★Ciborinia camelliae (ツバキキンカクチャワンタケ)

■ 2019年03月16日 撮影

初発見は2010年3月26日。大雨の中でカメラも低性能。酷い写真だったのを覚えています。 撮影時の「ヤラセ率」が非常に高いことで知られる通称「ツバキン」こと「椿菌核茶椀茸」です。 早春に様々なツバキの樹下の菌核化した前年の花から発生する小型のチャワンタケ型の子嚢菌類です。 ツバキの樹下にしか発生しないため、小型で地味でも見付けるのは容易。 これでもツバキの病害菌としても有名で、これは本種の生態に起因します。

我が国でニセキンカクキン属を代表する種のような立場になっちゃってますね。 ちなみに種小名はツバキの属名(Camellia)に由来します。 ただ稀にサザンカにも発生します。自分も1回だけ遭遇したことがあります。 しかし発生頻度は圧倒的にツバキが多い模様。侘助にも出ない気がします。 またこの生態から家の庭なんかにもごく普通に現れたりします。


■ 2019年03月16日 撮影

すぐ隣に幼菌から老菌まで見られる場所がありました。撮影者に親切ですね。 子実体は地下に埋もれた菌核から発生し、椀形から皿形に開きます。


■ 2019年03月16日 撮影

子実体の色は淡褐色で形は椀状。中央部は少しヘコんでいます。 この椀の内側が子嚢層面で、この表面から胞子が射出されます。 また椀の外側は微粉状なので遠目だと少し白っぽく見えます。 この子実体はちょっと紫色っぽいかな?


■ 2019年03月16日 撮影

採取したものをクリーニングした後に白バック撮影してみました。 子嚢盤には柄が存在し、埋まっている深さによって非常に長くなる場合もあります。 時に柄が長く伸び、10cmもの深さの菌核から地上に顔を出すこともあります。 そうなると掘り取るのは困難ですが、ここは地面が硬いのかどれも浅かったです。 基部に見える黒い破片のようなものが本種の菌核です。 もとは花弁に感染した跡であり、菌核化した部位以外が朽ち果ててこの部分だけが残ります。 そのためどの菌核も形状は様々ですが一様に薄っぺらいです。

そしてこれこそが本種がツバキの下にしか出ない、そして病害菌とされる理由です。 本種の胞子はツバキの花に付着すると花びらを変色させて美しさを奪います。 樹木自体に影響はないですが、観賞価値が下がるのは大問題ですからね。


■ 2019年03月16日 撮影

長年の付き合いで慣れすぎて顕微鏡観察を忘れてました。テヘペロですよ。 とりあえず子実層面を観察。子嚢も側糸も見やすいですね。


■ 2019年03月16日 撮影

子嚢は長さ120〜160μmほどで先端は肥厚し、胞子は8つが一直線に並びます。 側糸は糸状で基部付近で分岐し、途中には隔壁が確認でき、先端部はやや膨らみます。


■ 2019年03月16日 撮影

子嚢胞子は比較的大型で楕円形と言うよりは卵形?


■ 2019年03月16日 撮影

油浸対物レンズで高倍率撮影してみました。楕円形でも紡錘形でもないですね。 一方が少し尖った形状なので長卵形と表現されるようです。 また両端付近に微細な油球様内包物を含みます。 大きさはまちまちですが、ほぼ安定して10μmくらいですね。


■ 2019年03月16日 撮影

メルツァー試薬で染色してみた子実層面です。ちょっと切片が厚かったか。


■ 2019年03月16日 撮影

コチラも油浸対物レンズを用いて観察してみると肥厚部が青く染まっています。 胞子の通り道が染まる頂孔アミロイドと呼ばれる染まり方です。 と言うか今まで自分が見てきたキンカクキン科はどれも頂孔アミロイドだったような。


■ 2019年03月16日 撮影

最後に菌核を薄く切って断面を観察してみました。 外皮は黒く硬いですが、内部は茶色の菌糸で満たされていてボソボソした質感。 そのため薄く切った部分がボロボロ崩れて切片が作りづらいです。


■ 2019年03月16日 撮影

さらに薄く切って観察してみました。 注目すべきは外皮と内部の菌糸との境界部分です。 ここに本種の属を決定付けるとある特徴があります。


■ 2019年03月16日 撮影

さらにさらに倍率を上げると、境い目に周囲とは明らかに違う構造が見られます。 菌糸のような流動的な構造ではなく、しっかりとした細胞の並び。 コレ実は植物の細胞組織の名残り、ツバキの花弁の細胞の痕跡なのです。 キボリアキンカクキン属とニセキンカクキン属の違いがここにあります。 前者は遊離菌核を形成するので菌核内部に植物の組織が残ることはありません。 しかし後者は菌核の形成過程で植物組織が取り込まれてしまいます。 この特徴は他のニセキンカクキン属菌にも見られるので観察できると吉です。

毒は無いですが、当然ながら食不適です。 ただ本種はキノコの愛好家の間で熱狂的・・・言うか妙に愛される立ち位置を獲得しています。 恐らく探しやすい生態と花とのツーショットが彼らを惹き付けるのでしょう。俺もですし。

■ 2012年03月26日 撮影

恐らく今までで一番良い産状の本種に出会うことができたのではないでしょうか? 遠くからでも分かるほど大量にツバキの花が見え、以前から気になっていた場所。 以前チェックした時もそれなりに発生はしていましたが、これを見た時は驚いた!


