■Fistulina hepatica (カンゾウタケ)

■ 2020年05月10日 撮影

コロナ騒ぎで買い物もひっそりと済ませた帰路で走行中の車内からも分かりました。 以前からキレイな写真が撮れていたので、TOP写真差し替えを機に一気に過去分も差し替えました。 シイの生きた巨木の根元で発見。和名「肝臓茸」はその名の通り内蔵っぽい見た目に由来します。 フランスでは「牛の舌」、米国では「Beefsteak Fungus」とも呼ばれます。 その外見的特徴と、傘を切った時の断面に由来する納得の愛称です。

今も昔も図鑑ではヒダナシタケ類の項に掲載されています。 確かにサルノコシカケのような形状で裏側も管孔ですが、肉の質感や管孔の構造が異なっていました。 近年では本種はハラタケ目、つまりキノコ型のキノコに比較的近いことが分かってきました。 また世界的に分布している属ですが、本属菌は8種類しか存在しない小さな属だったりします。


■ 2020年05月10日 撮影

子実体は扇形〜舌形で濃紅色〜暗赤褐色。 傘は基本的には1枚だけですが、このように重生したり複数の傘を多方に伸ばすこともあります。 若い時ほどピンク色が強いですが、古くなるほど赤黒くなり、最終的には茶色になります。


■ 2020年05月10日 撮影

下から覗いてみました。本種は未熟時、子実体全体が鮮やかな紅色です。 子実体が熟すほどに傘表面は暗く褐色に、そして傘の下面は子実層が形成され黄白色になります。 このような成熟の仕方をするキノコは国内では本種くらいのものでしょう。


■ 2020年05月10日 撮影

下面は黄白色で子実層面は傘表皮との境界線が曖昧です。 と言うのも本種は未成熟だと裏も表も共通の表皮構造を持っています。 そして下面のみが管孔へと変化し、境界部は少しずつ表皮→管孔へと変化した状態になります。


■ 2020年05月10日 撮影

派手な色合いが取り沙汰されがちな本種ですが、個人的に興味深いのは本種の子実層です。 本種の子実層は管孔と表現されますが、本種の管孔はイグチやサルノコシカケのそれとは別物。 何とそれぞれの管が独立し、パイプ状になっているのです。 この筒の内側に担子器が形成される子実層面が存在します。


■ 2020年05月10日 撮影

帰宅後にマクロ撮影してみました。本種の管孔はその形成され方も面白いです。 本種の表皮には無数の微粒に覆われています。 微粒は2種類あり、小さめな微粒に一定間隔で大きめで暗色の微粒が混ざります。 そして下面ではその一粒一粒が伸び、筒状の管孔へと変化します。 一定間隔で背が低く暗色のパイプがあるのも表皮構造の名残ですね。 また傘と管孔の境界付近ではどっちつかずのままの構造が残り、移り変わる様が見て取れます。


■ 2020年05月10日 撮影

Canon製の「MP-E65mm F2.8 1-5×マクロフォト」の出番です。 これを見れたのは個人的には本当に嬉しかったです。 管孔はまるでちくわぶのようで、あまりの美しさに息を呑みました。 いや「ちくわぶのようで」の後に美しいと続ける違和感はありますよ、ええ。 独立した筒の外側は粗い毛に覆われているのですね。そしてこの筒の外側が本当の子実層面です。


■ 2020年05月10日 撮影

ちなみに本種の子実層は非常に薄く、厚さが2mmチョイしかありません。 肉と子実層の境界もハッキリ別れているのも面白いです。


■ 2020年05月10日 撮影

顕微鏡観察ですっごい頑張って低倍率撮影してみました。 下のスケールはめいっぱいで1000μm、つまり1mm。 普通に考えればこの倍率では画面内に納まり切りません。 なので10枚以上の写真を繋ぎ合わせました。マジ疲れました。 筒状なので綺麗に切断するのが難しいですが、何とか筒状の管孔を捉えることができましたね。


