■Microstoma longipilum (カラサケキツネノサカズキ)


■ 2022年07月03日 撮影

2022年に開催されたガガンボ氏主催の岡山冬虫夏草オフ。2泊3日と言う大規模オフとなりました。 その目玉となっていたのが主催のどろんこ氏が発見、命名した本種。 シデの枯れ枝に多数群生する「乾鮭狐盃」です。 以前は不明種として冗談で「ダイトカイキツネノサカズキ」と呼ばれていました。主に私に。 本種らしき菌は結構前から見付かっていましたが、ずっとシロキツネノサカズキと混同され見過ごされていました。 ちなみに違和感に気付いたの私。私なんですよ私。偉いでしょ?褒めて?詳細はガガンボ氏のブログ参照。

2021年に新種記載論文が発表されました。上述の通り命名者はガガンボ氏です。 それまでは身内の間で何とも言えない独特な仮称で呼び合っていましたが、これでやっとそれも終わりですね。 まぁあの仮称もそれはそれで好きだったんですけどね。 なお本種はシロキツネノサカズキ属であり外見的に酷似した種が多いため、顕微鏡観察が必須です。


■ 2022年07月03日 撮影

子実体は有柄椀形で和名の由来となっているサーモンピンクが特徴的。 日本でサーモンピンクを示す和名の乾鮭色はPC上では「■ #eb9793」で示すことができます。 形状だけ見れば普通のシロキツネノサカズキなのですが・・・?


■ 2022年07月03日 撮影

最大の特徴は子嚢盤が密生することです。そう、センボンキツネノサカズキのように。 そのため写真を見た際に「北海道にでも行ったの?」と私がガガさんに聞いたのが発端となりました。 しかし実際には似て非なるものであり、センボンキツネノサカズキの基部が癒着しているのに対し、 本種の基部は分離しています。そのため実際にはやや縁遠いようです。


■ 2022年07月03日 撮影

幼菌時は小さかった子嚢盤の口は成熟するとこのようにコップ状に開きます。 刺激によって放出するので、指でツンツンすると一瞬の間があった後に「シュー」っと胞子を飛ばします。 また本種の種小名「longipilum」は「長い毛の」と言う意味です。 これは他の近縁種と比べて椀の外側の毛が長く、かつ強靭であることに由来します。

新種ですので食毒不明間違い無いでしょう。ただ有毒種の可能性は低いかな?近縁種的に。 食毒はともかく分布はワリと広いようで、他県でも発見報告が相次いでいます。 ひょっとすると身近に居るかも知れないので、是非探してみて下さいね。

■ 2014年07月19日 撮影

実は最初に発見報告を受けてすぐにガガンボ氏の居る岡山に飛びました。高速道路で。 ちなみにこの時はまだ「センボンキツネノサカズキの可能性がある」と言う動機での調査でした。 体調不良の中での登山で大変でしたが、まだ本種の正体が分かっていない時点で案内して頂きました。 この日採取された標本は巡り巡ってセンボンキツネノサカズキの故郷、北海道まで旅したんですよね。 その後遺伝子を読んだ結果新種と判明。ついに大都会岡山を冠した相性は却下となりました。


■ 2014年07月19日 撮影

幼菌です。子実体はアプリコットな色合い。 外側は白い毛に覆われますが、シロキツネノサカズキに比べると透明感があり、 センボンキツネノサカズキに比べると長く硬質でしっかりしている感じです。 興味深いのは毛の1本1本がバラけず、ハードムースで固めたようにある程度束になっていることかな?


■ 2014年07月19日 撮影

サーモンピンクの和名が乾鮭色なんですが、色の範囲が広くて個人的にはサーモンピンクの「■ #f4a583」にも見えますね。 大きく口が開き子実層から胞子が吹き出しているのが肉眼でも見えました。 標本用に幾つか採取したのですが、整理中にも白い胞子を出していました。 あと本属としては珍しく柄が短いです。背が低くて可愛らしいですね。


■ 2014年07月19日 撮影

ちなみに採取時に撮影した写真が出て来ました。思えばコレがタイプ初の標本だったのかな? これ札幌キノコの会様に送られたんですが、ねんどろ魔理沙と一緒に写った写真が掲載されてて笑いました。 そう思うとちょっと感慨深いですね。ちなみにこの時もプシューッと胞子を吹いてました。

■ 2014年07月19日 撮影

幼菌をもう一度。センボンキツネノサカズキでなかったのは残念ではありますが、むしろ新種なので最高でしたね。 しかし実に魅力的な種でもあります。初更新時は「ガガンボさんが命名者になるかも?」と書いてたので、その通りになりました。 ちなみにガガさんは大都会岡山に因んで「ダイトカイキツネノサカズキ」と呼んでましたが、 そうならなくて正解でしたね。ちなみに私はこの呼名が大好きで大好きで・・・今後も呼んじゃいそう。

なお裏話でセンボンキツネノサカズキに似ていると言う理由から「ヒャッポンキツネノサカズキ」も候補だったそうです。 ですがセンボンとは縁遠い系統のため採用はされなかったそうです。個人的にはセンスの光るネーミングだと思うのですが・・・。

■ 2020年07月12日 撮影

コロナ禍のせいで大規模遠征がほとんどできなかった2020年。 岡山遠征も無理でしたが、感染対策を徹底して行ったガガンボ氏とのオフで標本を持って来て下さいました。 顕微鏡観察がしたかったので嬉しかったです。オマケ?でクサナギヒメタンポタケも頂きました。嬉しい!ありがとうございます!


