★Grifola frondosa (マイタケ)

■ 2022年10月08日 撮影

地元のフィールドを歩いていて遠目に季節外れのダイダイイグチを発見。 それを何となく眺めていた時に、その隣に何か見覚えのある姿・・・。 しかしこんな低地に?見間違い?でも確かに出ると言うウワサは聞いたことがある。 と言うことで近付いてみて絶叫!天然モノを見付ければ嬉しくて舞い踊る「舞茸」です! 基本的には冷涼なミズナラ林のキノコですが、低地でもたまに見付かります。 ブナ科広葉樹の生木の地際に発生する、皆さんもお馴染みのキノコですね。 本種の再発見には特別な思いがあったので、この出会いは本当に大きな意味がありました。

なお種小名の「frondosa」は「葉面の広い」と言う本種の子実体の形状を意味しています。 同属菌として有名なものに、子実体全体が白いシロマイタケが存在し、市販もされています。 また別属ですが近縁なものにブナの立ち枯れを好むトンビマイタケが存在し、こちらも重宝されますね。 なぜ重宝されるかはネタバレてるようなモノですが。


■ 2022年10月08日 撮影

発見してもしばらくはその事実を受け入れられず、「え?ええ?」と言いながら樹の周囲をぐるぐる。 しかしどこからどう見てもマイタケであり、ジワジワと嬉しさが込み上げて来ましたね。 なお和名の由来として有名なのが「嬉しくて舞い踊る」説と「傘が舞い踊るように見える」説。 どちらが正しいかは不明だそうで。ただ地方によっては山の神への感謝として実際に舞ってから採取したそうで。


■ 2022年10月08日 撮影

子実体は1つの成長点から複数の傘多数分岐させる特徴的な姿。 これらの傘が折り重なるように成長するため、このようにボワッとボリュームのある姿になります。 傘の色には生育環境や成熟度合いによってかなり差がありますが、基本的には褐色で、幼菌時ほど暗色です。 この姿が低地の里山で見れるとは全く予想していませんでしたね。


■ 2022年10月08日 撮影

発生環境はこんな感じ。樹種はどうやらツブラジイ(コジイ)のようです。板根も特徴的ですし。 確かにこの樹種から出ると言う話は聞いたことがあります。

本種との再会が遅れたのは本種が狙って探さないと出会えないキノコだからでしょう。 いわゆる「キノコ狩り名人」と呼ばれる方々が行く場所、行く時期じゃないと見付けられないんです。 なので秋にマイタケ目当てでミズナラ林を訪れる習慣の無い私には再会のハードルがかなり高かったのです。 低地で今回出会えたのは本当にラッキーでした。


■ 2022年10月08日 撮影

上の写真の一番手前、左端の子実体を拡大してみました。 ちょっと老成気味かつ傘の枚数は少ないですが、1枚1枚が大きい子実体です。 これなら傘の観察がしやすそう!


■ 2022年10月08日 撮影

傘は成長初期段階から複数分岐しており、それらが更に不規則に分岐するため構造はかなり複雑。 表面積を広げ、胞子が飛ぶ隙間も用意すると言う合理的な形状ですね。 傘は幼菌時暗灰褐色ですが、傘が開き切り成熟するとやや淡い色合いになります。 傘に成長に伴いウチワタケ系にありそうな環紋が現れます。 この辺を見ると本種が硬質菌の仲間なのだと言うのが何となく分かりますね。


■ 2022年10月08日 撮影

少し奥の板根に挟まれた2個体です。全部で7個体ありましたが、この2個体だけ食用に採取しました。 家族の者に「もっと採ってこんかい」と怒られましたが、知らん、俺は採りたくないんだ。 やはり複数株あって少し頂くのが私の基本ですので。


■ 2022年10月08日 撮影

裏返して見ると裏面の白さが際立ちます。 本種は傘の裏側に管孔部が形成されるので裏と表で色も質感も全く違います。 生の状態だと肉質が脆く、採取する際に基部の傘がかなり脱落してしまいました。 そして肉を傷付けたことでより香る爽やかなマイタケ臭・・・!


■ 2022年10月08日 撮影

裏面には結構虫が潜んでいました。 それに関係することですが、帰宅後に子実体を良く見るとあちこちに小さな穴が・・・。 これキノコバエのウジが侵入した跡なんです。 そりゃこんな味も香りも良いものを野生動物が見逃すワケないんですよね。 野生キノコを食べるならそれは覚悟しておかなくてはなりませんよ?大人しく虫抜きしましょう。


■ 2022年10月08日 撮影

子実層面は管孔なのですが、傘の縁部では結構壁が途切れて迷路状になります。 傘そのものが薄いので当然子実層も薄く、綺麗な切片作成は断念。胞子と担子器にターゲットを絞ることに。


