■Neolecta vitellina (ヒメカンムリタケ)

■ 2006年11月24日 撮影

広葉樹林内のマツの樹下に群生を作っていた見慣れない小型菌。 自分の中で答えが出せず放置していましたが、やっとしっくり来る名前に辿り着きました。 最初はヒダナシタケ型のカベンタケだとばかり思っていた「姫冠茸」です。 発生時期が遅く、発生環境もキノコ向きとは思えない場所なので意外と出会いません。

カンムリタケと名が付きますが、生育環境も形状も科も属も異なります。 同じ子嚢菌類に外見の似たカベンタケモドキが存在しますが本種より大型。 ヒダナシタケ型のカベンタケはむしろカベンタケモドキに酷似しています。 実際には植物寄生菌類を多く持つタフリナ(Taphrina)属に比較的近縁です。

子実体は棒状〜へら状で胞子を作る子実層と粗面の柄に分かれています。 子実層は黄色〜橙色で不規則な形状、先端部が濃色になる事が多いです。 柄の表面は少し毛羽立っており、ほぼ白色かやや黄色みを帯びています。

高さ1〜2cm、大きくても3cm程度で、仮に無毒でも食用価値無しです。

■ 2006年11月24日 撮影

水中生のカンムリタケとは異なり子実層と柄の境目の太さが変わりません。 右上のアリの大きさと比較すれば本種がいかに小さいかが分かりますね。

■ 2006年11月28日 撮影

非常に小型のキノコなのですが、色が色なので凄い目に付きやすいですね。 確かに子嚢菌類と言われると、ヒダナシタケ型に比べ形状が安定しない気が。

■ 2009年11月22日 撮影

不思議と11月下旬の冷え込みが激しくなって来た頃に頻繁に目にします。 この時期は晩秋のマツ系キノコを探す事が多いのもその要因かもですね。 にしても子嚢菌類としては随分と締りの無いボディーの持ち主ですねぇ。

■ 2018年12月15日 撮影

冬の海岸性キノコ観察オフの後のフィールドで発見。実に9年振りの掲載です。 ここまで時間が開くのは見付けててもスルーしてることが多いんですが、今回はガチです。 正直ここまで再会に時間がかかるとは思ってもいませんでしたよ。 ただ薄暗くて色合いがヘンに写っちゃったのが少し残念。


■ 2018年12月15日 撮影

上に石が乗っていたので、それを避けるように子実体を伸ばしていました。 柄と子実層面との境界がハッキリしているこの感じは実に本種っぽいですね。


■ 2018年12月16日 撮影

いつも通り子実層面の全体像を撮影して、さぁ次に行こう・・・と思ってふと手が止まる。 何かがおかしい。いつもと同じに見えるけど何かが足りない気がする。 それは間違ってませんでした。そう、側糸が無いのです。 本種の子実層は子嚢のみから成っているんです。


■ 2018年12月16日 撮影

確認のために一部切り出したものを撮影してみましたが、確かに側糸がありません。 この姿は結構新鮮かも知れない・・・。


■ 2018年12月16日 撮影

メルツァー試薬で染めてみましたが非アミロイドのためかどこも青くなりません。 ですがメルツァー絡みだと本種には面白い性質があります。 試薬もあることですし、一度試してみましょう。


■ 2018年12月16日 撮影

本種には熱KOH処理後にメルツァー試薬を用いると子嚢全体が青く染まると言う性質があります。 そのため切片にKOH水溶液を垂らしてからバーナーで加熱し、その後でメルツァー試薬で染色するとこの通り。 青く染まると言っても普段のような濃青色ではなく、全体が薄っすらと青くなる感じです。


■ 2018年12月16日 撮影

子嚢胞子は非常に小さく、通常の倍率では観察しづらいですね。 ですが面白いものが写っています。写真左端と右端の胞子の先に丸いものが付いていますよね? これ実は分生子が出芽しているのです。 「出芽」と聞くと酵母を思い浮かべる方が多いでしょうが、酵母って子嚢菌門ですから当然です。


■ 2018年12月16日 撮影

高倍率での観察のために油浸対物レンズを使用しました。 子嚢胞子は楕円形〜紡錘形で7μm前後とかなり小型です。 他の子嚢菌類と比べるとちょっと異質と言うか、原始的と言う印象を受けますね。

■ 2018年12月15日 撮影

やはり苔の間から顔を出している本種は写真映えしますねぇ。 深い緑色の中に鮮やかなオレンジ色が見えるとおおっと思います。撮りづらいですけど。

■ 2018年12月15日 撮影

個人的に気に入った一枚。小さな単生の子実体ですが、背景とその形状が何ともツボりました。 これマクロレンズで撮ってるから良いものの、実際には子実体の幅が5mmくらいしかない極小の世界なんですよね。 写真しか見てないと実物見た時に小さいと感じる、ってのはこう言うことなんでしょうね。


■ 2018年12月15日 撮影

ともあれ気に入っちゃったので上からも撮影してみました。 しかしここまで頭部に決まった形が無いってのも珍しいかも知れません。 でもやっぱりカンムリタケには似てませんよねぇ。カベンタケとかそっち系のほうがまだ似ていますよ。
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