが、果実に感染した場合は硬さゆえ菌えいが確認しやすいです。


■ 2019年05月19日 撮影

帰宅後に黒バック撮影してみました。 感染した部位が肥大し、その表面にさび胞子堆が形成されているのが良く分かります。 この感じは明らかにさび胞子世代であり、夏胞子世代には見られない外見的特徴です。 明確にコップ状にならないと言うだけで、胞子の形状もそれを示していますしね。

■ 2020年06月06日 撮影

昨年初発見して顕微鏡観察してみましたが、どうしても腑に落ちなかったんですよね。 どう見てもあれがさび胞子堆に見えなくて納得できていなかったのです。 かつ属名にもちょっと疑問が残っていましたし、今回はしっかり観察するよ!


■ 2020年06月06日 撮影

今年は梅雨入り前まであまり雨が降らなかったので症状は比較的軽め。 どっちかと言うとクワ菌核病が猛威を奮っていました。 今年はこの樹下であまりキツネノワンもヤリタケも見かけなかったんですが、そうでもなかったようです。


■ 2020年06月06日 撮影

帰宅後にマクロ撮影しててハッとしました。そうか、病徴部が肥大してるんだ! コップ状のさび胞子堆が見当たらないので気付きませんでしたが、確かに夏胞子堆は植物体の肥大は無い! 夏胞子堆は表皮を破るように出現するだけで、肥大部から形成されるのはさび胞子堆ですもんね。


■ 2020年06月06日 撮影

しかしやはりこれだけ拡大してみてもさび胞子堆には見えません。 と言うのも護膜細胞らしきものが見当たらないためです。 辛うじて左上のものがコップ状っぽく見えますが、「ぽい」レベルです。 しかし今回の顕微鏡観察ではその疑問が解決しました。


■ 2020年06月06日 撮影

意識していたワケではありませんが、今回は研いだピンセットで病徴部を擦るように胞子を採取しました。 その結果胞子と一緒に護膜細胞が付いてきたのです。 これが確認できればもうこれがさび胞子堆だと断言できるでしょう。


■ 2020年06月06日 撮影

ちょっと長い程度の多角形ですが、この形状は紛れもなく護膜細胞です。 本当にさび胞子堆だったんですね。これは気付けなかったです。


■ 2020年06月06日 撮影

※オンマウスで変化します

ダメ押しでさび胞子もしっかり撮影してみました。前回よりも相当綺麗に撮れましたね。 オンマウスで深度合成した状態に切り替わりますが、さび胞子の特徴である表面の小疣が確認できます。 しかし本種が有性世代であるならばアナモルフの属名で良いのかな?新たな疑問が生まれてしまいました。
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