■Laccaria laccata (キツネタケ)

■ 2019年10月27日 撮影

何気に2019年になって初めてこのサイトに掲載となりました。その理由は後述します。 夏から秋にかけて場所を選ばず各種林内地上に発生する「狐茸」です。 鉢植えからも発生したりするようで、この場所もコンクリの上の薄い土の層から発生していました。 分布はほぼ世界中に及ぶ非常にありふれた種ですが、実はちょっとした罠があります。 ちなみに種小名は「ラックカイガラムシ(lac insect)」から採取される樹脂「シュラック」のことみたいです。 これ属名も由来は一緒かな?

普通種なのになぜ掲載していなかったかと言うと、同定できなかったからです。 んなもん見りゃ分かるだろとお思いかも知れませんが本種には外見的に極めて似たキツネタケモドキが存在します。 区別するには担子器の顕微鏡観察がほぼ必須であり、今までの我が家の環境では不可能だったのです。 断言できない以上、載せるに載せられなかったのですよ。 なので本種らしき種をキツネタケだと外見だけで言い切ってしまうのは良くないかも?


■ 2019年10月27日 撮影

子実体は比較的小型で全体的に狐色〜肉桂色。これが和名の由来ですね。 ちなみに樹脂のシュラックも同じ色をしています。 傘表面には微細な鱗片がありますが、成長段階によって差があります。 特徴的なのは傘の周辺の条線で、この雰囲気でキツネタケだなぁと感じる人も多いのでは?


■ 2019年10月27日 撮影

本種の子実体は吸水性が高いので、乾燥するとこのように「」が入って白くなります。 肉質もかなり脆く、無理に引き抜こうと指でつまむと子実体がボロっと崩れてしまうことも。


■ 2019年10月27日 撮影

本属菌はひだに厚みがあるのも特徴ですね。また本種のひだは特徴的な肉色です。 本種の胞子紋は白色なので、これは胞子の色と言うワケではなく肉そのものがこの色です。 肉自体に透明感があるため全体的に穏やかな質感で、柄が中空なのが透けて見えます。


■ 2019年10月29日 撮影

と言うことで念願の顕微鏡観察です。ひだを観察するぞ!


■ 2019年10月29日 撮影

とは言え何だかんだで子嚢菌類の観察ばっかやってるのでハラタケ型は苦手だー! 全然薄く切ることができませんね。これは修練が足りん。


■ 2019年10月29日 撮影

先端部を見てみましたが、シスチジアとか良く分からないなぁ。 やはりピスと実体顕微鏡を導入しないと薄い切片を作るのは難しいかなぁ。あと試薬。 でも一応棍棒形の縁シスチジアらしきものは写ってるかな?


■ 2019年10月29日 撮影

でも目的のモノは見れましたよ。4胞子性の担子器が至るところに! これぞ本種がキツネタケである証!外見の似たキツネタケモドキは2胞子性である点で決定的に異なります。 逆にコレを観察できないとキツネタケ率60%って感じでしょうか。 一応外見的にも多少違いがある気はしますので。


■ 2019年10月29日 撮影

油浸対物レンズで観察しても確かに4胞子性で間違いないそうです。 ちなみにキツネタケは基本が4胞子性で一定量の1〜2胞子性が混ざるとされています。 自分が観察したトコロ3胞子性も見られたので、4胞子以下って感じのようですね。 またモドキは基本が2胞子性で、1胞子と3胞子が混ざるとされています。 3胞子性が重複していますが、モドキは4胞子性にならない点で区別できると思います。


■ 2019年10月29日 撮影

担子胞子を通常ピントで撮影。胞子は球形ですが輪郭が妙ですね。


■ 2019年10月29日 撮影

ピントを手前に合わせると表面がトゲに覆われていることが確認できます。 本属菌はこのように球形でトゲで覆われた胞子を持つ種が多いです。 そう言えばキツネタケはヒドナンギウム科に属していますが、ユーカリの地下生菌である 「Hydnangium carneum (ヒドナンギウム カルネウム)」も同様の胞子を持ってたりします。進化って面白い!


■ 2019年10月29日 撮影

見えないものを見ようとしてフロキシンで染めてみましたが、やっぱ見えませんでした。 担子菌類の顕微鏡観察は今後の課題ですね。 今回はまだ担子器で判別できる種で良かったかも知れません。

比較的小型で脆いキノコですが、無毒であり可食です。 1ヶ所に大量に発生するため収量が見込める上に、味もそんなに悪くないどころか良い部類に入ります。 和食洋食どれにも合うようですが、サイズ的に使い方は考えたほうが良いかも知れません。 そう言えばキツネタケの仲間で毒キノコって聞かない気がしますね。


■ 2019年10月27日 撮影

と言うことでやっと本種を掲載できました。 本種は一般的だからって油断できない代表かも知れません。 判別に顕微鏡観察が必要なほど似た種が存在するのはシトネタケ系と同じでじみに厄介ですね。
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