■Genea hispidula (ゲネア ヒスピドゥラ)

■ 2023年07月02日 撮影

7月末に大規模冬虫夏草オフを計画し、その下見として1月前にフィールドを訪れました。 その結果、まさかの冬虫夏草大収穫もですが、地下生菌まで出ちゃったんですよね。 めたこるじぃ氏が発見した見慣れない地下生菌。皆それを見て驚きの声を上げました。 夏から秋にかけて広葉樹下に発生する和名無しのジマメタケ属菌です。 私自身は本属菌そのものが初見だったのでメチャクチャ感動しました。 チャワンタケ型から地下生菌に進化する途中の特徴を持つ非常に珍しいキノコです。

地上生と地下生の中間的な形態を持つウツロイモタケのような子嚢菌類です。 剛毛が生えた見た目通り、シロスズメノワン属に近縁です。 ちなみに京都府RDBには「ジマメタケ」の名前で本種が紹介されていますが、 本来のジマメタケに当てられている学名は「Genea sphaeroides」のようです。


■ 2023年07月02日 撮影

子実体は暗褐色で、やや潰れて扁平になった類球形。 チャワンタケが丸まったような構造のため、上部に小さい穴が必ず開いている。 最大の特徴はその表面で、イボに覆われている上にシロスズメノワンのような褐色の剛毛に覆われています。 このような外見を持つ地下生菌は本属菌くらいのものなので、これだけで属名まではほぼ確定できるでしょう。


■ 2023年07月02日 撮影

割ってみるとチャワンタケが丸まった構造であることが良く分かります。 しかし驚かされるのがその内部。何と内部にも剛毛が生えているのです。 本来であれば子実層面があるハズの部位なのに・・・?


■ 2023年07月02日 撮影

発生量が多く観察用のサンプルが採取できましたので、大切に観察させていただきました。 まずは表面と断面を黒バック撮影!良い忘れていましたが、 本種の種小名「hispidula」は「やや剛毛の」と言う意味なんですよね。「やや」とは?


■ 2023年07月02日 撮影

まずは通常撮影。子実体が小さいので相対的に開口部が大きく、普通にチャワンタケ型に見えますね。 この形状だととてもじゃないですが地下生菌には見えません。 子実体は暗褐色で毛に埋もれていて見づらいですが、表面に暗色のいぼが点在します。


■ 2023年07月02日 撮影

本種は断面が本当に面白いんですよね。子嚢が並んでいるのは見えるんですが、 明らかにどちらの面にも剛毛が生えているのです。 これは顕微鏡で観察してみるとその構造が良く分かります。


■ 2023年07月02日 撮影

切片を作成して顕微鏡で低倍率撮影してみました。 何と子実層が子嚢盤内部に存在し、どちら側の面にも露出していないのです。 つまり本来胞子を射出するための子嚢は存在するのに、胞子の行き場が無いのです。 これは本種が風による胞子散布手段を捨て、地下生菌としての性質を獲得している証拠でもあります。 また外皮のいぼと剛毛の生え方も断面から見ると良く分かりますね。


■ 2023年07月02日 撮影

今度は子嚢を覗いてみると、未熟な胞子と成熟した胞子の両方が同時に観察できました。


■ 2023年07月02日 撮影

子嚢を切り出してみました。子実層の厚みからも推測はできますが、 子嚢の長さは240μm前後で縦長、子嚢胞子8個が縦に並び、先端には蓋や頂孔は無し。 胞子も子嚢のサイズに合わないほど大きく、明らかに空気中に放出することを想定してないですね。 この子嚢の形状は同じく地下生菌へ進化する途中のウツロイモタケに良く似ています。


■ 2023年07月02日 撮影

油浸対物レンズで子嚢胞子を観察してみました。何だこの形状とサイズ!?


■ 2023年07月02日 撮影

子嚢胞子は丸いいぼに覆わており、いぼを含めたサイズで30〜35×22〜25μmの楕円形。 内部には2個の油球が存在します。普段目にする子嚢菌類の胞子とは桁違いの大きさです。 空気中を飛ばす必要が無いことと、胞子を保護するために厚膜になっていることが分かります。 空洞の内側にまで外皮と同じ構造が存在するのも、内部の胞子を保護する目的があるようですね。


■ 2023年07月02日 撮影

ちなみにメルツァー試薬で染色すると胞子表面の構造が見やすくなります。

子実体や胞子の構造などから本種だと同定したが、 そもそも分からないことだらけの種なので当然ながら食毒不明です。 ただ大きいものでも直径1cmくらいしかない上に中身が空なので、仮に美味でも食えたもんじゃないですけどね。

■ 2023年07月02日 撮影

最初の発見を受けてメンバー総出で周囲を探したところ、新たに数個体発見できました。 ただパッと見は植物体にしか見えないので、慣れるまでは目に留まりませんでした。 普通の地下生菌は石とかと見間違うことが多いんですが、本種は石っぽくはないですね。

■ 2023年07月02日 撮影

私は人生で初めてGenea属菌を見たんですが、想像以上に小さくて驚きました。 幼菌の頃は穴が見えないので毛玉にしか見えないんですよね。可愛いです。 とりあえず形状は脳に刻み込んだので、以後見落とさないようにしたいトコロ。
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