■Ophiocordyceps annullata (ヒメクチキタンポタケ)

■ 2023年06月10日 撮影

初対面は2016年。シャクトリムシハリセンボンを発見した思い出のオフ会。 ガガンボ氏と一緒に青fungi氏のフィールドを案内していただいた時に出会いました。 その後も関西地方や八丈島などで何度も出会うことになる比較的一般的な種、 腐朽材中やその周囲の地中に居るキマワリの幼虫から発生する「姫朽木短穂茸」です。 種小名は「環状の」の意味ですが、これは柄の模様を指しているっぽいですね。

「キマワリ」と聞くと某ポケットなモンスターを思い浮かべそうですが、甲虫ですからね? 西日本や八丈島では多産しますが、中部〜東日本には少なく初対面まで長かった冬虫夏草です。 地域性が強い冬虫夏草としてオサムシタケなどとともに話題に良く上がりますね。


■ 2023年06月10日 撮影

子実体は結実部がやや細長いタンポ型で、朽木生型である点と合わせて和名の由来。 子実体は全体的に明るい黄褐色で冬虫夏草としては比較的大型です。 そのため朽木にターゲットを絞って探していれば発見は難しくありません。


■ 2023年06月10日 撮影

今回は採取が目的だったため断面作成は行っていません。その理由は後述します。 宿主は甲虫のキマワリの幼虫。スプーン状の尾部ですぐにそうだと分かります。 この宿主からは私の地元ではキマワリアラゲツトノミタケばかりが発生し、 不思議と本種の発生は見られません。謎です・・・。


■ 2023年06月10日 撮影

本種は子実体が未熟だったり朽ちて消失していても同定できることがあります。 その理由はこの宿主表面に見られる球状の菌糸組織。 これは本種にしか見られないかなり特殊な構造です。これも詳細は後述しますね。


■ 2023年06月10日 撮影

帰宅後に黒バック撮影したヒメクチキタンポタケです。 普通種とは言われているものの、その「ザ・冬虫夏草!」って感じの見た目は個人的に大好きです。


■ 2023年06月10日 撮影

子実体は結実部がやや長いタンポ型で、全体的に黄褐色。基部はやや赤っぽいです。 注目すべきは古い図鑑のスケッチ等でも強調されている柄のだんだら模様。 テングタケやアカネアミアシイグチのように表皮より柄の成長が早いため、 表皮が置き去りにされることでリング状の裂け目が生じます。 種小名の「環状の」もこれを指していると思われます。違ってたらメンゴ。


■ 2023年06月10日 撮影

結実部はこんな感じ。縦長のタンポ型で子嚢殻は埋生。 子嚢殻先端もほとんど飛び出さないので、ツルンとした印象を受けます。


■ 2023年06月10日 撮影

宿主のキマワリの幼虫です。体節部から白色の菌糸が吹き出しています。 偶然だとは思いますが、今まで私が見たものの多くは仰向けになっていました。 ひょっとすると感染した苦しみで絶命する瞬間まで悶えていたのかも知れません。


■ 2023年06月11日 撮影

2016年に出会っているにも関わらず7年も経って写真更新リベンジをした理由、 それは胞子観察をするためでした。 実は本種に出会っているのは全て高性能顕微鏡配備前であり、 ちゃんとした胞子写真を撮影できるようになってからは一度も出会っていなかったのです。 夏が来るたびに思い出して探していましたが、運悪く出会えない年が続き、 我慢の限界に達した私は無理言ってしんや氏に案内をお願いしたのでした。 地元で出ればそんな必要も無いのですが、地域性ゆえ本当に出会えませんでして・・・。


■ 2023年06月11日 撮影

と言うことでようやく念願叶い、子嚢胞子の観察に成功しました。 子嚢胞子は糸状で長さは230μm前後。記載通りでした。 また32個の二次胞子に分裂することも確認できました。マジ嬉しいです。


