■Elaphomyces citrinus (エラフォミケス キトリヌス)

■ 2021年01月10日 撮影

折角の三連休だったのでコロナ対策をしつつ近所のフィールドを巡ることに。 しかし雨が降らなさすぎる状態が続いており、地面はカラカラ。 1ヶ所目は断念して訪れた菌生冬虫夏草の聖地。そこで今年も安定して出ていました。まだ和名は存在しません。 シイやカシなどの広葉樹下で土に埋もれるように発生する小型のツチダンゴです。 類似種が多いツヅレシロツチダンゴ系のツチダンゴ属菌ですが、本種は比較的簡単に見分けられます。

現在は海外ですでに見付かっているこの学名の種と同種として扱われていることが多い本種。 しかし詳しく調べられたワケではなく、海外の論文との相違点も見られるので別種の可能性が高いです。 正直「aff.」を付けたくなる、と言うか付けるべきなのでしょうが、現状はこのままで掲載します。 別種であると確定次第、不明種コーナーへ移動します。


■ 2021年01月10日 撮影

そもそも種小名の「citrinus」が「レモン色の」と言う意味のラテン語です。 黄水晶のこと「シトリン」って言うでしょ? その名の通り子実体の表面を鮮黄色の菌糸に覆われているのが特徴です。 最初はSepedonium属に寄生されたイグチ目の地下生菌かと思いました。 また少し前に外皮を欠く黄色い菌糸を持つ近縁種を見ていたので不安でしたが、 断面を見るとちゃんと硬質の外皮が見られます。


■ 2021年01月10日 撮影

帰宅後にクリーニングしたものを黒バック撮影してみました。 菌糸は最初は毛羽立っていましたが、洗ったらこんな感じでぺったんこに。 子実体を覆っている黄色い菌糸部分には周囲を包んでいる木の根の断面が多数見えます。 黄色い菌糸を除去した状態の子実体の色は外皮断面を見れば分かりますが灰青褐色です。 外皮の下の肉は灰色〜白色で、その内側に胞子の詰まった藍色のグレバが存在します。


■ 2021年01月10日 撮影

グレバに白い菌糸が残っていたのは若干未熟だったからみたいですね。 未成熟な子嚢が多数確認できました。本種が子嚢菌類である証拠ですね。 ツヅレシロツチダンゴの仲間なので胞子が灰青色です。


■ 2021年01月10日 撮影

贅沢にも油浸対物レンズで観察です。 子嚢内部の胞子の数は一定ではありませんが、最大で8個と言うのは子嚢菌類らしいですねぇ。 また子嚢内部の未熟な胞子はやっぱりツルッとしています。


■ 2021年01月10日 撮影

普通に撮影した一枚。奥行きに違いがあるので見え方が違いますね。 ツヅレシロツチダンゴ系列の子嚢胞子は青くて綺麗なので観察のし甲斐があります。


■ 2021年01月10日 撮影

※オンマウスで変化します

子嚢胞子を油浸対物レンズで撮影たものを2パターン撮影してみました。 オンマウスで深度合成した写真に変化しますので、表面構造が分かりやすいです。 球形の胞子表面に棒状のとげに覆われており、それらが模様を作っています。 迷路状に見えるのはとげ同士がくっ付くことで出来た隙間みたいですね。

硬いし粉っぽいしで食毒不明以前に食不適ですよ。 食おうものならガリッとした食感の後に口の中パッサパサになること請け合いです。 ただこのテのツチダンゴの仲間の中ではかなり色味が派手な種なので、観賞価値は高いですよ。

■ 2018年12月29日 撮影

年末の地下生菌オフにて自力発見したのが初対面でした。 周囲に落ちている雪の結晶から、いかに過酷な環境でのキノコ探しだったかが伝わるかと。 あまりにも気温が低すぎて三脚を持つ手が凍り付きそうでしたからね。


■ 2018年12月29日 撮影

掘り出してみると黄色い塊がコロッと出て来ました。ここでようやく本種だと確信。 1つ見付かると大抵周囲に数個体発生していることが多いです。 ただ土や木の根が絡みまくっており、クリーニングしないとダメですね。


■ 2018年12月30日 撮影

てことで帰宅後にクリーニングしてみました。 表面を覆う菌糸が薄いため、菌糸に巻き込まれた木の根が浮き出しています。


■ 2018年12月30日 撮影

真っ縦に切断してみました。この雰囲気は間違いなくツヅレシロツチダンゴ系列!