■ 2022年10月08日 撮影

綺麗な切片作成は我が家の環境では不可能だと感じたので管孔部分の組織を切り出して適当に顕微鏡観察。 すると管孔表面に担子器が確認できました。いやまぁ当たり前なんですけどね、担子菌類ですし。 ただこのままだと形状が確認しづらいので染色してみます。


■ 2022年10月08日 撮影

と言うことで別部位をフロキシンで染色してみました。 これで4胞子性の担子器だと言うのが良く分かりますが、実際には3胞子性も結構混じってるイメージ。 にしても食べれば美味しいマイタケの傘をカミソリで切り刻んでるのは第三者目線で見ると異様な光景ですね。


■ 2022年10月08日 撮影

担子胞子もしっかり観察できました。形状は若干楕円形で小柄と繋がっていた部分がツンと跳ねています。 内包物は未熟な胞子では明確な油球が確認できますが、成熟するとこんな感じで均一になります。 非アミロイドなのでメルツァー試薬では変色しないそうですね。 と言うことであえて見ることはあまり無いであろうマイタケのミクロのお話でした。


■ 2022年10月08日 撮影

最後は全景。今回については食べられることよりも写真が撮れたことが嬉しかったです。 理由は後述しますが、初発見時に撮影時の設定をミスってマトモな写真が無かったんです。 そのため擬人化図鑑出版時も納得していない写真を使うことに若干が抵抗があったほど。 今回やっとしっかりと生態写真に残すことができました。肩の荷が下りた気分です。


■ 2022年10月15日 撮影

1週間後にしんや氏と訪れた時は完全に老菌になっており、白い粉を吹いたようになっていました。 恐らく一度放出されて傘の上に積もった胞子でしょう。 この状態を見るに前週がベストコンディションだったかも知れません。来年にも期待したいですね。

もう語る必要も無いでしょうが、極めて美味な食菌です。 食感も良く、味も香りも最高クラス!ありとあらゆる料理に相性の良さを発揮。 特に天然マイタケは味も香りも食感も別物。 味と香りは強く、採取後の車内がマイタケ臭に包まれるほど。 食感も市販の栽培品と比べ物にならないほど強靭で別のキノコを食べているかのようです。 肉料理に使用すれば肉を柔らかくし、鍋や汁物に入れればその香りはそれはもう・・・。 また本種は塩で食べる天ぷらがマジでオススメなので、もし天然モノが手に入ったら是非一度ご賞味あれ。 また非常に強いタンパク質分解酵素を持つため、茶碗蒸しに入れてはいけません。 加熱しても全く固まらずにシャバシャバのままになるので注意です。

■ 2008年09月28日 撮影

実は天然モノとの出会いは2008年とキノコ趣味を始めて2年ほどの超ラッキーパンチ。 亜高山帯のミズナラ林で小さな子実体です1株だけ発見していました。 書籍版のキノコ擬人化図鑑に写真が自前で用意できたのはそのためです。 ですが本種の写真図鑑掲載はずっと何かがモヤモヤが晴れないままでした。


■ 2008年09月28日 撮影

その理由がコレ。非圧縮の写真の一部を切り出してみました。 実はこの日は初めてデジイチを購入した初戦のフィールドだったのです。 ですが操作方法が全く分からず色々とボタンを押して試行錯誤しながらの撮影。 その結果、ISO感度6400と言うとんでもない光量増幅状態で撮影しちゃいました。 そのためこの日撮影した写真のほぼ全てがボツになっていました。 マイタケは辛うじて縮小すると見れる状態にできましたが、それがずっと心残りでした。 あまりこう言う経緯については掲載しない主義なんですが、これだけは説明しておきたくて。


■ 2008年09月28日 撮影

かなり成熟が進んだ子実体だったので傘は暗色で彩度もかなり落ちていますね。 部分的にカビも出ています。


■ 2008年09月28日 撮影

あまり大きな子実体ではなく傷んでいる部分も多かったので、採取したのはこの傘2枚だけ。 帰宅して鍋に入れて食べましたが、非常に非常に美味しかったです。ちょっと物足りませんでしたが。 枝分かれと傘の展開が済んでいるので市販品と比べるとかなり逞しい!


■ 2008年09月28日 撮影

奇跡的に綺麗に撮れていたマイタケの管孔です。 スーパーで購入したものは大抵幼菌状態であり、管孔部がほとんど形成されていません。 天然モノでは十分に成熟が進み、孔口が綺麗に並んでいるのが分かります。 これを見るとマイタケがサルノコシカケ系のヒダナシタケ型菌なんだなぁと実感しますね。


■ 2008年09月28日 撮影

最後にもう一度全体像をご紹介。TOP写真差し替えに実に14年以上を要しました。 擬人化キャラとしても初期組ですし、知名度的にもずっと良い写真が欲しいと思っていたマイタケ。 やっとその念願が叶いました。これでこの初発見も思い出として消化できましたね。
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