★Paraisaria coenomyiae (クサアブタンポタケ)

■ 2024年03月31日 撮影

ずっと乾燥標本でしか見たことが無く、実在するのかすら疑っていたほどの激レア冬虫夏草。 発見者のめたこるじぃ氏主催のオフ会にて遂にその姿を拝むことができました。 ハエ目クサアブ科の幼虫から発生する地上生型の冬虫夏草「臭虻短穂茸」です。 地上部の見た目はオオセミタケに非常に良く似ており、同時に発生することもあります。 種小名の意味ですが、クサアブ属が「Coenomyia」なのでまんまですね。

そもそも宿主となるクサアブの生態自体が謎だらけで、幼虫の生体写真すら皆無の状態。 本種の発生により幼虫の存在がやっと判明する感じは、クモタケと似た状況と言えます。 ちなみに、以前はオオセミタケ同様にOphiocordyceps属とされていましたが、 ウスイロタンポタケも合わせて現在はParaisaria属になっています。


■ 2024年03月31日 撮影

子実体は典型的なタンポ型でオオセミタケよりも一回り小さいかな?くらいのサイズ。 絵は橙黄色で丸い結実部は橙褐色。子嚢殻は埋生で先端部だけが点状に見えています。 写真ではオオセミタケと区別できないと思っていましたが、実際に見ると想像以上に黄色みが強く、 「今までオオセミと混同して見過ごしていたのでは?」と心配していた一同も、 この黄色さなら流石に気付いただろうと言う結論に達していました。


■ 2024年03月31日 撮影

Tsukuru氏が作成した断面を撮影させていただきました。 地面の直下はオオセミタケソックリですが、その下が異様すぎて違和感が凄かったです。 本来ならば曲がりくねった地下部を経てセミの幼虫に辿り着きそうなものを、 出て来たのは一直線に地面に突き刺さった見たことの無い幼虫


■ 2024年03月31日 撮影

掘り出されたものを撮影させていただきました。 地下部は少しオオセミタケに似ていますが、宿主は見たこともありませんね。 と言うか双翅目の幼虫と言うとブニブニした軟質のものを思い浮かべますが、 クサアブの幼虫はまるで甲虫の幼虫であるかのような重厚感。 ぶっちゃけ発見初期はマジで甲虫の幼虫だと思われていたそうです。 この標本はTsukuru氏が採取したものなので、詳細な調査は自力発見個体にて後述します。

食毒不明ですが、そもそも食うんじゃねェってレベルで珍しい冬虫夏草です。 薬効があるかも当然分かりませんし、見付かったら然るべき研究機関へ送るべきでしょうね。 またクサアブの仲間の幼虫は地中で生活しているため発見例がほとんどありません。 もし生体を採取しようと思うなら表土を広範囲に渡って剥ぐくらいしか無いでしょうからね。 でも本種が見付かれば、クモタケとキシノウエトタテグモの関係のように発見もできるかも知れませんね。

■ 2024年03月31日 撮影

自力発見にしてこの日初の新規個体でした!やったぜ!オフに強い男、osoです。 実は本命の2ヶ所が不発に終わり、ここまで事前にめた氏が見付けていた2個体しか無かったんです。 なので採取できるほど発生量に余裕が無いと判断し、全て未採取でここまで来ていました。 そしてこの発見を皮切りに次々と見付かり、結果は大収穫となりました。


■ 2024年03月31日 撮影

視界にこの独特な色合いが入った時は絶叫しちゃいました。 その後十分な数が見付かりましたので、若干未熟ですが採取することができました。 にしても生の状態だとマジで黄色っぽいですね。と言うか彩度が高い気がします。


■ 2024年03月31日 撮影

慎重に断面を作成しましたが、興味深かったのが土質。地表から下は砂質なんですね。 これがクサアブが好む環境なのでしょう。地元で見ないのはソレが原因か・・・。 掘り始めはオオセミタケ的な感覚なんですが、すぐに見慣れない宿主が現れて感動しました。