■ 2023年06月11日 撮影

私が本種の胞子を観察したかった最大の理由、それはこの二次胞子の形状です。 冬虫夏草の二次胞子と言うと、円筒形、俵形、長楕円形、紡錘形などが一般的ですが、 本種の二次胞子はそのどれとも異なるダンベル形と表現されます。 この形状は極めて個性的で、この二次胞子だけで本種だと同定しても良いレベルです。 恐らく内包されている2個の油球が飛び出しているのでこのような形状になるのでしょう。


■ 2023年06月10日 撮影

お次は後述すると宣言していた宿主表面の球状の菌糸組織ですが、これも本種の大きな特徴。 実はこれ本種のアナモルフなのです。 有性無性両世代の同時発生は多くの冬虫夏草で見られる現象ですが、 本種のアナモルフは分生子殻と言われる子嚢殻のアナモルフ版! アリノミジンツブタケなどの一部冬虫夏草で見られる特殊な構造なのです。


■ 2023年06月10日 撮影

分生子殻を低倍率撮影してみました。毛羽立っていて水封すると気泡だらけになるため、 一度無水エタノールで封入した後にすぐさま水を加え、吸水で潰れないようにしました。 外見的にもモコモコしていましたが、確かに菌糸でモサモサしていますね。


■ 2023年06月10日 撮影

分生子殻の表面を拡大してみると、無数に枝分かれした有色の菌糸が見られます。 肉眼的にも赤っぽく見えましたが、これは菌糸の色だったのですね。


■ 2023年06月10日 撮影

分生子殻の表面を覆う菌糸を油浸対物レンズで高倍率撮影してみました。 細胞表面が粗面なためザラザラして見え、隔壁が存在することや先端が丸くなることなど、 図鑑に掲載されている本種の分生子果壁構造のスケッチと完全に一致します。


■ 2023年06月12日 撮影

実はこの時点では自分は本種のアナモルフが閉鎖型の分生子殻だと気付いていませんでした。 そのためどれだけ顕微鏡観察しても本種の分生子と分生子形成細胞が見当たらず焦っていました。 そこで図鑑を読んでやっとこさそのことに気付き、子嚢殻を潰してみると、あった!

撮影日時を見ると分かりますが、気付くのに2日かかってるんですけどね・・・。


■ 2023年06月10日 撮影

これが本種の分生子形成細胞です。放射状に広がった先に分生子が形成されます。 一部先端にプクッと丸いものが出来ていますが、これが出来始めの分生子です。


■ 2023年06月10日 撮影

外から見ていただけでは全然見付からなかったのに、分生子殻を潰すとどっさり。 これがヒメクチキタンポタケの分生子、つまり無性生殖の胞子です。 楕円形で長さは5.5〜7.5μmほどと記載とピッタリ一致しました。 しかし閉鎖型の分生子殻からどうやって拡散するのでしょう? ひょっとすると動かずに耐えて宿主が来るのを待つ作戦なのでしょうか?

そこそこ数は出るとは言え所詮は少量、利用価値無しで薬効も特に無いみたいです。 むしろ摂取した際に体調を崩したとの経験談もあるので要注意かも知れません。 また傷みやすいらしく少し古くなると猛烈に臭いです。標本管理は慎重に。

■ 2016年07月09日 撮影

ガガンボさんと一緒にお邪魔した青fungiさんのフィールドで初対面した子実体です。 探して探して探し求めて、それでも発見できていなかったので嬉しかったですね。 ただちょっと古くて胞子は採取できませんでした。旧TOP写真でしたが、遂に差し替えです。


■ 2016年07月09日 撮影

子実体は黄褐色で柄の方が淡い色合いですが、老熟して濃色になっちゃってます。 3本中2本は軟化が始まっており、採取的にはギリギリだったみたいですね。 本種は6月半ばが最盛期なので、7月では本来ならシーズンオフなのでしょう。


■ 2016年07月09日 撮影

朽木を掘ってみました。内部に見えるのは死んだキマワリの幼虫です。 巣穴の中には糞が散乱しており、生きていた名残が見受けられます。 良く見ると古い柄の痕跡が残っており、6本近く出ていたみたいですね。


