★Ophiocordyceps superficialis (ジムシヤドリタケ)

■ 2018年06月16日 撮影

初見は岡山県でのキノコの調査。 その時は4人で探しても1個体しか発見できず、県の調査のため標本は提出となりました。 今回はignatius氏にフィールドを案内して頂き、大発生に出会うことができました。 冬虫夏草としてはややレア。甲虫の幼虫を宿主とする「地虫宿茸」です。 その名の通り地中の虫から発生し、一般的には複数個体集中して出ます。 この場所のようにスギ林にも出ますが、ブナやミズナラの有るやや深山に多いようですね。

良く似たマルミノコガネムシタケとは子嚢殻や胞子に違いが見られますが、単に生育度合いの違う同種かも知れません。 また原記載の同種「Cordyceps superficialis」とは外見的な違いがあまりにも大きく、別種の可能性も有りそうです。


■ 2018年06月16日 撮影

子実体は独特な太針型で褐色。そこに暗褐色の子嚢殻を裸生させます。 やはり真っ先に感じるのがその子嚢殻の丸さではないでしょうか。 この子実体が一番背景が美しかったのですが、断面作成と堀り取りを行ったのは別個体なので詳細は後述。

漢方薬になるとも聞きませんし、恐らくこの小ささは食用価値無しでしょう。

■ 2017年07月22日 撮影

岡山遠征にてHibagon氏のスーパープレイ。この時は他のメンバーも初見でした。


■ 2017年07月22日 撮影

先端の尖った子嚢殻を見慣れていると、この見た目には衝撃を受けますね。 先端が少し折れてしまっているかも知れません。


■ 2017年07月22日 撮影

宿主は褐色の甲虫の幼虫。どうやらコガネムシ系のようですね。 図鑑やネットの他の写真を見てもコイツあるいは似た幼虫なので、ある程度は宿主特異性が有るのかも?


■ 2017年07月22日 撮影

4人がかりで探しましたが見付かったのは1つだけ。県の調査なので1つは標本に必要です。 そのため持ち帰るのは断念し、即席黒バック撮影で誤魔化してみました。 背景に黒い布を置き、手前だけに光を当てて撮影しています。しっかり撮りたかった・・・。 子実体は宿主頭部から発生。地下部は細く淡色。地上付近で太まります。


■ 2017年07月22日 撮影

結実部および子嚢殻を拡大。子嚢殻は暗灰褐色で表面はやや粗面です。 心残りは高倍率マクロ撮影と胞子観察ができなかったこと。ただこれは翌年に無事リベンジが叶いました。

■ 2018年06月16日 撮影

ignatius氏が事前に10個体ほど発見していたので見れるのは確実でしたが、結果は数十株の大発生。 氏も「宿主が心配」と漏らすレベルの豊作となりました。虫にとっては地獄ですが。 これだけの数が有ればある程度は断面作成に挑めると言うことで私とアメジストの詐欺師氏でチャレンジしました。


■ 2018年06月16日 撮影

この何ともやる気のない子実体が良いですよね。 基本は針タケ型なんですが、ストローマが太いのと子嚢殻が丸いせいで全く違った雰囲気に・・・。


■ 2018年06月16日 撮影

ギロチンせずに断面作成に成功しました。宿主に近い部分は黒っぽいんですね。 ただ宿主の甲虫の幼虫が朽ちかけており、これ以上宿主の周囲の土が落とせませんでした。 下のほうに見える赤茶色の物体が宿主です。

■ 2018年06月16日 撮影

もう1株くらい挑んで良いと言って頂いたため再チャレンジ!ちなみにアメさんはギロチンしてました。 と言うのも本種はignatius氏もあまり掘りたくないと仰るほどの難易度の高さなのです。 地下部が長く、不規則にウネッていることが多いのがその理由ですね。