■ 2020年05月10日 撮影

でもこっからも地獄でした。本種の子実層面は筒状構造の内側にあります。 普通ならひだを薄く切ればある程度は誤魔化しが効きます。 しかし0.3mmしかない太さの筒を薄く切るとか無理ゲーも良いトコです。 なのでとにかく色んな場所を薄く切りまくり、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる戦法を選択。 何だかんだで子実層面の観察に成功しました。


■ 2020年05月10日 撮影

シスチジアは見当たりませんが、担子器はしっかり観察できました。 想像以上に普通の担子器で意外でした。ひだがあるキノコの担子器を見ているようです。 深度合成してみたらメッチャ綺麗な写真ができあがりました。


■ 2020年05月10日 撮影

ちなみに子実層面を真上から見るとどのように胞子が形成されるががメッチャ分かりやすいです。 普通ひだを真上から見るのは大失敗ですが、本種の子実層面は筒の内部のため自然と平らに広がってしまいます。 見事なまでの4胞子性ですね。あまり2胞子とか3胞子の担子器は見当たりませんでした。


■ 2020年05月10日 撮影

担子胞子はやや片側に反った楕円形で内部に大きな油球を1つ含むのが特徴です。 一端に尖った部分がありますが、これは担子器と繋がっていた跡です。

食えるんですよ、実はコレ。とても想像できないんですけどね。 生の状態では酸味がありますが、生でサラダで。炒めても食べられます。 世界中に分布し、世界中で食べられている、意外にポピュラーなキノコです。 長い間ずっと食べることを避けてきましたが、2020年についに食べてみました。 確かに酸味はありますが、生のほうが自己主張しないので、まだ食べられましたね。 逆に加熱すると酸味が増すのか、舌が感じやすくなるのか、マジで酸っぱくて合いませんでした。 仮に今後食う機会があるなら、生でサラダにしたいですね。

■ 2008年05月17日 撮影

TOP写真を飾っていた子実体です。小型ながら整った形状の子実体でした。 休日には多くの家族連れが訪れる公園の一画、大きなシイの根元。 その目が覚めるような原色の赤を見た時は、プラごみかと思いました。


■ 2008年05月17日 撮影

これはどう見ても舌ですね。ハッキリ言ってキモい!キモすぎる! これをキノコと即答できる初見さん、居たら俺のトコロに来て下さい。褒めて差し上げます。 断面を見たいとずっと思ってるんですが、あまりにも綺麗すぎて採取を戸惑ってしまいます。


■ 2008年05月17日 撮影

裏側も真っ赤です。未熟時は裏も表も同じ表面構造をしているんですよね本種。 時間が経つと下面だけが表皮のつぶつぶが伸びて管孔に変化します。 管孔部は舌触りが悪く除去する必要があるので、これくらいがちょうど食べ頃です。


■ 2008年05月17日 撮影

遠目で見るとこんな感じ。明らかな異物感。


■ 2008年05月24日 撮影

一週間経ったのでまた来てみると、えらく変わってて驚きました。 傘は反り返り、下面に管孔部分が形成されたことで黄白色なっていました。 紅白でおめでたいです。傷みなのか虫食いなのか、穴が開いており中は赤かったです。 しかも傷口の周囲は血のような赤い液体が・・・うん、グロい。

■ 2008年05月17日 撮影

これはどう見てもタンだろ。木から舌が生えてるよ恐いよ。 食べれるとは分かっていても、これはヴィジュアル的に食べづらいなぁ。

■ 2008年06月01日 撮影

今度は別の場所で発見。何度も通った場所なのに全然気が付きませんでした。 相も変わらず巨木の根元が好きなキノコですね。発生環境が似ています。 このフィールドでは美味なキノコは真っ先にヤマナメクジ様の胃袋に入ります。 美味しいキノコばかり狙われているので、やはり本種もそこそこいけるのかな? 傘表皮を剥ぎ取られて、内部の白い筋肉のような模様がむき出しになっています。

