■Cordyceps kobayasii (ツクツクボウシタケ)
■ 2022年07月30日 撮影 初心者向きの冬虫夏草と言うと幾つかの種が思い浮かびますが、個人的には本種はその上位勢ですね。 夏に主にツクツクボウシの幼虫から発生する比較的一般的な冬虫夏草の「つくつく法師茸」です。 漢字分かんない!「主に」と書いたのは他種からも発生が確認されているためです。 とにかく発生量が多いのと発生環境がヒトの生活圏に近いのが特徴でしょう。 以前の学名は「Isaria cacidae」でしたが、分類見直しによりこの学名に変更されました。 種小名が「C. sinclairii」と記されている場合がありますが、これは命名時系列的に有効ではないようです。 ちなみに有性世代では子嚢殻を形成し、ヌンチャク型の胞子のツクツクボウシセミタケとなります。 ですがこのテレオモルフはアナモルフと比べて異様に発生頻度が低く、ベテラン虫草屋でも憧れる存在です。 なお西表島で見られるイリオモテコナゼミタケも宿主違いの同種と考えられます。 ■ 2022年07月30日 撮影 撮影段階で宿主の顔が見えていたのでササッと断面作成してみました。 宿主のツクツクボウシの幼虫は基本的にかなり浅い場所に居るので断面作成と採取は簡単です。 今まで幾度となく撮影しているので、埋め戻してて立ち去ろうとしてふと思い立ち自分のHPを確認。 顕微鏡観察してなかったことが判明。戻って採取しました。 初発見は2014年・・・何やってたんですかね俺。 ■ 2022年07月30日 撮影 では気を取り直して顕微鏡観察前の黒バック撮影です。 とても冬虫夏草らしい外見で、全体的な形状がまとまっていて美しい種だと思います。 初心者向きだなと感じるのはこの辺の「っぽさ」があると思います。 ■ 2022年07月30日 撮影 子実体は基本的に褐色がかった黄色で、基部から複数分岐した柄を伸ばします。 アナモルフ菌類なので子実体は分生子柄束とも呼びますが、その表面に粉状の分生子を形成します。 冬虫夏草としては比較的大型であり、この白いアナモルフが目立つので発見難易度も低いです。 ■ 2022年07月30日 撮影 宿主はほぼ白色菌糸に覆われますが、この線の細さからもツクツクボウシだと分かりますね。 クリーニングしすぎると菌糸が消失してしまうので、あえて水を使わずに執念でクリーニングしました。 なのでちょっと汚れ気味ですが、今回はあえて水を使わず菌糸っぽさを残したかったので・・・。 ■ 2022年07月30日 撮影 ここからは顕微鏡観察。まず確認しなければならないのが分生子柄です。 これは肉眼的な子実体(分生子柄束)表面の粉々した部分の基本構造。 この構造が子実体表面にビッシリ出来ることで表面に分生子が形成されあの見た目になります。 ■ 2022年07月30日 撮影 分生子柄の先端のパッと花開いたような部分、これらは放射状に形成された分生子形成細胞です。 先端がツンと尖ったのがソレ。この尖った部分の先端に分生子が形成されることでコナコナします。 肉眼でも平面的ではなく凸凹ボサボサして見えるのは、これらの構造が並んでいるため。 ■ 2022年07月30日 撮影 2014年には発見し、毎年欠かさず目にしていたのに、本種のアナモルフを見たのは今回が初めてでした。 分生子としてはかなり大型で、形状はやや曲がった楕円形。 長さは大きいもので9μmほどで、大型のためかアナモルフにしては内包物の多さが印象的です。 冬虫夏草と言うと薬効を期待してしまいますが、今回に関しては珍しく正解。薬用です。 姿が美しいため中国などでは「蝉花」の名で漢方薬として売られてます。 国内でも一応大量に集めれば売れると聞きますが・・・あまりオススメしませんね。 どう考えても労力に見合いませんし、普通に働いたほうが儲かると思いますよ。 ■ 2014年09月13日 撮影 記念すべき初発見の子実体です。山道を歩いていて道路脇に出ているのを発見しました。 存在自体は知っていたのですぐに気付けましたね。匍匐前進無しで見付けられる有情さよ。 ■ 2014年09月13日 撮影 この場所はスギの根があまりにも発達しており、掘るのに失敗しました。 途中で切れてしまいましたが柄の分岐具合が分かったのでまぁヨシとしましょう。 でもこれだけ立派な子実体なら完全な状態で標本化したかったですね。 