■Metarhizium owariense (ハヤカワセミタケ)

■ 2020年07月23日 撮影

名前の由来は早川晃氏宅の庭で発見されたから、と言う凄い名前の由来を持つ冬虫夏草。 国内で見られるセミの幼虫生冬虫夏草としては圧倒的なレア度を誇る珍種中の珍種「早川蝉茸」です。 初めての出会いはどろんこ氏が主催を務めたの2016年虫草祭。 そこで初めて成熟した姿を拝む事ができましたが、そのフィールド以外での出会いは当然皆無。 その後もずっと地元で出したいと願い続けていた種なだけに、地元で発見できて感動しました。

外見が良く似た種に同属菌のアマミヤリノホセミタケが存在します。 しかし両種は非常に外見が似ており、ミクロの面でも共通点が多いので検討を要すとされています。 種小名の「owariense」は「尾張の」の意味。早川氏宅が愛知県にあったためかな?


■ 2020年07月11日 撮影

実は発見は6月。別の場所でした。その後さらに別の場所でこの子実体を発見したのが2週間前。 ガヤドリやランノウアカツブなど数多くの実績を持つ沢筋でした。ここ凄いな!


■ 2020年07月11日 撮影

発見段階ではまだ未熟でこのようにオリーブ褐色で結構目立つ色合いです。 メタリジウム属菌の子実体は幼時黄色く、その後どんどん暗緑色に変化するものが多いですね。 成熟してからは発見難易度が跳ね上がるため、先端が目立つ幼菌時に探すのがコツ


■ 2020年07月18日 撮影

1週間毎に定点観察を行い、成長を見守りました。 実はこの場所、近所かつ車を降りて1分でこの場所まで来れるのです。 そりゃ定点観察もしやすいと言うもの。


■ 2020年07月18日 撮影

実はちょっと未熟なこれくらいのほうが見栄えするんですよね、本種。 これ以上成熟すると黒っぽくなってしまうので。まぁマクロで見るなら話は別なんですが。 本種は不思議と子実体が分岐しやすく、ピースサインをしていることが多いです。 むしろ分岐していない子実体を見たことが無いってレベル。


■ 2020年07月23日 撮影

そして初発見から2週間後、無事完熟しました。子実体は暗黄緑色不規則に分岐しています。 前回まで残っていた側方の細い子実体は自然と破壊されたか朽ちてしまったようです。 細い子実体は成熟せずに消滅してしまうのかも知れません。 胞子が飛び切るまで放置予定でしたが、他の菌の感染の兆候が見られたため採取に踏み切りました。


■ 2020年07月23日 撮影

側方の子実体の出方から何となく予想はしていましたが、地下部がとぐろを巻いていました。 平面的な断面を作りたかったんですが開始早々でムリだと判断し、掘り取りに専念。 無事ギロチンせずに宿主に到達できました。宿主はニイニイゼミの幼虫ですね。


■ 2020年07月23日 撮影

帰宅後にクリーニングし、白バック撮影。あっコレ格好良いわ。


■ 2020年07月23日 撮影

全く同じ構図で黒バック撮影もしてみました。やっぱコッチのほうが見栄えは良いかな? 地下部は幼菌と同じオリーブ黄色でやや細根状。 感じ的には直根性と細根状の中間みたいな感じで、肉質がしっかりしていて頑丈です。


■ 2020年07月23日 撮影

結実部はこんな感じで何とも重厚感がある感じ。あまり冬虫夏草らしくない見た目です。 何となくクロサイワイタケ属を彷彿とさせます。


■ 2020年07月23日 撮影

しかし本種の表面を拡大するとその違いは歴然です。子嚢殻のでき方に何か違和感がありませんか? そう、本種の子嚢殻は斜め上向きに形成されるのです。 そのため子嚢殻の先端が外側を向かずに斜め上を向き、ササクレ立ったようになります。 これは斜埋生型と呼ばれる子嚢殻のでき方で、メタリジウム属菌に多く見られる特徴でもあります。


■ 2020年07月23日 撮影

そしてこれが個人的に本種の一番の魅力だと思っている特徴です。 本種の子嚢殻は極めて高い透明度を誇ります。 子嚢殻の大半は子実体に埋もれていますが、突出した子嚢殻先端部は脅威の透明感を持ちます。 それはまるで無数に生えるクリスタル!ここまで高い透明度の子嚢殻を持つ種は多くありません。


■ 2020年07月23日 撮影

宿主はニイニイゼミの幼虫。小型のセミなので子実体もあまり大型にはなりません。 ですが稀に大型のセミにも感染し、その場合は大きな子実体を形成することがあります。 また本種は宿主表面を菌糸が覆わないのもポイント。

