★Ophiocordyceps sp. (コツブユラギハリタケ)

■ 2023年07月15日 撮影

2016年に地元で発見した時はコメツキムシタケだと思い込んでいた本種。 しかし何年も冬虫夏草を探し、色んな方と色んな場所を訪れる内に違和感に気付きました。 「あれ?君コメツキムシタケと違くない?」と。その正体はワリとレアい「小粒揺針茸」でした。 地中深くに埋もれた甲虫の幼虫から発生します。 以前からTwitterで見かけて「見てみたいな〜」と思っていたのですが、まさか出会っていたとは。

以前からその存在は知られていましたが、現在でも未記載種なので種小名がありません。 発見例が多くないのもその理由だと思います。 生態図鑑では京都のみで見付かっているとありますが、実際には全国的に点々と見付かっています。 地元では安定して発生する坪があるので、詳細なデータを取りたいですね。 また古くなった本種にはコメツキヤドリシロツブタケが重複寄生することがあります。


■ 2023年07月15日 撮影

VサインしててちょっとフフッとなったのでTOP写真はコイツに決定しました。 子実体は針タケ型で、このタイプの中でもかなり細長い部類に入ります。 良く見るとジャノヒゲの葉に菌糸が張り、子実体が倒れないよう固定していました。賢い!


■ 2023年07月15日 撮影

何で二股に別れてるんだろうと思いましたが、拡大したらその理由が判明。 左に見えるストローマは1年前のもので、途中から新しいストローマを伸ばしていました。 ツブノセミタケやキマワリアラゲツトノミタケなどの複数年継続発生する冬虫夏草で良く見られる現象ですが、 こんな細い冬虫夏草でもこの性質を持ってる種が居るんですね。


■ 2023年07月15日 撮影

※オンマウスで変化します

断面を作成してみましたが、メチャクチャ苦戦しました。炎天下で1時間は鬼畜ですわ。 地下部が暗色のため、マウスを乗せると見やすいように編集しました。 本種は「ユラギ」の和名に相応しく、地上部も地下部もブレまくる性質があります。 断面作成と堀り採り難易度が跳ね上がるので勘弁してもらいたいですね。


■ 2023年07月15日 撮影

宿主は地中生のコメツキムシタケの幼虫です。 実は1週間前にしんや氏と探索した際は尾部が折れてしまい、宿主の同定に至りませんでした。 今回は2年目と言うことで宿主が朽ちる寸前でしたが、尾部の外骨格が残っていました。 ただ半分以上が外骨格のみギリ残っている状態だったため、慎重に採取しました。


■ 2023年07月15日 撮影

帰宅後に黒バック撮影しました。いやー長い長い。納まるタッパーが無くて困りました。 途中から新しくストローマが発生している様子が良く分かりますね。 本種の特徴として、その長いストローマに反して子嚢殻が先端部に集中する点が挙げられます。


■ 2023年07月15日 撮影

結実部は和名通りの揺らぎっぷり。基本的には針タケ型で黒褐色の子嚢殻を裸生させます。 良く似た種にコメツキムシタケが存在しますが、子嚢殻は列状に形成されない点で異なります。 またコメツキムシタケに比べるとストローマが細く、子嚢殻も一回り小さいように感じます。 右のストローマは1年前のもののため、子嚢殻は壊れて先端に大きな穴が開いています。


■ 2023年07月15日 撮影

土に覆われていた宿主をクリーニングしました。 70%近くは中身が朽ち果てて外骨格のみになっていたので壊さないよう慎重を期しました。 今回辛うじて尾部の形状が二股であることが確認できたので、 ツヤハダコメツキ属が宿主となっている可能性が高そうです。


■ 2023年07月15日 撮影

子嚢殻を切り出してみました。高さは大きいものでも300μm強。 図鑑の表記では最大310μmとのことなので、ほぼ表記通りのサイズですね。 そもそもコメツキムシタケが480〜580μmとされており、 自分も子実体自体は見ているので、本種はそれよりはかなり小さい印象を受けます。


