■Cudoniella clavus (ミズベノニセズキンタケ)

■ 2014年04月26日 撮影

カンムリタケを探して早春の沢筋を歩いていて見慣れない子嚢菌類を発見。 春に水没した腐朽材から発生する水分大好きっ子の1人って感じですね。 地元ではコイツとピンタケ、カンムリタケの3種で三大春の水生キノコ(仮)とでも。 和名は「水辺偽頭巾茸」。ズキンタケとありますがズキンタケとは縁遠いです。

思い切って本種で掲載しました。こう前置きするのにはワケがあります。 以前から自分は本種がミズベノニセズキンタケだと考えていました。 しかし元記載だと本種はメルツァー試薬による子嚢の染色反応が非アミロイドとされています。 私が発見したものは頂孔アミロイドなので、別種であると判断せざるを得ない状況になりました。 ですが数多くの愛好家が本種を発見する中で本来の記載内容と一致するものが現れないことに疑問を感じ調べてみました。 すると過去にアミロイド反応が確認されていたことを某サイトで初めて知りました。 これではアミロイド反応は別種とする判断基準になりません。よって本種としての掲載を決めました。

また本種には柄が短い極めて外見の似た種が存在し、ネットで調べてもかなり混同されています。 と言うか私も混同していました。発生材や子実体の形状、顕微鏡レベルでも異なるので注意。


■ 2014年05月03日 撮影

数日後にまた同じ場所を訪ねてみると・・・かなり成長していましたね。


■ 2014年05月03日 撮影

子実体は柄を持つ皿形で全体的には乳白色。やや透明感が有ります。 柄に微毛を持つ別種が存在し、こちらはミズタマタケの仮称が有ります。 胞子を作る子実層面は皿型頭部の上面で褐色、やや紫色を帯びます。 子実層に色が有るのは幼菌の間で、成熟するとどんどん色褪せます。

水辺を好む子嚢菌類の中では比較的大きい部類ですが、頭部径5mmは流石に小さいです。 どう考えても食用価値無しでしょうね。 毒は無いんでしょうけど、そもそも水っぽくて食えたモンじゃないと思いますよ。

■ 2014年04月26日 撮影

本種は成長すると頭部が中央が凹んだ皿形から半球形に変化します。 キノコスキー的には逆だろ!と思われそうですが、この写真がその証拠です。

■ 2014年05月03日 撮影

水没した材から膨らんだ子実層面が顔を出していました。何と言う迷彩色。 暗く見えつつ光の反射が有る水面を凝視して歩くのは目が疲れますわ・・・。 感覚的には淀んで見えて微かな流れが有る場所を探すと見付かりますね。 他の水生キノコもこれは同じで、複数種が同時に出ている事も多いです。

■ 2014年05月10日 撮影

岩陰に気配!隙間を覗いてみると・・・有りました。ここは大群生地ですね。 あれだけ暗色だった子実層面も淡褐色に薄まり、やや黄色っぽくなってます。

■ 2014年05月10日 撮影

コチラはすぐ近くに有った群生。色は薄まれど何となく名残が有ります。 確かにこの形状を見るとズキンタケに見えなくもない気もしますかね? 透明感が有り色も淡いため水をたっぷりと含んだ感じが良く分かります。

■ 2014年05月10日 撮影

沢の段差部分に引っかかって立った腐朽材に発生しているのを発見しました。 真正面に回ってみるとなんとピンタケと同居しているではありませんか! 確かに2種は発生環境が寸分違わず同じなので共生も不思議ではありません。 どうやら上から水がチョロチョロと流れるこの環境はお気に入りのようですね。