■ 2012年03月26日 撮影

なんとツバキの花から直接出ているではありませんか!これは驚きました。 本種は落下したツバキの花に感染、栄養を奪って地下に潜り、菌核を形成します。 ですがこの個体群は落下した花の内部を侵食し、直接子実体を発生させています。 本来は地下に長い柄を持つ本種ですが、今回は無柄で掘る必要もありません。

■ 2013年03月19日 撮影

今年は最盛期に地元では雨が少なく、今年は群生を見ることができませんでした。 写真は近所の住宅街、知り合いのお庭の園芸用ツバキの樹下で発見しました。 そう言えば白系のツバキの樹下ではあんま見たことないような気がします。

■ 2014年03月21日 撮影

最初は探すだけで苦労した本種ですが、最初は慣れたのか簡単に出会えますね。 ここはモクレンのキンカクキン実況動画を撮影した自然公園の植え込みです。 ほぼ常時日陰で地面がそこはかとなく湿っているのが成長に良いみたいですね。

■ 2014年03月21日 撮影

遠目でも分かるほど巨大な子実体です。今まで見た中でも一番大きいかも?

■ 2014年03月29日 撮影

恐らく撮影時の「ヤラセ率」が非常に高いと予想される「椿菌核茶椀茸」です。 初見時は細工しましたが、今回は細工無しでベストショットが撮れました。 早春に様々なツバキの樹下に発生する非常に小型の子嚢菌類です。 ツバキの樹下にしか発生しないため、小型で地味でも見付けるのは容易。 これでもツバキの病害菌としても有名で、これは本種の生態に起因します。

毒は無いですが、当然ながら食不適です。何となく分かります。 本種は食毒よりもむしろその興味深い生態の方が魅力的ですからね。

■ 2014年03月29日 撮影

子実体の色は淡褐色で形は椀状。中央部は少しヘコんでいます。 この茶椀の内側が子嚢層面で、この表面から胞子が散布されます。 また椀の外側はやや粉状なので遠目だと少し白っぽく見えます。


■ 2010年03月26日 撮影

これこそが本種がツバキの下にしか出て来ない、そして病害菌となる理由。 本種の胞子はツバキの花に付着すると花びらを変色させて美しさを奪います。 その後自然と落下し、花びらが菌核と呼ばれる塊となり、地面に埋もれます。 そして次の年の春、そこから地上に子実体を伸ばし、胞子を飛ばすのです。 分かりにくいですが、基部に黒い塊のようなものがあり、これが菌核です。 時に柄が長く伸び10cmもの深さの菌核から地上に顔を出すこともあります。

■ 2014年04月13日 撮影

京都御苑観察会で出会った綺麗なお姿。中央の凹みが確認しやすい子実体。 周囲にアカマツとイチョウもあるので地面が落下物で騒がしいですね。 この日は時期もあって本種と他数種だけ。本種は今観察会の華でしたね。


■ 2014年04月13日 撮影

中央が凹みすぎて変化形になってます。肉厚な子実体なのでこうなったかな? 子実層面にツバキの花粉を乗せているのがまたアクセントになってます。

■ 2015年03月07日 撮影

実況動画撮影中に撮影した古い集落の中にある立派なツバキの樹下の群生。 一面に立派なお茶椀が所狭しと並んでおり、中々優秀な場所みたいです。

■ 2015年03月07日 撮影

ツバキの樹下で普通に見られる種ですが、ある程度制限はあるように感じます。 周囲に用水路があったり窪地で普段から湿っている場所では居て当たり前。 逆に開けた場所にポツンとあるツバキの樹下は乾燥するのかあまり居ません。 また家の庭でもコンクリで囲まれ雨が長く留まる環境なら町中でも居ますね。

■ 2015年03月07日 撮影

驚くほど巨大な子実体を発見!今まで見た中では間違い無く最大クラスかと。 凹みを均せば直径3cmはありますね。大きくても2cmくらいなんですけど。

■ 2015年03月20日 撮影

まだ肌寒いこの時期、ツバキの花に寄り添う本種はキノコ屋にとって癒しの存在。 キノコらしいキノコが出ない季節なのでコイツの存在は本当に大きいんですよね。 なので出会うともう何度も撮ってるのについつい撮ってあげたくなっちゃいます。

■ 2017年04月01日 撮影

今年は発生が本当に遅かったツバキン。この日が今年初の発見となりました。 毎年出る場所に出ていなかったのでガチで遅かった模様。しかもまだ幼菌。

■ 2017年04月15日 撮影

そろそろツバキンもシーズンオフですね。かなり子実体が傷んでします。

■ 2018年03月31日 撮影

艦これのイベントで燃え尽きてしばらく休日は寝てばっかの日々でした。失礼。 久々に気を取り直して探しに行ってみると・・・コイツは探すまでもないですね。


■ 2018年03月31日 撮影

もちろんヤラセです。


■ 2018年03月31日 撮影

やはりツバキンはこの手のキンカクキン系の中では落ち着く色なんですよね。 まぁこれは単にハンノキやモクレンより見慣れてるからかも知れませんが。 写り込んでいる黄色い粒は地下生菌かと思ったら・・・ツバキの花粉でした。

