■Penicilliopsis clavariiformis (カキノミタケ)

■ 2017年11月04日 撮影

初見は京都きのこ展の展示物。ひと目見た時からずっと憧れていました。 そして2017年にきのこ同志、アメジストの詐欺師氏に案内して頂きました。 その名の通りカキの種子から発生する非常に珍しい「柿種子茸」です。 奇抜な外見ですが、こう見えて分生子を形成する子嚢菌類のアナモルフなんですよ。

カキの種子に限らずマンナンが大好きな好マンナン菌として知られます。 そのため培養の際は培地にこんにゃく粉を混ぜるとちゃんと成長します。 元々亜熱帯性のキノコであり、なぜ冬が厳しい日本に居るのか・・・ホント謎です。


■ 2017年11月04日 撮影

ヤマガキの樹下を探すと本種に冒された種子が次々と見付かります。 子座は糸状で数回分岐してシカの角のような形状の分生子柄束となります。 表面が粉状なのは子座表面に分生子柄が無数に形成されているためです。 その先端に分生子小柄が作られ、さらにその先に分生子が形成されます。

当然ですが食不適です。こんな粉っぽいキノコ食えませんって

■ 2017年11月04日 撮影

ヤラセです。ツバキキンカクチャワンタケで慣れてますからね(得意げ)。

■ 2017年11月04日 撮影

密生している場所だとこんな状態になっています。カキの種子の墓場ですね。 本種は同年に落ちた種子から子実体を発生させるほど成長が早いです。 特定植物体に出る子嚢菌類の大半が越冬することからも特殊さが伺えます。

■ 2017年11月04日 撮影

種子から発芽した幼菌。すでに種子内部は黄色い菌糸で満たされています。 健康なカキの種子は内部が半透明ってのはご存じの方も多いハズですね。

■ 2017年11月04日 撮影

ヤマガキは改良種に比べ果肉が極めて少なく、果実内の大半を種子が占めます。 それが地面に落ちて果肉のみが腐り落ちるため、種子は集中して落ちています。


■ 2017年11月04日 撮影

この果実はタヌキなどの野生動物に食べられ、これによって遠くに運ばれます。 事実、タヌキの糞を検査するとカキノミタケの分生子が良く見付かるそうです。 確かに動物に運んでもらえば次の場所もカキの樹下である可能性高いですしね。

■ 2017年11月04日 撮影

これ!この姿を見たかった!図鑑でこの発生状態の写真を見て憧れてました! 本種の感染力の強さを物語る腐った果実内部の種子から発生した子実体です。 果肉が腐り切る前に子実体形成まで漕ぎ着けるその根性は見上げたモノですね。

■ 2018年11月02日 撮影

今年もやって来ました。今年もアメジストの詐欺師氏に案内して頂きました。 氏はもうカキノミタケに関しては極めてきている感があります。 今年は昨年に比べると発生量が少ないようですが、それでも安定して出ています。

■ 2018年11月02日 撮影

ただ今回は普通のカキノミを見に来たワケではありません。 アメさんからとある報告を頂いたのでお邪魔したのです。 写真に写っているカキノミタケ、何かがヘンじゃないですか?


■ 2018年11月02日 撮影

古いアナモルフが発生した種子から明らかに異なる形状の物体が・・・。


■ 2018年11月02日 撮影

これ実はカキノミタケのテレオモルフ!何と完全世代なのです! 本種は普通は分生子しか作らないのですが、何が条件かは分かりませんが時たま完全世代の子実体を形成するのです。 発生はアナモルフよりも少し早く、一度アナモルフが発生したような古い種子から出ていることが多いそうです。 アメさん曰く、今年は例年よりも発生量が多いとのこと。災害レベルの猛暑でスイッチが入ったとか?


■ 2018年11月02日 撮影

黒バック撮影してみました。アナモルフとテレオモルフが同時発生しています。 でも確かにアナモルフが少し古くなっているような。


■ 2018年11月02日 撮影

テレオモルフは塊状で表面は最初平滑ですが乾燥すると細かくひび割れます。 色は黄色ですが成熟すると褐色になります。 この内部に子嚢胞子が形成されるのですが、今回は観察に失敗しました。 自然と脱落するまで追培養しないと胞子が成熟しないのですが、それを知らずに切断。 そこからどんどん傷みが進んで標本がダメになってしまいました。 是非観察したい対象なのでリベンジしてみたいですね。

■ 2018年11月02日 撮影

この日は他にもテレオモルフが観察されました。 ただテレオモルフが出ているような種子はアナモルフも暗色になっているものが多く発見が難しいです。

■ 2018年11月02日 撮影

もちろん見慣れたアナモルフのほうもちゃんと観察しましたよ。 まぁ見慣れたっつっても地元で見付けてないんですけどね! ホント自分が住んでいる地域に分布してるんだろうかと不安になるレベル。 ヤマガキ的なのは結構あるんですけどね。

■ 2018年11月02日 撮影

黒バック撮影用に1つ標本を採取させて頂きました。 やっぱりアナモルフは冬虫夏草的なオーラがあるので黒バックが映えますねぇ。 廃棄するのはもったいなかったのでキッチリ乾燥させて標本として保存することにしました。


