★Ophiocordyceps ootakii (タイワンアリタケ)

■ 2015年07月18日 撮影

冬虫夏草のスペシャリスト、どろんこさんに案内して頂き会合叶いました。 チクシトゲアリなどのアリの成虫に寄生する気生型冬虫夏草「台湾蟻茸」。 図鑑でその姿を見た時からずっと出会いたいと思っていた念願の種でした。 同行したガガンボさんも大興奮。この日の調査の主役となりましたね。

種小名が「unilateralis」から変更となっています。とある方のお名前なのですが・・・。 宿主は普通チクシトゲアリで、空中湿度が極端に高い場所がお好き。 この場所も湿度100%近い沢筋で、少し沢から離れたシダの葉裏でした。 外見が極めて似た種に同じくアリ生のイトヒキミジンアリタケが存在します。 こちらは宿主の種が豊富で主に樹上に発生し、子実体も雰囲気が違います。


■ 2015年07月18日 撮影

逆向きに付いているので撮影用に裏返してみました。凄い迫力ですねコレ。 宿主のアリは葉の葉脈、主に主脈に噛み付いた状態で絶命しています。 その後身体の節から茶色い菌糸が張り出して葉に広がり固定されます。 そして頸部から灰褐色のストローマが伸び、途中に結実部が出来ます。


■ 2015年07月18日 撮影

子実体は首折れ型で、結実部は紫褐色〜暗褐色。子嚢殻は埋生です。 突出した子嚢殻先端の孔口から細い子嚢胞子を噴出して感染を広げます。 以前の種小名「unilateralis」は恐らくですは「1つの側生にような」の意味のように思われます。 結実部の形成のされ方のことのようですが、複数個できることもあります。

当然ですが食不適です。無毒でしょうが、食べたら「カリッ」で終了です。

■ 2015年07月18日 撮影

最初は全く分かりませんでしたが、慣れてくるとどんどん見付かるように。 ほとんどがシダの葉の裏に噛み付いており、1枚の葉に何匹も居ることも。


■ 2015年07月18日 撮影

完全に熟した子実体でした。結実部から出る白い毛のような物が子嚢胞子。 本種に感染したアリは不思議と胞子の拡散に適した場所で絶命しています。
一説によると「宿主をコントロールしている」とのこと。通称「ゾンビアント」。 寄生虫にも似たような生態を持つ種も居るので、その可能性はあるかもです。

■ 2015年11月15日 撮影

時間があるからとダメ元で立ち寄った前回のフィールドでまさかの遭遇! しかも初冬に成熟しているのは同行したどろんこさんもビックリとのこと。 本来本種は空中湿度が高い夏季に成熟するハズ。まさかこの時期に見れるとは。


■ 2015年11月15日 撮影

下の結実部は成熟、上の結実部はまだ子嚢殻の形成がされていません。 と言う事は気温の低いこの時期でも越冬する事なく成長していると言うこと。 これは中々の大発見。気生型は意外と冬場も頑張っているのかも・・・?

■ 2015年11月15日 撮影

まだストローマが出始めたばかりの幼菌と新鮮な死骸も見付かりました。 菌糸が体節から張り出したばかり。幼菌も紫色を帯びた白色で新鮮。 発生量もハンパなく、樹状のアオキの葉裏などにも発生が確認できました。

・・・この死に方、口を離そうと抵抗していたように見えますね・・・。


■ 2015年11月15日 撮影

標本保存用に撮影した2つは持ち帰り、自然乾燥させケースに保存しました。 葉裏の主脈部分にガッチリと噛み付いたままで死んでいるのが分かります。


■ 2016年01月25日 撮影

Canon製の「MP-E65mm F2.8 1-5×マクロフォト」を奮発して購入です。 世にも奇妙なマクロ専用レンズで、とてつもない接写が可能となります。 テスト撮影したこのタイワンアリタケの結実部、幅何と1mmなんです。 屋外使用にも耐えられることはテスト済。今後の活躍に期待したいですね。

■ 2016年07月03日 撮影

どろんこさんとガガンボさんとの3人で行ったハヤカワセミタケ観察会。 目的のブツは見付かりましたが、やっぱりコイツは見ておかなくては! と言うことで沢筋のシダを手当たり次第にめくって行くと居ました。

・・・あれ?何か右のアリ、妙に綺麗じゃない?


