■Puccinia kusanoi (ウツギさび病菌)
■ 2019年06月01日 撮影 クレマチスさび病菌を定点観察していたら今度はクワ赤渋病菌を発見。 まだあるんじゃないの?と数歩歩いたら居ました。担子菌門サビキン目の植物寄生菌類「ウツギさび病菌」です。 その名の通りウツギ類にさび胞子堆を形成します。 良く考えれば以前知らずに冬胞子堆を見ていました。冬虫夏草だと思ってましたけど。 本種は異種寄生性であり、2種類の植物間を行き来する宿主交代を行います。 ナシ赤星病菌のナシとビャクシンの関係を思い浮かべると分かりやすいかと。 植物寄生菌類は明確な和名を与えられていない種が多く、本種の和名も正確ではありません。 と言うのもウツギにさび病をもたらす種は同属に複数存在するためです。 また本種の場合はウツギとササ類を行き来し、その場合は「ササ類のさび病菌」や「アズマネザサのさび病菌」とも呼ばれます。 ナシの前例があるので今回はさび胞子世代の名前で掲載することにしました。 2020年3月の顕微鏡観察によって、類似種の「P. longicornis」でないことが確認でき、 ようやく学名が正しいことが証明できました。 ■ 2019年06月01日 撮影 遠目に見ても分かるその凄まじい症状。 ■ 2019年06月01日 撮影 葉の裏に明らかに病徴部らしきモノが確認できます。 単なる病斑と言うワケでもなさそうですね。 にしてもこの感じ、どこかで見たような・・・。 ■ 2019年05月19日 撮影 余談ですが、ここからは少し前の写真で解説。病徴部の状態はこの頃のほうが良かったので。 初発見は10日ほど前でしたが、この段階では樹種に自信が無かったのです。 葉の感じからウツギだろうなとは思っていましたが確信を得るために少し待っていました。 ■ 2019年05月19日 撮影 葉を上から見ただけだとただの黄色い病斑にしか見えませんが、裏返すと結構ビックリします。 これくらいならトライポフォビアの方でもギリギリ耐えられるかな? ■ 2019年05月19日 撮影 これこそ本種のさび胞子堆!感染部位は虫えいならぬ菌えいとなって肥大しています。 そして葉の裏側に特徴的なさび胞子堆を形成しています。 この段階でプクキニア科だなとは思いましたが、ウツギに感染する種が存在するとは思ってもいませんでした。 ■ 2019年05月19日 撮影 更に拡大してみました。コレ見て真っ先に思ったのは「ナシ赤星病菌っぽい!」でしたね。 と言うのも本種のさび胞子堆は本属菌に多く見られるカップ状ではなく、短いながらも筒状なのです。 ナシ赤星病菌の筒状の銹子毛と比べると短いですが、やはり雰囲気は似ていますね。 鮮やかなオレンジ色に見えますが、これは胞子の色が透けて見えているためです。 ■ 2019年05月19日 撮影 感染部位(菌えい)は周辺よりも肥大しており、さび胞子堆まずその周辺部に形成されます。 そのため小型の感染部位ではさび胞子堆が輪を描くように伸びてきます。 ■ 2019年05月19日 撮影 同じ葉を持ち帰って黒バック撮影したのですが、その間にさび胞子堆が開いてしまいました。 こうなると胞子が飛散し、感染が広がってしまいます。 我が家にはバイカウツギが植えられていますが、ササは近くにないので大丈夫かな? ■ 2019年05月19日 撮影 少し拡大してみましたが、これでもまだ小さいですね。もっと拡大してみましょう。 歯の表面にオレンジ色のさび胞子が飛び散っているのが分かります。 ちなみに右の大きな感染部位で直径が2mmです。ルーペが必須の世界ですね。 ■ 2019年05月19日 撮影 「MP-E65mm F2.8 1-5×マクロフォト」で撮影したさび胞子堆です。 植物寄生菌類ではありますが、美しすぎませんかね?何なんだこの優雅さは。 さび胞子堆は短い筒状で、この筒は護膜細胞と言う特徴的な細胞で形成されています。 やがてこの護膜細胞は先端から破れて花のように開き、筒内部のさび胞子が露出します。 ■ 2019年05月19日 撮影 顕微鏡観察してみました。左がさび胞子で右が護膜細胞です。 護膜細胞は多角形で表面は微細なとげに覆われています。 ■ 2019年05月19日 撮影 さび胞子を観察してみました。直径30μmほどのややいびつな球形です。 非常に観察しづらく、深度合成して何とか写せましたが、表面は小疣に覆われています。 確かに左のさび胞子の表面を見るとつぶつぶが見えますね。 まぁ当然ですけど食えるわけないです。病気の葉ですよ。 むしろ宿主交代先が近距離にある場合は園芸的に大打撃を被る可能性があるので注意です。 