■Perennicordyceps sp. (アマミツチダンゴツブタケ)

■ 2023年06月17日 撮影

たまにはキノコ以外も良いだろう!ってことで植物大好き青fungi氏と植物即売イベントへ参加。 その後、近くに良く行くフィールドがあるので、せっかくなので寄って行こうと言うことに。 軽い気持ちで探し始めたのですが、とんでもない激レア冬虫夏草が出ちゃいました。 ツチダンゴ類に発生する「奄美土団子粒茸」が出てしまったのです。 あまりのことに私は唖然、青fungi氏は事態が飲み込めずポカーン・・・。 どれくらい珍しいかと言うと、体感ではサンチュウムシタケモドキに匹敵するってレベルです。

未記載種のため、正式な表記としてはまだ属名が「Elaphocordyceps」最新のハズです。 ただこの属名はTolypocladium属に統合された上、本種はその形態的特徴から別属、 重複寄生菌の性質を持つクチキムシツブタケを擁するPerennicordyceps属菌と見て間違い無いです。 そのためこのページの表記に迷いましたが、 学術的には不適切かも知れませんが、自分の観察結果を信じてこの属名での掲載に踏み切りました。


■ 2023年06月17日 撮影

最初はその見た目からツブノセミタケだと思いスルーしかけました。 しかし子実体の形状に違和感を感じ、近付いてみると何か雰囲気が違う? その違和感は基部が太いと言うことと、子嚢殻が黄色くないと言う2つ。 そこでまさかと思いピンセットで地面を掘ってみると、直下に硬い質感が・・・。


■ 2023年06月17日 撮影

すぐ下に見覚えのある黄褐色のトゲトゲしたものが見えた時は大興奮しましたよ。 慎重に表土を剥がすと、中から出て来たのはセミの幼虫ではなくツチダンゴ! アマミツチダンゴツブタケだと確信した瞬間でした。


■ 2023年06月18日 撮影

胞子観察が深夜になってしまったため、クリーニング後の撮影は翌日になっちゃいました。 先に水を使って洗浄してしまうと胞子を一気に吹いてしまう可能性があるので。 ただコチラ向きで撮ると子嚢殻が少なくてダメですね。

ただ撮っといて正解だったのは後述しますが・・・。


■ 2023年06月18日 撮影

やはりコチラ側からのほうが映えますね!子実体の色も明るいので黒バック撮影向きです。 宿主はツチダンゴの仲間でこの段階では同定できていません。 そこからうねるように子実体が伸び、表面に子嚢殻が無数に形成されています。 格好良い!しかも折れた柄のようなものが飛び出しており、これはもしや別の菌生冬虫夏草


■ 2023年06月18日 撮影

子実体はツブノセミタケなどのPerennicordyceps属菌に良く見られる先細り型。 このやや不規則な子実体の形状はかなり特徴的なので、属レベルで確信を持てます。 でももっと確信を持てるのは子嚢殻でしょうね。


■ 2023年06月18日 撮影

この子嚢殻を見れば虫草屋さんなら「これはPerennicordycepsだわ」と思われるでしょう。 大部分が菌糸で覆われて先端のみが露出し、頂部に丸みのある子嚢殻。 ツブノセミタケやクチキムシツブタケで何度も何度も見て印象付いた形状です。 ただ、明らかにそれらではないなと感じるものもありますね。


■ 2023年06月18日 撮影

違和感の正体、それは子嚢殻の色です。 ツブセミやクチキムシツブタケの子嚢殻は黄色〜オレンジ系です。 しかし本種の子嚢殻は明らかに赤みが強いのです。 アプリコットと言いますか、肌色的な色合いなんですよね。 これは野外観察の時点でも「おや?」と思っていたことでした。


■ 2023年06月17日 撮影

子嚢殻を切り出して顕微鏡で低倍率撮影してみました。 高さは400μmほどで安定しており、先端部がかなり丸みを帯び、尖りません。 また子嚢殻の基部から80%近くは白色の菌糸に覆われています。


■ 2023年06月17日 撮影

子嚢は成熟したもので300μm前後。先端に肥厚部があります。


■ 2023年06月17日 撮影

子嚢胞子の自然落下にも成功しました!糸状で長さは250μm前後。 未分裂のものもありましたが、ほぼ安定して128個の二次胞子に分裂します。 頑張って数えましたが、末端の胞子ほど長くなる性質があるようです。 この写真を撮れただけでも大成功と言えるでしょう。数えるの大変でしたけど。


■ 2023年06月17日 撮影

二次胞子も油浸対物レンズで撮影してみました。両端の胞子のみ弾丸形になります。 以上の胞子の特徴的も本種がPerennicordyceps属菌であることを示していると思います。


