■Ophiocordyceps sp. (キマワリアラゲツトノミタケ)

■ 2016年10月09日 撮影

実はクチキムシツブタケに重複寄生された状態が私の本種との初対面でした。 そこから本種の存在を予測し、時期を変えてフィールドを訪れ大勝利!まぁ分かってたんですけど。 その名の通りキマワリの幼虫をもっぱら宿主とする冬虫夏草です。 「ツトノミ」の漢字が分からないので漢字だと「木廻粗毛ツトノミ茸」になるのかな? 地元では結構な個体数が確認できるのですが、意外と遠征とかで出会わない気がします。珍しい?

キマワリを宿主とするのは本種とヒメクチキタンポタケが有名。 しかし両種が混在すると言う話は聞いたことがありません。 一説では本種が関東方面、ヒメクチキが関西方面に多いんだとか? 実際にウチの地元ではヒメクチキは全く見かけませんからね・・・。


■ 2016年10月09日 撮影

絶対に1匹から出てるなと予想して掘ってみたら案の定って感じでした。 宿主キマワリの頭部と尾部から1本ずつ子実体を発生させています。


■ 2016年10月09日 撮影

断面作成後に採取し、帰宅後に慎重にクリーニングして白バック撮影です。 ただ宿主も子実体もかなりガッチリしているので多少手荒でも大丈夫です。 ヒメクチキタンポタケとは異なりアナモルフは無いので宿主はピカピカ。


■ 2016年10月09日 撮影

子実体を拡大してみました。典型的な突き抜き型と呼ばれる形状です。 色は全体的に黄褐色で結実部は褐色。明るい色合いなので目立ちます。 ストローマが伸び切った後で中ほどが膨らみこんな形状になります。 材中を進む柄の部分にビッシリ生えている基部の粗毛が和名の由来。 生えすぎて塊になるため、一見すると宿主と間違ってしまうほどです。


■ 2016年10月09日 撮影

結実部を拡大してみました。表面に浮き出ている点は子嚢殻の先端です。 本種の子嚢殻はかなり深い埋生で、熟さないと先端が突出しません。 この先端に穴が空いており、糸状の子嚢胞子を噴出、感染を広げます。

薬効の話も聞きませんし、食毒は不明ですが元々食不適だと思います。 同じキマワリ生のヒメクチキタンポタケは中毒例があるそうなので一応注意。

■ 2016年07月02日 撮影

実は初遭遇はどろんこさんといんたーさんを地元に招いたオフ会時でした。 ガガンボさんが朽木断面から見慣れない冬虫夏草を発見していました。 ただこの時は少し掘って粗毛部分を宿主と勘違いしてしまっていました。 なので二人で見て「サビイロクビオレタケだな!」とか言ってましたね。


■ 2016年10月09日 撮影

あれから約3ヶ月が経過したのがコチラ。もう明らかに首折れ型じゃねぇ! てっきりサビイロだと思い込んでましたので完全にポカーンでしたよ。


■ 2016年10月09日 撮影

信じられずに掘ってみたらちゃんと掘っていた更に奥にキマワリが居ました。 幼菌の頃は柄がもっと毛むくじゃらで、てっきり菌糸に覆われた宿主かと・・・。 非常にカッコ良かったですし、発見者は私じゃないので放置しておきました。

■ 2017年08月11日 撮影

昨年の場所に戻ってくると・・・居ました!安定して発生しているようです。 近辺にキマワリの成虫を多数確認しましたし、この坪は押さえておきましょ。

■ 2017年08月11日 撮影

良い感じの幼菌も発見。結実部形成が始まり、中程に境界部が見えています。 しかし結論から言うとこの子実体は成熟した姿を見せることはありませんでした。 そう、クチキムシツブタケが結実部形成を待たずして感染してしまったのです。

■ 2017年10月14日 撮影

久々に見に行ってみようと思い訪れたキマワリアラゲの坪で凄いヤツを発見! 何と子実体がトライデントでした。流石に三つ又は見たことありませんでした。 宿主も頭がチラッと見えており、被写体として非常に優秀な子実体でしたね。


■ 2017年10月14日 撮影

掘ってみるとこんな感じ。3本に分かれていますが、成熟したのは2本だけです。 どうも傷が子実体形成の刺激になったようで、傷の跡が分岐部にありました。 あまりにも立派だったので標本としては採取せず、現地に残しておきました。

■ 2017年10月14日 撮影

少し探してみると周囲の倒木からも発生を確認。ここは安定しているようです。

■ 2018年08月25日 撮影

実はこのフィールド、今年に入って周囲の木が大規模伐採されて朽ち木上に放置されてしまいました。 そのため枝葉に朽ち木が埋もれて環境が変化してしまい、夏の段階では幼菌が発見できませんでした。 しかし猛暑を過ぎた8月後半に訪れてみると、数は減ってしまいましたが無事発生を確認。一安心です。

■ 2019年06月29日 撮影

オフ会にて青fungi氏が発見。あまりにも若かったので最初本種だと気付きませんでした。 朽木の崩れた部分に見えていましたが、良く見ると確かに宿主がキマワリです。 しかも発生した子実体は若いながらも粗毛がハッキリ確認できます。

