■Cordyceps sp. (シュイロクチキタンポタケ)

■ 2016年07月02日 撮影

初発見時はあまりの小ささにサビイロクビオレタケだと思いました。 しかしその日はルーペを持っておらず退散。後日確認しに行ってビックリしました。 甲虫の幼虫、恐らくゴミムシダマシ科の幼虫から発生する朽木生型の冬虫夏草「朱色朽木タンポ茸」です。 分布が和歌山県〜香川県に限定されており、全国的に見ればやや珍しい部類かな?

以前はOphiocordyceps属でしたが、新分類でCordyceps属に変更です。 確かに子実体の色はそっち寄りでしたね。 良く似た子実体を持つ種にアマミコベニタンポタケが存在しますが、子嚢殻の出来方が異なります。 そう言えば甲虫性の冬虫夏草でCordyceps属って意外と珍しいのでは?


■ 2016年07月02日 撮影

マクロレンズで拡大すると結実部が首折れ型ではないことが分かりました。 宿主はかなり小型の甲虫の幼虫で、様々な種に発生するみたいです。 子実体は鮮やかな赤橙色で、極めて小型ながら良く目立ちます。


■ 2016年07月02日 撮影

宿主のお顔を拝見。やはり甲虫の幼虫は死してなお形を留めますね。 本種の最大の特徴は埋生型の子嚢殻の先端部の突出の仕方でしょう。 このように疣状で、やや丸みを帯びた出っ張り方するのが特徴です。 でこぼこした丸みのある結実部を持つ赤系の虫草って少ないですし。


■ 2016年07月02日 撮影

クリーニングしたものを黒バック撮影。凄いカッコイイんですけど。


■ 2016年07月02日 撮影

アホしました。黒バック撮影中に急激に胞子の噴出が始まりました。 その勢いは凄まじく、クリーニング時の水分が飛んだ途端にスタート。 あれよあれよと言う間に飛び、胞子の観察ができませんでした。 自然落下させないと完全な子嚢胞子の観察はほぼほぼ不可能です。 色んな写真を見てみると、どうもかなり胞子を出しやすい種みたいです。 ちなみに子嚢胞子は太い糸状で弾丸形の二次胞子に分裂します。

極めて小型の種であり食用価値無しですね。薬効も無いようです。 仮にあったとしてもこのサイズの虫草で効果が出る量を集めるのは・・・。

■ 2016年07月02日 撮影

少し探してみるとここにも居ました。先程よりさらに小さい子実体です。 子嚢殻の数からも小ささが計り知れます。もっと大きいと思ってました。 宿主の関係か出る材も様々ですが、ウチのフィールドではアカマツです。

■ 2017年07月08日 撮影

地元で開いた冬虫夏草オフ。無いかと思ってたら居てくれて嬉しかったです。 とは言え未熟個体が多く、成熟個体が見付からなかったらヤバかったかも。

■ 2017年07月08日 撮影

唯一見付かった成熟した子実体。どろんこさんに標本として提供しました。 ちなみに未熟個体も提供しましたが、追培養は残念ながら失敗だったそう。 実は朽木生は追培養が困難とされ、大抵はカビちゃうみたいですね。


■ 2017年07月08日 撮影

結実部拡大。やはり先端部は子嚢殻が未成熟であまり出っ張っていません。 それでも下方の子嚢殻は成熟していたようで、胞子も無事見れたそうです。


■ 2017年07月08日 撮影

どろんこさんが大喜びしながら作成した断面を便乗で撮らせて頂きました。 以前見付けたモノは宿主が綺麗に残っていましたが、今回は菌糸がビッシリ。 材の深い場所に居たので湿度が高く保たれ、菌糸が伸びたのではないかと。

■ 2018年09月23日 撮影

顕微鏡が新しくなったので本当は胞子を見たかったのですが、この年は夏場の乾燥が酷すぎました。 最盛期であるハズの7月は材がカラカラ。結局見れたのは9月の下旬になりました。 成熟しているのはこの1株だけでしたけど。


■ 2018年09月23日 撮影

ユニークな胞子の持ち主なので新たな顕微鏡で観察したかったのですが、結局この子実体はこのまま乾燥。 胞子を飛ばせていたかどうかも怪しいです。来年に期待したいですね。

■ 2019年07月15日 撮影

例年であれば7月初旬が良い感じだったのですが、この年は何故か全然出ず。 辛うじて見付かったのはこの2個体。正確には結実しているのは1個体だけでした。 この時はgajin氏をお招きしてのオフだったのですが・・・残念。


■ 2019年07月15日 撮影

感染した宿主です。やはりゴミムシダマシの仲間みたいですね。 撮影時は悪天候で薄暗く気付けませんでしたが、宿主が2つ折り重なってる? 本種に感染した宿主は不思議と材の表面付近に居るので見付けやすいです。


