★Akanthomyces tuberculatus (ガヤドリナガミノツブタケ)

■ 2016年06月25日 撮影

既に発見していましたが虫草オフにて新たな子実体が見付かり一同発狂! ガの成虫を宿主とする気生型の冬虫夏草の代表種「蛾寄生長実粒茸」です。 沢筋の幹や枝に掴まったままのガの成虫から発生するユニークな気生型。 いんたーさんが発見し、ガガンボさんどろんこさんも大興奮でしたね。

以前は「Cordyceps tuberculata f. moeleri」でしたが、学名変更です。 アナモルフの形状からアカンソマイセス属に変更されています。 実は本種は神出鬼没で発生環境の特定がほとんどできない虫草。 ぶっちゃけ出会いは「偶然」。だからこそ出会えると嬉しいのです。


■ 2016年02月27日 撮影

実は発見当初はまだ冬で子嚢殻は全く出来ていない状態だったのです。 時間をかけて定点観察を行い、成長を観察し、やっと掲載できました。 本種は前年冬に感染して越冬すると言う意味不明な生態を持ちます。


■ 2016年02月27日 撮影

宿主を拡大。ノコメセダカヨトウ等のヨトウガの仲間と教えて頂きました。 幹に掴まったまま息絶え、菌糸が幹に広がって完全に固定されていました。 菌糸は淡黄色で不規則にストローマが伸びていています。カッコイイ!


■ 2016年06月04日 撮影

変化が有ったのは6月。表面がつぶつぶして来ています。


■ 2016年07月02日 撮影

最終的には一番上の写真撮影後に翅が脱落してこのような姿になりました。 一枚面が変な色に写ってしまい撮り直したかったのですが・・・残念です。 しかし子嚢殻はこの段階が最も多く、この後しばらくして採取しました。 本種は越冬する性質から、大半は降雪や降雨で翅が落ちてしまうようです。

と言うか木に張り付いた菌糸にも子嚢殻が・・・ストローマは何のために?


■ 2016年07月08日 撮影

採取後に室内で黒背景で撮影してみました。な、何と言う美しさだ! 子嚢殻が鮮やかな黄色で透明感が有るので、裸生の魅力が溢れてます。 キラキラと輝く子嚢殻が、まるでガの死骸から花が咲いたかのようです。


■ 2016年07月08日 撮影

マクロレンズで超拡大してみました。何とも不思議な姿をしていますね。 本種には子嚢殻の形状が異なる似通った生態の別種が存在するとされます。 1つはアメイロスズメガタケ。子嚢殻の色が褐色のため雰囲気が違います。 もう一つはガヤドリキイロツブタケ。こちらは子嚢殻先端が丸いです。 ただこの両種は単純に個体差や未熟個体で同種とする説も根強いです。

残念ながら薬用成分も無く食用価値無しです。まぁモロにガですしね。 本種のキノコ部分は実質表面の菌糸と細いストローマだけですから。

■ 2016年02月17日 撮影

実は初発見は真冬。崖のオーバーハングした部分に付いていました。 見付けた時はもう興奮のあまり一人冬の森の中で絶叫してましたね。 本種のような気生型種は葉の少ない冬場の方が見付けやすいです。


■ 2016年05月28日 撮影

実は初発見後一度雨で脱落し、拾い上げて崖中ほどに乗せておきました。 しかし運悪くまたも脱落、しかも根に引っかかって宙吊り状態に・・・。 結果重さを感じないほどに乾燥してしまい、生存は絶望的になりました。


■ 2016年05月28日 撮影

しかし暑さを感じ始めた5月末、諦め半分で訪れた時に異変に気付きました。


■ 2016年05月28日 撮影

子嚢殻が出来てる!そんなバカな!あの乾燥を耐えて再成長できるのか! 例えるなら干し椎茸を水で戻したら成長し始めたってくらいの衝撃です。 気生型の冬虫夏草が乾燥に強いからと言ってカリカリでも死滅しないなんて!


