■Hevansia nelumboides (ハスノミクモタケ)

■ 2023年08月27日 撮影

しんや氏にご案内いただきました。何の変哲も無い林道脇に大発生していました。 小型のクモを宿主とする気生型の冬虫夏草「蓮実蜘蛛茸」です。 典型的なハスの実型の子実体を形成し、葉の裏などに貼り付くように発生します。 ずっと採集品ばかりで野外での自然な姿を見たことがなく、地下生菌よりも興奮したかも。 ちなみに種小名は「Nelumbo(ハス属)」と「-oides(〜に似ている)」の意味なので、 そのまんまの意味だったりするんですよね。

長らくCordyceps属菌とされていましたが、新設されたHevansia属に移動となりました。 本種はテレオモルフに混じってAkanthomyces型の細長いアナモルフを形成することが知られていました。 当然ですが良く似たアナモルフを形成する旧「A. novoguineensis」も本属に移動となっています。


■ 2023年08月27日 撮影

今回TOP写真を差し替えているのですが、その理由は理想的な発生状態だったからです。 葉裏に幼菌と成菌が同時に付いていたのです。解説にはこれ以上適したサンプルはありません。


■ 2023年08月27日 撮影

と言うことで帰宅後に黒バック撮影してみました。え?現地写真少なくないかって? だってこれ高さ5mmくらいしかない極小の冬虫夏草なんですよ。 現地で撮影するにはマクロレンズの性能が足りないのです。


■ 2023年08月27日 撮影

拡大するとこんな感じ。成長段階の異なる2個の発生が見られます。 このクモは基本的に近距離に居ないので、このような発生状態はワリと稀なんですよね。


■ 2023年08月27日 撮影

まずは幼菌です。宿主は小型のクモで普通なら視界に入らないような小ささです。 まだ脚などが見えているので、詳しい方が見れば宿主を同定できるかも知れませんね。 宿主は菌糸に覆われて葉裏に貼り付いており、そこから子実体が伸びています。 アナモルフ菌類でもこのような外見のものは存在しますが、先端が膨らんでいる点に注目です。


■ 2023年08月27日 撮影

そしてこれがハスノミクモタケの完成形です。 伸びた柄の先端部に結実部を形成するこの姿をハスの実型と言います。 特に結実部が平らで子嚢殻が一定方向を向くため余計にハスの実に似ていますね。


■ 2023年08月27日 撮影

子嚢殻は黄色で埋生、先端部だけが少しだけ突出し、過熟すると褐色になります。 この先端から子嚢胞子を噴出して感染を広げます。 にしてもこうして見ると本当にハスみたいですね。学名も和名もハスに由来する理由に納得です。


■ 2023年09月02日 撮影

結実部を一部切り取って断面を顕微鏡で低倍率撮影してみました。 縦に長い紡錘形の部分が埋生の子嚢殻です。実際にはコレが下向きになっており、 本種の子嚢殻は全て下方を向いて形成されるため、シャワーヘッドみたいな状態なんですね。


■ 2023年09月02日 撮影

子嚢殻と言うと楕円形の一端が尖った雫型のものが多いですが、 本種の子嚢殻は細長すぎて紡錘形に近いです。 長さは600μmを超えており、かなり長いなと言う印象を受けます。 と言うかクモ生種は子嚢殻も子嚢胞子も長いものが多いですからね。 ところで、この2枚の写真だけ撮影日が進んでいますが、コレには理由があります。


■ 2023年08月29日 撮影

実は本種、帰宅後に胞子を無事吹いたのですが、仕事中だったので帰宅したら発芽しちゃってました。 糸状の子嚢胞子は一応見れたのですが、ほとんどが発芽して分生子を形成してしまっており、 正確な測定ができなかったのです。一応その後も胞子を吹かせようとしたのですが、 クモ生種は一気に胞子を出し切る傾向が強く、9月2日まで待って胞子観察を断念、バラして顕微鏡観察しました。


■ 2023年08月29日 撮影

ただ貴重なものは見れました。子嚢胞子の隔壁で仕切られた細胞1つ1つが発芽し、分生子を形成していました。 本種に限らず気生型は短時間で発芽して分生子を作る傾向が強いようです。


■ 2023年08月29日 撮影

分生子を油浸対物レンズで観察してみましたが、何か独特な形状をしていますね。 どう表現すれば良いのでしょう?一方が太まる紡錘形とでも言えば良いでしょうか。 個人的には槍の穂先がしっくり来るんですけど。 自然環境でも感染はこの分生子によって起きているのでしょうね。

非常に小さい冬虫夏草なので食毒不明である以前に恐らく食用価値が無いでしょう。 ただレア度もですがとてもカッコイイ種なので、観賞価値的には申し分無いですね。 是非地元でも発見してみたいものです。

■ 2019年12月29日 撮影

初対面は2019年締めくくる年末地下生菌オフ。忘年会を兼ねたこの観察会で意外な出会い! タイワンアリタケに混じって葉の裏に念願の姿を捉えました。


■ 2019年12月29日 撮影

葉を裏返して逆向きにして見たほうが特徴が分かりやすいですね。 宿主の小型のクモは菌糸でガッチリ葉の裏に固定されています。 そこからハスの実型の子実体が伸び、その先端が急激に幅広くなっています。


■ 2019年12月29日 撮影

この子実体は複数本の子実体を形成せず、1本の子実体から3個の結実部を形成していました。 イレギュラー的な形状で、そのためか結実部1つ1つは小さかったです。 何か「Dead by Daylight」の発電機みたいですね。伝わるかな?

■ 2019年12月29日 撮影

タイワンアリタケの大発生している低木にひっそりと発生していました。 葉のサイズからも如何に本種が小さい冬虫夏草かが良く分かりますね。 ただ色が白っぽいので小さくてもワリと目に付きます。


■ 2019年12月29日 撮影

今回はハスの実型のテレオモルフに混じっててAkanthomyces型のアナモルフを形成していました。 この細長い柄の表面にフィアライドを形成し、分生子を飛ばします。 この場所では開発の関係で発生量が激減しており、残念ながら採取することはできませんでした。 何とか地元で発見して顕微鏡観察に漕ぎ着けたいですね。

■ 2023年08月28日 撮影

この日はしんや氏にフィールドを案内して頂いたのですが、驚いたのがその環境。 何とただのヒノキ林の中を走る林道脇なんです。 少し下った場所に川が流れているものの、発生地は沢も無く気中湿度も低いのです。 実際に他の冬虫夏草は全然出ないそうで、私もこの環境は予想外すぎました。


■ 2023年08月28日 撮影

葉を裏返してみるとハスが2つ咲いてました


■ 2023年08月28日 撮影

帰宅後に高性能マクロで撮影してみました。本当にハスの実ですね。 子嚢殻が一定方向を向いているため、結実部の側面に子嚢殻が浮き出るのが、 なおさらハスの実を横から見た時にソックリです。


■ 2023年08月28日 撮影

別角度からも撮ってみました。白いクモの巣みたいなのは噴出した子嚢胞子です。 本種はあまり高い場所に発生しないのですが、結実部の形状的に胞子を下向きに飛ばすんですよね。 そうなると地上を狙って胞子を落としているのでしょうか?感染のメカニズムが気になるトコロです。

■ 2023年08月28日 撮影

現地で見た時は気付かなかったんですが、良く見ると子嚢胞子が引っかかってます。 かなり状態の良い子実体が多かったのに、時間が合わずに胞子観察に失敗したのは痛い・・・。 来年は何とか自然落下の子嚢胞子を顕微鏡撮影したいトコロです。
■図鑑TOPへ戻る