■ 2024年03月31日 撮影

掘り出してみると確かに宿主はセミじゃないですね。それだけでも凄い衝撃ですよ。 しかも宿主の表面には赤褐色の外皮があって、とても双翅目の幼虫には見えません。 ハエ目の幼虫って言うなれば「ウジ」ですからね。これは普通に格好良いなぁ。 注目すべき根状の無性世代が地下部に発達していること。オオセミタケと同属と言うのも納得です。


■ 2024年04月07日 撮影

採取時点ではまだ未熟だったため、帰宅後に追培養装置にセッティングして胞子採取に挑みました。 1週間後に無事子嚢胞子を自然放出し、顕微鏡観察もできたので、やっとこさクリーニングして黒バック撮影。 いやもうね、格好良すぎでしょ。冬虫夏草然としていると言うか何と言うか。 鱗翅目の幼虫から発生する同属の海外種「P.gracilis」を彷彿とさせますね。


■ 2024年04月07日 撮影

やっぱり最初は宿主を確認しましょう。宿主は先述の通りハエ目クサアブ科の幼虫です。 発見時は甲虫の幼虫と間違われたと言うだけあって、ウジとは思えない凄まじい重厚感。 上を向いているのが頭で、菌体で隠れていますが円錐形の頭部があります。 体表は赤褐色で光沢があり、体節部から吹き出した菌糸が部分的に体表を覆っています。


■ 2024年04月07日 撮影

注目すべきは尾部。宿主のクサアブ科の幼虫には不思議な模様の骨化部が存在します。 同定にはココの形状が重要だそうですが、今のところ種の同定には至っていない模様。 対になっている楕円形の模様は後気門と言う呼吸する部分です。 菌体に覆われて見えていませんが、頭部は円錐形で尖っています。


■ 2024年04月07日 撮影

では子実体の観察です。子実体は典型的なタンポ型で、柄は黄色で結実部は黄褐色。 採取時は全体的にオレンジ色が強かったですが、成熟する頃には黄色みが強くなりましたね。


■ 2024年04月07日 撮影

結実部を拡大してみました。子嚢殻は埋生で、先端部が細点状に見えています。 オオセミタケよりも黄色っぽいので非常にミカンっぽいですね。


■ 2024年04月07日 撮影

1週間クリーニングを我慢したのは子嚢胞子の自然放出を待ったためです。 水に濡らしてしまうとその刺激で胞子を一気に噴出し、その後吹かない可能性があるからです。 子嚢胞子は糸状で長さは300〜400μm。 未分裂のものもありますが、最大で32個の二次胞子に分裂すると言うことです。 昔は「オオセミタケの宿主違いじゃないの?」とか疑っていた私ですが、 オオセミタケは64個の二次胞子に分裂する時点で明らかに別種でしたね、ごめんなさい。


■ 2024年04月07日 撮影

二次胞子は棒状で両端付近に内包物があり、長さは10〜20μmくらいかな? これは分裂数が増えるとそれだけ短くなっているのだけかも知れませんね。 また両端の二次胞子は片方の端が尖る弾丸型をしています(右端のヤツ)。


■ 2024年04月07日 撮影

次に子実体の発生部を見てみます。何か見覚えのある構造が見えますねぇ。 オオセミタケにも似たような根性部が見られますが、これ本種のアナモルフなんです。 この構造がOphiocordyceps属とは異なることで本種はParaisaria属に移ったんです。


■ 2024年04月07日 撮影

この黄色い木の根のような部分を顕微鏡観察してみると、分生子形成細胞が確認できました。 正直ここまで綺麗に見えるとは思ってなかったので感動しました。


■ 2024年04月07日 撮影

これです!これこそParaisaria属菌の分生子形成細胞です! この尖っている部分の先端に分生子が形成されます。 この構造はOphiocordyceps属の分生子形成細胞とは全く異なっているんですよね。 ちなみにオオセミタケはこの分生子形成細胞の先端が分岐するので、 基本構造こそ同じものの、やっぱり本種とは別種なんだなと感じた次第。


