■Chlorencoelia torta (コケイロサラタケモドキ)

■ 2019年09月29日 撮影

発見した時は、と言うか帰宅して顕微鏡観察し終えてもコケイロサラタケだと思っていました。 しかしとある特徴を調べれば判別できると知って後日リベンジ。別種であることがハッキリしました。 秋にブナなどの広葉樹材上に発生する小型の子嚢菌類「苔色皿茸擬」です。 見事なまでの迷彩色であり、苔生した材などではまぁまず気付けないと思います。 このテの盤菌としては遭遇率が比較的低い種な気がしますね。

と言うか恐らくですがコケイロサラタケ(C.versiformis)とされているものの相当数が本種であると考えられます。 肉眼での判別は不可能であり、顕微鏡観察を伴わない同定は一切信用してはいけないと感じました。 ネット上のコケイロサラタケの一体どれだけが本種なのか、考えるだけでおぞましいです。 そもそも本来のコケイロサラタケは北方系であり、本州の低地で見られるものは疑ってかかったほうが良さそうです。


■ 2019年09月29日 撮影

子実体は椀形で成長すると皿形になり苔色。縁が反り返る物も多いですが、中央部の凹みは残ります。 若いものだと若草色で、老成するとほぼ黒色になるなど子実体による色の変化が激しいです。 ナメクジに食べられてるみたいですね。


■ 2019年09月29日 撮影

中央付近の子実体が材から浮いて見えるのは基部に短い柄があるためです。 縁が反り返ることができるのも柄のお陰で子嚢盤が少し浮いているからですね。


■ 2019年09月29日 撮影

拡大してみました。何とも自然な、と言うか違和感の無い苔色ですね。 緑色のキノコはそこそこ存在しますが、本種の色合いは彩度の関係か自然に溶け込みやすい気がします。 心なしか古くなると少し青みがかるのも良い味出してますよね。


■ 2019年09月29日 撮影

子嚢盤が分厚いので子実層面付近だけを切り出して顕微鏡観察してみました。 こうして見ると子実層表面付近に緑色の色素が集中しているのが分かります。


■ 2019年09月29日 撮影

拡大してみると色の正体が判明しました。側糸です。 側糸内部にかなりの量の色素が内包されていました。 ですが分布は先端付近に多いとは言えまばら。 これであの色が出ているのは不思議なものです。


■ 2019年09月29日 撮影

子嚢胞子はやや片側に反ったような長楕円形で長さは9μm〜13μmの範囲内のようです。 律儀に大型の2つの油球を内包しています。 胞子サイズや外見的特徴はコケイロサラタケとあまり大差無いようです。これでは決め手に欠けるかな?


■ 2019年09月29日 撮影

メルツァー試薬で染めてみると苔色の色素が濃く染まったかな?


■ 2019年09月29日 撮影

子嚢先端は冬虫夏草ばりに肥厚しており、お陰で綺麗な頂孔アミロイド反応が得られました。 こうして見ると子嚢よりも側糸のほうが長いのかな? ここまでの観察では情けないことに普通にコケイロサラタケだと思っていました。


■ 2019年10月10日 撮影

その後、某サイトにて本種の存在を初めて知りました。 しかしその段階ですでに前回の標本は破棄してしまっており、仕事も多忙で中々山にも行けず仕舞い。 再度同じ場所を訪れて標本を採取することができたのは約2週間後のことでした。 まずは水酸化カリウム水溶液を試してみます。 色素は溶出しないとのことでしたが、画像編集してみると少し溶出してる? 6%は濃かったかな・・・。


■ 2019年10月10日 撮影

これを見て本種がコケイロサラタケではないと言う確信が得られました。 本種の子実体表面には電球状の細胞が存在すると言うコケイロサラタケには無い特徴があります。 電球状ってなんじゃラホイと思っていた私もコレを見たら流石に納得すると言うものです。 コケイロサラタケには当然このような細胞は存在せず、綿毛状菌糸が存在するだけです。


■ 2019年10月10日 撮影

電球状細胞を拡大してみました。よくまぁコレ「電球状」って表現しましたよね、ピッタリです。 個人的には生卵割った時に垂れてきた中身って思いました。 と言うのも本種のこの先端が肥大した細胞には大きな油球が1つ含まれているのです。 油球は顕微鏡で見ると黄色っぽく見えるので凄い目玉焼きっぽいんですよね。


■ 2019年10月10日 撮影

試しに短い柄の表面も観察してみましたが、同様の構造が確認できました。 時間も手間もかかった高い授業料でしたが、本種のことを知れたのは大きな収穫でした。 こうなるとホンモノのコケイロサラタケも見てみたいですね。

極めて小型であり食不適です。食毒も不明なので手を出す価値無し。 と言うか色が色だけに流石に食う発想は出て来ませんね・・・腐った木の臭いしそう。 ただ色合い的には非常に魅力的な種であり、個人的には観賞価値は高いです。撮ってて楽しい♪

■ 2019年09月29日 撮影

同じ材の反対側に出ていた比較的新鮮で若い子実体です。 日陰で湿度が高いのか生育状態は上面に出ているものより良いみたいです。 これくらいだと確かに苔色って感じですね。


■ 2019年09月29日 撮影

拡大してみました。うーん、やっぱり良い色合いですね。 生育状態的にはこれくらいの色合いが本種のベストコンディションなのでしょう。 まだ子嚢盤が反っていないのでビロード状の外面が見えています。 毎年安定して発生しているっぽいので、また訪れたいと思います。

■ 2021年10月03日 撮影

今年も出ました。これが和名が提唱されて初の更新です。 この写真が撮影された少し前に和名を提唱した図鑑が発行され、学名のローマ字読みから開放されました。 でもまぁ確かにこの和名が一番わかりやすいですね。 更に別の類似種が見付かった場合は・・・外でもある例ですね。

■ 2021年10月03日 撮影

写真を見返していて思うことですが、本種は成長段階によって結構黄色みが強くなるんですよね。 基本は少し青みがかった濃い緑色なんですが、この黄色っぽくなったほうが本当の「苔色」って感じがします。
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