■Pluteus umbrosus (フチドリベニヒダタケ)

■ 2022年09月25日 撮影

亜高山帯のブナ林で遭遇。毎度似た環境で出会うので暑がりな種なのでしょう。 以前から採取できない場所でばかり目にしており、ずっと撮影の機会を伺っていました。 今回は採取可能な場所での発見だったので安心して採取することができましたよ。 和名は「縁取紅襞茸」。「縁取」の意味は傘の裏側を見れば良く分かります。 夏から秋にかけて各種材上、特にブナなどの広葉樹材上に発生するややレア種です。

同じようにひだに縁取りがある同属菌にクロフチシカタケが存在しますが、 こちらは和名の通り黒い傘を持つ全くの別種です。 ちなみに種小名の「umbrosus」は「陰の」と言う意味なんですが、 普通にガンガン日光が当たる場所でばかり見ています。違うニュアンスなんですかね?


■ 2022年09月25日 撮影

ウラベニガサ属菌らしい華奢な柄と平らに開く傘が特徴的。 傘は黄土色を下地として暗褐色の鱗片に覆われます。 しかし鱗片の密度が部位によって異なり、中央を最も高密度として放射状の小じわ状濃淡を生じます。 この見た目はかなり特殊で似た種が存在しないので、本種と同定する際に重宝します。


■ 2022年09月25日 撮影

TOP写真のすぐ下、地面スレスレに生えていた大きめの子実体です。 放射状のシワと言う表現がピッタリだと思います。 放射状の網目模様にも見えるあたり、流石はカサヒダタケと同属菌だなぁと思ったり。


■ 2022年09月25日 撮影

1本裏返してみました。ひだは白色ですが、ウラベニガサ科の名に恥じず成熟すると紅色を帯びます。 しかしこのサイズに縮小してもハッキリとひだが確認できますね。


■ 2022年09月25日 撮影

本種が和名に「縁取」とあるのは、ひだの縁部に暗褐色の縁取りが存在するためです。 これによりひだ1枚1枚が強調されてクッキリと見えるワケですね。 このような特徴は同属菌のクロフチシカタケでも見られます。 柄は中空で傘より淡色ですが、微細な褐色鱗片に覆われるのは同様。


■ 2022年09月25日 撮影

マクロレンズで超拡大してみると、ひだの側面に褐色の点が見えますね。 これ実は大きな側シスチジアなんです。 ついでにネタバレしてしまえば縁部の縁取りは縁シスチジアだったりします。 つまり本種はシスチジアが褐色ってワケですね。


■ 2022年09月25日 撮影

帰宅して顕微鏡です。性格な観察には乾燥後に薄くスライスするのが最適ですが、 ぶっちゃけシスチジアと担子器と担子胞子だけが見たかったので適当に切片を作って観察してみました。 それでも十分すぎるほど分かる強烈な縁シスチジア・・・。


■ 2022年09月25日 撮影

ひだの縁部を拡大すると無数の褐色の縁シスチジアがビッシリ。 形状は棍棒形〜紡錘形とされていますが、ワリと丸みが強いように見えます。 これが肉眼的にもひだの縁取りとして見えていたと言うワケですね。 この倍率でもしっかりと色を有しているのが分かります。


■ 2022年09月25日 撮影

お次は担子器と側シスチジアですが・・・流石に生のまま切片を作るのは無謀だったか。


■ 2022年09月25日 撮影

それでも紡錘形の側シスチジアと担子器の胞子数は確認できました。 この側シスチジアがひだの側面に点々と見えていた茶色の粒の正体ですね。 担子器は最大4胞子性ですが、3胞子性と2胞子性が交じるようです。


■ 2022年09月25日 撮影

最後は担子胞子ですが、この属は基本的に似た胞子ばかりなのであまりアテになりませんね。 一応類球形〜広楕円形で、直径は4.5μm×6μmくらいのものが多いようです。 また内部に大きな油球様の内包物が確認できます。

あまり発生しない珍しいキノコであり、現在のトコロは情報不足もあって食毒不明です。 比較的食菌が多い本属ですが、一応毒キノコとされる種もあるので注意。 発生があまり多くないキノコなので、写真撮影に重きを置いたほうが良いかもですね。

■ 2013年09月14日 撮影

初発見は亜高山帯のブナ林でした。 この頃は少し前まで別種のクロフチシカタケと混同されていたのを知っていたので、 逆に頭に入っていて傘を見た瞬間に「あっ!」と思いましたね。 ただこの場所は保護区のため採取ができず、無理矢理裏側を撮影したのを覚えています。


■ 2013年09月14日 撮影

傘には独特のモヤモヤした模様が浮かび上がっており、いかにもって感じの見た目ですね。 良く見ると傘周囲に繊維状のフリンジのような物があります。


■ 2013年09月14日 撮影

国立公園内では取り外すことができないので、撮影に四苦八苦しましたよ。 ひだはほんのりピンク色で流石のウラベニガサ属って感じですね。 ひだの縁の濃色の縁取りがあるのもちゃんと写っています。 このような縁取りがある種は他の科や属にも存在し、ひだが凄く見やすくなりますよね。

■ 2014年10月04日 撮影

富士山のブナ林でどうも傘に見覚えの有あるウラベニガサの仲間を発見。 しかし二人とも名前は浮かんでたんですが、裏側を見ても特徴が無い・・・? 肉眼で見た時は気付かなかったんですが、写真で良く分かりました。


■ 2014年10月04日 撮影

暗い場所では良く分かりませんでしたが、ちゃんとひだに縁取りがありますね。 大台ヶ原は採取不可でしたが今回は大丈夫です。ひっくり返してみました。 柄は黄白色、表面に傘と同じ色合いの鱗片。下方ほど色が濃くなります。

■ 2017年07月01日 撮影

ブナ林帯新フィールド捜索中に発見。やはりブナ材がお好きなようですね。 ただ撮影中は傘の上にも居ますが凄まじい羽アリの群れが気になりました。

■ 2018年10月07日 撮影

初めて出会った地、大台ヶ原にて久し振りの再会を果たしました。 ツキヨタケがわらわら生えた倒木の端にチョコッと顔を出していました。 この乱れた放射状に濃淡を生じる鱗片は見ればすぐ本種と分かりますね。

■ 2018年10月07日 撮影

変形菌に取り囲まれるように小さな子実体を発見。 色合い的にはウリホコリかその近縁種あたりでしょうか?


■ 2018年10月07日 撮影

1つ前の写真の子実体はロープの外なので裏側が位置的に撮影不可能でした。 でもここはロープの際なのでカメラを地面に近付ければ撮影可能でした。 こうして見ると決して濃色ではないですがひだの縁取りが確認できます。

■ 2022年09月25日 撮影

今まで採取不可の場所だったり、色々あって詳しく調べずに終わったりと中途半端だった本種。 2022年になってしっかり顕微鏡観察まで済ませて無事TOP写真を差し替えることができました。 個人的にTOPにしたかったのが、この群生。 発生の様子がコケの背景と相まって非常に美しく、逆に勿体無くて抜けませんでした。
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