■ 2024年04月07日 撮影

コチラが本種の分生子です。長楕円形で両端に細かな泡状の内包物があります。 これで顕微鏡を用いた観察は一段落かな?子嚢殻や子嚢なども見たかったですが、 そのためには結実部を切り刻む必要があり、今回は標本化を優先しました。 もしまた機会があればソチラにも挑んでみたいなと思います。

■ 2024年03月31日 撮影

オフ会で最初に目にした個体は以前からめたこるじぃ氏が見付けてストックしていたものでした。 実はこの前に昨年大発生した地点を調査したのですが、残念ながら収穫ゼロで2ヶ所目での出会いだったり。 ただ魅力的な菌類が多い場所でしたが新規個体は見付けられず、この子実体はそのまま残すことになりました。


■ 2024年03月31日 撮影

ここでオフ会メンバー全員が本種を実際に見たわけですが、 皆が口を揃えて「黄色いなぁ」と言ってました。 それくらい実際に見ると黄色さが目に飛び込んで来ますね。 こりゃ確かにオオセミタケとは見間違えないですね。 と言うかこの数m先でオオセミタケも見付かりました。紛らわしいわ!

■ 2024年03月31日 撮影

2ヶ所目の探索を終えた時点でもう14時を回っており、本来であれば解散の時間。 しかしせっかく遠征したのでもう1ヶ所行っちゃえと言うことで一縷の望みに賭けます。 結果的には大正解の判断でしたが、このフィールドは昨年1個体のみが見付かった場所で、 写真の子実体もめたこるじぃ氏が以前断面作成したものを埋め戻したもの。 周囲を探しても見付からず、絶望ムードが漂う中で見付かったのが私が採取した子実体でした。

■ 2024年03月31日 撮影

私の発見を皮切りに、周囲で次々と子実体が見付かって大盛り上がり。 これはTsukuru氏が発見した発生初期の幼菌。かなりオレンジ色が強いですね。 ちなみにTOP写真の子実体はこの幼菌を観察していた青fungi氏の下にありました。危ねぇ!

■ 2024年03月31日 撮影

撮影と採取を終えて私は少し離れて休憩・・・してふと地面を撫でたら隣に居たし・・・。 最初はオレンジ色の木の実かな?と思って普通に指で摘んだら「う、動かない!」ってなりました。 ここはまさにクサアブパラダイス!予想外の大収穫に案内人のめたこるじぃ氏も胸を撫で下ろしていました。

■ 2024年03月31日 撮影

そんなめた氏が発見したとんでもないもの。何と子実体が3本もまとまって生えています! こんな光景はそうそう見れるものではありませんね。


■ 2024年03月31日 撮影

子実体を拡大してみました。クサアブタンポタケがこんなに集中することがあるんですね。 しかし宿主の栄養状態的に流石に複数の宿主から出ているだろうとめた氏は予想し、 掘って確認してみることに。


■ 2024年03月31日 撮影

その予想は良い意味でハズレ。何と1つの宿主から3本の子実体が発生していたのです。 これにはめた氏もオフ参加者一同も大興奮!本種は基本的に宿主1個体につき子実体1本であり、 多くても子実体は2本までが確認されていましたが、間違い無く記録更新ですね。 こんな子実体は冬虫夏草趣味を続けても二度と見られないかも知れません。

■ 2024年03月31日 撮影

キングギドラなクサアブタンポタケも無事断面作製が終わり、代わる代わる撮影しながら私は休憩。 でも何となく発生している場所の地面の質感が分かって来た気がしたので、 地面の落葉を退けながら、「こう言うトコにありそうですよね〜」と言った直後マジでありました。 シャクトリムシハリセンボン音声認識事件の再来。 あの時一緒だった青fungi氏もやっぱ思い出していたようで、良いオチが付きました。
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