■ 2018年11月02日 撮影

もちろん持ち帰ったのは保存のためだけではありません。 本種の分生子は古い顕微鏡でしか観察していなかったため、高性能な新顕微鏡で高画質撮影がしたかったのです。 分生子柄束の表面を切り出して観察すると凄まじい密度の分生子柄が見えました。 そりゃあんだけ大量の分生子ができるワケだ。


■ 2018年11月02日 撮影

分生子柄は複数に分岐して花束のようになり、そのそれぞれの先端に分精子形成細胞、フィアライドが存在します。 その先端部から次々と分生子が形成されて飛散してゆきます。何かCDのジャケットみたいな写真になっちゃったな・・・。


■ 2018年11月02日 撮影

分生子は連鎖するのでフィアライドで合ってるよね?


■ 2018年11月02日 撮影

分生子の大きさにはかなりバラつきがありますね。形状的は楕円形〜卵形で片方がやや尖っています。 色は顕微鏡でも分かる黄色で、ピントを調節すると厚壁であることが分かります。 タヌキなどの野生動物に食べられて胞子が運ばれるとする説があり、消化されにくいように守備力を上げているのでしょうか?

■ 2019年11月04日 撮影

10月26日の京都きのこ展にてアメジストの詐欺師氏にとある標本を譲って頂きました。 それは以前つい培養に失敗したカキノミタケの完全世代!そう、テレオモルフです! 今回は現地写真がないのでいきなりテレオモルフの白バック写真です。 前回の反省を活かし、今回はしっかりと自然と脱落するまで放置しました。


■ 2019年11月04日 撮影

断面はこんな感じ。明らかに前回失敗した時よりも軟質になっています。 前回は成熟前に切断したことで上手く追培養ができませんでしたが、今回は大丈夫そうです。


■ 2019年11月04日 撮影

子実体は褐色の外皮白色のグレバに分かれており、境界線はうねっていて均一ではありません。 この断面はまるでトリュフの縮小版のようで、地下生菌を彷彿とさせます。 こっから怒涛の顕微鏡観察結果ですが、この地下生菌のようだと言う感覚は当たらずとも遠からずでした。


■ 2019年11月04日 撮影

外皮が含まれるように薄くカミソリでスライスしたものを低倍率で観察。 もうこの段階で本種の特徴が見えて興奮が天元突破していました。 グレバ内部に粒状の構造が無数に見られるの、分かりますか?


■ 2019年11月04日 撮影

もう少し倍率を上げると・・・もうお分かりですね? そう、これカキノミタケの子嚢なんです。 分生子で増えるのが普通の本種の非常に珍しい子嚢菌類らしい姿なのです。 これを見たかったんですよ!本種が有性生殖する姿が!


■ 2019年11月04日 撮影

更に倍率を上げてみました。でも意外と子嚢らしくないですね。 セイヨウショウロ属のような球形の子嚢ですが、胞子がみっちり詰まっていて形が崩れています。 子嚢内部に「遊び」があまり無いみたいですね。ちょっと分かりにくいかな?


■ 2019年11月04日 撮影

探していたらいかにもな子嚢を発見!これは子嚢ですわ。 こうしてみるとやはり地下生菌のソレに良く似ています。他人の空似かな?


■ 2019年11月04日 撮影

子嚢菌類ならコットンブルーで染めたら綺麗だろうなぁ。 そう思って試薬を滴下し、ライターで炙った後に水封して顕微鏡観察してみました。

震えました


■ 2019年11月04日 撮影

いやいやいやいやいや!美しすぎるでしょう! 顕微鏡観察でここまで感動したことはいまだかつて無かったかも知れません。 ずっとすげーすげーと語彙力を無くして叫んでいたのだけは鮮明に覚えています。 元々コットンブルーは子嚢胞子表面の構造を見るための試薬です。 ですがまさか子嚢全体が青く染まるなんて!


■ 2019年11月04日 撮影

子嚢全体が青く染まったことで子嚢が単体で観察しやすくなっています。


■ 2019年11月04日 撮影

様々な成熟段階の子嚢が一度に見れました。見れば見るほど不思議な光景です。 しかし観察していて子嚢ごとの染まり具合の差が気になります。 自分が試薬を使いこなせていないのもありますが、にしては差が大きいような・・・?