■ 2014年05月10日 撮影

やや紫褐色を帯びた幼菌。この頃が一番見付けにくいかも知れません。 それにしても生態的にも外見的にも魅力的な種ですね。個人的大ヒットかも。

■ 2014年04月26日 撮影

今年も出ました水辺の偽頭巾。ホント幼菌時は意味不明な形状してますね。 椀形の子嚢盤作りたがるクセに水中のせいで柄を伸ばさなきゃいけないって・・・。

■ 2014年04月26日 撮影

同じ水生キノコのピンタケとの共演。コイツら良く同じ材から出ています。 どっちも極小のキノコなので写真見ていると大きさの感覚が狂って来ますね。

■ 2014年04月26日 撮影

昨年と同じ場所で再発見。この場所は周囲に緑が多くて撮ってて楽しいです。


■ 2014年04月26日 撮影

子実層面を思いっ切り拡大してみました。この表面から胞子が飛ぶと言うワケ。 胞子を観察しようと思いましたが、軟質で組織が上手く切り出せませんでした。 ただ仮に成功していてもこの段階では試薬的に判別はできなかったんですけど。

■ 2016年05月04日 撮影

もうどっちを主役にしたら良いか分からない一枚。ピンタケも大群生です。 最終的にはピント的な意味で本種に軍配が上がりました。環境が共通な2種。

■ 2016年05月04日 撮影

何とも愛らしい外見。大きさは置いといても形状はエリンギを髣髴とさせます。 子嚢菌類としては珍しく、いかにも傘だなって姿になるので撮ってて楽しい。 ただ大抵足場が悪いので三脚の先端やおしりがズクズクになるんですけど。

■ 2017年05月06日 撮影

今年は情報を得てから訪問。標本を採取して顕微鏡観察に挑みました。 つってもこの日は標本採取忘れて翌週リベンジしに行ったんですけどね!


■ 2017年05月14日 撮影

帰宅後子嚢を取り出してメルツァー液で染色した後に顕微鏡で観察しました。 メルツァー液は子嚢がアミロイドか非アミロイドかを判定するための試薬です。 しかし我が家の顕微鏡では頂孔アミロイドを確認するには役者不足でした・・・。 青くなっているようにも見えますが、像のブレも入っているので自信無しです。

■ 2018年04月28日 撮影

毎年良く出ているポイントを見てみると・・・有った!やっぱここが一番良い感じ。 ピンタケとは異なりほとんど水流が無い場所を好むのはカンムリタケ似かな?

■ 2018年04月28日 撮影

gajin氏とのキノコ散策オフにて発見。 恐らく子実層面の色はこれくらいがベストコンディションだと思われます。


■ 2018年04月28日 撮影

本種の特筆すべき点と言えば水生キノコの中でも大型だと言うことでしょう。 それでいて肉の透明感もそこそこ優秀で、陽の光を浴びると実にみずみずしい。 こう言う「水が好き」なキノコを見ると、こんな環境に来た甲斐があると言うモノ。

■ 2018年04月28日 撮影

採取しやすい子実体が有ったので材ごと持ち帰って黒バック撮影しました。 驚いたのは材の凄まじい硬さ。細枝を折るだけでもナイフ必須でした。 これ内部が菌核化している説も有ります。となると属から変わるかもですね。


■ 2018年04月28日 撮影

実はお別れの際にgajin氏に顕微鏡を頂きましたので早速使用してみました。 前回はメルツァー液試薬で染色したのに像が汚くて判断できませんでした。 しかし今回は違います。明らかに子嚢先端が青く染まっている頂孔アミロイドです。 ミズベノニセズキンタケの元記載では頂孔は非アミロイドとされていますが・・・。 ちなみにこの頃はカメラアダプタが無かったので接眼レンズに直接カメラを当てて撮影しています。

■ 2018年05月05日 撮影

カメラのアダプタと対物ミクロメーターを配備したのでもう一度標本を採取! ちょうどアメジストの詐欺師氏とのオフで同じ場所を訪れる計画でしたので。 子嚢と側糸が並んでいます。 子嚢胞子は最初子嚢内部で1列に並んでいますが、後に2列になって先端に詰まります。


■ 2018年05月05日 撮影

子嚢胞子の大きさは10〜15μmと元記載通りのようですね。 両端付近に小さな油球のような内包物が存在するようです。 ただこれに関しては記載時に漏れている例が多々あるので参考程度かな?