■ 2016年07月09日 撮影

帰宅後にクリーニングしてみました。甲虫生は白バックが映えますね。


■ 2016年07月09日 撮影

子実体を黒バック撮影してみました。柄のだんだら模様が良く分かります。 結実部表面に見える細かな点が埋生した子嚢殻の先端部分。 良く見ると結実部が割れたせいで断面に子嚢殻が見えてたんですね・・・。 しばらく待っていましたが、流石に古かったのか胞子は出ませんでした。


■ 2016年07月09日 撮影

キマワリ表面に見えるアナモルフを拡大してみました。 アナモルフとテレオモルフが棲み分けしているのは興味深い特徴ですね。 普通にクリーニングすると脱落してしまうので、適度に残す努力が必要です。

■ 2017年06月23日 撮影

二度目の八丈島遠征。まさかの発見はガガンボさんが見付けたコイツ。 細い落枝から何か見たことある子実体。居るとは聞いていましたが地域的に超意外・・・。

■ 2017年06月23日 撮影

地面から出ているので最初は「エニワセミタケ?」とか思っちゃいました。 しかしルーペで見てみるとこれはまた何とも見覚えのある結実部ですこと。 同行のアメジストの詐欺師さんの地元でも地面からの発生が多いそうです。


■ 2017年06月23日 撮影

拡大してみるとこの結実部の細かな点はヒメクチキそのもの!


■ 2017年06月23日 撮影

念のため掘ってみると浅い場所に宿主のキマワリと球状のアナモルフが。 若干エニワを諦め切れていませんでしたが、現実を突き付けられた感覚。 しかし宿主がキマワリなだけに、朽木から出ていないと妙な違和感がありますね。


■ 2017年06月25日 撮影

今回の最大の目的、それは本種の胞子を見ることでした。念願は叶いましたね。 最初に京都で発見した際には日付の通りシーズンオフ寸前で胞子は見れず。 本種は胞子が非常に面白い種なのでずっと見てみたいと思っていたのです。 子嚢胞子は糸状。まだ低倍率ですがすでに本種の特徴が良く出ていますね。


■ 2017年06月25日 撮影

糸状の子嚢胞子は32個の二次胞子に分裂するのですが、 完全な子嚢胞子は重なったり切れたりで見付けられず。 ただ両端近くが環状に膨らむダンベル形の二次胞子はちゃんと見れました。 しかしやっぱり画質が悪いし、ミクロメーターも無いのでサイズも分からない。 この時からずっと胞子観察リベンジしたいと思っていたんですよね。

■ 2017年06月23日 撮影

アリドオシの棘に苦戦しながら這いずり回ったコガネムシタケの発生地。 しかし見付かったのはコイツとツブノセミタケくらいでした。残念です・・・。


■ 2017年06月23日 撮影

しかし綺麗だったので思い切って材ごと持ち帰り、断面標本にしてみました。 巣穴に綺麗に納まっていましたが、流石にアナモルフは残せませんでした。 細い落枝でしたが、断面を見るとキマワリの生活感が伝わって来ます。


■ 2017年06月23日 撮影

結実部を黒バック撮影。埋生子嚢殻と柄のだんだら模様が良く分かりますね。 そう言えば今回見たヒメクチキは結実部が先細りの物が多かったような。 現在は乾燥後、材から取り外しできる形でディスプレイ標本に仕立ててあります。

■ 2023年07月02日 撮影

7月末にこのフィールドで実施されるオフ会を前に、1ヶ月前の下見を行いました。 下見と言ってもあれよあれよ人が集まり、いつの間にやら大規模オフレベルに。 そのお陰か珍しい冬虫夏草や地下生菌がバンバン出て、期せずして大成功を収めました。 これはカサヒダタケを撮っていたら同じ材の裏に居たもの。

■ 2023年07月02日 撮影

普段見るものの半分以下のサイズだったので一瞬何か分かりませんでした。 良く見るとサイズ意外は結実部も柄もヒメクチキ。紛らわしいよ! 子嚢殻の密度は一定なので、見える子嚢殻の数からその小ささは予想できるかと。
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