★Hypocrea sp. (ウスキヒメヤドリバエタケ)

■ 2017年07月22日 撮影

岡山遠征最大の収穫。ずっと見てみたいと思っていた憧れの冬虫夏草です。 沢沿いの湿り気のある斜面などに居るミズアブ科の幼虫を宿主とします。 冬虫夏草としては極めて特殊な性質を持つレア種「薄黄姫宿蝿茸」です。 分類的な意味で異端児であり、ずっと顕微鏡観察したいと思っていました。 極めて小さな種ですが、子実体が白いので慣れれば発見は比較的容易。 ただし発生環境を見るにやや涼しい高地などを好む傾向があるように感じます。

まず最初に書かねばならないのは、本種が何とボタンタケ属だと言うこと。 あの朽木などから出ているボタンタケの仲間なんです。これ実は凄い事。 本種はCordyceps属および関連属とは縁遠いのに虫に感染するのです。 つまり冬虫夏草じゃないハズの冬虫夏草なんです。完全なイレギュラー。 我が国ではこのような種は本種とハスノミウジムシタケくらいしか居ません。 ただこの分類もまだ検討中で仮置き。今後変わる可能性を孕んでいます。

ちなみにアナモルフはマユダマヤドリバエタケでほぼ間違い無い模様。


■ 2017年07月22日 撮影

宿主のミズアブの蛆から冬虫夏草らしい白色の子実体が発生しています。 結実部の色から「薄黄」と命名されていますが、若い頃はこのように白色。


■ 2017年07月22日 撮影

帰宅後にクリーニングして拡大。ちなみにミズアブの蛆の長さは5mmです。 そう、本種は図鑑の写真では実感が湧きませんが超絶小型の冬虫夏草。 子実体は結実部が長いタンポ型で柄を持ち、全体に白色〜淡黄色。 一つの宿主から複数本吹き出すように出るため小型でも迫力があります。 同属とされるハスノミウジムシタケと比べると全体的に色白で、柄が伸びるのが特徴ですね。


■ 2017年07月22日 撮影

結実部を拡大。子嚢殻はほぼ球形黄色を帯びるのが和名の由来。 確かに冬虫夏草の子嚢殻にしては突出が少なく、雰囲気が随分違います。 また虫草に感染したワリには宿主が硬い事も個人的に気になりました。 ちなみに子嚢胞子観察が最大の目的でしたが、これは失敗。 正確には見れていたのですが顕微鏡の性能が全く追いついていませんでした。

食毒不明ですが、目に入れてもちょっと痛い程度の小ささでお察しですが。

■ 2017年07月22日 撮影

別個体です。子実体がキレイに並んでいて何だか可笑しくなってきます。


■ 2017年07月22日 撮影

拡大してみると子嚢殻も確認できます。マクロレンズが無いとムリですねコレ。 図鑑には白色に近いタイプも載っていますが、これは単に未熟なだけかな? このような白い子実体も追培養をすると少しずつ黄色みを帯びてきます。

■ 2018年07月16日 撮影

ガガンボさん主催の岡山虫草観察オフにて再会。地元では見ないんだよなぁ。 でもこの出会いは嬉しかったです。何たって今回は新しい顕微鏡があるんですから。 本種の胞子こそ冬虫夏草やってるなら見ておきたいですからね。


■ 2018年07月16日 撮影

適度に成熟していそうな宿主を選び採取させて頂きました。 やはり冬虫夏草としては異質な感じがこの外見からも漂っていますね。


■ 2018年07月17日 撮影

まずは切片を切り出して子嚢殻を観察してみました。 図説で知ってはいましたが、子嚢殻が球形なんですよね。 尖った子嚢殻を見慣れていると、この見た目は非常に新鮮です。