ちなみに同じ日に別の場所で掘り取り成功していますが、興奮で写真が使い物になりませんでした。 ■ 2015年07月20日 撮影 2014年の初発見に今年も出ていました。ここは雨が降ると沢になり、またすぐに枯れる場所です。 この場所はosoも歩けば本種に当たると言うくらい凄い発生量を誇ります。 有性世代もここなら出るのではないかと疑っているのですが・・・。 ■ 2015年07月20日 撮影 掘り起こしてみました。ツクツクボウシタケは地下部が短く掘りやすいですね。 すぐ下に大きな巣穴があり、その天井部分に登った状態で絶命していました。 やはりゾンビアントみたいに上へ上へ行かせるとかもあるんでしょうか? それとも地上に出ようとしたことで発症のスイッチが入るのでしょうか? ■ 2015年07月20日 撮影 持ち帰ってクリーニングしてみました。まだ白バック撮影なんて技術は無いのでキッチンペーパーの上です。 関東では宿主が菌糸に覆い尽くされることが多いと聞きますが、どうなんでしょう? 冬虫夏草は移動能力に乏しく、地域ごとにかなりの変異があるのかも知れませんけど。 ■ 2015年08月22日 撮影 昨年見付けたツクツクボウシタケの坪を訪れたら超大発生していました! 狭い範囲に10株以上は出ていたかな?こんな場所だったとは・・・。 ■ 2015年08月22日 撮影 掘ってみたら下から出て来たのは小さい宿主に不釣り合いな子実体。 冬虫夏草は一般的に宿主が大きいほど子実体が大きくなる傾向があります。 しかしツクツクボウシタケは不思議と宿主が小さくても化物がたまに居ますね。 ■ 2016年10月29日 撮影 えっと・・・もうすぐ11月なんですけど。ツクツクって結構息が長いんですね。 完全に秋のキノコ狙いのフィールドだったんで予想外すぎる出会いでしたよ。 しかし分生子がのっぺりしていて、万全な状態ってワケでもないみたいです。 ■ 2016年09月07日 撮影 旧TOP写真です。9月にもなると流石に老成しているようで、アナモルフが少し薄汚れた色になっていました。 これくらいの時期にテレオモルフが出ると聞いたことがあるのですが見かけませんねぇ。 ■ 2016年09月07日 撮影 簡単に断面を作成してみました。幼虫の死骸は白色菌糸に完全に覆われていてセミさを感じ取れません。 地上部まで伸びた菌糸はそこで子実体形成に切り替わっています。 地域差かも知れませんが、宿主が菌糸に覆われていない場合もある模様。成長段階の違いか? ■ 2017年08月11日 撮影 距離的に1匹の幼虫から出ていると思われるかなり立派な子実体を発見しました。 左に見える盛り土は幼虫が地上に出ようとした際に形成される塚のような物。 ツクツクボウシの幼虫らしい特徴。羽化する直前の死だったのでしょうか? ■ 2017年08月11日 撮影 横から見るとこんな感じです。あれ?これもしかして宿主2匹居る感じかな? この感じ、掘るのは凄く面倒臭そうだなって思ったのでそのままにしときました。 ■ 2021年08月28日 撮影 毎年見てはいたんですが、もうあまりに見慣れてしまって撮影すら疎かになってました。 そもそも顕微鏡観察してないんだからもうちょっと意識しとけよって我ながら思います。 写真は石を挟んで出ていたツクツク。手前の子実体の柄の感じが何だか面白くて・・・。 ■ 2021年08月28日 撮影 やたら分岐が多い子実体を発見。これは今までで最多かも。 ■ 2021年08月28日 撮影 TOP写真にしようか真剣に迷った子実体です。恐らく過去最大サイズだったでしょうね。 子実体の分岐の仕方も美しく、状態も傷みが無いパーフェクトツクボーです。 ■ 2021年08月28日 撮影 断面作成してみると非常に大きな宿主が菌糸に包まれた状態で見付かりました。 確認はしていませんが、恐らくはアブラゼミの幼虫から発生したものと思われます。 地上部がやたらと立派なのは宿主が大型で栄養豊富だったからでしょう。 でも断面作成までしたのに勿体無くて埋め戻しちゃいました。 あまりにも凄すぎると逆に採取に尻込みしちゃうんですよねぇ自分。 ■ 2022年07月30日 撮影 2022年はツクツクボウシタケを見まくった年となりました。出会った数のワリに全然撮ってません。 ぶっちゃけありすぎて選りすぐらないと枚数が多くなりすぎるんですよ。 フツーの子実体は山ほど目にし、この子実体はその中でも形が整っていたもの。 