■ 2018年06月16日 撮影

勝ちました。宿主の寸前で小石を回り込んで避けていたので大変でした。 これくらい短いと掘りやすくて助かるんですけどね・・・。


■ 2018年06月16日 撮影

今回は地下の柄が短いためあまり栄養を使わなかったのでしょうか。宿主が完全な状態で残っていました。 他の冬虫夏草でもそうですが、柄が伸びるほど宿主が傷むのは栄養の量的に仕方ないのかも知れません。 アメさんも2株目は無事宿主に到達しましたが、頭部周辺しか残っていませんでした。

■ 2018年06月17日 撮影

観察用と標本保管用に2株持ち帰らせて頂き、両方ともクリーニングして白バック撮影しました。 ワリと地下部か鬼畜なのがお分かり頂けるかと。 と言うか個人的にはこんな小さい宿主のどこにこれだけのキノコを成長させる栄養が有るのかが分かりません。


■ 2018年06月17日 撮影

黒バック撮影もチャレンジ。これはこれで良いですね。 地下部はツブノセミタケなどと比べるとやや脆いので、これはギロチンしても仕方ないかも。


■ 2018年06月17日 撮影

結実部を拡大してみました。子嚢殻は裸生で、まばらにできるので場所によって密度が異なります。 また先端には子嚢殻が無いので、突き抜き型にも見えるのが特徴ですね。 撮影中に子嚢胞子の噴出が始まったので焦りました。


■ 2018年06月17日 撮影

子嚢殻は褐色粗面の球形〜卵型で先端がほとんど尖らないのが特徴。 屋外で見た時は不透明に見えましたが、強い照明を当てて撮影すると光が透けているのが分かりました。 裸生でもこのような子嚢殻ができる種は多くないので新鮮さが有りますね。


■ 2018年06月17日 撮影

宿主の甲虫の幼虫です。宿主の頭部やその近辺から発生します。 コガネムシの幼虫と書かれていることが多いですが、腹部が平らで背中が丸いことからハナムグリの仲間ではないかと教えて頂きました。 恐らく虫屋さんの中にはこの写真で分かる方も居られるかも知れません。情報お待ちしております。お手上げです。


■ 2018年06月17日 撮影

細かく黒バック撮影できたのも嬉しかったですが、何と言っても胞子観察ができたのが嬉しかったです。 硬そうな子嚢殻なので胞子を噴かせるのは大変だと思っていましたが全然そんなコトなかったです。 むしろあっと言う間にスライドグラスが真っ白に!


■ 2018年06月17日 撮影

子嚢胞子は糸状で二次胞子には分裂しやすいようです。


■ 2018年06月17日 撮影

すぐバラバラになってしまうため、乾燥させずにすぐに水封し顕微鏡観察しました。 糸状の子嚢胞子は8個の二次胞子に分裂します。図鑑通りですね。 しかし何だか見えかたが変です。内包物が有るような・・・?


■ 2018年06月17日 撮影

子嚢胞子の長さは約130μmで、120〜165μmと言う図鑑の記載の範囲内に収まっています。 ピントを変えるとやはり内包物が見えますが、この倍率ではこれが限界のようです。ココはヤツの出番か。


■ 2018年06月17日 撮影

と言うことで最大倍率の油浸対物レンズで観察してみました。おお、見える見える! 内包物は規則的に並んだ油球だったようです。ニセキンカクアカビョウタケの子嚢胞子に似ていますね。 ところどころに見える片方の端が尖った二次胞子は、分裂前の子嚢胞子の両端に位置していた二次胞子ですね。

■ 2018年06月16日 撮影

実は本種は重複寄生菌に冒されやすいと言う特徴が有ります。 このフィールドで見付かった子実体も4割程度は重複寄生されていました。 どうやらマユダマタケではなくシロサンゴタケのようです。 ignatius氏もこの白色のおかげで発生に気付けたとのこと。

■ 2018年06月16日 撮影

重複寄生菌のおかげで発見しやすくなると言うのは本当で、通常状態ではこんなですからね。 この色で高さが2cmくらいしか無いのでホント目立ちません。 ちなみに右奥にピンボケですがもう1株写っています。これは普通に歩いてたら気付けませんわ。
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