★Ciboria caucus (ハンノキハナホキンカクキン)

■ 2019年03月09日 撮影

初発見は実況動画撮影中。湿地とは程遠い山間のオオバヤシャブシの樹下で発見! 和名無しのキボリアキンカクキン属菌「榛木花穂菌核菌」です。 ハンノキの尾状花序に寄生して椀形の子実体を形成する子嚢菌類ですね。 以前は「C. amentacea」とされていましたが、現在は変更されている模様。 ちなみに「amentacea」は「尾状花序」の意味。「caucus」は分かんない!似たような意味かな?

気温が低い時期に発生し、高緯度地域では4月頃まで見られるとのことです。 残雪の中からも見付かるとのことですが、意外と遅い時期でも見れるのですね。 オオバヤシャブシはハンノキより花期が遅く、もしかして花期を感じてる?

余談ですが、2019年でこのフィールドの観察は終了です。 おそらくもう10年以上、手が入っていなかった遊歩道の整備が再開されてしまいました。 その一環で邪魔なオオバヤシャブシの大木が伐採され、この場所には二度と発生しません。 キンカクキン科のような特定の植物体を栄養源とするキノコは、その植物が失われると絶滅します。 年間通して50人来るか来ないかと言う場所にこれほどの施設が必要だったのか、複雑な気持ちでいっぱいです。


■ 2019年03月09日 撮影

子実体は柄を持つ椀形で色は淡褐色。 ツバキンやモクレンのキンカクキンに比べると彩度が低い印象を受けます。 また縁部に白い縁取りがあるのも特徴でしょうか。


■ 2019年03月09日 撮影

本種はキボリアキンカクキン属なので、当然ながら菌核的なものを形成する性質があります。 子実体の下に見える黒いスギの葉のようなものが本種の菌核・・・菌核なのかな? 詳細はもっと見やすい写真で後述します。


■ 2019年03月09日 撮影

長い間見てきたのに顕微鏡観察したこと無かったんですよね。 とりあえず子実層面はコレと言って代わり映えしない子嚢菌類って感じ。


■ 2019年03月09日 撮影

子嚢胞子を観察してきて違和感が。何かブレてる? 観察の仕方を間違えたのかと何回か胞子を取り直しましたが、何度見ても変な輪郭が。 気になって調べたらコレ本種の特徴だったみたいですね。


■ 2019年03月09日 撮影

子嚢胞子は短めの紡錘形で両端付近に微細な油球様の内包物を含みます。 そして輪郭のブレに見えていたものは射出時に胞子を包んでいた皮膜でした。 射出後にブドウの実を押し出すかのようにチュルンと剥けるようです。 今まで見たことが無い特徴だったので衝撃的でしたね。

ちなみに「C. amentacea」と「C. caucus」の違いは胞子の大きさの違いが判断基準なんだとか。 ただ読んだ感じだとそんなに大きな差に見えず、同一個体内でもかなりバラツキがあります。 10μmを超えるものが前者、超えないものが後者だそうですが、10μmを境に前後どちらも見られます。 なので「C. amentacea」をシノニムとする案を採用しました。


■ 2019年03月09日 撮影

メルツァー試薬で染めてみると子嚢先端が青く染まっています。 典型的な頂孔アミロイドですね。キンカクキン科は染まるやつばっかですけど。


■ 2019年03月09日 撮影

ちょうど観察しやすい子嚢と側糸があったので撮影してみました。 特筆すべきは側糸が基部で分岐することですね。隔壁も存在します。


■ 2019年03月09日 撮影

子嚢先端部を油浸対物レンズで高倍率撮影してみました。 青く染まっているのが頂孔と呼ばれる胞子の通り道です。 ここを通過して胞子が勢いよく射出されます。 こんなトコ通るのに皮膜は剥けないんですね。不思議。

湿地のハンノキ林で本種を見付けるのは並々ならぬ努力が必要ですよ? 出会うだけでも大変ですが食毒不明なのでますます探す気が失せますね。 私みたいなキンカクキン科スキーなら何ら苦ではないですが。 春に山地のヤシャブシの樹下を探すのが一番ラクだと思います。

■ 2015年03月21日 撮影

開発放棄された遊歩道と言うか遊び場の丘の上に生えた大きなオオバヤシャブシの樹下。 前年の2月に湿地のハンノキ林を必死に探すもスカして時期を逃してしまった本種。 翌年湿地で最初に小さいのを発見したのですが、その後こんな行きやすい場所を見付けちゃいました。 しかもここ車で乗り付けられる上にどの子実体も比較的立派!神ポイント・・・でした。 まさか開発で消えちゃうとは予想だにしなかったです。


■ 2015年03月21日 撮影

子実体はかなり小型で直径は大きくても1cm程度。色は黄褐色です。 ツバキやモクレンの奴らと比べるとやっぱり彩度が低いですね。淡い色合いと言うべきか。

■ 2015年03月21日 撮影

本種はキンカクキン科のくせに「明確な菌核を形成しない」と言われています。 確かに図鑑の写真でも朽ちた尾状花序から直接発生している様子が分かります。 同属のキツネノワンがクワの実形の明確な菌核を作るので確かに異質ですね。 ですが、実はこの写真の中に「菌核」的な物が写っています。分かりますか?