■ 2016年07月03日 撮影

ななな何と!生きています!!! ウワサには聞いていましたがまさか見れるとは! タイワンアリタケに感染し葉の裏に噛みついていますがちゃんと動いてます。


■ 2016年07月03日 撮影

と言うことで当サイト初の動画記録に挑みました! 当初はFLV形式でしたが、2020年12月でFLASHがサポート終了となったため、MP4形式での掲載に変更です。 ピンセットで突く事で刺激とは逆方向に避けようとする行動が見られます。 また時折体全体に力を入れて顎を葉から離そうとする動作も確認できます。 このことから本人(?)の意志に反して顎が言うことを聞かないと考えられます。

実はどろんこさんが過去に無理やり離してどんな行動を取るかを確認済み。 何と再度噛み付きに行くのだそうです。・・・え・・・どう言うことなの? 離れたいのに離したらまた逆戻り。謎が深まっただけの観察会でした。

■ 2016年07月30日 撮影

2016年虫草祭にて既存ではありますが黒バック撮影用に採取しました。 結実部を撮影していなかっため念のためでしたが、意外な発見が・・・。


■ 2016年07月30日 撮影

結実部を拡大してみました。首折れ型の子実体であることが良く分かります。


■ 2016年07月30日 撮影

左側の子実体を見ると黒いはずの結実部に白いつぶつぶが見えますね。 実は採取した段階で重複寄生を受けていることには気が付いていました。 その段階ではアリ生に良く出るアリノミジンツブタケと思ってました。 が、帰宅後にマクロレンズにて観察したところ、明らかな違和感が・・・。


■ 2016年07月30日 撮影

良く見ると先端部に透明感の有る丸い子嚢殻が見えています。これ別種だ! O氏にお聞きすると仮称ですがアリノシロコツブタケと言う種だそうです。 アリノミジンは子嚢殻が黒く、イトヒキミオジンアリタケが宿主です。 氏の発見以外の報告としては2例目とのこと。これは嬉しい出会いでした。 そして2022年の観察によってアリノミジンツブタケの分生子殻の可能性が浮上しました。

■ 2016年11月03日 撮影

秋も深まり冬虫夏草シーズンは終了。晩秋のキノコ探しの季節になりました。 地元のフィールドにてドングリキンカクキンを探していた時でした。 ふと地面を這っていると目線の高さの枝にアリの死骸。イトヒキミジンか?

■ 2016年11月03日 撮影

気になって周囲を探すと色んな場所に冬虫夏草にヤられたっぽいアリが。 しかも不思議と木の幹ではなく葉や細い枝に噛み付いている個体が多いです。 ここでは古い幹に着生したノキシノブの葉の縁に噛み付いています。 しかしここで違和感に気付く。このアリ・・・ミカドオオアリじゃないぞ?

■ 2016年11月03日 撮影

ハッとして周囲に大きな葉の植物が無いか探します。あったのはアオキ。 葉の裏をめくった瞬間に予想は確信に変わりました。タイワンアリタケだ! 今までどろんこさんのフィールドでしか見れなかったので感激でした! 発生規模もかなりのもので、来年夏の再訪問が楽しみになってきました。

■ 2016年11月09日 撮影

同月3日に採取した標本をタッパーに入れて室内に放置して数日後・・・。 メッチャ菌糸伸びてる!ここまで成長が早いとは思いませんでした。


■ 2016年11月09日 撮影

体節部から吹き出すように菌糸が伸びています。若い内は白色なんですね。 野生で見る時はもう菌糸が硬く褐色になっているので、これは面白いです。 最初は、「カビか?」と思いましたが、明らかにカビよりも太いですねコレ。

