■Conocybe filaris (コツバイチメガサ)

■ 2019年06月21日 撮影

シイノトモシビタケ観察を控えて昼間に立ち寄ったタイワンアリタケの発生坪。 前年の水害で発生が途絶え、ガックリと肩を落として帰る際に偶然発見。 しかしその華奢でつばを持つ姿から属すら分からずに頭を抱えていました。 その後2020年に入ってから属名が分かり、そこから同定に至りました。 各種林内地上に発生する「小鍔市女笠」です。 青木実氏仮称から現在は正式な和名とされているようです。

海外の図鑑「Fungi of Temperate Europe」掲載のPholiotina属が同定のキッカケでした。 この属は国内ではConocybe(コガサタケ)属とされていますので、ここで属名が判明。 その後twitterでご意見を頂き、候補としてクサアジロガサが浮上し、コレだ!と思いました。 しかし撮影してあった胞子写真から胞子サイズが小さいことが判明、本種であると結論に至りました。 「Pholiotina rugosa」のシノニム(別名)とされていますが、正直国内のものに関しては怪しい気もします。


■ 2019年06月21日 撮影

傘は黄褐色で円錐形。傘の周囲には条線が見られます。 傘はある程度平らに開きますが、円錐形は最後まで崩れません。 吸水性があるようで、乾燥すると白い「ス」が入ります。


■ 2019年06月21日 撮影

私が最も混乱したのはこの柄です。細い柄にしっかりしたつばが存在するのです。 しかしそのつばの質感が何とも不自然。ケコガサタケ属やセンボンイチメガサのような褐色のつばとも違う。 感じ的にはツチナメコやサケツバタケのような、厚みのあるリング状のつばなのです。 こんなの見たこと無いぞ・・・?


■ 2019年06月21日 撮影

ひだは淡褐色で小ひだあり。これと言って代わり映えのしないひだって感じです。 しかしこのつばはあまりにも印象的。この華奢な子実体に付いているのが違和感バリバリです。 まず柄の中ほどに付いているのも変ですし、厚い膜質なのも似合いません。 何となくこの辺に近そうだなって感じはありましたが、これは知らないと辿り着けないなー。


■ 2019年06月22日 撮影

発行キノコ観察で帰宅が遅かったので翌日になって顕微鏡観察。 まずはひだを切り出して表面を見ます。 左下を見るに担子器は4胞子性のようですね。


■ 2019年06月22日 撮影

表面を油浸対物レンズで観察してみました。 シスチジアを観察しなかったのが悔やまれる・・・。 表面には先端の丸い細胞が多数見られます。


■ 2019年06月22日 撮影

胞子は楕円形発芽孔がある本属らしい形状。 当初はクサアジロガサだと思っていましたが、胞子を見て考えを改めました。 同倍率の写真と重ね合わせてみると、本種の胞子はどれも一回り小さいのです。 最も大きいもので8.5μmで、小さいものだと7μmほどしかありません。 クサアジロガサの胞子は10μmを普通に超えてくるので、明らかに別種です。 同様に小型の胞子を持つツチイチメガサの場合は逆に子実体がこんなに華奢ではありません。 となると本種は「コツバ」であると判断しました。

全然知らなかったんですが、本種やその近縁種はほぼほぼ致命的な猛毒菌なんですね。 海外では本種は普通にフィールドガイドなどに名前が載るほど悪名高い種なのだそうです。 主要な毒成分はアマニタトキシン類なので、内臓を破壊されて死に至ります。 採取時はそんな種とは思いもしませんでした。見かけによらないですね。
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