ですがこの日は正統派な写真ではなく、衝撃的な絵面が沢山撮れた日となりました。 ■ 2022年07月30日 撮影 ちょっとコレを見た時はゾッとしました。穴から幼虫が覗いているんです。 ツクツクボウシは羽化のために地面に出る際、穴の周囲に土を盛り上げて塚を作ります。 ですが塚まで作って顔を出したところで絶命し、そこからツクツクボウシタケが発生しているのです。 この幼虫が最期に見た空はどんなだったんでしょう・・・想像したくないです。 ■ 2022年07月30日 撮影 もっと「うわぁ・・・」と思ったのはまさかの地上での発生です。 良く水分が足りたなと思いますが、この状態で子実体が出ているのは流石に哀れと言うか不憫と言うか。 と言うかどこで感染したんだ?地上で感染してもここまで早く発症すると思えません。 このタイミングで発症して命を落とすなら、その前のいつの段階で菌に冒されていたのでしょう? ■ 2022年07月30日 撮影 印象に残った風景です。右前に見えるのはツクツクボウシが脱出した後の塚。 左奥に見えるのは羽化に成功したニイニイゼミの抜け殻。 そして中央に見えるのがツクツクボウシタケ。 彼らの命運を分けたのはほんのわずか距離だったと思うと、自然の厳しさを痛感しますね。 この日はこんな感じの独特な発生状態に多く出会った気がします。 ■ 2022年08月11日 撮影 朝イチで激レアのハゴロモツブタケが見付かるも、諸事情により夕方に再度訪れる必要性が発生。 そのため午前中で終える予定だったフィールドワークが強制的に1日仕事になりました。 時間潰しのためにいつものツクツクボウシタケのフィールドへ行くと、まだ新規発生を確認できました。 テレオモルフのツクツクボウシセミタケが暑い時期に出ると聞いたことがあるので期待して良いかな? ■ 2022年08月11日 撮影 かなり老成していますが、これも今まで見た中でもトップクラスの大きさですね。 老成すると白くて美しい粉状の分生子も土色を帯びて来ます。ちょっと汚い。 ■ 2022年08月11日 撮影 倒木に寄り添うように出ていたので撮影のためにと退けてみると、反対側にも子実体が伸びていました。 これもツクツクボウシが宿主にしては大きすぎるので、恐らく大型のセミの幼虫が宿主でしょう。 今回も有性世代は発見できず。一応2022年はもっと遅い時期まで調査を続けましょうかね? ■ 2022年08月21日 撮影 2022年は本種をあまりにも撮影しすぎて半分近くボツにしてしまいました。 それだけの個体数が見付かったと言うことですが、流石に撮りすぎと感じ撮影を控えるつもりでした。 しかし流石にこの姿を見た時は黙ってカメラを構えてしまいました。 ■ 2022年08月21日 撮影 今まで穴から覗いている幼虫や地上に這い出した幼虫から発生しているのは見て来ました。 しかしこの這い出そうとする意思が感じられるまま絶命している姿に心打たれました。 普段は冗談で生きた宿主を見るたびに冗談で「冬虫夏草生えてろよ〜」と言っているのですが、 この宿主が絶命する瞬間を想像すると虚しさと言うか哀しさが勝ってしまいました。 我々は壮絶な生存競争のとあるイチ場面を見ているに過ぎないのだと感じた瞬間でした。 ■ 2022年08月28日 撮影 テレオモルフを探して再訪問しましたが残念ながら不発。 しかしまたこの状態を見かけました。 他のセミ生ではあまり見ない気がするんですけどね。 ちなみにこの場所で新たな発見があったのでまぁトントンですね。 ■ 2023年08月12日 撮影 発生の仕方に違和感・・・明らかにこの土、盛られて間無しのようです。 ツクツクボウシの幼虫は羽化するために地面から出る際、巣穴の周囲に土を盛る性質があります。 表面が滑らかと言うことは時間があまり経っていない証拠。一体いつ息絶えたんでしょう? ■ 2023年08月12日 撮影 これまた興味深い発生状態です。何と巣穴から覗いてるんです。 ここまで土を盛り上げたところで絶命したとは・・・。 ■ 2023年09月03日 撮影 かなり入念に探したんですが、結局今年はテレオモルフを発見できませんでした。 幸いツクツクボウシセミタケのサンプルを提供していただけたので細部まで観察できたので、 この知識を頭に入れておいて来年以降の探索に役立てたいと思います。 2023年のシメはニセキンカクアカビョウタケとのツーショット。 |