■Blackwellomyces cardinalis (ホソエノコベニムシタケ)

■ 2019年07月07日 撮影

ハマキムシイトハリタケの発生坪で2016年に見かけた未熟な冬虫夏草。 その時は正体が分からぬまま晴れ続きの天気のせいで干乾び、それ以降その存在を忘れていました。 しかし2019年の夏に遂にその正体が判明しました。 小型のガの幼虫を宿主とする冬虫夏草「細柄小紅虫茸」です。 分類が変わったばかりでタイムリーな発見となりました。 ちなみに種小名の「cardinalis」は「緋紅色の」の意味で実に納得の命名です。

この発見のほんの少し前まで本種はCordyceps属として定着していました。 しかし結実部の質感や胞子の形態などがどうにも一般的なCordyceps属菌とは異なっていました。 その後Blackwellomyces属が新設され、今までの常識が塗り替えられる瞬間に立ち会えました。

もう1つ。本種には山形型財田型と呼ばれる2つのタイプが確認されています。 前者はその名の通り山形県で発見されたもので、これが当初「ホソエノコベニムシタケ」とされていた種です。 これは裸生の子嚢殻とヌンチャク形胞子を持つ種でしたが、その後発見が完全に途絶えました。 そのため財田型の本種がこの和名を襲名。このページの掲載種となります。 ですが実は山形型は2006年頃から発見されているんですよね。 研究会として正式に記録が無いだけで、2022年に自分も発見することができました。 と言うかそれ以前にも気付かずに撮影していました。となるとそっちはどう扱えば良いんでしょう?


■ 2019年07月07日 撮影

子実体は種小名通りの緋紅色で非常に鮮やかな色合です。 子実体は極めて小型で大きくても1cm程度。 結実部と柄の境界は明確で、結実部は円筒形〜球形で形状はまちまちです。 子嚢殻は埋生型〜半裸生型で結実部より濃色です。 個人的にはベニイロクチキムシタケに似ているように感じます。


■ 2019年07月07日 撮影

地面を掘ってみるとすぐ下に宿主が居ました。 宿主は小型のガの幼虫で、パッと見はハマキムシイトハリタケの宿主と同じようです。 しかしハマキムシイトハリタケの宿主は白っぽかったですが、この宿主は赤黒くなっています。


■ 2019年07月07日 撮影

胞子を採取できたのでクリーニングして黒バック撮影してみました。 写真で見ると大きそうに見えますが、これでも子実体の高さが1cmくらいしかありませんからね。


■ 2019年07月07日 撮影

結実部を拡大してみました。柄は鮮やかな緋紅色ですが、結実部の下地は橙色。 そこから突出している子嚢殻は濃い赤橙色なので子嚢殻が良く目立ちます。 子嚢殻の先端からまだ子嚢か子嚢胞子が飛び出したままになっています。


■ 2019年07月07日 撮影

宿主の形状はやはりハマキムシイトハリタケのそれと似ています。場所も同じですしね。 しかし体表の色が全く違うのが気にはなります。やっぱり別種なのかな? 菌糸の色かとも思いましたが、吹き出している菌糸は白っぽいですし。


■ 2019年07月07日 撮影

心配していた子嚢胞子も無事採取できました。


■ 2019年07月07日 撮影

子嚢胞子は細長い糸状で長さは250μm強のものが多い印象です。 こうして見ただけでは隔壁もくびれも見当たらず、本当にストレートに糸状と言う感じです。 これもベニイロクチキムシタケの特徴似ている気がします。気のせいかなぁ・・・。


■ 2019年07月07日 撮影

ここで確認したかったことがあったのでメルツァー試薬で染色してみました。 本種には隔壁があるらしいのですが、これがメチャクチャ観察しづらいのです。 くびれも無いので染色することでその隔壁部を明瞭にしようと言うワケ。 結果は大成功!記述通り15個の隔壁が確認できました。 二次胞子には分裂しづらいですが、分裂した場合は16個になると言うことですね。

薬用になると言う話も聞きませんし、食用価値無しで良さそうですね。 非常に小型なので仮に薬効があったとしても実用に耐えられる量を採取するのはムリでしょうし。 ただ非常に美しい色を持つ種なので観賞価値は高いと思います。

■ 2019年09月29日 撮影

同じ山の少し離れたフィールドにて発見! 朽木から発生していたのでベニイロクチキムシタケだと思っていました。 と言うかそうだと思って投稿までしました。 しかしどうにも違和感があったので1週間後に見に行きました。 その結果、本種であることが判明した次第です。


■ 2019年09月29日 撮影

子実体の見た目はベニイロクチキムシタケそのもの。全く区別が付かないレベルです。 ただベニイロに比べると少し赤っぽい印象を受けます。結実部が白色なあたりは瓜二つ。


■ 2019年09月29日 撮影

実は当日に宿主撮影もしていましたが、この時は時間が無いので撮影だけして観察はしませんでした。 しかし帰宅後に画像補正をかけてみると、宿主がどう見ても甲虫には見えないんですよね。 なので翌週に同じ場所を訪れ、埋め戻した宿主を観察し、鱗翅目の幼虫であることを確認しました。 良く見ると宿主が居るのは材の中ではなく、材とコケの隙間なんですよね。 冷静に考えればベニイロにしては標高が低く植生も別物。ホソエノコベニの環境でしたね。

■ 2022年08月06日 撮影

訪れる度に新発見→標本提供の必要性が出て来る→また同じフィールドを訪れる・・・。 まさか同じ場所に3週連続プチ遠征することになるとは思いませんでしたよ。 そして3回目で一旦一区切りとなりましたが、その遠征で出会いました。


■ 2022年08月06日 撮影

実はこの場所ではホソエノコベニムシタケの山形型が2週連続で見付かりました。 流石に最終日のこの日は見付かりませんでしたが、見慣れていたので最初は山形型だと思いました。 しかし近付いてみると見覚えのある白い結実部と飛び出したオレンジ色の子嚢殻が見えビックリ。 つまりこのフィールドでは山形型と財田型が1ヶ所で見られると言うこと。 これ何気に凄いことですなんですよ?


■ 2022年08月06日 撮影

ある程度確信を持って掘ってみるとやっぱり鱗翅目の幼虫。間違い無いですね。 しかし顕微鏡観察は済んでいるので採取しなかったんですが、帰宅後に写真を見て後悔。 左下にBlackwellomyces型の分生子が形成されてるですよね。 白くてポワポワした分生子柄束が見えてます。しまったー!採取すれば良かったー!

■ 2023年07月02日 撮影

昨年8月にも見られたこのフィールド、かなり安定して発生しているようです。 山形型も見られる本当に優秀なフィールドですね。 フジの樹皮の隙間に入り込んだ鱗翅目の幼虫から複数本発生していました。

■ 2023年07月02日 撮影

大型の子実体も別に発見。宿主は体表が黒い鱗翅目の幼虫です。 そしてここでもまたアナモルフを見逃すと言う体たらく・・・いい加減にしろ俺。

■ 2023年10月01日 撮影

夏の暑さも過ぎ去り、長袖がそこまで不快ではなくなって来たこの時期。 真夏の冬虫夏草だと思っていた本種に出会えるとは思わずビックリ。 森林生のカメムシタケを撮影していないと見付けられなかったかも。


■ 2023年10月01日 撮影

とは言え流石に時期外れだったようで、柄は完全に役目を終えていました。 流石に2024年はアナモルフも含めてしっかりと全体像を撮影したいですね。忘れるなよ俺。
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