■Ophiocordyceps yakusimensis (ヤクシマセミタケ)

■ 2016年09月03日 撮影

八丈島冬虫夏草観察旅行で恐らく最も目にしたであろう冬虫夏草でした。 名前の由来は当然屋久島ですが、八丈島にも発生する「屋久島蝉茸」です。 宿主は各種セミですが、八丈島はツクツクボウシしか居ませんので必然的にソレですね。 九州南部を除き、南方の離島にのみ分布する暑さ好きの種・・・のハズだったのですが・・・。 とある有名なセミ生種に近縁なのですが、それは後述します。

初発見は屋久島ですが、発生数は圧倒的に八丈島が多いみたいです。 しかし近年になって東北地方でも発生が確認され、北限が更新されました。 また本種のアナモルフは不思議と和名にもなっている屋久島では発生が確認されておらず、 八丈島と東北地方では見付かっています。もしかすると意外と冷涼環境好き?


■ 2016年09月03日 撮影

撮影中にまさかの大雨。しかしお陰で子実体の特徴が良く分かります。 子実体は棍棒型で全体的に淡黄褐色。ここまでは普通な感じですね。 ちなみにこの後土砂降りになったので撮影も断面作成も断念しました。


■ 2016年09月03日 撮影

もうどう考えても蓮コラですね。一つ一つが動いたら叫ぶ自信あります。 これがヤクシマセミタケの子嚢殻の出来方。本種のアイデンティティです。 本種の子嚢殻は埋生ですが、1つ1つが綺麗に区切られてこんな姿になります。 どっちかと言うと「半埋生の子嚢殻がぎゅっと詰まった」って感じかな?

特に薬効があるとも聞きませんし、食用価値無しで良いようですね。 そもそも基本的には離島まで行かないと出会えないようなモノですし、専ら観賞用ってことでしょう。

■ 2016年09月02日 撮影

実はテレオモルフは前日に見付けていました。ただ形と発見経緯が・・・。 Hibagon氏が環境から発生地点を予想、的中させたおこぼれ発見でした。 しかも形状が何ともまぁ・・・なので完全自力発見をTOP写真にしました。


■ 2016年09月02日 撮影

妙に結実部が白いのをどろんこ氏が気にしていましたが、これが本種の色のようです。 断面作成は地下部が頑丈なので比較的容易で、宿主はすぐに見えました。 注目すべきは本種は宿主を菌糸が覆わないと言う点でしょうね。 そのためセミの幼虫がそのまま残っているのでカッコ良さ倍増です。


■ 2016年09月04日 撮影

帰宅後綺麗にクリーニングしたもの。う・・・美しい・・・。


■ 2016年09月04日 撮影

結実部周辺を拡大しました。一度折れた後で諦めずに再成長しています。 本来の結実部はもっと長いのですが、流石に栄養を使ってしまった模様。 本種は複数年連続で子実体を成長させることが多いようで、このような産状は良くあります。 柄はだんだら模様の黄褐色ですが、結実部は彩度の低い灰褐色です。


■ 2016年09月04日 撮影

帰宅した頃には大量の子嚢胞子を噴出していたため顕微鏡で観察しました。 子嚢胞子は糸状で二次胞子に分裂。二次胞子は中央部が太い円筒状です。 子嚢胞子の両端に近かった二次胞子ほど長く、長短があるのが分かります。 ただこの当時は性能の良い顕微鏡を所持しておらず、そのことに長く苦しむことになります。

■ 2016年09月01日 撮影

更に更にヤクシマセミタケ自体の発見は何と旅行初日に成し遂げていました。 え?間違って別種を載せてるじゃないかって?いえいえ。これで合ってますよ? 最初はハナサナギタケ?と思ったんですが、この姿には見覚えがありました。


■ 2016年09月01日 撮影

まさかと思い掘ってみると落ち葉の下から図鑑で見た特徴的なシンネマが!


