★Leotia rutilans (アカズキンタケ)

■ 2020年07月18日 撮影

毎年訪れている馴染みの自然公園。ミドリガンタケとされるAmanitaを発見してしゃがんだ時に目に入りました。 以前から存在自体は知っていたのですが、実際に目にしたのは初めて。 各種林内地上に発生するかなり珍しいズキンタケ属菌の「赤頭巾茸」です。 同属の他種と比べて圧倒的に発見報告が少なく、イボカサとソライロの関係みたいな感じでしょうか? ちなみに生えていたのは公園のベンチ脇。意外すぎて探さない場所ですね。

初発見者はあの南方熊楠氏、そして記載者は数多くの種を記載した今井三子氏と言う由緒正しい?種。 某子嚢菌類のサイト様で見ていたので知ってはいましたが、そのレア度は検索して知りました。 何とWeb上に写真すら無いのです。学名で検索しても和名で検索してもマジでヒットしません。 このネットが発達した時代に発見報告すら無いとは・・・。


■ 2020年07月18日 撮影

色こそ変ではありますが、形状そのものはまさにズキンタケそのもの。有柄頭状ってヤツですね。 感じ的には他のズキンタケ系列の種と比べて一回り小さい印象。 特筆すべきはその色。子実体全体が暗赤褐色で透明感があります。 肉はキクラゲ型菌のような弾力があり、ぷるぷるしています。


■ 2020年07月18日 撮影

採取したサンプルを黒バック撮影してみました。室内だと光源の関係で赤っぽく写るかな? 形状はこんな感じでやや頭部が扁平な点が少し気になる程度。 柄の表面にササクレのような鱗片があるのも無印のズキンタケに似ています。 見慣れたズキンタケをそのまま色調変更したかのような見た目には凄い違和感があります。


■ 2020年07月18日 撮影

これ完全にコーラのグミだ・・・美味しそう。種小名の「rutilans」は「赤みを帯びた」の意味。 帯びたってレベルじゃないくらい赤いんですけどね。


■ 2020年07月18日 撮影

まずは頭部の切片を作成して低倍率で顕微鏡観察。色素は子実層に集中していますね。 子実層の厚みは平均して150μmほど。そこから内側はまばらな菌糸で満たされています。 似た構造はゼラチン質の子実体を持つ子嚢菌類で見られますね。


■ 2020年07月18日 撮影

子実層面を拡大してみると子嚢と側糸がキレイに並んでいました。 すでに見えていましたが胞子もできているようで一安心。 側糸全体に色素があるようで、これが子実層面の色の正体のようです。 そう言えば何か側糸の先端が変な感じ何だけど気のせいかな?


■ 2020年07月18日 撮影

気のせいじゃなかった!失敗した厚めの切片で観察すると違和感の正体が判明。 本種の側糸は先端部が湾曲してたんですね。表面的に見るとこんな感じで凄く面白いです。 ニセチャワンタケ属など側糸先端の形状に特徴がある種は居ますが、それでも本種のカールっぷりは見事なものです。


■ 2020年07月18日 撮影

子嚢と側糸を切り出してみました。こうして見ると側糸の異様さが良く分かりますね。 側糸は基部で分岐隔壁あり。隔壁は比較的先端付近まで見られ、先端は大きく屈曲します。 側糸がユニークな反面、子嚢はごく普通。8個の子嚢胞子を内包します。


■ 2020年07月18日 撮影

子嚢胞子は長楕円形〜紡錘形でやや片方に反っています。 こんなお菓子ありますよね、ナンタラの種とか言う・・・。 また内部に複数の大型の油球を内包しています。 比較すると分かりやすいのですが、無印ズキンタケと見分けが付かないくらい似ています。


■ 2020年07月18日 撮影

子実層より内部はこのようにゆったりと編まれた菌糸で満たされています。 この菌糸の遊びがゼラチン質のような弾力を生むのです。


■ 2020年07月18日 撮影

メルツァー試薬で染色して油浸対物レンズで子嚢先端を確認していました。 本種も他のズキンタケ系列と同じで非アミロイドなので青く染まっていません。 これくらい観察して記録が残せればとりあえずは上々ですかね?

記載されて以降の情報が少なく、謎だらけのキノコです。当然ですが食毒不明ですね。 一応ズキンタケ自体は食毒不明とは言え食レポが結構残っています。 が、それ自体あまりオススメしませんし、本種に関してはなおさらです。 と言うか体感的に相当珍しいキノコなので、見付けたらしっかり観察を!

■ 2020年07月18日 撮影

個人的に感じたのは子実体が小さいぶん数が多い?ってこと。 本種は今まで見たズキンタケ属菌の中ではかなり小さいようです。 大き目のズキンタケの半分以下だと思って頂ければ大体合ってるかなと。 でもこの赤黒いキノコがこれだけの数出てるのは結構衝撃ですよ。

■ 2020年07月18日 撮影

見ての通り本種が出ているのはかなりの砂利質の地面。 そりゃベンチ脇だから当然ですね。ヒトの手が入った撹乱地が好きだったりするんでしょうか? ただ小ささ的にこのベンチ利用者は腰掛けて地面に意識を集中しないと気付けないかも。


■ 2020年07月18日 撮影

はいこれ本種の発生状態です。とんでもない量出てたんですよね。 そりゃこれ見たら大興奮もするってものです。問題は安定して出るかどうかってコトでしょうね。 これは来年も通って確認しないとダメかも知れません。
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