■ 2018年05月05日 撮影

前回の観察では分かりづらかったので子嚢をバラバラにしてメルツァー染色。 こうして見ると頂孔アミロイドだと分かりますね。 結局のところ染色が判断基準にならないならば、本種はこう言う種だとしておくしかないですね。 私自身、元記載に当てはまるものが全然表に出てこないってのは変だと思いますし。

この頃はまだ顕微鏡を使い慣れておらず、油浸対物レンズの使用も解禁していませんでした。 後に良い写真が撮れたのですが、アミロイド反応を観察したくて挑んだ初のキノコ。 記念に旧写真も成長の足跡として残しておきます。

■ 2020年05月03日 撮影

コロナで大騒ぎのゴールデンウィーク。県外遠征も全て中止となりました。 ですがコイツは地元かつ人にも会わない場所なので助かりました。 今回は大きな目的があったので、どうしても見付けたかったんですよね。 後ろにピンタケが見えます。発生環境が同じですからね。

■ 2020年05月03日 撮影

顕微鏡観察用に採取しましたが、せっかくなので黒バック撮影。 やはり発生している広葉樹材が細枝のくせに異常に硬いです。


■ 2020年05月03日 撮影

本種を顕微鏡観察した2年前は3年前の初観察時に比べれば技術は向上しているものの未熟。 絞りや光源、撮影方法を工夫できるようになった今、もう一度観察したかったんですよね。 こうして見ると子実層表面付近と子嚢や側糸の基部に色素が多く見られることが分かります。


■ 2020年05月03日 撮影

その理由はもう少し高倍率で観察すれば分かります。 まず子実層表面付近が色濃く見えたのは側糸の内包物が原因で、これは後述します。 注目すべきは子実層直下に褐色の組織が縦方向に並んでいることです。 このような構造はあまり他の子嚢菌類では見られません。 子嚢の基部には色が無いように見えるので、消去法的にこれは側糸の付け根のようですね。 子実層面の色が暗色の子実体でないと観察できないようです。


■ 2020年05月03日 撮影

子実層表面付近の色の正体はコレ。本種の側糸は先端付近に泡状の内包物があります。 内包されている範囲は40μm〜50μmほどで、そこから下は急に内包物が無くなります。


■ 2020年05月03日 撮影

以前は使いこなせなかった油浸対物レンズ。今回はしっかりと子嚢胞子を観察できました。 胞子はやや両端が尖った長楕円形で11μm×5μm。 両端に泡状の油球様内包物を含みます。 やっぱ油浸は観察の選択肢が一気に広がりますね。


■ 2020年05月03日 撮影

今回の最大の目的は本種の頂孔アミロイドを油浸対物レンズで撮影することでした。 ほとんどの図鑑の記載で非アミロイドとされている本種ですが、見ての通り無処理でも頂孔が染まります。 むしろ我が家の環境ではKOHで処理すると逆に染まりにくくなりました。 ただ何度も観察した感じだと染色の度合いにかなり差があると感じるので、見落としは十分あり得ると思います。 これも写真で撮影したから分かりやすいですが、接眼レンズ越しでは非常に分かりづらかったですし。

■ 2020年05月03日 撮影

発生したばかりの幼菌です。ちょっと気持ち悪いですね。 幼菌の頃は子実層面になる部分は細く伸び、と言うか基部が太いとっくりのような形状です。 そして個体差はありますが少しピンク色を帯びています。 こうして見るとやはり材の芯が白くなっています。

■ 2020年05月03日 撮影

この日のベストショット。日差しを浴びるミズベノニセズキンタケの見事な構図です。 見かけたら撮りたくなってしまう、本当に愛らしいキノコですね。

■ 2021年04月27日 撮影

全体的にキノコの発生が遅れて感じた2021年。それは水生キノコらも例外ではありませんでした。 もうそろそろOKだろうと訪れたいつものフィールドなのに、見付かるのは幼菌ばかり。 ちょっと発生が早いピンタケは普通に見られたんですが・・・。

■ 2021年05月22日 撮影

ゴールデンウィークくらいが地元での最盛期なのですが、5月下旬になってもまだ子実体が見られました。 しかも左側に見えるには発生初期の幼菌です。本当に発生時期が狂ってますね。 にしても幼菌が角栓に見えて凄く引き抜きたい衝動に駆られます。
■図鑑TOPへ戻る