■ 2016年09月01日 撮影

断面作成後はこんな感じ。地下には巣穴上部で事切れたツクツクボウシが! そう、これ実はたまーに見られる本種のアナモルフなんです。 しかもこれ、不思議と八丈島でしか確認されない現象だそう。屋久島ェ・・・。 ただこれは後に八丈島以外でも見付かり、情報としては古くなりますが。 宿主のセミが「まいった」しているような、そんなちょっとコミカルな光景。


■ 2016年09月04日 撮影

帰宅後にクリーニングし黒バック撮影。やはり白には黒背景が似合います。 ただこの発生形態はイレギュラーであることがその後の調べで分かりました。 本来はテレオモルフの基部にアナモルフができるのが普通だそうです。 結実部を作って余力があればアナモルフで粘る、と言う感じなのでしょう。 なのでアナモルフの後にアナモルフと言うのはかなりのレアケースみたいですね。


■ 2016年09月04日 撮影

シンネマ表面をこそぎ落として分生子を観察。長楕円形のようです。 粉状には見えないのですが、分生子はたっぷり表面に付着しています。 ただこれも高性能の顕微鏡が無かったため、ずっと悶々としておりました。


■ 2023年07月25日 撮影

2023年に東北地方の本種の発生地を案内して頂き、無事に子嚢胞子の撮影に成功。 アナモルフも見付かり、本種のアナモルフ新発生地であることも判明しました。 そこでふと思ったのが、やっぱりアナモルフを顕微鏡観察したいと言う欲。 見付かったアナモルフは採取しなかったのですが、ウチには乾燥標本がある! と言うことで乾燥標本の表面をピンセットで削り、水で戻して観察すると・・・。 何と分生子形成細胞が確認できました! 謂わば「水で戻した乾燥キクラゲ」状態ですが、ちゃんと細胞レベルで戻るんですね。


■ 2023年07月25日 撮影

当時と変わらない分生子もしっかり確認できました。 片側にやや反った長楕円形で、最大サイズで9μm×3μmほど。 過去写真の比率的にも当時のサイズと変わらないと思われます。 初発見から7年の時を経て、ついに両世代の顕微鏡観察が完了しました。

■ 2016年09月02日 撮影

コチラはガガンボ氏発見の優良な子実体。パーフェクトな形状ですね。 ヤクシマセミタケと言えばこの細長い子実体と結実部が特徴です。 また柄の表面にだんだら模様の濃淡ができるのもポイントかな?

■ 2016年09月02日 撮影

Hibagon氏が経験則から導き出した発生坪。これぞまさに経験の差か。 狭い範囲に成菌〜老菌が乱立するヤクシマの楽園!八丈島ですけど。


■ 2016年09月02日 撮影

その中の1本をクローズアップ。本土では見られない魅力的な形状ですね。 見てて気付きましたが、不思議と結実部にあばたがあるような。 ほとんどの子実体に結実部の一部子嚢殻未成熟箇所がある気がしますね。


■ 2016年09月02日 撮影

どろんこ氏が長時間かけて作成した断面。傾斜に邪魔され苦戦されていました。 比較的地下部は短いほうですが、ハズレを引くと断面作成は困難になります。

■ 2017年06月23日 撮影

一年経っても意外と覚えているモノですね。昨年と同じ場所で発見しました。 しかし今回は別のキノコ目当てで訪れたので若い子実体が多かったですね。 でもこんな小さなサイズでももうちゃんと柄のだんだら模様が確認できます。

■ 2017年06月23日 撮影

と思ったらもう結実部に子嚢殻が確認できる子実体ちゃんと居ました!


