★Hydnangium carneum (ヒドナンギウム カルネウム)

■ 2019年02月23日 撮影

ユーカリの菌根菌観察オフにて念願叶いました。写真で見て以来ずっと出会いたかった憧れの地下生菌。 ユーカリの樹下に発生するオーストラリア原産の地下生菌、当然和名は存在しません。 自力でユーカリの移植が行われた土地を何ヶ所も回りましたが出会えずじまい。 しかしこのオフで訪れた発生地のユーカリ林の規模は、それまでとは段違いでした。 実はこう見えてキツネタケに近縁な種です。

以前この学名はコイシタケに当てられていましたが、当然別種です。 例外はありますが基本的に土付きの植物の輸出入ができなくなった昭和20年ごろより前に移植された古いユーカリ林に発生します。 本種はキツネタケ属から地下生菌に進化した属であり、キツネタケと同じヒドナンギウム科に属します。 当然ながら外来種であり、他所での定着の可能性は低いですが一応移動させる際は注意が必要です。


■ 2019年02月23日 撮影

子実体は基本的に塊状で球形に近いものからでこぼこのものまであり安定感がありません。 表皮は全体的に淡紅色ですが、何とも表現しづらい独特な色合いです。 そもそも種小名の「carneum」は「肉色の」と言う意味のラテン語の中性形容詞です。


■ 2019年02月23日 撮影

表皮は繊維状で薄く、部分的に褐変しています。 言われてみればこの色合いは確かにキツネタケの色に似ているような。

子実体は基本的に塊状で球形に近いものからでこぼこのものまであり安定感がありません。 表皮は全体的に淡紅色ですが、何とも表現しづらい独特な色合いです。 そもそも種小名の「carneum」は「肉色の」と言う意味のラテン語の中性形容詞です。


■ 2019年02月23日 撮影

切断してみると迷路状の小腔室が開いたグレバが見られました。 肉質は異様に脆く、カッターの刃がスイスイ入ります。


■ 2019年02月23日 撮影

小腔室内部は粉を吹いたように白っぽく、これは確かにキツネタケ属のひだを彷彿とさせます。 断面の肉は確かに肉色。 ちなみに下に凹んでいる部分がありますが、ここには柄の名残りの無性基部が存在しました。 しかしこれは異常なほど脱落しやすく、残したまま採取するのは至難の業です。


■ 2019年02月24日 撮影

最初の写真の右下の子実体を帰宅後に黒バック撮影してみました。 クリーニングしていたら何か赤っぽくなりましたね。 上が子実体を真上から見た状態、下が真下から見た状態です。 柄の名残りから放射状に子実体が成長しているような痕跡が見られます。


■ 2019年02月24日 撮影

断面はこんな感じです。子実体の上部が軟らかく、少し砕けてしまいました。 基部に何とか脱落せずに残すことができた無性基部が確認できます。 これ良く見ると分かるんですが切り取り線みたいなのがあるんですよね。 そりゃ取れちゃうワケだわ。しかし見れば見るほど子実体がキツネタケの色ですね。


■ 2019年02月24日 撮影

マクロレンズでの撮影段階から小腔室内壁に胞子がビッシリ付いているのは見えていました。 顕微鏡で観察してみるとそれがハッキリと分かりました。おびただしい数の担子胞子が確認できます。


■ 2019年02月24日 撮影

子実層面を拡大してみました。担子器がビッシリ並んでおり、その先端に胞子が確認できます。 しかしあまりにも数が多く、これでは個々の構造が観察しづらいですね・・・。


■ 2019年02月24日 撮影

まずは担子胞子です。これ分かる人は分かると思われますが、キツネタケの胞子にソックリです。 大きさも同じユーカリの菌根菌であるキツネタケ属菌、通称「赤いキツネ」に瓜二つ。 同じ日に良種を観察したのでその類似性に驚かされました。


■ 2019年02月24日 撮影

しっかり観察したかったので油浸対物レンズを用いて高倍率で観察してみました。 担子胞子は白色で球形、表面は無数のとげに覆われています。 チョンと飛び出ている突起は担子器と繋がっていた名残り、へその緒のようなものです。


■ 2019年02月24日 撮影

コチラは絞りを調節した上で深度合成を行い、とげと球体部両方にピントを合わせたもの。 本当に美しい胞子で、その魅力が伝わるよう全力で撮影しました。 おかげで使わなかったボツ写真の多いこと多いこと。


■ 2019年02月24日 撮影

担子器を見やすくするためフロキシンで染色しました・・・が分からねぇ!


