■Ascobolus_sacchariferus (ハイイロスイライカビ)

■ 2020年03月01日 撮影

※ウンコ注意です。

つってもページの構造上完全に手遅れですけどね。当サイト初掲載の糞生菌は本種となりました。 実は昨年12月にフィールドにご一緒したこともあるD先生の子嚢菌の講座を受けました。 その際に「非常に特徴的な子嚢を持つ種」だと言うことは聞いていたので実にタイムリー! イノシシの糞に発生した小さな小さな子嚢菌類「灰色水雷黴」です。漢字合ってるかな? 一度は採取を躊躇いましたが、その結果当初考えていた属ではないことが判明しました。

この種自体には和名はありませんが、属名にはスイライカビ属と言う和名が付いています。 本属を含むスイライカビ科自体が各種動物の糞上に発生することで知られ、本属が科のタイプ属です。


■ 2020年03月01日 撮影

拡大してみるとイノシシの糞の上に無数の子嚢盤が見られます。 本属菌は基本的に極めて小型であり、肉眼のみでの観察には限界があります。 また見ての通り成熟度合いや発生した場所によって色にかなりの違いがあります。


■ 2020年03月01日 撮影

衛生面には注意しつつ無事持ち帰ることができたので黒バック撮影です。 すでにかなり微生物によって分解されているようで、不快臭は無かったです。 ただニードルやカミソリは使用するので、感染症には注意しました。


■ 2020年03月01日 撮影

子嚢盤は厚みのある皿形で中央部は凹んでおらず、むしろ縁部は反り返ります。 色については図鑑に掲載している写真が大抵室内で成長させたもののためかほぼ無色です。 ですが野外では若い子嚢盤でもクリーム色で、成熟すると褐色になります。 この色については吸収した成分とかでも違うのかも知れませんが。


■ 2020年03月01日 撮影

ウンコの上に生えていると思わなければ可愛らしい外見です。いや、生えてても可愛いですが。 ちなみに最初はこの色合いで早とちりして別属菌だと勘違いしていました。


■ 2020年03月01日 撮影

しかしこの姿をマクロレンズで見て本属菌だと確信しました。 良く見ると子実層表面がツブツブしているのが見えると思います。実はコレ子嚢の先端なんです。 本属菌は子嚢がかなり大型で1本1本がハッキリしているので、高性能マクロだと子嚢が見えます。 そして注目すべきはその表面に見える濃色のツブです。


■ 2020年03月01日 撮影

一番見やすい子嚢盤を拡大してみました。 本種の子嚢胞子は未熟時は無色ですが、成熟すると赤紫色になります。 そのため成熟した子嚢が識別できるのです。 ちなみに実体顕微鏡で観察すると子嚢とその中に浮かぶ子嚢胞子が見えてしまいます。 この写真はかなり有名で、海外の図鑑やネットの画像検索でも見られるので是非属名で検索してみてね?


■ 2020年03月01日 撮影

本種の魅力は顕微鏡観察でも健在。むしろコッチがメインかも知れないレベル。 子実層面には子嚢と側糸がビッシリ。 子嚢は先端部が太いので、マクロレンズでもハッキリ見えたのですね。 子嚢胞子の数は8個。成熟した子嚢胞子には色が付いています。


■ 2020年03月01日 撮影

厚みがあったので水分を可能な限り少なくして表面張力で潰れたくらいの状態を撮影。 やはり成熟した子嚢の太さが目に付きますね。 ちなみに中央に写ってるパック○ンみたいなのはスギ花粉ですね。イッキシ!


■ 2020年03月01日 撮影

少し倍率を上げてみました。 と言うか胞子が未熟なものと成熟したものとでここまで違うってのは初かも。 そもそもチャワンタケ型の子嚢菌類でここまで色付くのも不思議ですしね。 なによりも成熟した胞子の美しさ、これは今まで見てきた中で最高クラスかも・・・?


■ 2020年03月01日 撮影

子嚢胞子は18μm×9μmの楕円形で色は薄紫色。 これだけでも個性豊かなのですが、目を引くのは表面の模様です。 本種にはヒビ割れのような模様が走っています。 何かこう・・・どっかで見たなと思ったらアレだ、ウリの実だ。 この子嚢胞子の形状とサイズ、そしてこの模様は同属でも結構違うので同定に役立ちます。


■ 2020年03月01日 撮影

子嚢菌類と言えばメルツァー試薬!ってことで試しに染色してみました。 子嚢自体はアミロイドですが、若い時くらいしか青く染まらないようです。 染まってもこんな感じで上半分が少し青く染まる感じですね。 また子実体を形成する組織は偽アミロイドのようで真っ赤に染まります。