■ 2018年12月30日 撮影

各層が分かりやすいようにアップにしてみました。 最も内側が胞子で満たされたグレバで、そこから灰色の内皮、暗色で硬質の外皮、黄色い菌糸と変化します。 黄色い菌糸(と外皮)以外は基本的にツヅレ系ツチダンゴ共通の見た目です。 ちなみに黄色い菌糸内部に見える茶色い楕円形の部分は木の根の断面です。 細い木の根をまとうように子実体が成長したのが分かります。


■ 2018年12月30日 撮影

この時も未熟な状態で見られる子嚢が確認できました。 ツチダンゴの仲間は成熟すると子嚢が消失してしまいます。 しかし本種はいつ見付けても子嚢を見れてる気がしますね。


■ 2018年12月30日 撮影

この時はまだちょっと顕微鏡に慣れていない頃だったのでちょっと失敗気味かな? 最初は被膜のようなものに覆われていて平滑に見えますが、熟すとそれが剥がれてとげが露出する模様。 黄色い菌糸が混ざる近縁種の胞子に比べるとやや小さいようです。

■ 2019年12月29日 撮影

ほぼ1年振りの再開。どろんこ氏のフィールドにて行われた忘年地下生菌オフでの収穫です。 初見とは随分離れた都道府県での出会いでしたが、変わらぬ雰囲気ですぐに分かりました。 大きなシイの樹下の落葉を退かすと、見覚えのある黄色い菌糸が・・・。


■ 2019年12月29日 撮影

周囲の地面を少し深めに掘ってみると、やっぱり居ました黄色い塊! この後他の参加者さんも周囲を探し、次々と見付かりました。 この樹の周囲一体が発生ポイントだったとうです。 本種は菌糸が目印になるので探すのはかなりラクですね。


■ 2019年12月29日 撮影

ガガンボ氏が発見した子実体を真っ二つに割って先ほどの子実体の前に置いてみました。 この青いグレバ、白い外層、黒い外皮、黄色い菌糸と目から入ってくる情報量が多いんですよねコイツ。 でもツヅレシロツチダンゴ系の中では目に見える個性があるほうなので、そこは好きだったり。 あの系統はどれも似てますからね。


■ 2019年12月29日 撮影

断面を拡大してみました。以前見た子実体より大型でグレバの成熟も進んでいるようです。 外皮は白いのですが表面は暗灰青褐色の層に覆われており、その表面を更に黄色い菌糸が覆っています。


■ 2019年12月29日 撮影

前回顕微鏡観察は済ませていましたが、もう少ししっかり観察したくて断片を持ち帰りました。 やはり前回よりも成熟が進んでおり、子嚢は確認できず、胞子も青みが薄れていました。 その反面、表面構造は前回よりもしっかりと現れており、やはり前回はやや未熟だったようです。 表面の棒状のトゲも見やすいです。

■ 2019年12月29日 撮影

青fungi氏が発見した別個体。何と地面に露出していました。 ツヅレシロツチダンゴ系のツチダンゴ属菌は比較的深い場所に埋まっていることが多いです。 なのでここまで自然と地上に顔を出しているのは珍しいかも知れませんね。


■ 2019年12月29日 撮影

本来の子実体はただの黒い塊なんですが、菌糸に覆われて全然そんな感じには見えません。 この菌糸は周囲の腐植や木の根を巻き込んでおり、無理に採取しようとすると菌糸が剥げることがあるので注意。

■ 2020年01月03日 撮影

2020年菌初め。地元の森でまさかの再会。まだ数日しか経ってないよ! 綺麗な子実体があったので試しに表面の菌糸を剥いでみました。 そこから出てきたのは自分でもビックリの黒い子実体。 しかもこの色と硬さ・・・黒いツチダンゴに非常に似ていますね。


■ 2020年01月03日 撮影

子実体を拡大してみました。表面はほぼ黒色で少し褐色を帯びている感じ。 外皮は非常に硬く、指で小突くと「カチカチ」と言う軽い音がします。 そして驚いたのが表面にツチダンゴっぽい模様があること。 姿形がここまで変わっても基本はしっかり押さえているのは流石と言う感じですね。


■ 2020年01月03日 撮影

ちょっと気になったので剥いだついでに黄色い菌糸を顕微鏡観察してみました。 ねっとりと絡み付くような密度の高い菌糸なのでピンセットで解きほぐしてからの撮影です。 この段階でメッチャ黄色いですね。


■ 2020年01月03日 撮影

試しにKOHを滴下してビックリ。肉眼でハッキリ分かるほど明確に色が変化しました。 本種の黄色い菌糸は水酸化カリウム水溶液で褐変することが分かりました。 菌糸の構造も少しは見やすくなったかな?注目すべきは菌糸の隔壁部分。 隔壁周辺で一方の菌糸が太くなる性質があるようです。 あと菌糸同志も癒着している箇所が見られます。 これがあのねっとりした緻密さを生み出しているのかな?

