★Hydnocystis japonica (ウツロイモタケ)

■ 2015年10月18日 撮影

コレラタケとドクササコ捜索中に出会った謎の子嚢菌類。それが最初の出会い。 晩秋にスギ林の堆積物の少ない地表に埋もれるように発生するのが特徴です。 和名は「ウツロ」の漢字が分かりませんでしたが、「虚芋茸」で良さそうです。 別種(Gyrocratera ploetteniana)に吉見昭一氏が同じ仮称付けているので注意。 一応現在はこの和名は本種のものとして良さそうです。 いわゆる地下生菌と呼ばれる一群であり、その中でも特殊な立ち位置に居ます。

実はほとんどの発見報告が和歌山県。後は一部地域での発見報告がチラホラ。 なのでこの発見は意外と言うか、かなり貴重だったのかも知れません。 ただ発生環境が特殊なので、単純に発見されてないだけの可能性もあります。 全国的に発見例が非常に少ない珍しいキノコなので、是非探してみて下さい。


■ 2015年10月18日 撮影

子実体は不規則な塊状で色は淡黄色〜橙黄色。一部粉を噴いたように白っぽくなります。 ただ実は本種、形状に2つのパターンが存在するのが面白いのです。


■ 2015年10月18日 撮影

裏返してみました。地面に埋まっているだけで触るとコロンと取れます。 意外な事に太い菌糸が存在せず、何に付いているのかが分かりません。


■ 2015年10月18日 撮影

しかしここでルーペを使って観察してみると表面にクモの巣状の菌糸が! 風で吹き飛んでしまうような綿毛状。子嚢菌類らしくない地下部ですね。 また特徴的なのが臭い。干し魚のような薬品臭?表現できません。 割って手に持ってるだけで香って来ましたね。でもこれかなり重要な特徴。

本種はその形状から、地上生と地下生の中間段階と考えられています。 チャワンタケ型からトリュフ型へ移行する途中のあいまいな形状。 穴が空いている個体を見るとチャワンタケの名残が感じられますね。 香りの強さはやはり同じ地下生のトリュフ同様に動物を集めるためでしょうか。 形状に地上生の名残を残しつつ、地下生菌の性質も獲得している、そんな珍種なのです。

何とも不快な臭いを発しており、食毒不明〜食用価値無しでしょうねぇ。 発見例が非常に少ないので、もし見付けたら標本採取してしっかり観察し、必要に応じて標本提供すべき?

■ 2015年10月18日 撮影

スギの間伐材に埋もれるように小型の子実体を発見。でも何か雰囲気が違う?


■ 2015年10月18日 撮影

まるでチャワンタケ型の子実体みたい・・・同種とは思えない形状の違い。 そう、本種なんと穴が空いている個体と空いていない個体があるんです。 同一種でも成長具合で差がでるのは当たり前ですが、この差は大きすぎる!

■ 2013年10月17日 撮影

昨年初めて見付けた時の一枚。まるで口みたいでカワイイ♪・・・ん?

■ 2013年10月17日 撮影

さて質問。この子嚢菌類の子実層面は外側?内側?分かりますか? 答えは当然「内側」。でもキノコに詳しい方なら違和感を覚えるはず。 上で紹介した写真に写っていた穴の内側、何か変じゃなかったですか?


■ 2013年10月17日 撮影

半分に割ってみました。持ってみると軽いのですが、内部は空洞(虚)。 最初はクルミタケだと思っていたので、詰まってないことが意外でしたね。 さて、ここで断面をよ〜く見て下さい。何か構造がヘンじゃないですか? そう、子実層面が白い菌糸が覆われているのです。 子嚢菌類の子実層面は大抵透明感があり、表面に子嚢が並ぶハズですが・・・?

■ 2015年10月18日 撮影

更に驚いたのはこの部分を顕微鏡で見た時です。見慣れない光景がそこに。 この当時は顕微鏡観察の機材も環境も初心者丸出しでしたが、それでも異質さはしっかり伝わりました。 何と子嚢が白い菌糸に埋もれているです。なんじゃこりゃ?


■ 2015年10月18日 撮影

何よりも驚いたのが胞子が異様に大きいこと。 その胞子の大きさ、何とルーペを使えば肉眼でも球形を認識できるレベル。 これはもう空気による飛散を考慮に入れずに進化したとしか思えません。 やはり地下生菌へと進化している途中だと思える特徴だと感じました。

■ 2015年10月18日 撮影

コチラは穴の無い個体。割合的には穴あり7に対して穴無し3って感じです。 それにしても和名の「芋茸」に超納得。どう見てもジャガイモです本当に(ry。 地下に潜るために口を内側に折り畳もうとしてるのが伝わって来ます。 アミガサタケの仲間が外側に沿って表面積を広げようとしたのと逆ですね。

■ 2015年11月21日 撮影

1ヶ月ほど経ちました。ドクササコは見付からないので腹いせに見に来ました。 変わってません。まさかまだあるとは・・・発生期間はかなり長いみたいです。


■ 2015年11月21日 撮影

この子実体を見ると椀形の子実体が折り畳まれる途中なのが分かります。 しかし太い菌糸が全然無いってのもホントに不思議な特徴ですよねぇ・・・。 腐生菌だとしても普通はハッキリとした菌糸の広がりが分かるんですけど。

■ 2019年10月19日 撮影

実に4年振りの発見となりました。何と2015年以降、毎年欠かさず訪れて全スカしていました。 正直絶えちゃったんじゃないか、とさえ思っていた矢先の再会でした。


■ 2019年10月19日 撮影

2015年の発見以降、私自身に大きな変化がありました。 何と言っても「地下生菌」と言うジャンルに注力し始めたことが一番大きいです。 その頃はまだ本種が地下生菌であると言う感覚も薄かったので。

そしてもう1つの変化が、顕微鏡観察のレベルが上がったことです。 gajin氏に譲って頂いた顕微鏡と私自身の経験で、質の良い観察ができるようになりました。 となれば本種の特殊なミクロの構造が見たいと言うのものです。 しかしそう思った頃に出会えなくなってしまい、毎年悶々としていました。 今回は1個体しか発見できず、子実体の破片を採取するに留めましたが、顕微鏡観察的には十分!


