■Polycephalomyces formosus (シロサンゴタケ)

■ 2018年06月16日 撮影

ignatius氏主催のジムシヤドリタケ観察会にアメジストの詐欺師氏と一緒に参加した際に初めて目にしました。 和名は「白珊瑚茸」。本属の基準種であり、「Polycephalomyces」は「シロサンゴタケ属」です。 今まで分岐のほとんどないマユダマタケしか見たことが無かったため、初見の衝撃は凄まじいものでした。 非常に美しいアナモルフ菌類の冬虫夏草です。

マユダマタケ同様に本種は重複寄生菌であり、単独での感染も可能ですが他種の冬虫夏草への感染が多く見られます。 このグループには数多くの種が含まれていると考えられており、今後細分化される可能性は大いにあります。


■ 2018年06月16日 撮影

何と言っても美しいのはこの分岐した分生子柄束です。 マユダマタケがほぼ分岐しないのに対し、本種は数多くの枝分かれを生じます。 そのため全体的にボリュームが増し、また分生子柄が白色なのも手伝って清楚さすら感じるほどです。


■ 2018年06月16日 撮影

拡大すると分岐の末端はマユダマ型です。 この先端の丸い部分が結実部であり、この表面に分生子柄をビッシリ生じ、さらにその先端に分生子を生じます。 本属菌にはこの結実部が粘性を持つと言う特徴があります。

薬効の話を聞いたこともありませんし、形状やサイズ的にも食不適だと思います。 本種は単体で見れば美しいですが、普段は目的の冬虫夏草をダメにしてしまう迷惑な存在。 せっかくの冬虫夏草が重複寄生菌に感染してしまっていた時のショックはワリと大きい。

■ 2018年06月16日 撮影

冬虫夏草生体図鑑で写真は見ていたのでてっきりコウチュウ目か鱗翅目が宿主かと思ったら何とセミ? 断面作成してビックリしました。見れば別の冬虫夏草に重複寄生した痕跡が見えます。 実はこの場所はオオセミタケの発生坪。見えていたのはオオセミの古い柄だったのですね。 確かに特徴的な黄色い樹枝状の菌糸束が・・・。


■ 2018年06月17日 撮影

帰宅後にクリーニングしましたが、途中で幻覚を見るくらい気の遠くなるような作業でした。 オオセミタケに感染したため、結実部は消失していますが地下に特徴的な黄色い菌糸が残っていました。 また重複寄生は表面だけではなく全体に及んでおり、地下の巣穴内部にまでシロサンゴタケの分生子柄束が伸びていました。


■ 2018年06月17日 撮影

本種が美しく感じるのはやはりこの白さのせいでしょうね。 マユダマタケは分生子柄束が短い上に黄ばんだ色をしていることが多いので。 ただ本種も結実部は少し黄色みを帯びているのは同じです。


■ 2018年06月17日 撮影

しかし何と言っても撮影していて楽しかったのはこの巣穴の中の世界でした。 明らかにオオセミタケのそれではない純白の分生子柄束がセミの幼虫から吹き出しています。 しかしどこを見ても結実部は形成されていません。やはり地上に出ることが形成のスイッチなのでしょうか。 それにしても不気味で、それでいて美しい光景ですね。


■ 2018年06月17日 撮影

スライドグラスに結実部を押し当てると、肉眼でも分かるくらいに真っ白な粘液が付着しました。 これに水を加えてカバーガラスで封じ、低倍率で顕微鏡観察すると、おびただしい数の分生子が確認できました。


■ 2018年06月17日 撮影

油浸対物レンズで観察してみました。分生子は楕円形で長さは約3μm。図鑑通りだと思います。 ただこれはマユダマタケとほぼ、と言うか全くと言って良いほど同じです。

■ 2018年06月16日 撮影

ジムシヤドリタケに感染したシロサンゴタケ。 このフィールドではコメツキヤドリシロツブタケもジムシヤドリタケに重複寄生していました。

■ 2018年06月16日 撮影

多分これを見ても何が何だか分からないと言う方が多い気がします。 これ実はオオセミタケに感染したシロサンゴタケ。「毛虫」と呼んでいました。 先端が少し太くなっているのはタンポ型の結実部が中にあるためです。

■ 2018年06月17日 撮影

また別の毛虫を黒バック撮影してみました。良く見るとオオセミタケの結実部が見えていますね。 本来は時期的にとっくに朽ちているはずのオオセミですが、本種に寄生されることで長持ちするのだそうです。

■ 2018年06月16日 撮影

また毛虫があった!と真横にあった大きな枝を退けると、そこには非常に面白い光景がありました。 最初に見えていたのは重複寄生されたオオセミタケの結実部だけだったのですが、枝の下はワンダーランド!


■ 2018年06月16日 撮影

オオセミタケの結実部から発生した分生子柄束は黄色みを帯びていて短くマユダマタケっぽい雰囲気。 しかし枝に埋もれていた柄から伸びた分生子柄束は長く分岐の多いシロサンゴタケらしい雰囲気。 その双方が味わえる素晴らしい発生状態でした。 結実部から発生した分生子柄束が黄ばんでいるのは宿主の色素が移ったからでしょうか? それとも単に地上に露出して傷んだためでしょうか?・・・後者かな?

■ 2022年07月03日 撮影

ガガンボ氏主催の岡山遠征の2日目で初めて出会った冬虫夏草は本種でした。 地味に久し振りな出会い。嬉しかったのでしっかりと撮影しました。 重複寄生菌なので地下に他の冬虫夏草に感染した宿主が居るんでしょうけど、時間も無いのでそのままにしておくことに。


■ 2022年07月03日 撮影

拡大してみました。分岐する子実体と言うとホウキタケ系などが一般的ですが、本種は何か違うんですよね。 言語化が難しいですが「ねっとりと分岐」しているからでしょう。何と言うか菌類っぽい分岐なんです。 顕微鏡で見た菌糸の分岐みたいと言うか・・・だから魅力的なんでしょうね。
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