■Dictyocatenulata alba (サントクチイ)

■ 2023年10月14日 撮影

青fungi氏と行こうと計画していたブナ・ミズナラ林遠征。そこにしんや氏も参戦しました。 様々なキノコに出会えたのですが、その中で青fungi氏が岩石上に気になる菌類を発見。 現地では正体不明でしたが、帰宅後に地衣類のスペシャリストSORA氏に教えて頂くことができました。 最初は非地衣化糸状菌として発見されましたが、後に地衣化していることが確認されました。 しかし藻類とどのような共生関係を結んでいるのかは不明のようです。 なお「サントク」がどう漢字で書くのかは調べても分かりませんでした。

国内でも1987年に報告されており、この段階では地衣化していないと考えられていました。 しかし2008年に地衣化が確認され、2009年にこの和名が提唱されたと言う流れです。 実は世界中に普通に分布している種であり、海外だと「Snowball lichen」の愛称があるようです。


■ 2023年10月14日 撮影

最初に見た時は全員頭に「?」が浮かんでいました。 石から出ているのも謎ですし、表面に肉眼的な藻類があるようにも見えません。 そこで青fungi氏からサンプルを託され、帰宅後にじっくり調べることにしました。


■ 2023年10月14日 撮影

帰宅後に黒バック撮影してみました。発生している石は石英質みたいですね。 実際にはコレ以外の種類の岩石にも出ますし、 そもそも多く見付かっているのは樹皮上だったりします。 共生藻さえ居れば別に付いているものは何でも良いみたいですね。


■ 2023年10月14日 撮影

マクロ撮影してみると正体が徐々に判明し始めました。 子実体は虫ピンのような形状で、明らかに子嚢菌類のアナモルフです。 肉眼で見た時は共生藻っぽいものは見えないように感じましたが、 良く見ると岩石の隙間に藻類らしきものが侵入しています。


■ 2023年10月14日 撮影

倍率を上げてマクロ撮影してみました。柄はやや肌色っぽいようで、赤みを感じます。 先端部の白い部分は胞子が集まった塊で、ここから胞子を飛ばして分布を広げるようです。 ちなみに画面ではサイズ感が伝わりにくいですが、高さは1〜1.5mmしかありません。


■ 2023年10月14日 撮影

これ以上はマクロレンズでは観察できないので、ここからは顕微鏡の出番です。 シンネマ1本を切り出して低倍率で観察してみました。 いかにもカビのシンネマって感じですが、違和感があったのは先端の結実部です。


■ 2023年10月14日 撮影

冬虫夏草やカビを見慣れていると、 このような虫ピン型のシンネマの先端と言えば放射状に分生子形成細胞が並ぶGibellula的なイメージがあります。 しかし本種の場合、分精子形成細胞は分生子柄束の先端部に平面的に並んでおり、 そこから分生子が連続して作られることで白い球状の塊になっていたようです。これはちょっと意外・・・。


■ 2023年10月14日 撮影

確かに軽く深度合成してみると、白色の球状部分の内部は全て分生子であることが分かりました。 ちなみに種小名の「alba」は「白い」と言うそのまんまの意味だったりします。 そしてこれを見て思うのはやっぱり分生子の形状ですよね。


■ 2023年10月14日 撮影

これが単なる子嚢菌類のアナモルフではないと感じたのはこの分生子の形状を見たからです。 複数の細胞が集まることで、まるでクワの実のような見た目になっています。 また細胞が一直線に連続しているような構造が見られるのも論文と一致します。 観察時点で正体を知らなかった私はワケが分からず悩みに悩んでいましたね。


■ 2023年10月14日 撮影

基部を観察してみると、確かに共生藻らしきクロロフィルの緑色が確認できます。 ただ他の地衣類のように顕微鏡で見えるレベルの明確な共生関係は見られないようで、 非地衣類と地衣類の境界に立ってい存在みたいです。 共生藻が光合成で作る栄養で成長するってのは他の地衣共生菌と同じみたいです。

高さ1mmチョイの菌類なので当然ながら食不敵です。 毒性とかも不明ですが、そもそも仮に有毒でも中毒できるほどの量は集められないでしょう。 意外と身近に居る菌のようなので、是非探してみてください。


■ 2023年10月14日 撮影

石から変な菌が生えていると言う光景はかなり衝撃的で、観察もとても楽しかったです。 標本を託してくださった青fungi氏と正体を教えてくださったSORA氏に感謝! いけませんね・・・地衣類には手を出さん!と思っていたハズなのにジワジワ地衣共生菌が増えているぞ。
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