ウツギは庭木としても人気ですし、近くにササが生えているような環境は拡散防止せねば。 ■ 2019年06月16日 撮影 左が例のウツギですが、その周囲は見事にササだらけです。 そりゃこれだけ隣接していたらあんな惨状にもなりますわな・・・。 ■ 2019年06月16日 撮影 ウツギの周辺のササを手当たり次第にめくって行くと、何か怪しい褐色の病斑を発見。 以前見た冬胞子堆とはまた異なる形状ですね。 ■ 2019年06月16日 撮影 これがササ類のさび病菌の夏胞子堆です。 ウツギ上のさび胞子堆から飛散した胞子はササ類に感染し、このような病徴を形成します。 まだこの程度ならマシで、酷いと広範囲に褐色の病斑が広がります。 ■ 2019年06月16日 撮影 高倍率のマクロレンズで撮影してみると、この病斑は胞子の塊であることが分かりました。 密集しているとすじこみたいですね。ポロポロ崩れて周囲に飛び散っています。 ■ 2019年06月16日 撮影 夏胞子は球形で厚膜。表面にやや大型のとげが間隔を開けて存在するのが特徴です。 さび胞子は全く異なる形状ですね。同じ種の胞子とは到底思えません。 これでまた冬胞子は全然違うんですからね。ややこしいったらありゃしない。 ■ 2019年06月16日 撮影 横倒しの胞子を見ると1ヶ所だけ少し長く伸びている場所が存在します。 これは胞子形成時に繋がっていた痕跡かな? 発芽孔は赤道部に見られ、この写真でも写真上側の外皮にあるのが分かります。 ■ 2020年03月12日 撮影 仕事中にフィールドの近くまで来ることがあったのでチラ見しに行ったら、普通に居ました。 私がこの場所で最初に見たのはこの姿!冬胞子世代です。 デジカメが無かったのでスマホのカメラで撮影。これは近く出直しかな? ■ 2020年03月12日 撮影 帰宅後にマクロレンズで撮影してみました。このボサボサした塊が本種の冬胞子堆です。 ナシ赤星病菌で言うトコロのビャクシンさび病菌状態ですね。確かに色も良く似ています。 初見時はカイガラムシの冬虫夏草だと思い込んでいました。未熟・・・。 ■ 2020年03月12日 撮影 冬胞子堆を拡大してみました。色は暗褐色で少し赤みがあります。 何となくツブツブして見えるのは冬胞子が見えているためですね。 サビキンの冬胞子は2胞子性で大型のため、ある程度の拡大機能があれば見えちゃいます。 ちなみに白く粉を吹いているのは胞子を形成しているためですね。 ■ 2020年03月12日 撮影 冬胞子堆を葉ごと切断して低倍率で顕微鏡観察してみました。 感染部位はこんな感じで冬胞子の塊になっています。 正確には中心部からへその緒のようなもので繋がり放射状に並んでいます。 ちなみに膨張する部位が存在しないため、ギムノスポランギウム属菌のように給水で変化しません。 ■ 2020年03月12日 撮影 少しほぐしてみると本種の冬胞子の形状が見えて来ます。 ■ 2020年03月12日 撮影 これが本種の冬胞子です。後述しますが、この形状が確認できたのがデカいんですよね。 冬胞子はプクキニア科らしい褐色の2胞子性で、2つの胞子がくっ付いたような形状。 冬胞子堆の外側を向いていた一端はやや尖り、もう一端はへその緒状のもので植物体に繋がっています。 薄っすらと核が透けて見えていますね。 ■ 2020年03月12日 撮影 倍率を上げて油浸対物レンズで観察してみました。 どう見ても精子です。ほんとうにありがとうございました。 ■ 2020年03月12日 撮影 良く見ると先端部に亀裂が入り、発芽が始まっていました。 ここで詳しく解説しますが、似た冬胞子堆を形成する種に同属の「P. longicornis」が存在します。 本種とは肉眼では区別できず、しかもセカンダリホストが同じウツギなので同定に確信が持てませんでした。 しかし「longicornis」はラテン語で「長い角の」の意味であり、この種は冬胞子の先端が長く伸びるのが特徴。 そしてこの淡色で鈍頭な先端こそ「P. kusanoi」の特徴でもあります。 これでようやく本種の学名に確信が持てました。 ■ 2020年03月12日 撮影 先端部に入った亀裂から発芽管が伸び、それがやがて担子器に変化します。 本種は担子菌門サビキン目であり、れっきとした担子菌類ですからね。 そして担子器から伸びた小柄の先端に担子胞子が形成されます。 胞子の内容物は担子器に移動して透明となりますが、不思議ともう1つの胞子は発芽しませんでした。 ■ 2020年03月12日 撮影 担子器に移った内容物はさらに形成された担子胞子に移動し、やがて担子器自体が萎れます。 