■ 2015年03月21日 撮影

左に見える黒いスギの落葉みたいなもの、これ子座化した尾状花序の芯です。 内部が完全に菌に置き換わっており、魚の骨のような細長い菌核と言えます。 オオバヤシャブシは花が大型なので、ハンノキの場合はもっと細くなります。 これを菌核と呼ぶべきか、子座化した植物体と呼ぶべきか、悩みどころです。

■ 2015年03月21日 撮影

綺麗な幼菌を発見。椀の周囲の白い縁取りがこの頃はハッキリ分かります。 海外の写真でも同じような縁取りが見られるので、本種の特徴なのでしょう。

■ 2015年03月22日 撮影

興奮のあまり地元の広報に気付かずに実況録っちゃったので翌日リベンジ。 せっかく来たので菌核部分を掘り出して綺麗にしてみました。こんな感じです。 見た目は菌核と呼ぶにはあまりに細く、朽ちたスギの葉にしか見えません。

■ 2016年03月20日 撮影

現地に到着して唖然!何と遊歩道整備で生えていた場所が削られている! 全滅かと思いましたが場所を変えてちゃんと出ていてくれました。良かった。 でも今思えばこの頃から開発の魔の手は着実に近付いていたのですね。


■ 2016年03月20日 撮影

探しま回ると以前は探しても無かった比較的高い場所で発見しました。 危機を感じて逃げたか、それともただの偶然か。・・・偶然でしょうね。 子実体の右側にブドウを食べた後のような黒いスギっ葉のような菌核が。

■ 2017年03月12日 撮影

今年も出ました。今年は寒くて色んな樹種の開花が遅れているんですけどね。
ちゃんと毎年同じ時期に出てくるのは流石です。少しフライング気味ですが。

■ 2017年03月12日 撮影

はいヤラセです。ただほとんど落ちていなくて、尾状花序も開いてませんね。


■ 2017年03月12日 撮影

上のカールした黒い杉っ葉みたいなのが菌核ですね。かなり露出しています。 この状態でもどこか一部埋まっていれば水分的には特に問題無いみたいですね。 撮影中に綺麗なダニが歩いて行きました。ミドリハシリダニの一種のようです。

■ 2017年03月25日 撮影

スカして帰る途中に林道の途中で水の染み出す斜面にヤシャブシの樹を発見。 まさかと思って這いつくばってみると・・・やっぱり居ました。これで3ヶ所目です。

■ 2018年01月20日 撮影

気になっていつもの場所に来てみました。環境はかなり荒れていました。 遊歩道の整備が進み、土の地面は砂利の駐車場に変わってしまいました。 しかし予想していた以上に削られた場所は少なく、菌核は健在でした。 もう慣れちゃってるのでどれが菌核か、見ればすぐに分かるように・・・。

■ 2018年03月10日 撮影

1月の段階では全く見当たらなかった子実体も3月になればあるわあるわ。 菌核ってもっと丸いって印象があるのでこの細長さはやっぱ違和感あります。

■ 2018年03月10日 撮影

良い感じの子実体がありましたので撮影。実況動画でも主に録ってましたね。 1つの菌核から複数の、そして成長度合いの異なる子実体が出てて良い感じ。 本当に顔を出したばかりの幼菌は口が超小さいので何とも笑える外見です。 スナヤマチャワンタケの幼菌もこんな感じですし、やっぱ似るものですね。

■ 2019年03月09日 撮影

子座化した尾状花序がほぼ露出していても子実体が発生しています。 こう言ったキンカクキン的な振る舞いをする種の強みはやはり対乾燥ですね。 硬い外皮に包まれているのでちょっとやそっとで乾燥死はしません。

■ 2019年03月09日 撮影

決して尾状花序は落ちてこない青空を仰ぐ子実体。 鳴り響くチェンソーの音をBGMに撮影していて泣きそうになりました。 この子らが待ち望む雄花序は二度と落ちては来ません。来ないのです。 後ろの雄花は50mほど離れた本種の発生が確認できないオオバヤシャブシから持って来ました。 たった1本の樹が伐られるだけで死刑宣告を受ける生物が居るってことを心に刻んでおきたいですね。


■ 2019年03月09日 撮影

とりあえず見付けられたものは子座ごと少し離れた樹下に避難させました。 ココに居ても絶滅は確定ですし、近距離なので影響は少ないでしょう。 こう言う人為的なことはあまりしたくないのですが、絶滅原因が人為的なんだからそれくらい許してくれよ。

思い出深い場所なんだから。

■ 2019年03月16日 撮影

悲しみに暮れて1週間。思いが通じたのでしょうか。新発生地を発見しました。 こここそ生活道の道路脇なので伐られる心配はなさそうです。 しかも数日後さらに大規模な発生地を発見。あの場所以上の優良ポイントかも知れません。 思い出の地が消えたのは悲しいですが、少しは慰められたのかな?