■ 2019年11月04日 撮影

子嚢のみを選び出してみました。完全な球体と言うワケではないみたいですね。 しかも良く見ると1ヶ所だけ飛び出た場所が存在します。ああ、これ子嚢の付け根ですね。 ただ根本はあっても先端は確認できませんでした。一応まだ縦長の子嚢細胞の名残りはあると言うことか。


■ 2019年11月04日 撮影

最後は子嚢胞子の観察です。本種の胞子は意外と見た目は普通の楕円形です。 ですが表面に見慣れない構造があるのが確認できます。 この正体は光量とピントの調節で正体を知ることができます。


■ 2019年11月04日 撮影

胞子の特徴が分かりやすいように色々と調節して撮影してみるとこんな感じ。 本種の子嚢胞子は縦方向に翼のような隆起が存在するのです。 1本の場合もあるようですが、私が観察した感じだと3〜5本の隆起を持つものが多いようです。 このような特徴を持つ子嚢菌類と言うのも聞いたことがないですね。本当に色々と個性的なヤツ。


■ 2019年11月04日 撮影

最後に念のためメルツァー試薬も使ってみました。結果は非アミロイド。 ですが心なしか子嚢が濃色に染まっているように見えます。 ただ偽アミロイドのような赤みはなく、単に濃くなったと言う色合いです。 とこれで本種の子嚢胞子も分生子もガッツリ観察することができました。 標本提供をして下さったアメジストの詐欺師氏に感謝です

■ 2022年11月03日 撮影

2017年に案内して頂くまでも探していましたし、それ以降もずっと探していました。 しかしとにかく地元で出ないんですよ本種。 怪しそうなカキの樹下は一通り見たんじゃないかってくらい確認してたんです。 でも全然出ない・・・もう地元には無いんだろうなと思うようにしていたくらいです。 しかし関西型のミヤマタンポタケを探していて沢山カキの葉が地面に落ちているのを発見。 その葉を退かすと居た!まさかいつも行ってる近所の里山に居たなんて!


■ 2022年11月03日 撮影

この姿、地元でどれだけ探したことか。灯台下暗しとはまさにこのことか。 この日は地元の植生についての気付きを得たりと、収穫の多い1日となりました。

■ 2022年11月03日 撮影

発生したばかりのカキノミタケです。まだ表面に分生子をほとんど形成していません。 本種は種子に感染してからの子実体発生までの期間が非常に短いことが知られています。 写真のものも越年せずに同じ年に感染したものからすぐさま発生していると思われます。

■ 2022年11月03日 撮影

今まで見たような多湿環境ではなく、比較的乾燥した傾斜地だったのも驚きです。 もっと水分が多い環境が好きだと思っていましたので。 ただその分傷みも少なく、良い被写体が多かったです。これは有性世代の発生にも期待。

■ 2023年10月21日 撮影

前年に地元で念願の初発見を果たしたカキノミさん。 今年はとある目的を持って再訪問しました。 乾燥した日が続いた2023年、少し心配していましたが杞憂だった模様。


■ 2023年10月21日 撮影

カキノミタケ大発生!斜面を登って行くとそこはパラダイスでした。 少し見回すだけでも地面に黄色いニョロニョロが目に入るレベル。 これだけ発生していてくれればこのフィールドは安泰だと思います。


■ 2023年10月21日 撮影

でも目的はただの再会ではありません。今回の目的は本種の有性世代を探すこと。 本種はその大半が無性世代であり、テレオモルフは滅多に作らないことで有名です。 しかしこれだけの発生があるならばチャンスはあると未婚での再訪問でした。 そしてその読みは当たることとなります。


■ 2023年10月21日 撮影

居ました!普通に居ました!捜索時間数分で無事目的のテレオモルフを発見! これでカキノミタケ完全制覇と言って良いんじゃないでしょうか?


■ 2023年10月21日 撮影

カキノミタケのテレオモルフを拡大してみました。非常に状態が良いですね。 しかも埋もれていて分かりにくいですが、左側の地面にも塊状のテレオモルフがチラ見えしてます。 今回は標本として保存したかったので、若い状態がベストと言うことで採取して持ち帰りました。 やはりウワサされているように古い宿主からしか発生しないっぽいですね。


■ 2023年10月21日 撮影

まずは帰宅後に黒バック撮影したアナモルフ、要は通常版です。 これはこれで冬虫夏草のアナモルフ風で格好良いですね。


■ 2023年10月21日 撮影

そしてコチラが黒バック撮影したテレオモルフ、要は限定版です。違うか。 埋もれていて分かりませんでしたが、何と結実部が複数形成されていました! これは格好良い!他の方が見付けたものや写真でした見たことが無かったので感動しましたね。 この2つのサンプルは凍結乾燥して標本として保管させていただきました。

■ 2023年10月31日 撮影

ですがこれで終わらなかったのです。撮影から2日後の23日のこと。 家族が頂きものの富有柿を食べており、種子を捨てていたのでそれを頂戴。 サンプルを持ち帰ったタッパーを洗っていなかったので、 少し水を入れて種子を放り込み部屋に放置しました。 それから1週間ずっとその存在を忘れていたのですが、 仕事から帰ってタッパーを見ると、何か居る・・・?


■ 2023年10月31日 撮影

驚いてタッパーを開けると同時に舞い散る黄色い分生子! 何とたった1週間で分生子柄束を形成していました!しかも長いし! 確かに本種は当年に落下した種子からも出るほど成長が速いと聞いたことがありましたが、 販売品から採取した種子なので未感染は確実と言うことは、1週間で感染から子実体発生に至ったことになります。 成長が速いにもほどがあるだろうとは思いましたが、とても面白い実験ができたと思います。
■図鑑TOPへ戻る