■Hypomyces rosellus (ヒポミケス ロゼルス)

■ 2023年07月08日 撮影

青fungi氏と共にしんや氏のフィールドを案内していただいた時のこと。 冬虫夏草を探して高湿度の沢筋を歩いていた時に低木の幹に不自然な色を発見。 それがずっと探し求めていた種だと気付いた時は自然と叫び声を上げていました。 硬質菌に感染する菌寄生菌のヒポミケス属菌で、和名はまだありません。 種小名の「rosellus」は響きからも一目瞭然の「薔薇色の」と言う意味です。

海外では多く見付かっていますが、日本国内での発見例は多くありません。 それはネット検索でほとんどヒットしないことからも推察できます。 以前菌類研究者の方がWANTEDで本種のサンプルを探しておられたことも。 私は本種を「最も美しいタケリタケ」と勝手に呼んでいます。


■ 2023年07月08日 撮影

かなり暗い沢筋だったのでライト片手の探索でしたが、 樹のオーバーハングした部分に冬虫夏草が居ないか探していたのが功を奏しました。 子実体は幹に貼り付いており、恐らく背着生の硬質菌に感染しているようです。 子実体は見事なまでの薔薇色で、異彩を放っていました。


■ 2023年07月08日 撮影

材の一部を削って持ち帰りました。質感的にやはりこの部位は枯死していたようです。 黒バック撮影が映える色合いですね。


■ 2023年07月08日 撮影

菌糸マット(スービクル)がまず広がるのは他のヒポミケス属菌と同じですね。 ただ特徴的なのはその色で、見事なまでの淡い薔薇色です。 寄生菌なので容易に培地での培養ができるのですが、その際も菌糸がこの色に染まるそうです。 子嚢殻はスービクルよりも濃い薔薇色で宝石のような美しさですね。


■ 2023年07月08日 撮影

まずは子嚢殻を切り出して顕微鏡観察してみました。 顕微鏡を通すと色は薄く見えてしまいますが、それを感じさせない鮮やかさです。


■ 2023年07月08日 撮影

子嚢殻は本属菌らしい球形で先端が尖る見覚えのある形状。 子嚢殻自体は黄色っぽいようで、先端部とその周囲の菌糸が薔薇色みたいですね。


■ 2023年07月08日 撮影

菌糸のみを切り出してみました。そりゃ菌糸自体がこの色なら綺麗に見えるワケですわ。 他のヒポミケス属菌ではそこまで見ようとは思いませんが、本種は別ですね。


■ 2023年07月08日 撮影

子嚢も綺麗に切り出すことができました。内部には8個の胞子が1直線に並びます。 あれだけ鮮やかな菌糸ですが、子嚢殻内部の組織は全くの無色なんですね。 確かに色素を持っているのは側糸であることが多いので、側糸が無いならこうなりますか。


■ 2023年07月08日 撮影

子嚢胞子も無事撮影できました。2細胞が連なっているため中央部に隔壁が見えます。 また両端に突起が存在し、表面は背の低いいぼに覆われる「ザ・ヒポミケス」って感じ。 両端の突起は成熟度合いで長さが異なるようです。

菌寄生菌であり、本体のキノコを覆っているのが本種です。 薄い層みたいなものであり、ぶっちゃけカビたキノコなので食不適です。 本種そのものも食毒不明であり、ヒポミケス属菌は感染元のキノコの食毒も影響するので、 基本的に食べると言う考えを抱くべきではありません。


■ 2023年07月08日 撮影

食用にはなりませんが、そんなのどうでも良いくらいには美しいキノコです。 何かしら有用な成分を生成する可能性があるようで、一時期サンプルを募集されていましたね。 その後の経緯は知りませんが、発見例が少ないみたいなので研究が進んだのか気になります。
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