■ 2020年02月23日 撮影

初発見地が開発によって完膚無きまでに破壊され、絶望の底に沈んだ2019年。 しかしあの後のosoは転んでもタダでは起きないosoでした。 あの翌週から休みの日のたびに同じ山系を徹底調査しました。 そして川沿いのヤシャブシの樹下にて本種の大発生に遭遇していたのです! しかもこの場所、かつて峠道として使われていたものの新トンネル開通と同時に廃道に。 つまり絶対に再開発はあり得ないのです。嬉しい!メッチャ嬉しい!


■ 2020年02月23日 撮影

このフィールドの良い点は苔生したコンクリートの上に発生することです。 そのため泥ハネがほとんど無く、被写体の状態が非常に良いのです。 それは同時にそのような環境にも本種の菌核が耐えられることを意味しています。

■ 2020年02月23日 撮影

コケの下がすぐコンクリのため、ほとんど傷みのない状態の菌核が普通に見られます。 しかもこの場所、毬果に発生する「Mollisia amenticola」が珍しく同居しているのです。 自分の今まで見たポイントではどちらかしか居なかったので、まさにパラダイス!

■ 2020年02月23日 撮影

そう言えば今まで長い柄の子実体の写真を載せていませんでしたね。 図鑑ではこのような状態の写真のほうが多いのではないでしょうか? 同種でも深くに菌核があった場合はこのようになります。

■ 2021年03月06日 撮影

2020年に発見した新発生地、Mollisia属菌も同時に見られてある意味上位互換のようなフィールドです。 今年も安心して見に行きましたが、安心の発生量で安心しました。 ちなみに撮影中に訪問者が訪れたんですが・・・今もチラッと写ってますね。


■ 2021年03月06日 撮影

これ結構綺麗な子嚢盤なんですが、右下に見える訪問者のトビムシが異様な存在感を放っています。 恐らくエビガラトビムシかその近縁種と思われます。山の腐植に埋もれて良く見かける姿ですね。 アメジストの詐欺師氏がトビムシは胞子の拡散への寄与はあまりしないと仰ってましたね。 ハラタケ型菌のひだに良く居ますが、子嚢菌類に付いてるのはあまり見ないかな。

■ 2021年03月14日 撮影

1週間後にまた見に行ってみましたが、状態の良い子嚢盤が多くて良いですね。 そう言えば本種って発生環境にもよりますが基部に白色菌糸を蓄えています。 地面から露出している場合は発達しませんが、リター層下のような高湿度環境だと良く伸びます。

■ 2022年03月19日 撮影

小雨降る肌寒い早春に新発生地へ。やはり思い出の地は完全に出なくなってしまいました。 そりゃ樹が切られてしまったら出ませんよね・・・この場所を見付けておいて本当に良かったです。 この場所は土が少なくて菌核からの発生状況が見やすいのもポイント。 この背骨のような花軸から子嚢盤が出る見た目がマジで格好良いんですわ!

■ 2022年03月19日 撮影

ここは廃道の途中にあるヤシャブシの樹下なのですが、何と舗装道の上なんですよね。 コンクリの上に少しだけ表土が積もり、そこに苔が生えることで流失せずにこの場所に留まります。 そのため土に埋もれることも汚れることも無く、綺麗に成長できるんです。 降雨時に道が川のようになる場所なので水分も安定供給できるのでしょう。

■ 2022年03月19日 撮影

ただ埋もれているほうが水分が得やすいようで、子実体は大型化する傾向があります。 そう言えば和名が提唱されてから初の更新かな?コレ。

■ 2024年03月02日 撮影

2年振りに訪れました。道に水が一気に流れたのでしょうか? コンクリの上に乗っていた堆積物が流されて観察しやすい場所が減ってしまっていました。 まぁ仕方ありません、生き残っているだけでも御の字です。 ここは普段人が通らない旧道で、開発で消える心配はほぼ無い場所なのが救いです。

■ 2024年03月02日 撮影

探してみると良い感じに菌核から発生している幼菌を発見しました。 良く見ると発生初期の粒のような状態も確認できます。これは面白いですね。 ここから少し進むとスギ黒点枝枯病菌の発生地なんですが、 この未知の反対側のスギ林も凄いので、ひょっとして2種類ともここで見られるかも?
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