■ 2018年07月17日 撮影

少し力を加えて切片を押しつぶしてみました。 内部の組織が吹き出してきましたが、すでに特徴的な子嚢胞子のシルエットが・・・。


■ 2018年07月17日 撮影

観察しづらいので子嚢を切り出してみました。子嚢の長さは約90μmほどで円柱形。 冬虫夏草に詳しい方であればこの写真を見て違和感に気付くかと思われます。 そう、先端部に肥厚部が無いのです。 CordycepsでもOphiocordycepsでもTorrubiellaでも、いわゆる冬虫夏草と呼ばれる菌類の子嚢には存在する共通の構造です。 それが無いという時点で明らかに冬虫夏草からはかけ離れた存在であることがうかがえます。 植物の種子を宿主とするくせに子嚢に肥厚部を持つサンチュウムシタケモドキとは対照的な存在と言えますね。


■ 2018年07月17日 撮影

過去に一応確認はできていたのですが、顕微鏡の性能が低く綺麗な像を捉えていませんでした。 これぞウスキヒメヤドリバエタケの子嚢胞子!明らかに変なのが分かりますね。


■ 2018年07月17日 撮影

油浸対物レンズで拡大してみました。 冬虫夏草の子嚢胞子は長さや太さ、隔壁の数、二次胞子への分裂の有無など違いはありますが、基本的に糸状です。 ですが本種の子嚢胞子は子嚢内部に一直線に8つ入っており、一つ一つは真ん中に隔壁を1つ持った2胞子性です。 これが2つの二次胞子に分裂するのです。二次胞子は円錐形。 このような子嚢胞子を持つ冬虫夏草は国内では本種とハスノミウジムシタケくらいです。 確かにHypocreaに似ていますが、この属の子嚢胞子は2胞子性にならないので、あくまで現状仮置きなのでしょう。

★Hypocrea sp. (マユダマヤドリバエタケ)

■ 2017年07月22日 撮影

異例のダブル掲載はのっぴきならない理由から。同じく岡山遠征の成果です。 ミズアブ科の幼虫(蛆)から発生する無性世代の冬虫夏草「繭玉宿蝿茸」です。 確かにこの2種は比較的頻繁に混生し、時に同一宿主から同時に発生します。 ちなみに同居している変形菌はムラサキホコリの仲間、コムラサキホコリか?

現状ウスキヒメヤドリバエタケのアナモルフでほぼ間違い無いみたいです。 今現在は子実体の性質からPolycephalomyces型に仮置きされています。 ですが本種のテレオモルフがHypocreaかと問われると正直う〜んと言う感じ。 なので今後の分類検討で大きな変化があるかも知れない種でもあります。


■ 2017年07月22日 撮影

黒バック撮影は5mmの宿主を針に刺しての精密作業、超大変でしたよ。 宿主から無数の分生子柄を伸ばし、先端に球状の結実部を作ります。 柄の表面は菌糸状。結実部が湿時粘性を持つ点が重要だったりします。 何故ならマユダマタケと同様にPolycephalomyces属の特徴だからです。 ただそうなるとアナモルフとテレオモルフの関係性がサッパリになります。 そのため掲載しようが無く、このような特殊な掲載方法になっています。

ウスキヒメヤドリバエタケ同様に食毒不明です。小さくて食えませんが。
正直本種は存在自体が珍しいので、見付けたら大切に扱って下さいね。

■ 2018年07月16日 撮影

ガガンボさん主催の岡山虫草観察オフにてテレオモルフと一緒に再会です。 今回は子嚢胞子を見るのが最大の目的でしたが、分生子もあまり良い写真がありません。 ちょうどテレオモルフと同時に出ているっぽいのを発見したので持ち帰りました。


■ 2018年07月17日 撮影

まずは低倍率で観察。楕円形なのは分かります。 不思議と複数の分生子が集まっていることが多かったですが、これは粘性によるものでしょうか。


■ 2018年07月17日 撮影

油浸対物レンズで観察してみました。分生子は綺麗な楕円球形で形状だけなら外見の似たマユダマタケに似ています。 しかし決定的な違いはそのサイズ。マユダマタケの分生子は長さが3μm程度であるのに対し、本種はその倍の6μmもあります。 また内包物が多く見られるのも他のアナモルフ菌類の分生子とは一線を画しています。
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