食毒も薬効も不明ですが、ガチで貴重な冬虫夏草なので採取も極力控えたいレベル。 私自身、今回の観察で十分記録は取れたので提供目的以外での採取はすまいと誓ったレベル。 コレクション?とんでもないです。見れるだけでも幸せな冬虫夏草なんです。


■ 2020年07月23日 撮影

TOP写真と迷った一枚。良い雰囲気です。これだけ見てるとただの木の根ですけどね。 このフィールドではこれとは別に2個体見付かっているので、胞子散布は彼らに任せましょう。 とても優秀なフィールドなので大事にしたいですね。

■ 2016年07月31日 撮影

2016年虫草祭にて初めて成熟個体に出会えました。 どろんこ氏のフィールドですが、今回は採取許可も頂いていたので採取してしっかりと観察できました。 ただこの頃は十分な性能の顕微鏡を持っておらず、胞子観察できなかったんですよね・・・。


■ 2016年07月03日 撮影

コレ実はほぼ1ヶ月前に撮影した同個体です。 自然と胞子が飛ぶことを祈り放置したのですが・・・まさか虫草祭まで残っているとは! この段階では未熟で、許可は頂いてましたが採取はせず。 もし虫草祭まで残っていたら採取しようと思っていました。


■ 2016年07月31日 撮影

掘り出してみましたが・・・土の粒子が細かくて綺麗に断面ができません。 本種はどうもネチャっとした土で、かつ沢に近い場所で多く見付かります。 同じニイニイゼミを宿主に持つセミタケはカラカラの場所なのに、不思議なものです。


■ 2016年07月31日 撮影

付着した土を沢の水で洗い流しました。宿主はやっぱりニイニイゼミ。


■ 2016年07月31日 撮影

白バックで撮影してみました。子実体は地下部ではやや細根状で色はオリーブ黄色〜黄褐色。 子実体も最初は同じ色ですが、どんどん暗くなり最終的には暗黄緑色に。 メタリジウム属自体が緑色系の菌ですもんね。


■ 2016年07月31日 撮影

子実体を黒背景で撮影したのですが、ここから先は衝撃的でしたね。 マクロレンズでの撮影でしたが、本種の凄さにただただ圧倒されました。 肉眼でもキラキラしているのが分かりましたが、表面に何かありますね?


■ 2016年07月31日 撮影

この子実体、子嚢殻の状態が非常に良く、素晴らしい光景を撮影できたんですよね。


■ 2016年07月31日 撮影

いやいや異常でしょうこの子嚢殻の透明度!完全に向こう側が透けちゃってるんですよ! ベニイロクチキムシタケとかも透明度の高い子嚢殻作ったりしますが、流石にハヤカワには敵いません。 別にメタリジウム属菌がこうってワケじゃないようで、本種がこう言う子嚢殻みたいです。 これはホント見ておいて損は無いです。

■ 2016年07月03日 撮影

下見段階でどろんこ氏が断面を作成して下さいました。私なんて足元にも及ばぬ出来! 土中の幼虫から大小2本の柄が伸び、右側は結実部が形成されて始めています。


■ 2016年07月03日 撮影

これ仲間内でも議論が耐えませんが、やっぱり不思議とピースサインしてるんですよね。 しかも偶然じゃなくて高確率でです。目的に関してはサッパリ分かりません。 表面に見える黒いポッチは出来てきたばかりの子嚢殻。これもまだ未熟でした。 この個体はどろんこ氏が採取して、何と室内にて追培養に成功しています。

■ 2020年06月20日 撮影

地元初発見はこの時。コロナ禍でずっと自粛していたオフを久々に青fungi氏と行った時のこと。 目的は別の菌でしたが、探しても探しても見付からず。 今年は出てないのかな?と諦めてしゃがみ込みボーッと地面を眺めていると妙なものに気付きました。 最初は植物の刈り跡だと思いましたが違和感をおぼえ近寄ってみると・・・?


■ 2020年06月20日 撮影

これハヤカワセミタケだ・・・青fungi氏よりも自分のほうが予想外の出会いに大興奮。 それでも信じられずにルーペで何度も見返すと、一部子嚢殻が出来ていてまた大興奮。 と言うか、これどうも複数年経過しているようですね。基部と先端の成長度合いが違いますし。


■ 2020年07月05日 撮影

1週間ごとに様子見に行きたかったのですが忙しくて行けず、2週間後に再訪問。 すると目を瞠るような成長をしていて驚かされました。成熟してるじゃん!