■ 2019年02月24日 撮影

と思ったけど見る場所を変えたら2胞子性の担子器が沢山観察できました。 ナメクジみたいな先端に2つのトゲみたいなのが生えてるのが本種の担子器です。 ただこれらは胞子を飛ばし終えた残骸で、溶けて無くならないのです。


■ 2019年02月24日 撮影

地下生菌の担子器は胞子を形成すると溶けて消失してしまう種が多いです。 空中に散布する必要が無いため不要なものとなってしまうからでしょう。 しかし本種の担子器は胞子を飛ばした後も皮だけになって残っています。 同行者のgajin氏も仰っていましたが、やはり地下生菌になって歴史が浅いのでしょうか。


■ 2019年02月24日 撮影

オマケでフロキシンで染色した状態の担子胞子をパシャリ。

食毒については海外のサイトなどを巡ってみましたが、どうやら食毒不明のようです。 キツネタケに近縁と言う時点で食える可能性はあるかもですが、仮に無毒でも肉質がボソボソでアウト。 ちょっと強く握れば粉々になっちゃう時点でダメでしょうね。 日本国内で見れるフィールドはごくわずかなので貴重な種ですが、外来種なのでちょっと複雑。

■ 2019年02月23日 撮影

本種の子実体の周囲に見られるのは通称「ユーカリの赤いキツネ」と呼ばれるキツネタケ属菌の幼菌です。 彼らも1種類ではなく複数種存在するみたいですが、この光景も両者が近縁である証拠の一つと言えます。

■ 2019年02月23日 撮影

コチラは同行者のどろんこ氏が発見した子実体。 もう少し早い時期だと発生量が多かったそうですが、この日も中々の数が出ました。 レーキで地面を掻けばコロコロ見付かるレベルです。 この場所のユーカリは樹齢も高く本数も多いので、流石の環境と言った感じ。


■ 2019年02月23日 撮影

この子実体にはが開けたと思しき穴が。 海外の写真では虫に食べられている様子が全然見られません。 肉に臭気もなく、虫に胞子拡散させているようには見えませんが、日本の虫に目を付けられたかな?



■ 2019年02月23日 撮影

地面に少しだけ顔を出していることが多く、その独特な色合いのせいで凄く目に付きます。 白っぽく見えるけど白じゃないその異質さが自然と目にとまるのでしょうね。

■ 2019年02月23日 撮影

最初に発見した子実体です。表皮は菌糸に覆われたうような質感になっています。 この時はレーキで傷付けてしまい、右端が砕けてしまいました。


■ 2019年02月24日 撮影

左側の小さな子実体を観察用に持ち帰りました。 帰宅後に黒バック撮影してみましたが、水洗い後なので菌糸がペタッとなって全然雰囲気が違います。 小腔室が浮き出ているので何ともグロテスクな外見に・・・。


■ 2019年02月24日 撮影

これが本種の一番やっかいな性質、無性基部の脱落の現行犯です。 幼菌でも老菌でもおかまいなしにグレバと無性基部の境界線でポロッと取れてしまいます。 これが「傘だったもの」と「柄だったもの」と言うワケです。 しかしここまで分離しやすいのはなぜなんでしょう。不都合がありそうなレベルで取れるんですが。


■ 2019年02月24日 撮影

そう言えば海外のサイトを見ていて気になったことがありました。 それがこの小腔室を横切っているスジのような色の濃い部分です。 現地のサイトでも似たような写真が見受けられたのでじっくり観察してみました。


■ 2019年02月24日 撮影

色の濃い部分をスライスして顕微鏡観察してみると、やはりここは菌糸が集まって繊維状になっています。 これもしかすると柱軸ってヤツなのかな? 普通のキノコだと傘の内部を通っている柄の続きにあたる部分だったのかも。

■ 2020年02月22日 撮影

関東への超規模遠征で出会えた本種ですが、存在自体はそれ以前から知っており探していました。 目標は関西地方で本種を発見すること。関西でも産すること自体は知っていました。 しかし全く地域も含め情報が一切無い状態からの出発でした。 事実いつものキノコ仲間も個別に探していたのですが手がかりすら掴めない状態だったのです。

しかしSORA氏にTwitterにて「ユーカリ固有の昆虫の分布をヒントにしてみては?」とのご意見を頂きました。 この昆虫はユーカリに付着して国内に侵入し、ユーカリしか食べないため木の所在が確定できます。 しかもこの情報は公開されており、ユーカリの正確な分布を把握することができました。 そして移植された時期が古く植物検疫が不十分だった年代に国内に持ち込まれたと予想される場所、 あるいは特別な事情で苗ではなく成木で輸入されたと予想される場所を探しました。

そして遂にその場所を突き止めました。しかし管理者に連絡を取ると整備関係で立入禁止とのこと。 そこで来年また連絡しますと伝えて1年待ち、2020年に再度連絡を取り、調査と採取の許可を頂きました。 当然ですがこの段階では発生の有無は確認できていませんでした。 探す目を増やすためにいつもの若手メンバー達と共に現地を訪れましたが、発見まではあっと言う間でした。


■ 2020年02月22日 撮影

あいにくの天気でしたが、雨のおかげでみずみずしい子実体を目にすることができました。 今回は多方面の情報を元に理詰めで発生地を特定でき、非常に貴重な経験ができました。 取っ掛かりとなる情報を下さったSORA氏に感謝です!