■ 2008年06月07日 撮影

かなり巨大な個体を発見!何枚もに枝分かれし、傘の端から端まで25cmの特大株。 胞子の形成を始めた段階のようで、表面の繊維模様と裏側の白さを兼ねています。 触ってみると程良い弾力感・・・。結構好きです、この優しい肌触り。 古い図鑑でヒダナシタケ類とされていたので大型のくせに軟質なんてと思っていました。 今ではハラタケ目になってますからねコイツ。分子系統解析が普及したお陰なのかな?


■ 2008年06月07日 撮影

これ今になって思うと非常に美しい子実体でしたね。傘の広がり方が芸術的です。 今ならハケで汚れを落としてから角度考えて撮るんだけどなぁ・・・キノコは一期一会ですので。


■ 2008年06月07日 撮影

幼菌時は傘の上面と同じ真紅だった裏側の管孔が白色に変化しています。 しかしどうしても見た目の形状と色合いで食すにはちょっと抵抗がありますね。

■ 2011年05月15日 撮影

随分長い間お目にかかる機会が無かったカンゾウさん。久し振りに見れましたよ。 今まで見たことの無い場所での発見。たまたま徒歩で通らなきゃ見落としてました。 ちなみにこの木だけで3つの子実体を発見。その後見に行かなかったことを後悔。


■ 2011年05月15日 撮影

相変わらずのキモさでございます。いまだに食べる気が起きない・・・。 にしても不思議です。生木に生えるだけでなく、発生スパンも謎が多いです。 去年一昨年とちっとも姿を見なかったのに、今年は結構な個体数を確認しました。

■ 2012年05月06日 撮影

そこそこ頻繁に見てるし魅力的な種なんですが、何故か大きく開いた写真が少ない! と言うのも幼菌を見るんですが次に訪れた時には無いって事が非常に多いのです。 ヒダナシタケ類にしては肉が軟質なので、すぐに朽ちて無くなっちゃうっぽいです。

■ 2012年05月21日 撮影

今年見た中では一番カンゾウっぽい個体ですかね?ただ大きさが残念でしたねー。 そう言えば食べた方のレビューを見ましたが、やっぱり酸っぱいみたいですね。 味付けを工夫しないと食べづらいと言うのはマジみたいです。止めとくか・・・。

■ 2013年05月21日 撮影

別に図ったわけではないのですが、前回発見からジャスト1年後に撮影しました。 しかもこれ場所も同じでしたね。毎年同じ場所で見れるのは本当に助かりますわ。 最近は小型の個体ばかりでしたが、今回は見応えのある姿に出会えました。


■ 2013年05月21日 撮影

久し振りに拡大してみました・・・うん、結構グロいですね。マジ舌の表面です。 で結局今回も下面のパイプ状の管孔を拡大撮影しようと思いつつ忘れました。

■ 2013年09月23日 撮影

実況中に出会ってビックリですよ!なんと9月に本種に出会ってしまいました。 撮影日を見れば分かりますが今までは全て5月〜6月に撮影された物です。 本種は春のキノコってイメージが強かったので意外な出会いとなりましたね。 しかも今まで見た個体の中でも特に立派だったのは実況的にも美味しかった。


■ 2013年09月23日 撮影

本種の管孔は特殊な形状をしています。なので普通に見ても分かりません。 表面に見える微細な白い点、その白い点の更に中央に開いた穴が孔口です。 なのであまりにも小さすぎて肉眼でもマクロでも無理。拡大鏡必須となります。 生食が可能って点も含めて、ヒダナシタケ類としては異質な存在ですねぇ。

■ 2014年05月18日 撮影

出遅れました・・・でもまぁ目的の写真は撮れたから別に良いかな?


