★Microstoma aggregatum (センボンキツネノサカズキ)

■ 2019年09月22日 撮影

北海道遠征最大の目標にして最難関。発生数激減により出会える保証はありませんでした。 札幌キノコの会のH氏の案内でとうとう出会ってしまった幻の子嚢菌類。 秋にミズナラの細い倒木や落枝から発生する「千本狐盃」です。 世界広しと言えど本種が見られるフィールドは北海道と福島県の2つの地域のみ。 種小名の「aggregatum」は「群生の」や「密集の」を意味するラテン語の中性形容詞。 その名に相応しい見事な群生を形成します。

当然ながら日本固有種ですが、2ヶ所共に発生数が減り、絶滅の危機に貧しています。 悲しいことに個体群ごとむしり取られるなどの乱獲が原因の一つとなっています。 しかも福島県のフィールドでは除染作業で環境が物理的に破壊されてしまい危機的状況です。 ただ不確定ですがネット上に福島での2019年の発生と思しき写真が投稿されており、とりあえずは一安心?

守らないと、いけません。袰屋氏、お会いしたかったです・・・。


■ 2019年09月22日 撮影

1ヶ所目が不発に終わり、諦めかけていた2ヶ所目で比較的多くの発生に出会えました。 しかしこの付近でも乱獲と思しき行為が確認されており、余談を許さない状況です。 子実体は種小名の通り複数の子嚢盤が密生するのが最大の特徴です。


■ 2019年09月22日 撮影

この個体はまだ未熟で子嚢盤が開いていません。この頃は全体的にほぼ白色に見えます。 子実体一つ一つは無印キツネノサカズキと同じで子嚢盤と柄を持つ構造。 この年は秋が遅く、発生が遅れていたようで、成菌と呼べる個体群は1つだけでした。

食毒不明ですが、食用とか考えてられないくらいの激レア菌です。 研究者ですら出会いたくても出会えないと言われるほどの幻のキノコなんです。 にも関わらず材ごと持ち去られる、むしり取られるなどの心無い乱獲が横行しているそうです。 我々も採取時は生育に影響が出ないようチェックの下で標本採取は細心の注意を払いました。 そもそも今回出会えたこと自体が相当に運の良いことなんです。お願いします。大事にしてあげて下さい。

■ 2019年09月22日 撮影

最初はH氏しか発見できませんでしたが、慣れてくると発生環境が掴めて来ました。 それ以降はポンポン見付けられるようになりましたね。 でも成菌が居ない!北海道ですら秋が遅れており、そのせいで幼菌ばかり。 しかし1個体だけ居ました!


■ 2019年09月22日 撮影

居ました!子嚢盤が開いた成菌!幼菌も綺麗ですが、やっぱこれが見れないとねぇ。 子実体の本数が少なかったのは残念ですが、幼菌と成菌両方見れたので十分です。 それにしても何て独特な色合い・・・!


■ 2019年09月22日 撮影

子実体はピンク色〜淡サンゴ色で子嚢盤の外側には白い毛に覆われています。 この色合いは色んなキノコに出会ってきた中でも唯一無二な気がしますね。


■ 2019年09月22日 撮影

子嚢盤を拡大してみました。気になったのは子嚢盤の外側の毛が緻密である点。 同属菌のシロキツネノサカズキやモドキ、ガガンボ氏発見の不明種は外側の毛がもっとゴツいのです。 本種の毛は綿毛が編まれたように折り重なっており、全く雰囲気が異なります。 また子嚢盤の椀の縁部には毛が生えていないので、縁がハッキリしていて面白いです。 うーん今回見た幼菌達が開いた姿が見たかったなぁ・・・乱獲した人も同じ思いだったんでしょうけど。


■ 2019年09月22日 撮影

材から剥がれないようにそっと持ち上げてみました。 子嚢盤の基部には白い柄を有し、それらが全て基部で繋がっているのが特徴です。 ガガさんの発見した同属不明種は一見密生する様子は似ていますが、基部が別々だったんですよね。


■ 2019年09月25日 撮影

顕微鏡観察用に子嚢盤を最低限の量採取させて頂きました。メッチャ気を遣いましたよ。 しかし少量のためサンプル量が限られます。下手を打てばサンプルが使い物にならなくなるかも。 ま、まずは黒バック撮影だ・・・。採取後時間が経ってしまって左の子嚢盤は開き切っちゃってますね。