■ 2020年02月22日 撮影

アメジストの詐欺師氏が気にしていた虫食いです。 地下生菌は野生動物に齧られることで胞子散布を手伝わせている種が多く存在します。 しかし宿主となる樹種が存在しない関係上、本種を食べる進化をした種は国内には居ません。 国内の昆虫やナメクジなどが本種を食べる選択をしたと言うことでしょうか。

■ 2020年02月22日 撮影

2019年に訪れたフィールドは広大な範囲がユーカリ林でしたが、今回は比較的小規模。 しかし怪しい場所をレーキで掻けばコロコロ出てくるような発生量でした。


■ 2020年02月22日 撮影

ちょっとレーキで傷付いちゃいましたが、この日見た子実体では最大でしょうか。 本種はキツネタケ同様に非常に肉質が脆いので簡単に傷付いてしまいます。


■ 2020年02月22日 撮影

以前すでに観察済ですが、多少は上がった顕微鏡観察スキルで撮影をするために採取しました。 まずは黒バックで両面を撮影。左が下側で右が上側になります。 そのため左には柄の名残である無性基部が見えています。 良く見ると右側も放射状の模様があって傘っぽい気がします。


■ 2020年02月22日 撮影

別の子実体を今度は無性基部を通過するように切断してみました。 1つ上の写真は真横に切った状態、今回は真っ縦に切った状態です。 無性基部はグレバとの境界部で脱落しやすいので、慎重に切断しなくてはなりません。


■ 2020年02月22日 撮影

初見時も思いましたがマジで表皮が薄いですね。グレバが露出しています。


■ 2020年02月22日 撮影

表皮の薄さは切断せずとも分かります。 乾燥時は白く曇りますが、湿潤時はグレバの小腔室が見えるほどに表皮が透けます。 ハラタケ型の地下生菌は地上生種よりしっかりした肉質の種が多い印象なので凄い違和感。


■ 2020年02月22日 撮影

肉質の異質さはグレバについても言えます。 湿潤時は小腔室を形作る壁の透明感が凄まじいことになります。 まるでゼリーのような透明度を持ち、結構奥にある小腔室も余裕で見えますね。 種小名の意味も相まって動物の体組織みたいに見えます。


■ 2020年02月22日 撮影

以前も撮影しましたが、低倍率でグレバを顕微鏡観察。 大量の胞子を形成しているためカミソリでの切断時に断面にも胞子が・・・。


■ 2020年02月22日 撮影

担子胞子を撮影してみました。前回とはピント位置を変えて撮影。


■ 2020年02月22日 撮影

初見時と全く同じもやっとボールのようなキツネタケの仲間らしい胞子が見れました。 地上生のキツネタケと比べるとより正確な球形に近付いており、そこは地下生菌らしいです。


■ 2020年02月22日 撮影

前回はフロキシンで染色した状態でしか観察しなかったので、今回は無染色で担子器を撮影。 2胞子性で一反木綿のようなヒョロヒョロした個性的な形状をしています。 地下生菌に進化した種の担子器は胞子が成熟すると消失するのが普通です。 ですが本種は細く萎れた状態でも完全に消失せずに残ります。 ただこのように綺麗に胞子が付いた状態の担子器は意外と見付かりませんね。


■ 2020年02月22日 撮影

今回しっかり観察したかったのはこの無性基部です。 前回はほ全て脱落してしまったので、今回はその教訓が活きた感じですね。 この部分は「お前本当に元『柄』かよ!」とツッコみたくなるくらいに脆いです。


■ 2020年02月22日 撮影

何でこんなに脆いんだろうと気になって無性基部の組織を顕微鏡観察してみました。 なるほど、これだけ繊維状ではないなら脆いでしょうね。 グレバ内部を走る髄のような組織は綺麗な繊維状なんですが・・・。


■ 2020年02月22日 撮影

もう1つ顕微鏡観察したかったことがあります。それは菌糸のクランプです。 クランプとは菌糸を形成する細胞同士の境界部にある膨らみのような構造です。 本種にはクランプがあることは知っていましたが、今回やっと確認できましたね。

■ 2020年02月22日 撮影

ガガンボ氏が発見した子実体を見てビックリ!何と菌糸が目視できます。 今まで見たどの子実体でもここまで明確な菌糸は確認できなかったので驚きです。


■ 2020年02月22日 撮影

拡大するとこんな感じで地表付近を這い回り、子実体に繋がっています。 ハラタケ型の地下生菌は1本の太い菌糸束を持つ種が多いので、 このような菌糸の広がりはこれまた新鮮。 やはり本種はまだ地上生だった頃の特徴を捨て切れていない感がプンプンしますね。 逆に臭気は全然無いあたりも。
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