■ 2020年07月05日 撮影

やはり以前からあった基部付近の成熟が早く、特徴的な透明度の高い子嚢殻がビッシリ。 再成長したと思しき先端部はまだ子嚢殻が埋もれています。 そう言えばこの質感、アマミヤリノホセミタケに似てるんですよね。基部も太いし。 これこの後で胞子観察してるんですが、やっぱハヤカワっぽいような。良く分かりません。


■ 2020年07月12日 撮影

数日後・・・しまった。時期を逃してしまったか。胞子を噴出してしまっていました。 先週くらいが一番状態が良かったのかも知れません。失敗しましたね。 ちなみにここ、車を降りて5秒で見れます。そう、道端なんです。


■ 2020年07月18日 撮影

そしてこれが最終形態と判断しました。 このフィールドではこの1本しか見付かっていないので採取はしません。 ただ一応断面作成はしたいと思い挑戦したのですが、太い根2本の間を抜けていて断念。 根を切れば一応行けそうでしたが、別個体を採取予定だったため遠慮しました。 ちなみに地下部がごんぶとでした。やっぱアマミヤリノホセミタケなのかね?


■ 2020年07月18日 撮影

最終的にはこんな感じになりました。下方の子嚢殻はもう古くなっていますね。 再成長したと思しき先端付近だけは状態の良い子嚢殻でした。 そして撮影中に胞子の噴出が起こったのでビックリ!これはもうやるしか無いな。


■ 2020年07月18日 撮影

てことで動画化してみました。そのままだと見にくいので補正をかけて明るくしています。 撮影中もずっと安定して胞子を吹き出し続け、フワフワと舞って行く様子を眺めていました。 周囲にはニイニイゼミの抜け殻も多く、今後も発生が見込めるので採らずに正解だったかな? 観察しやすい場所なので大事にしたいフィールドです。


■ 2020年07月18日 撮影

ただやっぱ顕微鏡観察はしないと!ってことで旺盛に胞子を吐いていた分岐1本だけを採取。 ピンセットで引きちぎったんですが非常に力が要り、肉の緻密さに驚きました。 先端部だけ持ち帰ったんですが、断面に水を付けるとまた胞子噴出が起きました。


■ 2020年07月18日 撮影

子嚢殻はやっぱり斜埋生型で透明感があります。 これ古い下方の子嚢殻ですが、それでもコレです。 やっぱり美しいですね。


■ 2020年07月18日 撮影

子嚢殻を切り出してみましたが、やっぱり硬い!肉が硬いんですよ! 普通は子嚢殻だけポロッと取れたりするんですが、全然ダメでした。 なので少し傷んでしまいましたが、一応サイズはこんな感じ。 それでも斜めってるのが分かりますね。


■ 2020年07月18日 撮影

でも子嚢殻が壊れたおかげで子嚢は綺麗に切り出せました。 長さは400μmほどでアマミヤリノホセミタケの最大300μmを考えるとやっぱハヤカワかな? ハヤカワは最大で450μmほどになるとされ、子嚢殻も大型ですし。


■ 2020年07月18日 撮影

もうコイツをどう載せようかホント困りました。 ハヤカワセミタケの子嚢胞子です。 糸状で長さは300μm〜350μmほどのものが多く、二次胞子に分裂しません。 ですが良く見るとランダムに隔壁を生じ、その間隔もバラバラです。 辛うじて隔壁が見えるくらいのサイズにしようと思ったらこの画像サイズが限界でした。


■ 2020年07月18日 撮影

あと子嚢胞子を観察していたら隔壁に囲まれた細胞1つ1つが大きくなっている部分が散見されました。 似たようなのをサンチュウムシタケモドキの胞子で見た気がします。 細い部分は未成熟のように見えますし、成熟度合いの差かな? ひとまずこれで顕微鏡観察できることはやり切ったとしましょう!

■ 2020年07月12日 撮影

ガガンボ氏をお招きしての冬虫夏草オフにて発見した別個体。 やっぱり木の根にしか見えませんねコレ。 一度見付けたのに再発見に困る程度には分かりづらいです。 ただ色がまだ比較的明るい橙黄色なのでライトを地面スレスレに当てれば簡単に見付けられます。


■ 2020年07月18日 撮影

この子実体は1週間ごとに成長記録を付けることに。 翌週訪れてみるとオレンジ色で比較的目立っていた子実体の色がやや地味に。 でもまだ先端部は明るい色合いなので大丈夫かな?