■ 2023年06月18日 撮影

また、今回は思い切って標本、と言うか宿主を切断してみました。 目的は宿主内部がどんな構造になっているかを確認するため。 そしてこの断面を見て、本種の宿主がヌメリタンポタケか春型タンポタケであると確信しました。 と言うのも、ハナヤスリタケが宿主であればここまで胞子形成が阻害されないからです。 勿体無いとは思いながらも思い切って標本をぶった斬った甲斐があったと言うものです。 あと宿主はやっぱり広義のアミメツチダンゴですね。


■ 2023年06月18日 撮影

またサイト掲載作業中に面白い気付きがありました。 それは柄の残骸だと思っていたこの部分。 縮小とトリミングを行っている際に表面がつぶつぶしていることに気付きました。 これひょっとして・・・。


■ 2023年06月18日 撮影

反対側から確認してみると、断面に縦長の子嚢殻が見えるじゃないですか! そう、折れた柄の途中だと思っていたこの部分は別の冬虫夏草の結実部だったのです! つまり本種が重複寄生の性質を持っていることの揺るがぬ証拠!これは嬉しい発見です。

食毒不明ですが、食べるなんてとんでもないくらい珍しい冬虫夏草です。 ベテラン虫草屋さんですら本種との出会いを切望するくらいには珍品。 もし見付けたら研究機関へと提供することをオススメします。 私も別サンプルを重複寄生菌の研究者さまに提供させていただきました。

■ 2023年06月17日 撮影

実はこの日、初めて発見したのはアミメツチダンゴ生のものではありません。 この日の本来の目的は前回訪れた際に発生が見られなかったクサナギヒメタンポタケでした。 するとこんなものが視界に入り、目的達成だと喜んでルーペを覗いてガッカリ・・・。


■ 2023年06月17日 撮影

クサナギヒメタンポタケだと思って子嚢殻を見たら見覚えのある形状の子嚢殻。 以前この近くでクチキムシツブタケを見ていたので、てっきりソレだと思い込んでしまいました。 ただ子嚢殻の色が妙に気になり、一応掘ってみることにしました。


■ 2023年06月17日 撮影

ピンセットを入れてすぐに「カリッ」と言う音がしました。何か前もこんなことあったぞ? 断面を作成すると出て来たのは虫ではなく黒いツチダンゴ!絶叫しちゃいましたよ。 恐る恐る青fungi氏に目をやると、状況が飲み込めていない様子。 と言うのも青fungi氏、本種の存在をそもそも知らなかったとのこと。 コラー!ちゃんと図鑑は読みなさい!


■ 2023年06月17日 撮影

念のためもう1個体も掘ってみると、やはり宿主は黒いツチダンゴ。 思えばこの場所は春にアマミカイキタンポタケが発生していた坪です。 つまり肌色胞子の黒いツチダンゴにアマミカイキタンポタケが感染し、 そのアマミカイキタンポタケにアマミツチダンゴツブタケが重複寄生していることになります。 ダブル奄美でややこしいですけど。


■ 2023年06月18日 撮影

帰宅後に黒バック撮影した黒いツチダンゴ生のアマミツチダンゴツブタケです。 こうして見ると違和感が凄まじいですね。 このサンプルは重複寄生菌を研究している方へと提供されました。 すでに興味深い結果が判明しており、発表されるのが待ち遠しいですね。

■ 2023年07月02日 撮影

月が変わって7月。複数人数で冬虫夏草オフが開催されました。 名目はアメジストの詐欺師氏がケカビを探したいと言う話にその他大勢が乗っかった形です。 この日も色々と大発見がありましたが、私の密かな目的は本種を新規発見すること。 実は本種はどろんこ氏が切望していた冬虫夏草でした。 ただ前回は十分な数のサンプルを確保できず、自分がぶった斬ったものと提供したものしか無かったのです。 結果は辛うじて1株ですが新規発生を見付け、どろんこ氏にお送りすることができました。


■ 2023年07月02日 撮影

クリーニング等はせずに発送したため、現地写真しかありませんが、 どろんこ氏も観察の結果気になっていたのはこの子嚢殻の赤さでした。 ひょっとしていままでツブノセミタケだと思ってスルーしていたのでは?とも思いましたが、 この子嚢殻の色は流石に記憶に無かったので、それは心配無用のようです。


■ 2023年07月02日 撮影

宿主はやはり肌色胞子の黒いツチダンゴ、つまりアマミカイキタンポタケですね。 本種の発生は偶発的な上に地域的にもかなり分散していることから、 以前から重複寄生菌ではと疑われていた種です。今後も継続して調査する必要がありますね。
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