■ 2020年01月03日 撮影

実は以前この場所で黄色い菌糸を見ていましたが、その時は掘っても何も出ず、気のせいだと思ってました。 しかしその後本種に出会い、深い場所に居ることが多いと知り、今回の発見に繋がりました。 ただ強く熊手で掻いたら菌糸が剥げちゃいましたけど。

■ 2021年01月10日 撮影

このフィールドでは本種はかなり安定して出ていますね。 落ち葉を熊手でガサガサするとあちこちに黄色い菌糸が見えて来ます。 でも掘っても出ないこともあるんですよね。 見落としているだけなのか、それとも本当に菌糸だけなのか・・・。


■ 2021年01月10日 撮影

ただ黄色いだけじゃなく、何となく蛍光ペンの黄色っぽさがあります。 菌糸のどこにも白い部分が無いのが表皮が無い別種との簡単な区別の方法ですね。

■ 2021年02月20日 撮影

1月以上経って訪れた同じ場所、安定して発生していました。 似た色を見たなと思ったらアレですね、蛍光のせいで緑色っぽく見える燐灰ウラン鉱の黄色な気がします。 また本種は比較的群れる性質が強く、このように多数いっぺんに見付かるのも見応えがあって好きですね。

■ 2021年03月14日 撮影

本種はあまりにも菌糸が特徴的すぎて、掘る気が失せてしまいます。 コレ見るともう下に居るなって確信できてしまうので・・・。

■ 2021年03月27日 撮影

地元だと本種はかなり普通種みたいですね。結構な頻度で出会います。 最近はもう菌糸だけで満足しがちなので、採取はせずとも姿くらいは毎回見るようにしましょうか。 数も結構あるので割っても良いんですが、綺麗なので勿体無くていつも割らず仕舞いです。

■ 2021年11月27日 撮影

同じ写真ばっかりになっちゃうのが地下生菌のツラいトコ。まだ本種は見栄えするほうですけどね。 ただそう言えば最近断面撮ってなかったなと思い撮影です。 若い時は内皮は白っぽいんですが、成熟が進むとこんな感じに暗色になります。


■ 2021年11月27日 撮影

実は本種を地元で探していると結構な頻度で見かけるのがこの光景。 本種の菌糸に隣り合うようにライラック色の菌糸が接しているのです。 実はこれ別の地下生菌コロモツチダンゴの菌糸なんです。 同様の色をしたツヅレシロツチダンゴ系の地下生菌で、かなり珍しいんですよね。 もしこの色の菌糸を見かけたら要チェックですよ!

■ 2022年01月07日 撮影

2023年初発見キノコは本種でした。見付けやすくて助かりますね。


■ 2022年01月07日 撮影

切断してみると良い感じにグレバが成熟しているので、ブランク後の練習用に持ち帰ることにしました。 内部に白色菌糸が見られますが、これ菌生冬虫夏草に感染したものに良く見られる現象ですよね。 ただ本種から発生している冬虫夏草は不思議と見ないんですよね。宿主特異性の逆でしょうか?


■ 2022年01月07日 撮影

本種はツチダンゴの仲間としては珍しく本種はワリと子嚢が良く見られます。 白い菌糸も未熟な状態のものかも知れません。 他の種でもそうですが、切断時にグレバが粉状になって溢れ出さない時は子嚢が良く見つかります。


■ 2022年01月07日 撮影

※オンマウスで変化します

胞子の中央と表面にピントを合わせて2枚撮影してみました。 やはりこうして見ると胞子サイズは良いのですが胞子表面構造が論文と異なるような気がします。 気になる方はElaphomyces属の胞子を比較した論文にホンモノの写真があるので是非探してみて下さい。

■ 2023年12月30日 撮影

2023年最後のオフ会と言うことで6人の大人数で地下生菌オフを実施しました。 複数種の地下生菌が出る大収穫で、本種もしっかり出ました。 この場所は2018年12月29日の初発見フィールドだったので嬉しかったです。 あの時は極寒で降雪の中での探索でしたが、今回は良い感じの暖かい日でした。


■ 2023年12月30日 撮影

地面に黄色い菌糸が湧き出していたのですぐに分かりました。 熊手で掘ってみると菌糸に埋もれるように大き目の塊がコロンと出て来ました。 外側の黄色い菌糸が根を巻き込んでいるのが菌根菌らしいですね。


■ 2023年12月30日 撮影

一応割ってみました。この日は他に2種類のツヅレシロツチンダンゴ系列の種が見付かりましたが、 3種の中では本種が一番分かりやすいですね。他の2種が外皮の有無でしか見分けられないので。
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