■ 2019年03月16日 撮影

この場所は集落の中にある公園の端に植えられた立派なヤブツバキの樹下です。 遠目に見て「絶対にあるわ」と思って実際に行ってみたらあった感じです。 良い感じに山陰になっているので、こう言う場所は乾燥しにくい場所は狙い目です。


■ 2019年03月16日 撮影

かなり古い子実体のようで、子実層面が傷んで脱落した跡が目立ちます。 この1週間後に訪れてみたら跡形もなく消えていました。

■ 2020年04月04日 撮影

前々から通るたびにありそうだな〜と思っていたメチャクチャ落花が多い八重咲きのツバキ。 覗いてみたら案の定ありました。しかも凄まじい発生量と子嚢盤のデカさ! ヒノキの植林の陰になっている上に湧水で常時湿っているのが原因でしょうか?


■ 2020年04月04日 撮影

雨が当たらない上に下草のお陰で泥ハネも少なく、どれもコンディションの良い子嚢盤です。 この場所は非常に良い撮影場所になりますね。 ただ花の彩度が高すぎるのか色飛びしちゃって色調補正に苦労しました。


■ 2020年04月04日 撮影

これだけ大きければ菌核も大きいだろうと思い掘り出してみました。 流石にこのサイズならば地下部も太いので掘り採りしやすいですね。 下から出てきたのは大きな円盤状の菌核。どこの部位だろう・・・?

■ 2020年04月04日 撮影

ヤラセです。まぁやりますよね。 ここの子実体はどれも綺麗で撮影し甲斐がありますね。 今度はちゃんと色補正意識して撮影したいな。

■ 2020年04月04日 撮影

2019年に発見した集落の中のヤブツバキの樹下。 以前は非常に状態の良い子実体が多かったんですが、今年は全然出ていませんでした。 しかしその中で奇妙なものを発見。真っ黒に硬化した花の残骸です。 これが本種の菌核の初期段階なんでしょうかね?

■ 2021年03月14日 撮影

別に見なくても良いかなと毎年思うんですけど、日に日に落ち着かなくなるんですよ、ツバキン見ないと。 てことでついったらんどの皆様の盛り上がりにつられて自分も見に行きました。 やっぱコイツを見ないと生きて行けない身体にされてしまいましたね。


■ 2021年03月14日 撮影

この場所は鬱蒼と茂ったスギ林の縁のこれまた鬱蒼と茂った園芸品種のツバキの樹下。 雨が直接当たらず、湧水がメインの供給源のためか泥ハネが少なく子嚢盤が綺麗です。 この場所は大事にしたいトコロ。

■ 2021年03月27日 撮影

地元の公園にて発生確認。メインはハクモクレンだったんですが、本種も発生状況が中々良いです。 ちなみに手前の朽ちた黒い花の残骸も、奥の感染していると思しき花も、どっちもヤラセです。


■ 2021年03月27日 撮影

十分なサイズの菌核を形成できた場合はこのように複数の子嚢盤がまとまって発生することが多いです。 このような発生があった場合、掘ってみると地下に大きな菌核が1つ埋まっており、 そこから複数の子嚢盤を伸ばしていると思って良いですよ。

■ 2021年03月27日 撮影

ヤラセです。恐らくこの霜降りのようになったものが感染状況なのかな?と思ったり。 菌糸を広げて栄養を集めている状態で、最終的に花のどこかに菌核を形成するため集中するんじゃないかなと。

■ 2022年04月03日 撮影

当然ですがヤラセです。今年の春はあまりアミガサタケ以外の春キノコ探しに行けなかったんですよね。 特にツバキンについては以前ホオノキキンカクキンと同時に見れたフィールドでハクモクレンが枯死。 同時狙いできなくなって足が遠のいていました。 久々に訪れてみましたが、何だかんだここのツバキンは状態も良く大型のものが多いです。


■ 2022年04月03日 撮影

子嚢盤が立派だったのでパシャリ。少し古いのか子実層面に亀裂が出来ています。 本種は子嚢盤が大型化するので、他のキンカクキン科と比べて中央の凹みが観察しやすいです。 当然胞子の飛散量も多く、刺激を与えると地面からポフッと胞子を吹く様子も見やすいんですよね。

■ 2023年03月25日 撮影

写真撮りすぎてあまり増やしたくなかったんですが、何か見ないと落ち着かないのでフィールドへ。 しかしホオノキキンカクキンと同時に見られる地元の公園はなぜか両種共に見られず。 時期を外したかとガッカリして、最終奥義の園芸品種のツバキの樹下へ。 ここは花が大きいためか子実体も大きいです。大きすぎる気もしますが。
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