■ 2014年05月18日 撮影

時期遅れなので鮮やかな色合いが失われてしまいましたがまぁ良いでしょう。 これがカンゾウタケの筒状の管孔です。この細かな一本一本が筒状なんです。 自カメラではこれが限界ですが、更に拡大すると中空になっています。

■ 2014年06月08日 撮影

森の中に明らかに不自然な色合い。一目見てカンゾウさんだと分かりますね。

■ 2015年04月19日 撮影

今年もこの季節がやって来ました。幹に異様な色合いの物体と言えばコイツ。 しかし最近綺麗な傘を見てない気が。いっつも変に分岐している気がします。

■ 2018年06月02日 撮影

木下さんとのオフ会にて待ち合わせ場所の近くの公園をチラッと見に行ったらありました。 木下さんは本種を地元で見付けたいとのことでしたが、このオフの後に目標達成したそうです。 本種は意外と足が早く、タイミングを逃すとあっと言う間に腐っちゃうんですよね。


■ 2018年06月02日 撮影

撮影していた時は「定点観察しよう」と思ってたんですが、その後の結果が濃厚で忘れました。 気付けば2週間経過。本種は毎年毎年中途半端で終わっちゃうなぁ。

■ 2020年05月20日 撮影

ずっと食べることを避けてきたキノコなのですが、今回は諦めて採取して食べることにしました。 まぁメインはマクロ撮影だったのですが、せっかく採取したなら食べないとですね。


■ 2020年05月20日 撮影

裏側を見てみると管孔はまだ全く形成されておらず、色褪せてもいないので鮮やかな紅色でした。 撮影すると色飽和してしまうほどの鮮やかさで、調整が大変でした。 管孔は上記の通り筒状でザラザラなので舌触りが悪く、隙間にゴミが入り込むので基本的に除去して食用とします。 なのでこれくらいの若めの子実体のほうが食用向きです。


■ 2020年05月20日 撮影

やっと見れましたね。これが有名なカンゾウタケの子実体の断面です。 断面は赤と白が繊維状に入り混じり、見事なまでの霜降り状になっています。 断面だけ見せれば牛タンと言っても騙せてしまうのではないでしょうか。 肉は多汁で赤い汁をふんだんに含んでおり、切断すると染み出して来ます。


■ 2020年05月20日 撮影

カンゾウタケの子実体の表面はただ赤いだけではなく、大小の微粒に覆われています。


■ 2020年05月20日 撮影

もう少し拡大すると微粒は単なる粒ではなく、穴が開いているのが見えて来ます。 ニキビの芯を搾った跡みたいな感じですね。 この粒が裏側では長く伸びて筒状の管孔になるんですよね。 管孔のところどころに混じっていた少し色が濃くて大きくて背の低い管孔は、この暗色の粒が変化したものです。


■ 2020年05月20日 撮影

肉の断面はこのように霜降り状。熟したモモの断面もこんな感じだったりしますね。 非常に肉肉しい外見なだけに口に入れた時のキノコ感と酸っぱさは衝撃的ですよ。


■ 2020年05月20日 撮影

拡大してみると赤い部分には透明感があることが分かります。

とりあえずこの子実体で「生」と「炒め物」の両方を試してみました。 生の状態ではあまり粉臭もなく、やや酸味があるもののカブのようなしっとりとした根菜感でした。 これなら酸味のあるドレッシング等でサラダにすれば美味しいと言うのも頷けます。 ただ炒め物は高温で酸味成分が強くなるからか、 暖かさで味蕾が味を感じやすいからかは分かりませんが、強烈な酸味を感じました。 これは元々酸味が強い調理法じゃないと個人的には食べられないですね。 とりあえず感想としては特に理由無く2度目は食べないかな。

■ 2020年05月20日 撮影

この日の収穫は非常に有意義なものでした。 細部の観察、断面、顕微鏡、味見、全てやり切った感じです。 去り際に幹の反対側の幼菌を撮影。大きく育てよ〜。
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