■ 2020年03月01日 撮影

子嚢と側糸をメルツァー試薬で染めた状態で観察しやすいよう切り出してみました。 下の目盛りが100μmです。子嚢は先端付近が太く、成熟すると長くなって子実層面から突出します。 子嚢先端は平らになるようです。側糸は糸状で分岐なしの隔壁あり。


■ 2020年03月01日 撮影

メルツァー試薬で染めると子嚢胞子の紫色がより濃くなります。


■ 2020年03月01日 撮影

通常の色合いも綺麗ですが、染色した状態の子嚢胞子の色合いは非常に美しいですね。 特にこのヒビ割れ状の模様がハッキリと分かるようになるのが良いです。 正直本種を観察するまでは糞生菌は近寄りがたいものだと言う認識でした。 その認識を打ち破ってくれた思い出深い菌となりました。ありがとうイノシシの糞!

食えるわけねぇだろ。と言うか仮にこのキノコが可食としても絶対に食べないで下さい。 キノコではない菌的な意味で絶対にヤバいと思いますので。

■ 2020年02月23日 撮影

本種に出会ったのは1週間前のこと。その時はこの写真だけを撮ってその場を去りました。 これだけ特徴的な種ならちょっと調べれば正体に辿り着けると思ったのです。 その時の候補に上がったのが「Iodophanus carneus」と言う糞生の子嚢菌類です。 肉色の子実体と聞いてこの種だと思い込んでいました。


■ 2020年02月23日 撮影

しかし同定には当然ですが顕微鏡観察が必須です。 糞生菌は採取したくなかったんですが、正体が分からない不安が勝りました。 そして1週間後に再度同じ場所を訪れたのです。 結果的に属すら違う別種だったわけで、「調べる」ことの大切さを痛感しました。


■ 2020年02月23日 撮影

この頃はまだ発生初期で子実層面に特徴的な成熟した子嚢が浮き出ていませんでした。 なので1週間経ってから再度探して正解だったワケですが。

■ 2020年03月01日 撮影

1週間後になるとどこを見ても成熟した子嚢を持つ子嚢盤ばかり。 これを最初に見ていたら違ったかも知れないんですけどね・・・。 でも観察した今でも今でも糞採取に抵抗が・・・無いと言えばウソになりますね。

■ 2020年03月01日 撮影

今回の同定は子実体の色や胞子の色と形状など、そこそこ多方面からアプローチしました。 しかしネットでも図鑑でも多くの写真は室内での追培養により得られた子嚢盤なので色が淡いです。 海外で野外の色の濃い子嚢盤の写真と、実際に見た色の淡い子嚢盤が無ければキツかったです。 これもしかして糞に含まれる成分によって色変わったりしてませんかね?

■ 2021年03月14日 撮影

菌生冬虫夏草を探していたらシカの糞に発生しているのを久々に発見。 初発見地はイノシシがあまり来なくなったのか、めっきり見なくなったので嬉しい出会いでした。 ちなみにこのすぐ隣にヌメタンが生えていて、撮影していて三脚が触れないよう気を遣いました。


■ 2021年03月14日 撮影

マクロ撮影してみると良い感じに子嚢胞子が成熟しているではありませんか! これはアレを見てみたいなと思い付き、持ち帰ることにしました。 まぁ大失敗しちゃったんですけどね・・・。


■ 2021年03月14日 撮影

あんま意味無いですが黒バック撮影です。


■ 2021年03月14日 撮影

失敗しました・・・。と言うのもタッパーに入れる際にシダや苔で固定しなかったんです。 そのためタッパー内で転げ回ってしまい、子嚢が潰れてしまいました。 しっかり固定していればツンと立った子嚢が沢山見れたハズなのに!


■ 2021年03月14日 撮影

それでも諦めきれないのでやってみました顕微鏡マクロ撮影。 水封をせず、カバーガラスも乗せずにそのまま低倍率レンズで撮影しています。 絞りと言う概念がレンズ側に存在しないので厳しいですが、それなりに形にはなりましたね。


■ 2021年03月14日 撮影

ちゃんと見えて感動しました。飛び出した透明な子嚢の中に楕円形の胞子が見えています。 更に高倍率の写真が海外の図鑑にも載っていますが、本属菌はこのような姿が観察しやすいです。 これは子嚢の透明度が高いこと、そしてそれに反して胞子が暗色であることが重要です。 この2つが揃う種は地味にあまり無いんですよね。 でもこれでもまだまだ満足できません。次回はしっかり固定して持ち帰り、撮影方法も工夫しなくては!
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