■ 2016年05月28日 撮影

興味深いのはストローマ表面に白い菌糸が広がり子嚢殻が出来ると言う事。 この感じはツブノセミタケなどの子嚢殻形成パターンに良く似ています。 針タケ型で子嚢殻が裸生する種はストローマから直接子嚢殻が形成されます。 この感じ・・・なーんかCordycepsっぽくないなぁとか思っていたりします。

■ 2017年07月29日 撮影

どろんこさんとgajinさん参加の冬虫夏草オフにてgajinさんの案内で発見。 以前ヤンマタケが発生したフィールドを散策するも、発見はできませんでした。 今年は会えてなかったので嬉しい!標本は観察のためどろんこさんへ・・・。


■ 2017年07月29日 撮影

拡大してみました。垂れ下がった細い枝にしがみ付くように死んでいます。 宿主はやはりノコメセダカヨトウのようですね。このガが好きなのかな? 面白い事にこのフィールドは不思議と開けた場所で湿度もチョイ高い程度。


■ 2017年07月29日 撮影

拡大してみました。短いストローマにもしっかりと子嚢殻が出来ています。

■ 2023年05月03日 撮影

しんや氏のフィールドを訪れた際に案内して頂いた子実体なのですが、 今回コレを見たことで色々と気付きがありました。


■ 2023年05月03日 撮影

まず第一印象として感じたのが「・・・ジュズミノガヤドリタケ?」でした。 針状になるハズのストローマが部分的にボコボコと膨らんでまるでジュズミノのようです。 聞けば2年目に突入しているそうで、前年の写真で見るとちゃんと普通のガヤドリでした。


■ 2023年05月03日 撮影

マクロ撮影して気付いたのは、昨年の結実部周辺に大きな菌糸塊が形成されていることです。 そして良く見ると少し新しい鮮黄色の子嚢殻が形成されかかっているのも確認できました。 そして周囲には褐色の古い子嚢殻が・・・ここでふとosoは感じました。 ひょっとすると古い子嚢殻が残ったものがアメイロスズメガタケで、 2年目に突入し、球状の菌糸塊を形成したものがジュズミノガヤドリタケなのではないか、と。 微細な子嚢殻を形成するガヤドリミジンツブタケは重複寄生だと思うので、 実は複数存在するガヤドリ系の冬虫夏草は同種なんじゃないか、と思ったりして。


■ 2023年06月10日 撮影

約1ヶ月後、気温も湿度も上がり始めた6月。 再度しんや氏のフィールドを訪れたので顔を見に行きました。 するとGWの頃は全く見られなかった子嚢殻が!完熟に期待して見守ることにしました。


■ 2023年07月01日 撮影

さらに約1ヶ月後。この日は青fungi氏も加わって3人でのしんや氏フィールド探索オフ。 生憎の天気でしたが色んな冬虫夏草が見られました。 その道中に居るガヤドリを見てみると、完熟と言って良いであろう成熟度合いになっていました。 今までとは明らかに異なる鮮やかな黄色の子嚢殻が宝石のような輝きを放っていました。


■ 2023年07月01日 撮影

子嚢殻をマクロ撮影。う〜ん美しい!透明感のある裸生子嚢殻の美しさは筆舌に尽くしがたいです。 しかし2年目でもここまで美しい状態に仕上がるのですね。冬虫夏草の力強さを感じました。

■ 2023年08月06日 撮影

しんや氏のフィールドにて感染初期の宿主に出会いました。 まだ菌糸が胴体周辺にしか広がっておらず、翅の模様がクッキリ残っています。 その特徴的な模様からもバリバリのノコメセダカヨトウですね。 美しい産状ですが、掴まっているのがシダなので多分雨や雪で脱落するでしょうね。


■ 2023年08月06日 撮影

不思議と有性世代を形成するのはノコメセダカヨトウが多いんですよね。 オオミズアオのような大型のガにも出るみたいなので、宿主特異性はそこまででもないかもですが。

■ 2023年10月01日 撮影

夏の暑さも穏やかになり、快適な気候になって来た10月一発目のフィールド。 しんや氏のフィールドへお邪魔したこの日はガヤドリフィーバーしてました。


■ 2023年10月01日 撮影

印象に残ったのはこの感染最初期と思われる宿主でした。 何と菌糸がほとんど広がっていないため複眼が見えているんですよ。 当然脚にも胴体にも菌糸は広がっておらず、枝にも脚の力だけで固定されているようです。 とても優秀な発生状態ですが、場所的に多分雪で落ちますね。