■ 2023年07月15日 撮影

子嚢を切り出すことができました。180μmほどとかなり短いですね。


■ 2023年07月15日 撮影

子嚢胞子も無事観察成功。短い糸状で長いものでも120μmほどしかありません。 コメツキムシタケが短くても150μmなので、「コメツキムシタケより短い」と言う記載通りです。 また隔壁は不明瞭と書かれていますが、確かに隔壁が全然確認できません。


■ 2023年07月15日 撮影

試しにメルツァー試薬で染色して隔壁を確認しようとしましてたが、それでも見えません。 胞子が未熟な可能性もあるので、今後の課題とします。

発見例が少ないので、詳細は不明。薬用等の利用価値は無しのようです。 発見例は比較的少ないようで、レア度で言えばまぁまぁ高い種みたいですね。 やはりまずは種小名が決まって欲しいトコロ。今後の研究が期待される冬虫夏草です。

■ 2016年09月17日 撮影

初発見は2016年。地元フィールドで見付け、コメツキムシタケと同定して掲載していました。 しかし虫草祭や展示会、他の方のフィールドでコメツキムシタケなる冬虫夏草を見るにつれ、 違和感がどんどん育って行きました。 そしてTwitterにて疑問を呟いたところ、ベテラン虫草屋さまより一言、 「コツブユラギハリタケで良さそうですね」とのリプを頂きました。


■ 2016年09月17日 撮影

一見すると木の根にしか見えませんが、拡大すると子嚢殻が沢山! 子嚢殻は暗褐色裸生。ストローマの先端付近に集中することが多いです。 またコメツキムシタケは子嚢殻が縦に並ぶ傾向がありますが、本種にはそれは見られません。


■ 2016年09月17日 撮影

※オンマウスで変化します

以前コロモコメツキムシタケを掘った時は浅い場所に居てくれた宿主。 本種は全然デレてくれません。掘り取りに1時間はかかったでしょうか。 ただ宿主が深い場所に居ることが多いと言うのは本種の特徴の1つのようです。 マウスカーソルを合わせると地下部の構造が強調されますが、鬼畜ですよコレ。


■ 2016年09月17日 撮影

良く分からないのでクリーニングした物を白背景で撮影してみました。 こうして見ると本当に先端に集中して子嚢殻が形成されているのが良く分かりますね。 子実体に栄養を吸い尽くされ、宿主は外骨格だけになっていました。 他の冬虫夏草でもそうですが、古くなると宿主はボロボロになりますね。 特に複数年継続成長する種は2年目以降になると栄養を吸い尽くしてスカスカになってます。


■ 2016年09月17日 撮影

黒背景で結実部を拡大してみました。子実体は暗褐色で太針型。ほとんど黒に近い色合いです。 結実部と柄の境界は不鮮明で、子嚢殻の密度が変化して行く感じ。


■ 2016年09月17日 撮影

表面に黒色の子嚢殻を裸生させます。ここだけ見るとコメツキムシタケっぽいかな? 同定には胞子を見る必要があるのですが、残念ながらこの時は胞子の射出はさせられませんでした。 この子嚢殻のしぼみ具合を見た感じ、やはり少し遅かったようです。

■ 2016年09月22日 撮影

初発見から数日後、同じフィールドを訪れてみると、何とレアキノコのソライロタケが大発生! 大興奮で撮影しまくり、帰宅して写真整理をしていると、写真の中に不自然なものが紛れ込んでいました。 古い子実体の隣に重複寄生を受けた古い子実体・・・これコツブユラギハリタケじゃん!

■ 2017年07月29日 撮影

まだ出始めの幼菌の段階から定点観察していた子実体が結実を開始しました。 ここから定点観察を開始。蚊の猛攻に耐えながら足繁く通うことになります。


■ 2017年08月11日 撮影

7月の段階では辛うじて出来ていた子嚢殻がかなり目立って来ました!