■ 2017年06月23日 撮影

拡大してみると子嚢殻が若く、隣の子嚢殻までの間に隙間が開いています。 これが成熟するとみっちりと詰まって、あの蓮コラのような感じになります。 この写真を見るとやっぱり下方から成熟するんだってのが良く分かります。

■ 2023年07月24日 撮影

2017年に八丈島でその姿を見て以降、本土では全く出会う機会の無かった本種。 高性能の顕微鏡が我が家に配備されて以降、本種の胞子を見たい欲が激増。 本種に出会うために八丈島へ行こうか?とマジで考え始めていました。

そんな矢先、Mikoskop氏から虫草祭の翌日に本種の発生坪を案内して頂けることに! しかも何と東北地方のフィールド!離島の種であると言う常識が崩壊したのです。 まさか6年も経って本土で本種に出会えるなんて夢にも思いませんでした。


■ 2023年07月24日 撮影

本種が出ると言う情報は以前から聞いてはいましたが、正直若干信じられずにいました。 しかしこの独特な結実部を見ると、八丈島での記憶が蘇って来ましたね。


■ 2023年07月24日 撮影

断面作成もしたかったのですが、この日は早く帰る必要があったため断念。 大急ぎで掘り取りを行い、時間ギリギリで何とかギロチン回避できました。 でもこの形状、凄いデジャヴュを感じるんですけど。


■ 2023年07月25日 撮影

帰宅後に黒バック撮影してみましたが、何か形状に見覚えがあるんですよね。 そう、八丈島で採取したテレオモルフも2年目突入個体だったんです。 1年目の子実体はすでに朽ちており、その途中から新しい子実体が出ています。 やっぱり本種は複数年成長する性質が強いみたいですね。


■ 2023年07月25日 撮影

結実部はこれまた見覚えのある淡褐色。 そしてある程度知識が付いてからコレを見ると感じるのはセミタケに似てると言うこと。 似てないじゃんと思われるかもですが、ほんのり赤っぽいことと、 柄のだんだら模様と言う共通点があるんですよね。


■ 2023年07月25日 撮影

結実部と柄の境界です。いやぁ相変わらずキモい子嚢殻ですね。 この子嚢殻1つ1つが分離している感じは実にヤクシマっぽいです。 ただ今回は気になることがありました。


■ 2023年07月25日 撮影

結実部の中程を拡大してみましたが、2016年撮影のものとは明らかに異なります。 そう、子嚢殻の隙間が無いんです。 本種と言えばトライポフォビアが憤死するレベルの個々に分離した埋生子嚢殻が特徴です。 しかし今回目にした子実体がどれも結実部がこんな感じで綺麗な埋生なのです。 このフィールドを開拓したMikoskop氏も同様の疑問を抱いたそうですが、 DNAの塩基配列の一致から同種であることが確認できているそうです。


■ 2023年07月25日 撮影

流石に2年目突入と言うことで宿主の傷みがかなり激しいです。 このフィールドではツクツクボウシとヒメハルゼミが主な宿主であり、 子実体のサイズ的に今回は前者であると思われます。 そもそもヒメハルゼミ生だともっと小さく、地下部がクソ長くなりますので。


■ 2023年07月25日 撮影

私が是が非でも見たかったもの、それが本種の子嚢胞子でした。 糸状で長さは290μm前後。しかし特筆すべきは細胞の長さです。 本種の二次胞子は片方の端に近い細胞が長くなると言う性質があります。 隔壁部に印を付けてみましたが、写真だと上側の細胞が明らかに長くなっているのが分かります。

実はセミ生種には同様の特徴を持つ種が複数存在しています。 代表的なものがセミタケであり、その他にもエゾハルゼミタケ、アマミセミタケ、 イリオモテセミタケ、イシガキセミタケ(仮称)などが同様の性質を持ちます。 そのためヤクシマセミタケとこれらの種は全て近縁であると考えられます。


■ 2023年07月25日 撮影

二次胞子も観察できましたよ。中央部がやや太い円筒形で、 長さは短いもので9μm、長いもので29μmまで確認できました。 記載に比べるとちょっと短い気もしますが・・・。

■ 2023年07月24日 撮影

私が初めて本種に出会った2016年の段階では、 本種のアナモルフは八丈島のみで見付かると言われていました。 しかし今回の探索で東北地方でも発見されたことになり、アナモルフの新発生地となりました。 私が過去の標本を取り出して顕微鏡観察したのも、この発見を受けてのことでした。
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