■ 2019年09月25日 撮影

右の子嚢盤をさらに拡大してみました。ワイングラスのような形状ですね。


■ 2019年09月25日 撮影

さらに拡大してみました。子嚢盤外側の白い毛は縁部で特に密生しています。 また毛に覆われていて分かりづらいですが、縁部が浅く裂けているのが分かります。 これはつぼんでいた開口部が開く時に裂けるため。 それにしても見れば見るほど独特な「優しい」色合いですね。 しかしサンプル量が限られるので心を鬼にしてカミソリで切り刻みます。


■ 2019年09月25日 撮影

すんません、綺麗に切片作れませんでした。予想以上に硬く、かつ小さいので上手く持てなくて。 何とかそれっぽくなったのはこの1枚だけ。まだまだ技術が足りませんね。 上が子実層面、下が毛の生えた外側ですが、結構子実層が分厚いんですね。


■ 2019年09月25日 撮影

色素は側糸などではなく、組織そのものに含まれているようです。 色に特徴のある子嚢菌類を観察していると、たいてい側糸先端に色素を有しているんですけどね。 本種が上から見て子実体に透明感があるように見えるのはこのためか?


■ 2019年09月25日 撮影

子実層がやたら暗く写るなぁと思ったら原因が判明しました。 本種の側糸は束状になっており、複数の分岐と融合を繰り返しています。


■ 2019年09月25日 撮影

メチャクチャ苦労しましたが、やっとのことで側糸だけを切り出すことができました。 側糸には色素は見られず無色。隔壁あり。分岐と融合を繰り返してどんどん幅広くなっています。 このような側糸は他の同属菌でも見られるので、近縁であることが実感できます。


■ 2019年09月25日 撮影

外側の毛は肉眼でも何となく分かっていましたが、要所要所で寄り集まっています。 毛がトゲトゲして見えていたのはこのような束になっていたからなんですね。 この毛を形成している細胞はかなり脆いようで、観察中にポキポキ折れてしまいました。


■ 2019年09月25日 撮影

見たかったのはコレ!センボンキツネノサカズキの子嚢胞子です! 子嚢胞子は長楕円形で無色。長さは22〜27μm。 これを自分の目で観察できたのは本当に貴重な経験でした。 ちなみにこの写真は深度合成をしたもの。


■ 2019年09月25日 撮影

全く同じ構図でピントを胞子内部に合わせた状態で撮影したものがコチラ。 やや厚膜大小の油球を内包するのが特徴のようです。 同属のシロキツネノサカズキやモドキは楕円形ですが内包物が細かい泡状である点で大きく異なります。 モドキほどではありませんが比較的大型の胞子を持つ種なので観察し甲斐があると言うモノ。


■ 2019年09月25日 撮影

また子嚢が非アミロイドであることは本属菌共通の特徴のようです。 メルツァー試薬で染色してみてもこの通り、どこも青くなりません。 とまぁとりあえず我が家で調べられる限りの顕微鏡観察はできたかな?

■ 2019年09月22日 撮影

案内して下さったH氏も驚いていた立ち枯れからの発生です。 何が珍しいんだって感じかも知れませんが、実はこれかなりレアなんです。 本種は水分を多く含む材を好むため、基本的に発生は地面に倒れた材からなんです。 なので水分を失いやすい立ち枯れからの発生はワリ珍しい現象のようです。

■ 2019年09月22日 撮影

ガガさんが発見した発生初期の幼菌。 この頃は子嚢盤の開口部が毛に隠れて見えないんですね。 何より幼菌から成菌まで1日で観察できたのはデカい!

■ 2019年09月22日 撮影

この日は6人で探して結構な数の発生が確認でき、一安心と言う結果となりました。 しかしそのほとんどが子嚢盤が開いていない幼菌ばかり。 確かにコレが全て開いた完璧な状態が見てみたいと言う気持ちは分かります。 ここから全てが開くまでにはかなりの時間を要すみたいですし。でもねぇ・・・。


■ 2019年09月22日 撮影

でも丸ごと持ち帰るのはダメですよ。キノコとの出会いは一期一会。 野外で自然な姿で見なきゃダメですよ。目に焼き付けて帰りました。また会いたいな。 これを締めに持ってくるのは如何なものかと思いましたが、あえて言わせて下さい。 これ集合体恐怖症(トライポフォビア)の人アウトだろ
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