★Purpureocillium atypicolum (クモタケ)

■ 2023年06月24日 撮影

初発見は2007年。それ以降ずっと地元の公園で出会い続けている常連さん。 その後発生量が減少しましたが、地元の別の場所でかなり安定したフィールドを発見しました。 2023年は大発生!主にトタテグモ類に感染する冬虫夏草の1種「蜘蛛茸」です。 発生時期は梅雨時の6月。巣が浅いキシノウエトタテグモが主な宿主です。 かつては日本固有種と思われていましたが近年海外でも見付かっています。

以前はイサリア(Isaria)属でしたが、その後ノムラエア(Nomuraea)属に変更。 さらに2015年になって現在の学名へと変更がなされました。 また種小名も「ジグモ(Atypus)」に因むので、本種の性質に合っていません。

有性世代は「Ophiocordyceps cylindrica (イリオモテクモタケ)」。 しかし完全世代の発生は極めて稀であり、発見例は不思議と南方に限られています。 有性世代には他の冬虫夏草同様、結実部表面に埋没した子嚢殻が存在します。 分類的にはOphiocordyceps属に置くのが妥当なのではないかと思われます。 新分類ではどちらかへの統一となるので、実際にはどうなってるんでしょう?


■ 2023年06月24日 撮影

本種はアナモルフ菌類なので、正確には子実体は分生子柄束と言うことになります。 ただあまりにも大きすぎるので分生子柄束には見えないんですけどね・・・。 子実体の先端に見える薄紫色のコナコナしたものが本種の分生子です。


■ 2023年06月24日 撮影

今回TOP写真を差し替えてるんですが、その理由は今回断面作成を頑張ったためです。 今までは発生状態か掘り採った後ばかり撮影していたんですが、 発生位置が絶妙でコレがチャンスとばかりにチャレンジしました。 本種は巣穴の内壁に糸を張って作られたキシノウエトタテグモの巣穴の中の宿主から発生します。 そのため周囲の土を掘って行くと薄皮のような巣が現れます。


■ 2023年06月24日 撮影

周囲を崩さないように巣を破ってみると、こんな感じで全体像が露わに! 左奥に見える白い塊が宿主で、そこから巣穴の中を繊維状の柄が進み、 巣穴の蓋を律儀に開けて地上に現れると言う構造です。


■ 2023年06月24日 撮影

慎重に取り出してみました。全体像はこんな感じです。 巣穴の中には分生子は作られないあたり、考えてますねぇ。


■ 2023年06月24日 撮影

宿主のキシノウエトタテグモはこんな感じでスービクルと言う菌糸に覆われています。 菌糸は分厚くて宿主はほとんど見えませんが、良く見るとクモの脚が見えてますね。


■ 2023年06月24日 撮影

帰宅後に黒バック撮影してみました。クリーニングはほとんど必要無い感じですね。 他の冬虫夏草でも言えることですが、宿主のワリにデカいですね、子実体が。 あの宿主のどこにこれだけのキノコを成長させるほどの栄養が詰まってるんでしょう?


■ 2023年06月24日 撮影

子実体は細長い棒状で若干曲がりくねっており、全体的に白色繊維状。 しかし蓋を開けて巣穴の外に出ると分生子を形成して薄紫色の粉状になります。


■ 2023年06月24日 撮影

結実部を拡大してみました。分生子形成初期はしっかり付いていますが、どんどん崩れて周囲に撒き散らされます。 運搬中にも撮影中にもバラバラ落ちるので結構困るんですよねコレ。 有性世代になるとこの部分に子嚢殻が形成されるのですが、果たして見れる日は来るのでしょうか?


■ 2023年06月24日 撮影

分生子を顕微鏡で観察してみました。形状は楕円形と思いきや両端が丸い円筒形です。 大腸菌みたいな形状で、両端付近に油球のような内包物が確認できます。 粉状の分生子は水を弾くので水封が難しいため、一度無水エタノールで封入した後に水を混ぜて撮影しました。


■ 2023年06月24日 撮影

今回チャレンジしたかったのはスービクルを剥がして宿主を確認することでした。 初発見時に挑戦したのですが、宿主がグズグズに溶けていて断念したんです。 しかしあれから7年も経っている!少なくとも技術は上がっているだろうと久し振りの挑戦! 結果は大成功でした!しかも色々と新しい発見もありましたね。


■ 2023年06月24日 撮影

まず驚いたのが、表面が菌糸状だったのに対して内部が半透明で多汁だったこと。 質感も変わっていて、ジャクジャク掘って行く手触りが何とも不思議な感じ。 そして宿主はしっかりとボディラインを残すことができましたが、 脚とは違って外骨格がほとんど無い腹部は溶けちゃうみたいですね。 前回チャレンジした時に崩れてしまったのは失敗と言うワケではなかったようです。