■ 2016年11月12日 撮影

再度地元のフィールドを訪れてみると良い感じの発生状況に出会いました。 完全な現地標本は未採取だったので持って帰って追培養してみることに・・・。


■ 2016年11月12日 撮影

帰宅後に葉の形を切り揃え、簡単にクリーニングを行ったのがコチラ。 黒バック撮影が映えますね。2つとも成長の度合いがかなり違います。


■ 2016年11月12日 撮影

右の成熟個体。数日後にタッパー内で子嚢胞子の噴出が確認されました。 体節部から噴出した菌糸は褐色ですが、白かった面影はありません。 室内では野外に比べてこの菌糸が活発に成長し、宿主を覆い尽くします。


■ 2016年11月12日 撮影

結実部拡大です。ついつい撮りたくなっちゃいますね。


■ 2016年11月12日 撮影

左の未熟個体。まだ宿主の傷みが少なく、子実体も発生直後って感じです。 幼菌時はイトヒキミジンアリタケ同様に紫色を帯びているのが特徴ですね。 良く見ると顎が葉脈に上手く噛み付けてない?死亡時にズレちゃったかな?

■ 2018年06月25日 撮影

6月16日に新たな種小名とも深い関係を持つignatius氏のフィールドにアメジストの詐欺師氏とともに散策へ行きました。 そこで未熟な子実体を採取して追培養を行い、無事子嚢胞子を観察することができました。 以前イトヒキミジンアリタケを観察した際は未熟で隔壁が見えませんでしたが・・・?


■ 2018年06月25日 撮影

子嚢胞子は短い糸状。メルツァー試薬で染色してから観察すると隔壁が分かりやすいです。 隔壁の数は5〜7なので、本来は8つの細胞に分裂するはずが、分裂数が安定しないと言う感じでしょうか? 長さも形状も隔壁の数もイトヒキとほぼ違いは無い模様。 図鑑では長さが130〜160μmと書かれていますが、いくら見ても90μmくらいしかない胞子ばかりでした。

■ 2018年08月11日 撮影

地元発生地が大水で流されてしまい、新たな発見は絶望的かと思われました。 しかし少し離れた沢筋に1個体のみですがアオキの葉裏での発生を確認!無事で良かった・・・。 夕方だったためライトを当てて葉をめくりながら撮影したら何かスタイリッシュな写真に。 虫が飛んでいるように見えますが、これはクモの巣に引っかかっているだけです。

■ 2019年12月29日 撮影

2019年忘年地下生菌オフにて最初に本種に出会った思い出の地へ。 一時期個体数が減りましたが、今でもしっかり生きていました。 成長は夏ですが、この時期も未熟個体はジワジワと成長を続けていたようです。


■ 2019年12月29日 撮影

あくまでも地下生菌がメインターゲットだったので、写真撮影はチャチャッと。 1cm四方全体が収まってしまうような小さな冬虫夏草ですが、その情報量の多さに驚かされますね。 この子実体はまだ未熟で、恐らく来年の夏に成熟すると思われます。

■ 2019年12月29日 撮影

チクシトゲアリの墓標」を発見しました。 生態図鑑にも載っていますが、その生態の関係で1ヶ所に集中して発生することがあります。 この幼木には至るところにタイワンアリタケの発生が見られました。 しかも別の葉にはハスノミクモタケも!これは御神木ですわぁ。


■ 2019年12月29日 撮影

御神木の葉の1枚に向かい合わせで貼り付いていました。 何と言うか凄い魅力的に感じましたので、あえて逆光で撮ってみました。 生育度合い的に、左の個体が噛み付く頃には右の個体はすでに絶命していたことでしょう。 一体何を思って息絶えて行ったのでしょうね・・・。

■ 2020年01月12日 撮影

本来ここには環境写真は載せないのですが、あまりにも凄惨な現場だったので戒めとして記録しておくことにします。 大雨に起因する大規模な土砂崩れで地元のフィールドが崩壊したのが2018年の7月。 後に「平成30年7月豪雨」と名付けられた災害でした。 最も被害が大きかった地域から遠かったとは言えその被害は甚大。 葉の少ない冬を狙って訪れた今回、土砂に埋もれて入れなかった先に足を踏み入れた私の胸を満たした感情は「絶望」。 沢が流れる広葉樹林は消え失せ、広がるのは数百メートルにわたる土砂の平原。 この場所が木々が鬱蒼と生い茂り、地表をアオキが埋め尽くす冬虫夏草の楽園だったとはとても思えませんでした。 記録のためにこの写真を撮影した時、奥に森の切れ目・・・沢です。 近付くと2本の小さい沢が辛うじて崩落から免れていました。