■ 2023年10月01日 撮影

滝壺のすぐ下流、沢に張り出した枯れ草にピトッと付いていました。 背景の雰囲気が非常にエモかったのでメッチャ撮っちゃいました。


■ 2023年10月01日 撮影

本種は越年性なので今年中の成長はここまででしょう。 この状態で越冬し、来年の梅雨頃に成熟すると思われます。 形状が美しいので子嚢殻形成まで行って欲しいですが、 付いているのも草本ですし、開けた場所なので降雪に負けて脱落しちゃいそうですね。

■Akanthomyces tuberculatus (スズメガタケ)

■ 2018年12月22日 撮影

実は以前地元でも発見していましたが、状態の良い子実体に出会えたので掲載決定です。 コチラはガガンボ氏が発見したもの。 小型のガの成虫に感染する気生型の冬虫夏草「雀蛾茸」です。 ガヤドリナガミノツブタケの未熟個体やアナモルフとされていますが、どうも後者のようですね。 子実体表面に分精子形成細胞が確認できたので、同一ページ内に載せることに。

あくまでもこの和名は通称であって、正式なものではないようです。 テレオモルフと分けるサイトの形式の関係上採用しました。 ガヤドリが小型のガに感染した場合、子嚢殻を形成せずに分生子での繁殖を行うようです。


■ 2018年12月22日 撮影

拡大してみました。宿主は木の幹に貼り付いたヤガやハマキガのような小型のガの成虫。 そこから薄黄色の細長い棒状の子実体を無数に生じています。 テレオモルフのガヤドリナガミノツブタケはこの表面に子嚢殻を作りますが、ガヤドリに比べると明らかに細いですね。 しかし以前観察したものはそのまま腐ちてしまいました。 未熟のまま成長できなかったのだと思っていましたが、ちゃんと活動してたんですね。

テレオモルフのガヤドリ自体が食用価値無しなのに、これだけ小さいなら当然食用価値無しでしょう。 大型のガヤドリと比べると中身もスカスカのことが多いようです。

■ 2018年12月22日 撮影

コチラは私が最初に発見した子実体。 環境的に気生型の冬虫夏草が出そうだなと木の幹を重点的に探していたら案の定見付かりました。 小型ですが暗色の幹に明色の子実体が付いているので比較的気付きやすいです。


■ 2018年12月23日 撮影

伸びている子実体を1本切り取って顕微鏡を用いて観察してみると・・・ビンゴ! 表面に分生子がビッシリ付いているのが分かりました。 確かにマクロレンズで撮影した段階でも表面が少しコナコナしてたんですよね。


■ 2018年12月23日 撮影

少し倍率を上げてみるとアナモルフであることが良く分かります。 と言うことはこの伸びている部分は分生子柄束と呼んだほうが良いのでしょうか。 もしかするとテレオモルフのガヤドリナガミノツブタケも冬場はアナモルフになってるのかな?


■ 2018年12月23日 撮影

低倍率では良く分からないので油浸対物レンズの出番です。 表面には分生子形成細胞がビッシリ並んでおり、その先端から分生子が連鎖するように形成されています。 連載しているのでフィアライドと呼んで良いかな?


■ 2018年12月23日 撮影

分かりやすいよう分生子形成細胞周辺を切り出してみました。 フィアライドは卵型で先端が尖っており、そこから数珠つなぎに分生子が形成されています。 生クリームのチューブで次々とひり出すように次々と分生子が作られていく感じなのでこんな感じで連鎖します。 このフィアライドの形状は確かにAkanthomyces属のものですね。


■ 2018年12月23日 撮影

分生子は不規則な楕円形で長さは4〜5μm。放出されても連鎖したままのものも多く見られます。 子嚢殻を作れない環境ではやっぱクローンで増えてるんですね。
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