表面が白い粉を吹いていたのはこの状態のようですね。 ■ 2020年03月12日 撮影 そしてこれが感染の最終段階、担子胞子です。 冬胞子の状態では感染せず、担子胞子がウツギへの感染能力を持ちます。 すでに担子胞子が発芽し、菌糸を伸ばし始めていますね。 この菌糸がウツギの葉に侵入し、春に見たあの特徴的なさび胞子堆を形成します。 ■ 2020年03月15日 撮影 スマホのカメラでは何か満足できなかったので休日にリベンジ! うーんやっぱ良い雰囲気の写真が撮れますねぇ。やっぱ絞りが影響デカいんでしょう。 ■ 2020年03月15日 撮影 室内でのマクロ撮影も良いですが、やっぱ屋外で撮ると自然な光で良いですね。 探してみるとまだあまり担子器を形成していない、本来の色合いの冬胞子堆が沢山見付かりました。 ■ 2020年03月15日 撮影 担子器が形成されていない状態だとこんな感じで良く炒めたタマネギみたいな良い色合いです。 冬胞子が露出しているためか少し透明感があり、光に透かすと意外とキレイですね。 ただこの規模の感染となるとウツギはたまったものではないでしょうけど。 ■ 2020年04月25日 撮影 3月中旬はまだ葉が出ていなかったウツギ、一月以上経ってから訪れてみると葉を展開していました。 そして昨年の感染状況から予想していましたが、良い感じに感染していました。 これで本種のほぼ全ての段階を見れたと思います。 ■ 2020年04月25日 撮影 昨年の初見時はすでにさび胞子堆を形成してしまっていました。 その前段階が見たかったのですが、狙い通り成功しましたね。 ちなみに撮影中に左からクモがスーッと登っていったのですが、撮り逃しました。 ■ 2020年04月25日 撮影 葉の表面を見ると病斑部にオレンジのツブツブが形成しています。 これ葉の表側なのでさび胞子堆の出来始めじゃないですよ?これが本種の精子器です。 ここから蜜液と共に精子滴が分泌され、ここで交配が行われます。 これは同じプクキニア科のナシ赤星病菌などでも見られる同様のプロセスです。 ■ 2020年04月25日 撮影 帰宅後にマクロレンズで撮影してみた精子器です。確かに液体が分泌されていますね。 この液体は実際に甘いそうで、これで昆虫を寄せて交配を手伝わせるのだそうです。 でも流石に舐める度胸は無いなぁ・・・。 ■ 2020年04月25日 撮影 同じ枝に付いていたもっと若い感染部位です。 ■ 2020年04月25日 撮影 担子胞子が侵入した部位から綺麗に円形に感染部位が広がり、規則正しく精子器が形成されています。 植物の病原菌とは言え美しさすさ感じられますね。 そう言えば宿主がウツギなので星状毛もバッチリ写ってますね。 ■ 2020年06月06日 撮影 4月末以降、いつもの場所には行っていなかったのですが、別の場所で遭遇しました。 ここもアケビさび病菌やらタケ天狗巣病菌やらが居り、植物寄生菌類は集中しやすいのかも? まだ「P. longicornis」の可能性もありますので、まずは夏胞子から確認しようと計画中。 ■ 2020年06月06日 撮影 感染状態はこんな感じ。上の写真にも写っていますが、当然ながら周囲はササだらけです。 ウツギとササは不思議とかなり近距離に生息していることが多いですね。 ■ 2020年06月06日 撮影 そう言えば葉の表側から撮影した写真が意外にもありませんでしたね。 4月はまだ精子器しか見られなかった葉も立派な黄色の病斑になっています。 花は全て散ってしまっていたので、満開のタイミングくらいが一番被写体的には良いかな? まぁ「病気の見頃」ってのも変な言い方ですが。 ■ 2020年06月06日 撮影 裏側はこんな感じでさび胞子堆が形成されています。 意外にも小さな病斑はさび胞子堆がまだ見られません。 ■ 2020年06月06日 撮影 さび胞子堆を拡大してみましたが・・・何か長くね? いや、本種は元々さび胞子堆がコップ状ではなく、比較的長くなる種ではあります。 ですがこれはちょっと伸びすぎか? この場所は茂みのかなり奥まった場所で初発見場所よりも高湿度環境なので、それが影響しているのかも。 まるでナシ赤星病菌の病徴みたいですね。 ■ 2020年06月06日 撮影 タッパーに入れて持ち帰ったのですが、帰宅して確認したら花開いていました。 タッパー内の高湿度に刺激されたかな? ■ 2020年06月06日 撮影 マクロレンズで可能な限り寄ってみました。いやぁ美しい! まるでタンポポの茎の水車みたいな感じでパッと花開いています。 この状態が個人的には一番キレイだと思っています。 ナシ赤星病菌はこんな感じで裂けませんからね。 |