■ 2017年09月03日 撮影

最終的にはこんな感じになりました。子嚢殻の密度が高くなっていますね。 残念ながらまたしても時期を見誤り、宿主はボロボロになっていました。 どうも浅い場所に宿主が居るコロモとは違って本種は状態が見極められないようです。


■ 2017年09月03日 撮影

なので採取はせずに野外撮影で止めておくことになりました。 子嚢殻は昨年のものよりは新しいですが、それでもすでに胞子噴出後です。 やはり採取のタイミングが掴めない・・・いつかリベンジせねばなりませんね。

■ 2023年07月08日 撮影

しんや氏をハマキムシイトハリタケの発生坪にご案内するオフを開催! そこで最後に訪れたこのフィールド。2017年以来、6年振りの探索となりました。 出るか出ないかは賭けでしたが、無事それぞれ自力発見することができました。 6年振りの再発見と言うことで、かなり安定して発生していたようですね。


■ 2023年07月08日 撮影

非常に状態の良い子実体ですね。結実部に子嚢殻がビッシリ! ここまで密度が高いと針タケ型に見えませんね。 でも良く見ると裸生子嚢殻が密集しているだけです。


■ 2023年07月08日 撮影

今回は加工しなくても地下部を目で負えますね。 本種は地下部が複雑なのもあるのですが、とにかくタケの根が邪魔でした。 ニッパーで少しずつ根を切りながらの断面作成は困難を極めました。


■ 2023年07月08日 撮影

この子実体はまだ1年目なので宿主に十分な栄養が残っているようで、宿主の状態は良かったです。 ただ採取しようと思ったら尾部から3体節分ほど消失してしまっていました。 誤って破壊したのかと思いましたが、断面が真新しくなく、何かしらの原因で自然に消滅したのかも? とにかくこれで属の同定が困難になってしまったため、翌週にリベンジに向かった経緯があります。


■ 2023年07月15日 撮影

胞子採取に成功したため、ようやくクリーニングして黒バック撮影できました。 この凄まじい長さ・・・地下部の揺らぎ具合がパないですね。 この子実体はこれでも地上部は素直に伸びてくれているんですよ?


■ 2023年07月15日 撮影

結実部を拡大してみました。裸生子嚢殻の密生具合が素晴らしいですね。 この状態の良さは1年目だからこその可能性があります。 ここまで子嚢殻が多いと太針型にも見えますね。


■ 2023年07月15日 撮影

結実部をもっと拡大してみました。ちゃんと子嚢殻1つ1つが分離しているのが分かります。 また子嚢殻が丸くて小型なのも結構コメツキムシタケとは異なりますね。


■ 2023年07月15日 撮影

宿主の状態は良いだけに、尾部が欠損してしまったのが悔やまれます。 ただ別個体で尾部は確認できたので、やはりツヤハダコメツキ属だと思っておきます。 いつか1年目の状態の良い子実体を見付けたら完全な断面作成を成功させたいものです。

■ 2023年07月08日 撮影

残り時間が短い中でしんや氏が発見した子実体です。 良い感じに揺らいでいる本種らしい子実体ですね。 コレも古い子実体の残骸が残っており、複数年継続発生は本種では普通のようです。


■ 2023年07月08日 撮影

私が発見した子実体と比べると子嚢殻がまばらですね。 これやっぱり1年目で栄養状態が良いほうが子嚢殻が多く作られる可能性がありますね。 TOP写真に使用した子実体も新しい結実部に子嚢殻があまり出来ていませんでしたし。

■ 2023年07月15日 撮影

1年目のほうが子嚢殻が沢山出来る説を裏付けるような子実体も見付かりました。 左に倒れた古い子実体には子嚢殻がビッシリですが、新しい子実体には子嚢殻がほとんどありません。 掘ってみると宿主はボロボロ。やっぱ可能性ありそうですね。
■図鑑TOPへ戻る