■ 2019年07月15日 撮影

結実はしていましたが、目で見て明らかに宿主が崩壊しかかっています。 この時は「今年は不調かな?」と思っていたのですが、1週間後に事態は急展開を迎えます。

■ 2019年07月20日 撮影

1週間後に諦めきれずに再度訪れてみたら何とシュイロパラダイス! 前回と同じ場所のはずなのに4個体ほど、しかも結実したものに出会うことができました。 あれー?見落としてたんでしょうか?1週間前も同じ倒木を見てたハズなんですが。


■ 2019年07月20日 撮影

反対側から同じ子実体を撮影してみました。やはり子嚢殻の突出の仕方が独特ですね。 ツンと尖るのではなくモッコリと膨らんだ感じになるのが実に本種らしいと言いますか。


■ 2019年07月20日 撮影

これだけ結実個体があれば胞子散布は十分と判断、1個体持ち帰ることにしました。 断面を作る気もありませんでしたのでゴッソリ掘りましたが、材が簡単に剥がれました。 見れば宿主の周辺に見られるのは材を食べた後の。ここでこの虫が生きていた証です。 生々しい。


■ 2019年07月20日 撮影

帰宅後にクリーニングしてみました。 以前もそうでしたが、子実体は宿主の腹部から発生するようです。 子実体の彩度が高く、室内で撮影すると変な色に写っちゃいますね。


■ 2019年07月20日 撮影

結実部は少し乾燥してしまったのか三角錐みたいになっちゃいました。 本種の結実部はタンポ型と言われるワリには形状が安定しないみたいですね。 本当に綺麗な球形になることのほうが稀で、大抵は縦長になっています。 結実部と柄の境界は明瞭で、柄は短毛に覆われます。 子嚢殻先端が疣状に突出するのは変わりませんが。


■ 2019年07月20日 撮影

宿主は初めて採取した標本のものと別種のようです。 以前はより小型で尾部が丸みをおびていましたからね。 今回の宿主は生態図鑑に載っているものと同じようです。 ちなみに胞子観察は失敗。胞子採取できませんでした。またかい!

■ 2019年07月20日 撮影

やや乾燥した場所なので明らかに健全に成長できてない感が・・・。 でも意地でも子嚢殻は作ろうと言う気概は感じます。

■ 2019年07月20日 撮影

この子実体に関しては小さな窪みから顔を覗かせていたのでいたので、前回は薄暗くて見落としてたかもです。 子実体の色は派手なので見付けやすい方ではありますが、如何せん写真で感じる以上に小さいんですよね本種。

■ 2020年10月27日 撮影

何年振りにこのフィールドに来たでしょうか。 キノコ趣味を始めた初期は結構来てたんですが、ヤマビルが出ると知ってから一気に足が遠のいていました。 しかしこの時期になればもう低温で動けないだろう、と踏んで久し振りに訪れてみました。 狙いはサクラシメジだけだったんですが、幼虫生のサナギタケが出たりと意外と楽しかったです。 でも一番驚いたのがまさかの本種の新発生地だったことです。


■ 2020年10月27日 撮影

流石に時期的に遅かったか、結実部に時間経過による傷み、子嚢殻の脱落が見られました。 子嚢殻の先端が黒っぽく見えるのも、中の子嚢殻がもうダメになって透明感があるためっぽいです。 しかしこの場所に出ているとは・・・やはり同じフィールドも視点を変えて何度も行かなきゃダメですね。


■ 2020年10月27日 撮影

断面を作成しようと思いましたが、やはり古いですね。宿主はボロボロでした。 古いので成功の可能性は低そうですが、ずっと失敗している胞子観察のために持ち帰ることにしました。


■ 2020年10月28日 撮影

成功しました。でもギリギリでしたね。ルーペで見てスライドガラスに落ちた胞子は10本も無かったです。 2016年の初発見以降、毎年チャレンジしていましたが、まさか4年もかかるとは。 本種の胞子を見たかった理由、それはこの全体的な形状にあります。 本種の子嚢胞子は未分裂状態では隔壁部分でカクカク折れ曲がるのです。 クチキカノツノタケとかも似た感じでカクりますが、本種は非常に折れ方が顕著です。


■ 2020年10月28日 撮影

油浸対物レンズで観察した子嚢胞子です。32個の二次胞子に分裂する性質があります。 また両端の二次胞子は弾丸形になります。 折れ曲がっているので正確な長さが分かりづらいですが、170μmほどと思われます。 文献では130〜275μmとかなり幅がありますが、一応その範囲には納まっているかな?


■ 2020年10月28日 撮影

二次胞子は両端が丸みを帯びた円筒形で長さは5〜8.5μm。 両端付近に油球様内包物が見られるのは重要な特徴ですね。 明確に一端が尖っているのが両端の二次胞子ですね、分かりやすいです。
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