■ 2019年10月19日 撮影

子実体は相変わらずの黄色で白い菌糸がモヤのようにかかっています。 これは口が開いているパターン。時期的に艦これイベントの報酬艦であるJanusの口に似てますね。


■ 2019年10月19日 撮影

念願のウツロイモタケの顕微鏡観察リベンジ成功です! まずは子実体を真っ縦に切って子実体の断面をしっかりと低倍率撮影です。 子実層は子嚢盤全体の厚みの3分の1くらいで、その下層も更に2層に分かれているように見えます。 細胞は外側ほど細かく、カミソリの刃が入りづらいほど強靭です。 明らかにチャワンタケの肉質ではありません。


■ 2019年10月19日 撮影

子実層を観察してみました。驚くべきはその胞子の大きさと子実層表面の構造です。 子嚢胞子は異常に大きく、ルーペを使用すれば低倍率でも肉眼で球形なのが視認できます。 そして見ての通り子実層面が菌糸に覆われていて子嚢が露出していません。 これでは子嚢胞子は重いわ噴出できないわで空中散布はできません。


■ 2019年10月19日 撮影

少し倍率を上げてみました。子嚢内部の胞子が良く分かります。


■ 2019年10月19日 撮影

子嚢を単体で観察してみました。 子嚢胞子の数は8個で、そこら辺は典型的な子嚢菌類って感じがします。 ただ子嚢の形状が不規則と言うか、縦長は縦長ですが不安になる形状をしています。 何か子嚢胞子を無理やり詰め込んだような状態。


■ 2019年10月19日 撮影

側糸は糸状ですが、細部までは見えませんでした。 一応子嚢より長くて分岐はしていない、と言った感じでしょうか?合ってる?


■ 2019年10月19日 撮影

子嚢を並べてみました。大きさはまちまちで、子嚢胞子の数もまちまちです。 一応8個の子嚢胞子を含み、太く長い、基部が極端に細いと言うのが基本形のようですね。 セイヨウショウロ属などに比べると幾分まだチャワンタケ系の子嚢胞子に近いようです。


■ 2019年10月19日 撮影

あまりにもキレイなので子嚢内部の子嚢胞子を撮影。芸術的です。


■ 2019年10月19日 撮影

これが見たかった!未熟から成熟まで、これが本種の巨大で球形の子嚢胞子です! 直径は大きいものでは驚異の31μm。 これはもう明らかに空中散布を前提したサイズではありません。 しかし地下生菌の多くが持つ表面構造は持たず、イマイチ地下生菌になり切れていない感は否めません。

これに関連して、本種の観察中、部屋が強烈な悪臭に包まれました。 本種の肉には硫黄とも腐臭とも干し魚とも形容し難い、それが全て混ざったような臭気があります。 内容的に虫を寄せるタイプのニオイのように感じます。 このように本種の生態は何もかもが中途半端。本当に「進化の途中」と言う表現がしっくり来ます。


■ 2019年10月19日 撮影

以前から気になっていた本種の表面に広がる謎のクモの巣状菌糸。 基本的に地面側に伸びていることが多く、側面の破片のみを持ち帰ったので採れているか心配でしたが、 無事に顕微鏡観察することができました。


■ 2019年10月19日 撮影

まずは最外皮を観察してみました。すると結構な頻度で特徴的な組織が観察できました。 明らかに周囲の細胞とは異なる根のような構造。もしかして菌糸の伸び始め


■ 2019年10月19日 撮影

クモの巣状の菌糸を高倍率で観察してみました。 太さは4μm、65μmごとに隔壁が存在します。 「菌糸束」と呼ぶにはあまりにもひ弱で「菌糸」としか呼べないようなシロモノです。


■ 2019年10月19日 撮影

メルツァー試薬での染色の結果は何気に予想通りではありました。


■ 2019年10月19日 撮影

メルツァー試薬での染色では子嚢は青く染まらず、非アミロイドであることが判明。 と同時に子嚢そのものではなく子嚢内部の未熟な内容物が赤く染まる現象が観察できました。 これ実は以前、子嚢菌類の地下生菌を見た時にも同じような染まり方を経験しています。 まぁ他人の空似なんでしょうけど、ちょっと興味深いです。 とこれでやっとしっかりとした顕微鏡観察ができました。嬉しかったですね。

■ 2019年11月02日 撮影

どろんこ氏をお招きしてのウツロオフ。狙いは実質本種一本狙いでした。 長時間探したけど一向に見付からず、諦めかけていた時に発見しました! 正直出ない可能性も大いにあったので、メチャクチャ興奮してメチャクチャ安心しましたね。


■ 2019年11月02日 撮影

何かアトモスみたいに縦に口を開けた変な形状の子実体でした。


■ 2019年11月02日 撮影

前回見たものと同様に口を開けているタイプの子実体でした。 外側の白いモヤのような菌糸もハッキリ。やはり口の無い子実体は地味に珍しいのかも知れません。 と言うか口が無いと言うより、あったけど癒着したってだけなのかな?


■ 2019年11月02日 撮影

今回は地味に目立たない本種の菌糸も綺麗に撮影することができました。 これで地面に貼り付いています。細く見えますが意外としっかりしているものもあります。 所々からまばらに伸びている感じで、菌根菌のそれには見えないかな?やっぱ腐生?
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