■ 2020年01月12日 撮影

居ました・・・。


■ 2020年01月12日 撮影

もうダメだと思っていました。完全に諦めていました。メチャクチャ嬉しいです。 そもそもこの日のフィールドワークの主眼が本種の再発見だっただけに目標達成できて良かったです。 しかもこの宿主、以前どろんこ氏のフィールドで見た生きていた個体と同じくらい新しい! つまり古い子実体ではなく新しい発生が継続している証拠です。

■ 2020年01月12日 撮影

新規発生の可能性を念頭に置いて探してみると・・・居る居る!短時間で10個体以上! 小規模な沢ですが奥にも続いているようなのでもしかするとまだ居るかも知れません。 この子実体は変な分岐が起きています。

■ 2020年01月12日 撮影

やたらとアクロバティックな噛み付き方をしている宿主を発見しました。 このフィールドはあまり噛み付きやすい主脈がある植物が少ないのかな? 以前もノキシノブの葉の端っこを噛んでましたし。


■ 2020年01月12日 撮影

上から見るとこんな感じで思いっ切り顔が葉から出ています。 本種は葉の裏側に貼り付いて雨を防ぎ、子実体は真下に伸びるのが普通です。 これだと雨風にモロに曝されてしまいますね。 しかも脚が浮いているので顎の力と菌糸だけで固定されている模様。強い。

■ 2022年11月05日 撮影

平成30年7月豪雨にてフィールドが崩壊し、2020年に生き残りを発見した小さな沢筋。 久し振りに足を運んでみると、相変わらずの更地に少し草と低木が進出した状態でした。 それでも広場を突っ切って前回の沢筋へ入ると、あちこちに発生が見られました。


■ 2022年11月05日 撮影

葉をひっくり返して撮影。しっかりと成熟しています。 前回訪問時には1月の段階で感染初期個体が見付かったことから通年活動していると思われます。 下向きにストローマが伸びるため、葉が縦だったせいでこんな角度になっていました。



■ 2022年11月05日 撮影

本種は良く野生のイチゴの葉裏に出ると言われ、自分もそれを頻繁に聞いていました。 しかし地元ではそれ以外の葉に付いていることばかり。 ですが今回はちゃんとフユイチゴの葉に付いているのを発見! 冬虫夏草生態図鑑でも「フユイチゴに付く」とあり、やっと図鑑通りの光景を写真に納められました!


■ 2022年11月05日 撮影

拡大してみると何かアンバランスですね・・・随分と先端に結実部があります。 あ、これ先端が折れたっぽいです。本当はもっと長かったんだと思います。 折れた場所が再成長しており、新たなストローマが伸び始めていました。

■ 2022年11月05日 撮影

小規模ではありますが複数個体が近距離で感染する通称「墓標」も確認できました。 これが見られると言うことは探さなくても周囲にはそこそこの発生が予想できます。 環境も変わっていませんし、この場所は安泰と思われます。良かった・・・。


■ 2022年11月05日 撮影

過去の写真を見ていてふと気付いたんですが、このフィールドのタイワンアリタケは不思議とストローマが長いです。 気のせいかなと思いましたが、フィールドごとに見比べるとやっぱり少し長い気がします。 同種ではあると思うので、湿度環境などによって伸び具合が変わるのかも知れません。

■ 2023年03月11日 撮影

gajin氏としんや氏と共に訪れた地元のタイワンアリタケフィールド。 しかし付いていた低木が手入れで切られて数が激減していました。 どれだけいたぶれば気が済むんだ!とアニメみたいな状態になってしまいました。 それでも細々と生き残ってくれていたのは本当に嬉しいです。


■ 2023年03月11日 撮影

この場所ではシダの葉裏では全然見付からず、大半がアオキフユイチゴですね。 この宿主は絶命の瞬間に大きく仰け反ったんですね・・・死の瞬間が切り取られたかのような光景です。 残酷ですがこれが自然なんですよね。
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