■ 2019年07月07日 撮影

地元のフィールドで今年も発生が確認できました。 明らかに古くなった前年の子実体の脇から発生しています。 ちなみにこの後でクチキムシツブタケに重複寄生されてました。

■ 2022年08月11日 撮影

2018年08月25日の写真説明にもあるように、以前から重宝されていたフィールドに問題発生。 落とした枝や間伐材がうず高く積まれ、光が差し込んだことで環境が激変。 朽木があっと言うまに朽ちて無くなり、本種の発生は見られなくなってしまいました。 ガッカリしていたのですが、何とツクツクボウシタケの発生坪が本種の発生坪でもあったのです。 発生頻度は凄まじく、適当に落ちている材を見ると生えているレベル!これは秋に訪れなければ!

■ 2022年08月11日 撮影

最初に発見した時はこのような未熟個体で、久し振りすぎて姿を忘れていましたね。 「オイラセか?」とか寝ぼけたこと考えてましたから。これは秋が楽しみでなりません。 ついでにツクツクボウシセミタケでも出てくれませんかね?

■ 2022年09月03日 撮影

本種は成熟するのが10月頃と遅いのでこの頃はまだ未熟な結実部ばかり。 その中では比較的成長した子実体を発見しました。 ただ枝分かれしてるあたりメイン柄は不稔で終わりそうな予感・・・。 いい加減にそろそろ自然放出の胞子を見たいんですけどねぇ。

■ 2023年09月16日 撮影

見事な突き抜き型の結実部、そして和名通りの基部の粗毛・・・。 理想的すぎる!地元の新発生地がかなり優秀なようです。 これは晩秋にもう一度見に行きたいトコロですね。


■ 2023年12月09日 撮影

9月に発見してから自然さんに追培養をお任せしていたところ、 師走になってから再訪してみると、ちょうど役目を追えた頃でした。追培養上手いですね。 11月に胞子観察に成功していたので採取せずに材に埋め戻しました。また来年も出ておくれ〜。


■ 2023年12月09日 撮影

長い間まとまった雨が降っていなかったので、子実体は乾燥して少し萎びていました。 色も鮮やかさが失われていましたが、一応子嚢殻の凹凸は見えているので胞子は飛んだようです。 見事な突き抜き型の結実部と柄の黄色い毛が実にキマワリアラゲですねぇ。


■ 2023年12月09日 撮影

材がカラカラに乾いていたので簡単に周囲だけ削ることができました。 削った材は再度隙間に詰めておきましたよ。


■ 2023年12月09日 撮影

引っこ抜いてみました。乾燥して黄色い菌糸がからし色になっており、 持ってみるとかなり軽くなっていました。もう少し状態が良い時に見ておくべきだったかな? それにしてもこの菌糸の体節からの吹き出し方・・・冒されてる感が凄まじいですね。 宿主のキマワリの幼虫は頭を材の奥に突っ込んだ状態で絶命し、尾部から子実体が出ています。

■ 2023年11月03日 撮影

11月に入り肌寒くなって来ました。防寒具が無いとフィールドに行く気になれないですね。 そんなタイミングで新発生地を発見してしまいました。 この子実体を最初に見付けたのは10月8日、その段階ではまだ未熟でした。 その約1ヶ月後に訪れてみると子実体の周囲に子嚢胞子が積もっているではありませんか!


■ 2023年11月03日 撮影

断面作成したかったんですが、コレ切り株の切断面に発生しているんです。 そのため断面を作成するにはかなり材を削らなくてはならず、 材を少しでも保護したいと言う思いから最低限周囲だけを削って抜き取りました。


■ 2023年11月03日 撮影

帰宅後にクリーニングしたものを黒バック撮影してみました。 やはり過熟気味なのか子実体の基部が首の皮一枚で繋がっている状態でした。 やはり本種はかなり成熟しないと胞子を吹かないっぽいですね。


■ 2023年11月03日 撮影

本種はいつ採取しても胞子を自然放出してくれず、顕微鏡観察に成功していませんでした。 もうすでに胞子を相当量吹いているっぽくて心配でしたが、無事胞子を見せてくれました。 子嚢胞子は糸状で長さは190〜220μmくらいでしょうか?長い方は図鑑通りですね。 図鑑では短いものが90μmとありますが、未熟か途中で切断したかのどちらかでしょう。 あとこうして見ると一端が尖る傾向があることが分かりますね。


■ 2023年11月03日 撮影

隔壁を見るために水酸化カリウム水溶液で処理後、メルツァー試薬で染色してみました。 すると普通は内包物に紛れて見えない隔壁がハッキリと見えるようになります。 隔壁の数は7個、つまり細胞は8個なので、分かりやすく2のn条個になるようです。 気になるのは図鑑では隔壁の数が15個、つまり16個の細胞からなると書かれていること。 ただ相当な数の胞子を観察しましたが、8細胞を超える子嚢胞子はありませんでしたね。
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