■Porphyrellus porphyrosporus (クロイグチ)

■ 2023年09月09日 撮影

何度も何度も登った富士山、そのコメツガ林内で見慣れない茶色いイグチを発見。 現地では何なのかサッパリ分からなかったのですが、帰宅後に正体が判明。 イグチのスペシャリスト牛研氏より本種が比較的珍しいイグチ「黒猪口」であると教えていただき、 その名前を頭に入れた状態で調べてみるとドンピシャリでした。 夏から秋にかけてトウヒやモミなどの亜高山帯針葉樹林に発生する冷涼な環境を好む種です。

富士山では比較的普通に見られる種のようですね。 以前はニガイグチ属とされていましたが、現在はクロイグチ属になっています。 ちなみに種小名は「porphyro-(紫色の)」「sporus(胞子)」と言う意味です。 その由来は後に胞子を顕微鏡観察した時に良く分かりました。 そもそもその意味だと属名自体が「紫色っぽい」と言う意味みたいですね。


■ 2023年09月09日 撮影

完全初見だったので見付けた時は「なんじゃこりゃ?」って感じでした。 子実体は全体的に暗灰褐色。図鑑によっては「タバコ色」と表現されます。 あまり見ない色なので、キノコ慣れしている人ほど違和感が強いと思います。


■ 2023年09月09日 撮影

傘はこげ茶色でビロード状。雨で濡れているので粘性があるように見えますが、 触ってみると別にベタベタしてはいません。


■ 2023年09月09日 撮影

この段階ではまだススケヤマドリタケ近縁種かな〜くらいに思っていましたが、 裏返してみると頭の中はクエスチョンマークが浮かびまくりました。 柄は傘と同色で基部は白色、ここまではまぁ横からも見えていましたが、 驚くべきことに管孔が灰褐色なのです。こんな色の管孔は見たこと無いぞ? ウラグロニガイグチとも違う独特な色合い、そして・・・。


■ 2023年09月09日 撮影

灰褐色の管孔には何と青変性があるのです。 いつも管孔にそのイグチの名前を書くことに定評のある私ですが、 マジで分からなかったのでこう書いています。


■ 2023年09月09日 撮影

切断して変色を見てみました。肉は白色です。 また傘近辺は青変しますが、柄や基部などは少し紅変するようです。 ただ紅変はかなり弱くて、良く見ると赤っぽいかな〜くらいのレベルです。


■ 2023年09月10日 撮影

帰宅後に細部を撮影してみました。まずは柄。網目は無いと思ってたんですが、 傘部分を取り外してみると柄の上部にのみ網目がほんの少しだけありました。 「柄の丈夫に網目」と言うともう少しあるイメージですが、本種はマジでオマケ程度です。


■ 2023年09月10日 撮影

柄の表面には網目は無く、遠目に見た時は平滑に見えたのですが、 マクロレンズで拡大してみると微細な暗褐色の鱗片がビッシリ覆っています。


■ 2023年09月10日 撮影

面白いのは管孔で、持ち帰ってみると灰褐色だったハズが赤みを帯びていました。 何か雰囲気が変わったなと思って管孔部をスーパーマクロ撮影してみると、 管孔部内壁に胞子が形成されたことで赤っぽくなっていたようです。 本種は胞子紋がチョコレート色であり、この胞子の色が学名の由来でもあります。


■ 2023年09月10日 撮影

傘の表皮細胞を顕微鏡観察してみました。 この段階ではまだ正体が分からなかったため、少しでも情報を得ようとしていた証拠です。 表皮細胞は菌糸が毛羽立ったようになっていました。ビロード状の正体はコレだったのか。


■ 2023年09月10日 撮影

傘の表皮細胞を顕微鏡観察してみました。担子器は見えにくいけど4胞子性かな?ちょっと自信無いです。 とりあえずシスチジアは先端が細く伸びた側シスチジアだけ観察しました。


■ 2023年09月10日 撮影

この胞子の撮影が決め手の1つとなりました。本種の胞子は楕円形〜紡錘形で複数の油球を内包しています。 特徴的なのはその色で、胞子紋がチョコレート色である点からも分かりますが、 本種の胞子は赤紫色っぽく見えます。種小名が「紫色の胞子」と言う意味なのも納得ですね。 未熟な状態だとほぼ無色みたいですが。

図鑑を見るに食毒不明のようです。 当初はニガイグチ属菌を疑っていたので勇気を出して齧ってみましたが、味は温和でした。 本種は北半球中北部に分布する冷涼な環境を好む種であり、発生はそこそこ稀みたいなので、 仮に可食でもわざわざ狙うようなキノコではないと思います。
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