■ 2020年07月23日 撮影

もうムリですね。場所を覚えてるから良いものの、これ初見で気付くのはキツいわぁ。 ここで観察は終了しましたが、恐らくもっと暗色になると思います。 やっぱり本種は幼菌の段階で探さないと無駄に発見難易度上げるだけになりますね。

■ 2021年07月23日 撮影

初めてどろんこ氏に案内して頂いた思い出のハヤカワ沢の上流が開発されてしまいました。 そこで発生状況を調査したいとのことで、感染対策をしっかりと実施しつつ調査のお手伝いへ。 確かに上流が開発されたことで沢筋全体の湿度の低下がハッキリ感じられました。 もうダメかと思っていたところ、どろんこ氏が発見!居てくれました!


■ 2021年07月23日 撮影

やっぱりピースサインなんですね。これは本種の特徴なんでしょう。 成熟して子嚢殻も出来ていましたが残念ながら地下部は朽ちており、断面作成は叶いませんでした。

■ 2021年07月23日 撮影

私が発見したハヤカワですが・・・あれ?何か変ですね。 何とこれ昨年の子実体が残っているのです。つまり複数年成長しているのです。 これにはどろんこ氏もビックリ。と言うのも本種は1年限りのものだと2人とも思っていたからです。 先程の子実体でもそうでしたが、セミタケ同様に宿主が小型のニイニイゼミの幼虫のため、 子実体形成に栄養を使い切ってその年の内に朽ち果ててしまうのが常識だからです。 しかも子実体の周辺に緑色のアナモルフと思しきものも・・・新鮮さを感じる出会いでした。

■ 2021年07月23日 撮影

私が発見したカッコイイ複数本の子実体を伸ばすハヤカワです。 本種は典型的なピースサインの他に、このように複数本発生することがあります。 この子実体は後日どろんこ氏が撮影に行っているので、成長後の姿はtwitterを検索してみてね。


■ 2021年07月23日 撮影

まだ未熟なので黄土色の子実体には出来かけの子嚢殻の膨らみが見られるだけです。 その後子嚢殻形成に伴い全体的に暗色になるので、その後の発見は困難になります。 なお左に見える黒いものは昨年の子実体。この個体も2年目に突入していました。


■ 2021年07月23日 撮影

どろんこ氏が作成した断面は撮影後に埋め戻しました。 こうして見ると昨年の子実体が残っている様子が良く分かります。 今回の調査でとりあえず安泰であるとの結論に至りました。

■ 2022年07月16日 撮影

1年振りに地元で最初に発見した場所を調べてみたのですが発見できず。 恐らくどこかには居るのでしょうが、見付けることができませんでした。 諦めて少し離れた菌生冬虫夏草の発生坪を時期外れに訪れてみたら・・・居るし!


■ 2022年07月16日 撮影

しかもこの感じは複数年成長継続している個体ですね。どろんこ氏のフィールドに続き2個体目です。 古い子実体から新鮮な黄色い子実体が伸び始めています。ただまだ未熟だったので定点観察することに。


■ 2022年07月30日 撮影

前回の状態なら成熟まで2週間と予想し再訪問したのですが、当日朝にとてつもない集中豪雨。 道が川になるほどの猛烈な雨で子実体が折れて根に引っかかっていました・・・雨のバカー! この日までは激しい雨は降っておらず、折れた断面の新鮮。恐らく折れて間も無いみたいです。 ショックでショックで立ち直れなかったので地面に挿して撮影しました。 ああん?悪いかよ!辛かったんだよ!


■ 2022年07月30日 撮影

この状況に反して子実体の成熟度合いは予想通り完璧。理想的なハヤカワの姿です。折れてなければ。 この斜埋生型で透明感のある子嚢殻がいつ見ても堪らないんですよね。 ええ、折れてなければもっと良かったんですけどね。ええ。


■ 2022年07月30日 撮影

撮影していたら何かホコリのようなものが目の前をチラチラ。胞子の飛散が始まりました。 冬虫夏草の類は雨に濡れてそれが乾く時に活発に胞子を吹くことがあります。 急いでカメラとライトをセッティング。綺麗な胞子放出動画を撮影することができました。 よっしゃ、今日はこれぐらいにしといたる!

■ 2023年07月24日 撮影

凄まじい冬虫夏草との出会いの連続で大満足だった虫草祭2023! しかしその翌日もまだ続きがありました。翌日開催の虫草祭「後の祭」です。 Mikoskop氏主催で開催された観察会でTsukuru氏が発見! 自分も地元で出会えていなかったので嬉しかったです。 なおここは東北。恐らく本種の分布北限更新だったと思います。
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