■Ascocoryne cylichnium (ムラサキゴムタケ)

■ 2012年10月27日 撮影

秋の渓谷探索。道沿いに歩いていると湿り気の有る場所の倒木に見慣れぬ姿。 和名は「紫護謨茸」。水分を多く含む腐朽の進んだ樹上に発生します。 各種チャワンタケ系のキノコに似ていますが、ムラサキゴムタケ属です。 広葉樹材に発生し、どうやらこれはミズナラのかなり古い苔生した倒木かな?

実は本種には複数の近縁種、隠蔽種と呼ぶべきかな?が存在しています。 発生材が針葉樹のもの、アナモルフを伴うものなど最低でも3種類くらいが存在しているようです。 このページは恐らく本来のムラサキゴムタケと思われる広葉樹生かつアナモルフを形成しないものを紹介します。


■ 2012年10月27日 撮影

同じ材に発生していた別個体。色は落ち着いたライラック色で中央は凹みます。 基本的には最初の写真のような皿型ですが、このように不規則に波打つ事も。 大きくても1cm程度の小型種ですが、鮮やかな緑の絨毯に包まれ目立ちます。

食毒は不明ですが、ズキンタケ科であり食用価値無しの可能性が高いです。 毒は無いけど食べる価値も無い、そんな感じでしょう。そっとしておきましょう。

■ 2014年10月25日 撮影

初見時は深山でしたが、ずっと探索してきて意外とどこにでも居る事が判明。 色んなフィールドで水分の多い倒木が有ればサラッと居たりしますからね。 それにしてもゴムタケに似ていないので、この和名にはどうも違和感が・・・。

■ 2016年11月19日 撮影

ブナ林に行くと「そう言えば居たな」レベルで毎回見かけてる気がします。 小型で他のキノコに気を取られて注目する事が少ないので今回は激写です。

■ 2018年11月23日 撮影

デジイチをCanonの「EOS Kiss X9i」に変更して初の試写で渓谷を訪れた際に発見。 メインは紅葉だったのでキノコはあまり期待してませんでしたが、そう言えば顕微鏡観察してなかったなと思い出し撮影。 広葉樹の朽木に他の盤菌を伴って大発生していました。


■ 2018年11月23日 撮影

やや乾燥気味ですが確かに本種ですね。 周囲を見回してもアナモルフは確認できず、発生初期の幼菌もちゃんと椀形になっています。 子実層を顕微鏡で観察するために標本を採取しました。周囲のちっこいのは何だ?


■ 2018年11月23日 撮影

子実層面を切り出してみました。下方に見える異物は本種の特徴です。 これ最初に見た時は「ゴミ入っちゃったな」って思ってたんですが、実は違ったんですよね。


■ 2018年11月23日 撮影

側糸は糸状で隔壁有り先端部が膨らむのが特徴です。


■ 2018年11月23日 撮影

メルツァー試薬で染色した状態の子嚢を切り出してみました。子嚢胞子は8個で2列に並びます。 先端だけが青くなっており、頂孔アミロイドであることが分かります。


■ 2018年11月23日 撮影

子嚢胞子は紡錘形で一方に少し反っているものが多いです。 内部には微細な内包物が存在しますが、良く見ると規則的に偏っている胞子が多く見られます。 これはとある試薬を用いることでその理由を知ることができます。


■ 2018年11月23日 撮影

メルツァー試薬で胞子を染色すると、最初は無隔壁だったはずの胞子に隔壁が出来ているのが分かります。 隔壁の数はバラバラですが、最大で6個のようですね。 また右の胞子の表面に粒のようなものができていますが、これは直接側面から生じる分生子です。 子嚢内部で分生子を形成することもあるそうです。


■ 2018年11月23日 撮影

そしてゴミだと思っていたコレ、実は本種の特徴でした。 本種は組織内部に結晶体が存在するのです。 最初は無色透明ですが、やがて紫褐色になるようです。 このような構造は他の子嚢菌類では見た覚えがありませんね。
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