見た目からも分かりますが食不適です。薬効成分も特に無いみたいですし。 本種は冬虫夏草の中でも特にヒトの生活圏の近くに発生する種の1つであり、 冬虫夏草の入門種としては非常に優れています。

■ 2007年06月30日 撮影

初発見時に巣穴を覗いた時の一枚。見なきゃ良かった


■ 2007年06月30日 撮影

掘り出してみました。巣穴が潰れたのかスービクルが土塗れになっています。 しかしじっくり見ると端の方に犠牲となったトタテグモの足がチラッと・・・。

■ 2014年06月28日 撮影

本種は地元の公園で安定して発生が見られます。 キノコを探し始めた初期の頃から存在だけは知っていましたからね。 ただ宿主がどう言う状態か大体想像がつくので、中々掘る気になれませんでしてね・・・。


■ 2014年06月28日 撮影

あまりやりたくはないんですが、撮影のため掘り起こしてみました・・・。 巣ごと掘り出したのでまだ袋状の巣に包まれており形が安定しています。


■ 2014年06月28日 撮影

巣を切り開いてみると哀れ犠牲となってしまったトタテグモさんの亡骸が。 死骸の表面はスービクルと言う白色の菌糸がびっしり覆っています。 本種の胞子に感染した蜘蛛はじわじわと命を奪われてこのような姿に。 子実体は淡紫色の結実部と白色の柄からなります。

■ 2014年07月05日 撮影

幼菌を発見しました。宿主の作った蓋を押し開ける姿が不気味だと思う私。 隣の家の人を急に見なくなったと思ったら、別の人が住んでいたと言う感じ。 考えれ見れば完全防御の巣穴の主を殺して乗っ取るとはまた良い作戦ですね。 良く見ると柄が見えており、ここから頭部が一気に成長するんでしょうね。


■ 2014年06月28日 撮影

実は本種はトタテグモ類の発見に役立ちます。こんな巣絶対気付きません。 普段は気付かないけどこのキノコの発見で蜘蛛が居ると分かる事も有ります。

■ 2015年06月13日 撮影

今年もやって来ました梅雨と言えばクモタケ!案の定発生していました。 前回と全く同じ場所ですが、今回は他の場所にも発生が確認できました。


■ 2015年06月13日 撮影

表面の分生子を拡大してみました。少し禿げて地肌が見えちゃってますね。 粉状なので崩れやすく、撮影中も風で垂れ下がった部分が揺れていました。

■ 2015年06月13日 撮影

この日見た中で一番綺麗な子実体でした。蓋を開けてる感じが良いですねぇ。

■ 2015年06月13日 撮影

本種は冬虫夏草としてはかなり肉質が脆く傷みやすいのが難点なんですよね。 先に掘り出した2株は内部が完全に腐っていて標本として不適でした・・・。 何とか綺麗に掘り出せましたが振動で分生子が全部散ってしまいました。 宿主は真っ白なスービクルに覆われて全く見えません。剥いてみましょう!


■ 2015年06月13日 撮影

帰宅後クリーニングを行い、白い菌糸をピンセットでひん剥いてみました。 すると何と内部は半透明だと?硬めのゼリーみたいな感触で驚きました。 中にはキシノウエトタテグモ。腹部は萎んでいますが他は保存状態良し。

■ 2016年06月11日 撮影

シイノトモシビタケを見に行く前にいつもの自然公園に立ち寄りました。 昨年もこの時期に2種類とも見てるんですよね。発生時期のヒントかな?


■ 2016年06月11日 撮影

バカ高いマクロレンズで表面の分生子を野外で可能な限り拡大してみました。 細かな粉にしか見えませんが、成熟前はフィアライドが単独で確認できます。 やがてこのボサボサの先端部に粉状の分生子が形成され粉っぽくなります。

■ 2016年07月09日 撮影

青fungiさんにガガンボさんと一緒に地元の山を案内して頂いた時に大発生。 もう道中何株見たかってくらいの発生量。地元もここまでじゃないですね。 と言うか直立は初見でした。地元は何故かみんな斜面から出ています。

■ 2017年06月11日 撮影

オイ同定間違ってンぞ!」って言われそうな写真ですね。合ってます。 twitterで指摘して頂き、以前その方の写真で見たのを思い出しました。 ただこの段階ではクモタケかどうか確定することはできていませんでした。


■ 2017年06月11日 撮影

宿主はアシダカグモ科のようです。脚の模様的にコアシダカグモかな? 腹部を中心に菌糸が張り出しています。これスービクルだったんですね。


■ 2017年06月26日 撮影

2週間ほど経ってから再度訪れてみると・・・その様子が激変!


