■Enteridium lycoperdon (マンジュウドロホコリ)

■ 2020年11月14日 撮影

今まで何度かネット上で見てはいましたが、自力で・・・しかも地元で発見できて嬉しいです。 最初に発見した当時は老成した状態であり、詳細に調べることができませんでした。 各種腐朽材上に発生する変形菌の1種「饅頭泥埃」です。 極めて大型の着合子嚢体を形成するだけではなく、見た目も魅力的なためキノコ屋さんにも人気があります。 森の中で銀色の光沢を放つ塊があればまぁまず本種でしょう。

種小名の「lycoperdon」はそのまんまホコリタケ属の意味ですね。外見を見れば納得です。 同じ学名で「マンジュウホコリ」と言う表記を良く見かけますが、今回はコチラが正しいと判断しました。 正直何が違うのか良く分かりません。同属にドロホコリが存在しますが、外見や顕微鏡的な特徴が異なります。


■ 2020年11月14日 撮影

着合子嚢体とは無数の子嚢が判別不可能な状態にまで癒合したもので、子嚢壁は糸状に変化し擬細毛体と呼ばれます。 変形体は薄黄色。最初は白色の塊ですが、やがて銀白色で金属のような光沢を持つようになります。 また表面には血管が浮き出たようなグレーの不規則な模様が浮き出ています。 材との接着部分はねとっと糸を引いた変形体の頃の名残りが見られます。


■ 2020年11月14日 撮影

表皮は非常に薄く、まさに「薄皮」と言った質感。 金属光沢ともシルク状光沢とも言える独特なテカりを放っています。 困ったことにこの光沢のせいで青空が写り込むので青っぽく写っちゃうんですよね。


■ 2020年11月14日 撮影

奥に見えていた小さめの子嚢体2個です。 中は成熟しているようなので顕微鏡観察用に一部採取することにしました。 前回は顕微鏡観察が効果的と知らずにスルーしてしまったので。


■ 2020年11月14日 撮影

カッターナイフで左側の子実体の一部を切り取りましたが・・・何かバグみたいですね。


■ 2020年11月14日 撮影

表皮と断面のギャップにビックリしました。 内部は暗褐色でカカオ分の多いビターチョコレートみたいな色合いです。 表皮が本当に薄皮でほとんど厚みが無いのも良く分かります。 成熟し切ると水分が抜けてもう少し明るい褐色になります。


■ 2020年11月14日 撮影

今回は顕微鏡観察が同定に役立つと知っているのでしっかりと見ましたよ。 まずはピンセットで内部をほじくって水封し、気泡を抜いて撮影です。


■ 2020年11月14日 撮影

同属で外見的に良く似たドロホコリとの区別に必要なのが擬細毛体の形状です。 1つ前の写真でも見えていますが本種の偽細毛体は樹状なのが特徴です。 ドロホコリは穴の開いた板状である点で区別できます。 本属菌はこの擬細毛体を確認しないと同定できない類似種も存在するそうです。


■ 2020年11月14日 撮影

もう1つのマンジュウドロホコリの特徴として胞子が一定数塊になることが挙げられます。 低倍率で観察してもまばらに散った胞子の中に無数の塊が確認できるほどです。


■ 2020年11月14日 撮影

そして個人的に面白かったのが本種の胞子です。本種の胞子は球形で表面に網目模様があります。 表面に模様のある胞子は何度も見ましたが、本種の網目は有色なので非常にハッキリ見えますね。 ただ観察していて面白い特徴に気付きました。


■ 2020年11月14日 撮影

網目模様があること自体は文献で知っていましたが、観察していて違和感が。 良く見ると網目は全面ではなく全体の1/2〜2/3までしかありません。 鈴カステラってご存知でしょうか?アレに似た感じなんです。 網目の無い部分には本当に全く網目が無く、こんな1胞子中で表面構造が異なるのは初めて見ました。

若い時はドロドロで、成熟するとパサパサ。つまりは食不適です。 若い時は外見が非常に美しいので、もっぱら観賞用ですね。 変形菌の中でも飛び抜けて大型化する種なので撮影のしがいもあると言うものです。

■ 2017年06月02日 撮影

初めて出会ったのは木下氏とのアマミカイキタンポタケ初発見で湧いたオフ会でした。 その道中にしれっと出会っていましたが、この頃はドロホコリとの区別が付きませんでした。 2020年の詳細な観察で本種もマンジュウドロホコリで良いと判断しました。


■ 2017年06月02日 撮影

発見段階で最終フェーズに移行しており、表皮が破れて胞子が露出していました。 この状態では同定にやや不安がありましたが、変色しても金属光沢が残っていますね。 ドロホコリでは無いと断じて良いでしょう。
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