■ 2020年07月12日 撮影

ずっと発生材はブナだと思っていましたが、実際にはシデで、とりわけ細枝に出る傾向があります。 太くても直径10cmを越えないような枝に発生しますね。通気を好む種なのでしょうか? 成長段階で並んでいて分かりやすいですが、幼菌ほど赤みが強く、成長するとオンレジに近付きます。


■ 2020年07月12日 撮影

マクロレンズで拡大してみましたが、美しいですね、まつげが。 このハードムースで固めてツンツンにしたような繊毛が長くて美しく、種小名の意味ともピッタリです。


■ 2020年07月12日 撮影

若くてまだ赤みが強い子嚢盤を拡大してみました。この毛の硬さが見た目でも伝わる感じ、良いですね。 センボンキツネノサカズキとの相違点として、基部が癒着していないとが良く分かります。 実際に分子系統解析をかけると最も近縁なのはシロキツネノサカズキだと言うことで、ナルホドです。 確かに群生していないとシロキツネノサカズキとソックリですね。


■ 2020年07月12日 撮影

てことで今回の最大の目的、顕微鏡観察の開始です。サンプルも限られているので慎重に・・・。 まずは子嚢盤の切片を作成して裏から表までをしっかり観察です。 子嚢盤の外側の毛が良く分かります。子実層は子嚢盤の厚みの半分近くあります。


■ 2020年07月12日 撮影

まずは本種の学名の由来ともなった子嚢盤外側の繊毛です。 直線的であっちこっちを向いていますね。 少しボケていますが、左のように数本が先端付近で束のように集まる特徴があります。 あのやたらツンツンして見えたのはこのためですね。


■ 2020年07月12日 撮影

ちょっと切片作成失敗してますけど子実層です。子嚢が並んでいます。 気になったのが子実層の一番下が入り組むこと。 切片作成時にここだけ潰れただけかも知れませんけど、論文の写真でもこうなってますね。


■ 2020年07月12日 撮影

子嚢先端を確認しようとしたら側糸が少し飛び出していました。糸状です。 隔壁もあるようですが、分岐までは確認できませんでした。


■ 2020年07月12日 撮影

子嚢胞子を確認です。長楕円形で若干厚膜。多数の内包物で満たされています。 シロキツネノサカズキに似ていて、少し前に新種記載されたテンガイキツネノサカズキの被膜無しって感じです。 センボンキツネノサカズキは内包物が少ないので雰囲気が違い、やっぱシロキツネノサカズキに近縁なんだと実感します。


■ 2020年07月12日 撮影

本属菌共通の特徴ですが、子嚢先端は非アミロイドなのでメルツァー試薬で変色はしません。 この試薬は胞子内部を見やすくするので、内包物が大きな泡状になっているのが確認できます。 とりあえず最低限の顕微鏡観察はできたと思います。ガガンボ氏、ありがとうございます!

■ 2020年07月12日 撮影

オマケで別個体です。どうしても低い場所に出るため汚れやすいですが、綺麗な子嚢盤です。 こうして見るとシロキツネノサカズキやモドキとは似ているような似ていないような。 しかしこの毛の質感は個体差と言うレベルではないですし、混同されていたのが不思議なくらい。 ガガンボ氏も仰ってましたが、別種だと疑うことの大切さを痛感しますね。

■ 2022年07月03日 撮影

2014年以来の8年振りの再会となりましたが、参加者の中では主催のガガさんを除けば私だけは遭遇済。 ですが当時の写真があまり良くなかったので撮影リベンジの機会が得られて良かったです。 発生材がブナではなくシデだと言うことも確認できましたし、新たな学びが沢山ありました。 ただメマトイが超ウザかったですけど。 しかしこんな感じで単生している普通にシロキツネノサカズキですね。

■ 2022年07月03日 撮影

ガガさん発見・命名のキノコをご本人に案内して頂ける貴重な場と言うことで参加者全員大興奮。 皆さん夢中で撮影していましたね。自分もTOP写真差し替え用の写真が撮影できて大満足! ずっと無理やり背景を引き伸ばした写真で誤魔化していたのでこれでスッキリ!


■ 2022年07月03日 撮影

真正面から見るとセンボン感が伝わるのではないかと。 この日は状態が良い子実体も多く、優秀な被写体が多かったです。 今回のフィールド訪問で良い生態写真が沢山撮影できたので、 前回頂いたサンプルの顕微鏡観察結果と合わさって各種情報が揃った感じがします。 発見・命名者のガガンボ氏の専用記事へのリンクの以下に併記しておきます。 より詳しい経緯等も紹介されているので、是非訪れてみて下さい!

■http://kinokoyatouhou.blog.fc2.com/blog-entry-22.html
■図鑑TOPへ戻る