■ 2017年06月26日 撮影

こっ・・・この独特な淡い紫色は・・・クモタケだ!ハイわざとらしいです。 実はクモタケのホストってキシノウエトタテグモだけじゃないんです。 その場合は分生子柄は無く、体表のスービクルに直接分生子を作ります。


■ 2017年06月26日 撮影

風雨で脚が欠損していましたが、持ち帰って黒バック撮影してみました。 気になったんですが、調べるとアシダカグモの仲間が宿主の写真ばかり。 トタテグモ専門ではないにせよ、ある程度は宿主特異性が有りそうです。

■ 2017年06月24日 撮影

八丈島遠征で出会ったクモタケ。有るとは聞いていましたがここでは初遭遇。 夜の段階で発見していましたが、色が分からず朝になって判明しました。 南方ではテレオモルフが出るとの事ですが、八丈島では未確認みたいです。

■ 2017年06月26日 撮影

普通のクモタケもちゃんと出ていました。梅雨の顔ですからね〜キミは。 ただ撮影寸前に風で草が揺れ、かすめてキズモノになってしまった・・・。

■ 2017年06月26日 撮影

以前分生子柄にアリが集っている写真を見た事を思い出した一枚です。 撮影中ずっと巣穴の周りを1匹のクロオオアリがウロウロしていました。 これ身体に分生子を付けた状態でトタテグモがアリを捕らえたら・・・。

■ 2018年06月02日 撮影

冬虫夏草シーズンを告げる本種、今年も無事出て来ました。 ちょうどフタを押し開けて顔を出している状態でした。可愛いですね。奥に見えるのは死骸ですが。

■ 2018年06月02日 撮影

今年は暖かくなるのが早かったので6月初旬ですでに立派な姿が見られました。 斜面に分生子が積もって地表が紫色になっています。 やっぱここを歩いたアリとかの身体に分生子が付着して、それを捕まえた際に感染するんでしょうか?

■ 2018年06月30日 撮影

クモタケもそろそろシーズンオフ。そう言えば顕微鏡観察をしていないなと思い採取してきました。 流石にどれも小さいものばかり。むしろ残っていてくれて良かったと思います。 冬虫夏草は旬が短いので1週間前後するだけで状況が一変しますからね。


■ 2018年06月30日 撮影

上がクモタケの分生子で下に見えるのが分生子柄とその先端の細胞(フィアライド)です。 普段見ている棒のような子実体は分生子柄束で、この分生子柄が表面にビッシリ存在します。 そしてこの分生子柄の先端のフィアライドのさらに先端に分生子が形成されると言う順番です。 分生子は薄紫色で先端の丸い円筒形です。

■ 2019年06月29日 撮影

青fungi氏と実施した京都冬虫夏草オフ!・・・と言いたいトコロなのですが、残念ながら不作でした。 そんな中で最も沢山見付かったのは本種でした。しかもどれも中々に状態が良かったです。 本種の分生子の量の多さが良く分かる一枚。

■ 2019年06月29日 撮影

雨が降った後なので水滴が乗った子実体が。 水滴が分生子を絡め取っているので白く濁って見えるのが面白いです。

■ 2019年06月29日 撮影

青fungi氏と二人で驚きの声を上げた光景です。何とクモタケが朽木から発生しています! あまりカメラを取り出さなかった青さんもこればかりは流石に見逃せなかった模様。 トタテグモの仲間には樹上性のキノボリトタテグモが存在します。 2人とも当然それは知っていましたが、巣の形状の違いから宿主がキシノウエトタテグモであると判明しました。


■ 2019年06月29日 撮影

後々知ったことですが、キシノウエトタテグモは腐朽が進んだ材に営巣することもあるそうです。 にしても地上に比べて材上ではあまり子実体が汚れないようですね。とても整った形状をしています。 キノボリトタテグモではなかったのはちょっと残念ですが。

■ 2019年06月29日 撮影

朽木生のクモタケとは珍妙な・・・と思っていたら少し離れた別のフィールドでも発見! そんなに珍しいものでもないのかな?倒木の多さなど環境によるとは思いますが。

■ 2019年06月29日 撮影

旧TOP写真です。本種は身近なので頻繁に入れ替わりが起きてますね。リネームが大変よ。 日付を見ても分かるように青fungi氏と一緒にフィールドを回った際のものです。 材から出た子実体と同じ場所でしたが、こちらはちゃんと斜面から出ていましたよ。


