■Penicillium vulpinum (ペニシリウム ウルピヌム)

■ 2021年02月23日 撮影

初見ではありません。実は今まで何度も目にしています。 しかし撮影したり観察したりって言う踏ん切りが付かなかったんですよね。 だってウンコに生えてんですもん。 有機物が豊富な動物の糞などから発生する特徴的なキノコ・・・いや菌類です。 本種をキノコと言うとちょっと違和感ありますね。それは属名を見ればお分かりかとは思いますが。 ちなみに種小名の「vulpinum」は「キツネ(色)の」の意味のラテン語中性形容詞です。

属名を実際に口にしてみると「ペニシリウム」です。どっかで聞いたことある響きですよね。 そうです、何と本種はあの世界初の抗生物質「ペニシリン」を生産するアオカビと同属なんですよ。 分生子の色もそうですが、顕微鏡的にもアオカビ属菌らしい特徴が見られます。

種小名の読み方に困りました。この種小名はかなり一般的で数多くの種に付けられています。 それがブルピナムだったりブルピヌムだったりヴルピナムだったりヴルピヌムだったりウルピナムだったり揺れが激しいです。 「virosa」を「ヴィロサ」と読む人なのですが、ここはラテン語の発音に従っときます。


■ 2021年02月23日 撮影

地下生菌を探して熊手で落葉を掻いていたらコロッと出て来たシカの糞。 そこから無数の分生子柄束を発生させていました。 アオカビ属と言えばカビの名の通りコナコナした外見を連想しますが、本種はしっかりとした子実体を持ちます。


■ 2021年02月23日 撮影

帰宅後に黒バック撮影したものです。ちなみに乾燥標本として保管することとなりました。 分生子柄束は糞の表面から立ち昇り、先端部が縦長の綿棒のような形状をしています。


■ 2021年02月23日 撮影

拡大してみました。分生子柄束の柄に当たる部分は褐色で種小名の「きつね色」はコレを指しているっぽいです。 やがて褐色の柄は先端に近付くほどに色が褪せ、真っ白になります。 そして先端には分精子形成細胞が形成され、そこから大量の青緑色の分生子が生まれます。


■ 2021年02月23日 撮影

分生子柄束を低倍率で顕微鏡観察してみました。 糞から引き剥がすのは簡単で、ピンセットで摘むとほろっと脱落します。 基部は菌糸状になって糞と繋がっており、内部に侵入しているような太い菌糸束は見られません。


■ 2021年02月23日 撮影

分生子を形成している先端部です。 これだけだと良く分かりませんが、実はマクロ撮影のほうが本種の特徴が確認しやすかったりします。


■ 2021年02月23日 撮影

ここからの顕微鏡観察は感動の連続でした。特にこの光景が見えた時は感嘆の声が出ましたね。 分生子形成細胞から生み出された分生子は容易には分離せず連鎖します。 分生子が形成された後に続けて新たな分生子が・・・これが繰り返されて分生子が数珠繋ぎになります。 このような連鎖した分生子を形成する分生子形成細胞はフィアライドと呼ばれ、アオカビ属では顕著な特徴です。 マクロ撮影時に結実部に付着していた細い毛のようなものは連鎖したままの分生子だったのですね。 本種は子実体が大型化する種なので、一般的なアオカビと比べて連鎖が多く、結果あのような塊のような結実部になります。


■ 2021年02月23日 撮影

分生子を油浸対物レンズで観察してみました。色は青緑色で整った形状の楕円形。 衝撃でも簡単には分離せず、連鎖したままのものが数多く見られました。

本種は非常に一般的な土壌菌であり、世界中で見ることができます。 研究も良く行われているようですが、コレと言った産業利用は無いようです。 当然ですが食不適ですので、写真撮ったり顕微鏡観察するくらいで抑えておきましょう。


■ 2021年02月23日 撮影

オマケでもいっちょ野外での拡大写真です。 本種が見応えあるのは、アオカビ属と言う微細な菌のワリには大型の子実体を形成すること、 そして赤系と青系の色彩を持つことでしょう。これで柄が白かったら迫力無いでしょうね。 ほぼ一年中発生が見られるオールラウンダーなので、是非探してみて下さい。
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