■Lactarius camphoratus (ニセヒメチチタケ)

■ 2008年04月25日 撮影

春の雑木林を散策中に見付けた小さな小さなベニタケ科のキノコの大群生。 斜面20mほどに渡っていたる所から顔を出していました。時期的に異様な光景でしたね。 全体的に赤みが強く、表面がやや粉っぽいです。図鑑によっては載っていません。 漢字で書くと「偽姫乳茸」。何が「ニセ」なのかは分かりませんが確かに「ヒメ」ではあります。 ちなみに種小名は「樟脳(しょうのう)の」の意味。香りに由来するっぽいですね。

ブナ科樹木に菌根を形成するようです。 夏や秋にも発生するのですが、特徴的なのはまだ寒さの残る春にも発生が見られる点です。 オオセミタケが出る頃に雑木林で小さな赤いチチタケを見たなら、まぁまず本種でしょう。


■ 2008年04月25日 撮影

傘の直径は大きくても3〜4cmほどと小さく、色は赤褐色。 とにかく一目見て「赤い」と感じるくらいには赤みが強いです。 また表面に放射状のしわが寄っており、個体差もありますが中央に突起があったりします。 このしわは多湿環境で吸水するとピンと張り詰めて目立たなくなります。


■ 2008年04月25日 撮影

裏側です。ひだは肉色を帯び、傷付けると勢い良く白い乳液が出ます。 全体的な雰囲気で何となく分かりはしますが、ここでチチタケ属と分かります。 ただチチタケと比べると、乳液にやや透明感がある気がしますが・・・。 あと本種は乾燥させるとカレーのような香りを発することが知られています。

チチタケ属に多い辛味も無く齧っても不快な印象は受けませんが一応食毒不明。 恐らく無毒でしょうが、何せサイズが小さいモンですから喰い甲斐の無いこと無いこと。 一部を除きベニタケ科キノコはぼそぼそしててマズですからね。

■ 2008年04月25日 撮影

別の個体です。苔のサイズと比較すれば、その小ささが良く分かるかと思います。 傘の表面はやや凸凹した感じ。個体によっては条線が見える物もあります。 本種は傘の中央部のくぼみの中に小さい隆起があるそうですが・・・見えないっすね。

■ 2008年04月25日 撮影

ボッキリ折れた写真がありました。柄の内部は中空です。

■ 2015年07月11日 撮影

いつも春に見かけるので違和感がありましたが、そう言えば夏も出ますね。 本種はたまに岩の上などのほとんど土が無い場所にまで駆け上って来ます。 この場所もすぐ下が岩盤なので、地表を覆う薄い土の中に菌糸が居る模様。

■ 2015年04月23日 撮影

多分「チチタケの仲間では最も早い時期に出現する」と言っても良いハズ。 他のハラタケ型の菌根菌が全然無い時期でもコイツだけは何度も出会います。 しかも当たり年なのか、ビックリするほどゴツくて大型の子実体を多数発見! 所々に見える赤っぽい粒々がマルトビムシの1種。お食事中みたいです。

■ 2015年04月23日 撮影

本種は不思議と、と言うか高確率でマツの材周辺に良く出ています。 と言うか中にはマツの材上に出ているモノも。アナタ菌根菌・・・ですよね?

■ 2015年04月23日 撮影

今年は本種の当たり年のようで、マツ材周辺に大群生を幾つも見ました。


■ 2015年04月23日 撮影

傘拡大です。雨の後で水分を多く含み、傘表面のシワや粉っぽさがダウン。 でも中央部を見ると何となくですがシワが残っているのが分かりますね。

■ 2019年10月20日 撮影

青fungi氏とのブナ林帯キノコオフにて遭遇。そう言えば秋遅くに出会ったのは初めてかな? 自分の中では本種は春に出るキノコのイメージだったのでちょっとビックリしました。 傘の色が明るくて別種かとも思いましたが、最終的に本種で落ち着きました。


■ 2019年10月20日 撮影

本種がブナ科樹木が好きだと言うのが良く分かる一枚。 撮影時には気が付きませんでしたが、右端に盤菌が写り込んでいます。 コレ実はドングリキンカクキン。そう、ここはミズナラの樹下なんです。


■ 2019年10月20日 撮影

元々土壌の水分量が多い環境なので子実体がみずみずしいです。 傘にシワが無く明るい色合いなのも本種が水分量MAXなのが理由なのでしょう。 そんな状態なので染み出す乳液の量も多いですね。

■ 2021年04月18日 撮影

久し振りに食虫植物が見たいなと思い、地元の湿地を訪れた際に発見。 イトヒキミジンアリタケに浮かれていたら、またしてもマツの倒木の上に出ていました。 やっぱ材を駆け上がる性質がある気がしてなりませんね。


■ 2021年04月18日 撮影

生育環境が良かったのか実に素直に傘が成長したようで、傷みも変形も無い綺麗な形状でした。 真上から見ても影の出来方で傘中央の突出が分かります。 幼菌時に見られる傘表面の産毛のようなものは傘全体に散らばりますが、 多くは傘周囲に残るので縁取りのようになります。


■ 2021年04月18日 撮影

状態が良いなとは思いましたが、それが乳液の量でも分かりました。 カッターナイフで切った瞬間に溢れ出す白色の乳液。 この写真の状態で1度滴り落ちた後だと言うから驚きです。 シャッターを切るたびに液滴が大きくなってました。


■ 2021年04月18日 撮影

そう言えば顕微鏡観察してないなと思い採取することに。


■ 2021年04月18日 撮影

担子器は4胞子性かな?シスチジアはあまり目立たない感じです。 ただ1つ上の写真で見える先端がキュッと補足飛び出しているのがシスチジアのようです。 と言うかアレで染めなくても胞子表面の網目が見えてるんですね。


■ 2021年04月18日 撮影

担子胞子は球形で小さな疣と不規則な網目に覆われています。 ただこれは普通に顕微鏡観察しただけでは分かりにくいです。 まぁベニタケ科となれば使う試薬はアレですね。


■ 2021年04月18日 撮影

てことでメルツァー試薬で染色するとアミロイド反応で網目が青色に染まりました。 これはベニタケ科共通の特徴で、起源が同じ地下生菌などにも残っている性質です。 本種は中々に染まりが良くて、転がる胞子は立体感まで分かり、楽しい顕微鏡観察でした。
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