■ 2019年06月29日 撮影

まだあまり分生子が飛んでいないので形状が整っていますね。 ただ左下が少し擦れたのか、ごっそり分生子がありません。 この日は多数の本種を見ることができた「クモタケデー」でした。

■ 2020年06月27日 撮影

いつも出る場所が草刈りで下草を丸裸にされ、日照によって乾燥してしまいました。 探せども探せども見当たらず、ここには出ないのかとトボトボ歩いたら普通に居ました。 しかも人の往来が激しい自然公園の切れ目、太い車道に面した場所に! 意識していないので当然通行人は気付かず。実はコレがキノコ狩りの事実なんですよね。 意識していないものは存在しないのですよ。

■ 2020年06月27日 撮影

twitterに投稿したら意図せずウケた1枚。笑った顔に見えるそうです。あー・・・確かに。 1つ上の写真でもそうですが、ここは土が硬いのか巣穴が浅いためスービクルに包まれた宿主が入り口から近いですね。

■ 2021年06月05日 撮影

晴れた日が続いていたことと、近年周囲の低木の伐採で乾燥化が進んでいる地元の公園。 年々発生量と発生範囲が減少しているのが気になるトコロです。 被写体を探すのが大変で選り好みしてる場合じゃないですね。

■ 2021年06月05日 撮影

これが俗に言う「仲良死」と言うヤツでしょうか。10cmほど間を空けて2個体出ていました。 知らない間に隣室の居住者が・・・って考えると怖い状況ですね。しかも明日は我が身なんですから。 とりあえず一応毎年出てはいるので、近くにも発生地があるかも知れません。 フィールド訪問時に意識しておきます。

■ 2022年07月16日 撮影

以前から怪しいなと思っている斜面がありました。 今まで車で目的のフィールドへ向かう道中だったので停車することがありませんでしたが、 何気無しに見に行ってみると案の定クモタケ天国!そりゃこの感じならあるよねぇ! 今まで観察していた自然公園で激減していたので嬉しい出会いです。

■ 2022年07月16日 撮影

たまに居ますよね、この先端がカールした子実体。 日付に注目。今までは全て6月中の撮影で、6月末だとギリギリと言う印象でした。 しかしここは若干山奥とは言え普段から凶悪な厚さを誇る低地なので、7月中旬で見られたのは驚き。

■ 2022年07月16日 撮影

この日のベストショット。降り積もる分生子が何か良い感じで気合い入れて撮りました。 緑色の地衣類と薄紫色の分生子のコントラストが良い雰囲気を醸し出していました。

■ 2022年07月16日 撮影

実は今回はTOP写真差し替えのために断面作成と標本採取を考えていました。 しかしこの撮影の直前にバケツをひっくり返したような豪雨があり、土はどろどろ。 少し掘っただけで子実体や巣がどろだらけになってしまいました。 またやはり少し発見が遅かったようで、宿主は大半がドロドロで跡形も無し。 これは来年もう少し早い時期にリベンジする必要がありそうですね・・・。 このクモタケも周囲のコケの背景が凄く気に入っている1枚です。

■ 2023年07月01日 撮影

冬虫夏草が多い沢筋を歩いていて懐かしいものを発見。 以前も見たことがあるアシダカグモ生のクモタケが見付かりました。 暗色の材に付いていたのでライトで照らすと良く見えますね。


■ 2023年07月01日 撮影

暗い場所だったのでLEDライトをフラッシュ代わりに撮影。 宿主は特定できませんが、アシダカグモ系であることは間違い無いですね。 このような発生状態の場合は明確な子実体は形成せず、体表を分生子が覆うのが特徴です。 同じ種だとは思えないほど見た目が異なりますが、調べてみると分生子はしっかりクモタケです。

■ 2023年07月08日 撮影

舗装道を歩いていて思わず声が出てしまいました。 何と地上部の長さ脅威の8cm!ここまで長い分生子柄束を見たのは流石に初ですね。 ここまで大きいと言うことは宿主の栄養状態が相当良いのでしょう。


■ 2023年07月08日 撮影

ここまで大きいと探そうとしていなくても自然と目に入るレベル。 この場所は地形的に湧水があるのか一年中土に湿り気を感じます。 宿主もですが、菌的にも生育しやすい環境が整っているのでしょう。

■ 2023年07月08日 撮影

このフィールドは大型の子実体が良く見付かります。これも相当大きいですね。 来訪者の多い遊歩道なんですが、ほとんどの方はスルーしているんでしょう。
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