■Rossbeevera griseovelutina (ネズミツチダマタケ)

■ 2023年05月27日 撮影

本属菌としては地元で初めて出会った種でした。その後は安定して見れています。 春から秋にかけてシイカシ主体のブナ科広葉樹林地上に発生する地下生菌「鼠土玉茸」です。 その名の通りねずみ色のちょっと小動物チックな見た目の愛らしい種です。 こう見えてイグチ科のキノコであり、クロヤマイグチ属に近縁であることが分かっています。 なお種小名の意味は「griseo-(灰色の)」と「velutina(ビロード状毛の)」で、まさにネズミ!

一緒に地下生菌探索させて頂いたこともある折原貴道氏によって2012年に命名されたばかりの新人さん。 同じロスビーベラ属菌のアオゾメクロツブタケとは変色性の弱さや胞子の大きさで区別できます。


■ 2023年05月27日 撮影

子実体は類球形で基本的には白色ですが、表面に灰色の微毛が生えているのが特徴。 大きくなると表皮の成長とともにまばらになりますが、、幼菌時は全体が灰色の毛に覆われます。 この質感はとても小動物チックで可愛いですね。地下生菌としては子実体は結構大型です。


■ 2023年05月27日 撮影

本種は元々傘と柄を持つキノコ形のキノコから進化した種です。 そのため地下生菌に進化した今でもかつてのキノコ形だった頃の名残りを有しており、 こうして地面から引き抜いてみるとそれが分かります。 地面に接していた部分に柄の名残りだった突起が存在するのです。 これは無性基部と呼ばれ、ハラタケ型の地下生菌には結構見られる特徴です。 また外生菌根菌でもあるため、無性基部から根性菌糸束が伸びています。


■ 2023年05月28日 撮影

帰宅後に黒バック撮影してみました。表と裏、両側からの撮影です。 確かに形状だけなら同属菌のアオゾメクロツブタケに似ていますが、 変色性はちっとも感じられません・・・。


■ 2023年05月28日 撮影

今度は縦に切断したものを並べてみました。中央下の透明感がある部分が無性基部です。 グレバは最初はこんな感じで白色ですが、成熟すると褐色に変化します。 また肉には一応弱い青変性があるのですが、本当に弱くて辛うじて分かる程度。 他の同属菌に強烈な青変性を持つ種が存在するので、どうしても霞んじゃいますね。 にしてもやっぱイグチ科はキノコバエの幼虫に人気ですね。胞子拡散のお手伝いかな?


■ 2023年05月28日 撮影

グレバと無性基部の境界部分を拡大してみました。 グレバは小腔室と言う小さな空間が迷路状に入り組んだ構造。 これはイグチの管孔が折り畳まれたような構造であり、内壁に担子器が存在します。 柄の名残りの無性基部は普通の繊維状の菌糸で構成されています。


■ 2023年05月28日 撮影

グレバをカミソリで薄くスライスし、顕微鏡で観察してみました。 小腔室内壁には担子器が並んでおり、これがひだ(管孔)だったのだなと分かります。 まだ未熟な胞子が多いですが、お陰で本種の担子器が2胞子性なのが確認しやすいです。


■ 2023年05月28日 撮影

担子胞子は紡錘形。レモンやラグビーボールみたいな形状です。 1〜2個の大きな油球を内包していることが多いですね。 また中央上のやや角度の付いた胞子を見ると分かるように4本の肋が存在します。 横倒しの胞子だと被膜のように見えますが、縦方向から見ると4方向に隆起しているのが分かります。

何とも言えないキノコ臭とも違う香りがします。これで野生動物を寄せて胞子散布させているのでしょうか? とりあえず食欲が湧く香りではないですが、情報不足のため食毒不明としておきます。

■ 2018年06月09日 撮影

初発見は6月2日。アマミカイキタンポタケ発見に沸いた直後に広葉樹林の斜面に埋もれいるのを発見。 その段階ではやや未熟だったため1週間後に再訪し、無事成熟個体に出会えました。 旧TOP写真でしたが、若干古い状態だったので2023年に差し替えました。


■ 2018年06月09日 撮影

2株同時に出ていました。地下生菌と言うワリには意外と露出しています。


■ 2018年06月09日 撮影

子実体は球形で直径は1cmちょい。大きいものでは4cmにまで達するようです。 外皮表面はフェルト状で触ると弾力があります。 表面はねずみ色を帯びた白色ですが、青変性があるため少し青っぽくなっています。


■ 2018年06月09日 撮影

採取したものを帰宅後にクリーニングし黒バック撮影しました。 元々ハラタケ型から進化した地下生菌なので、基部に柄の名残があります。


■ 2018年06月09日 撮影

柄の名残を通過するように切断すると無性基部が視認しやすいです。 グレバには弱い青変性があるのですが、成熟すると分からなくなっちゃいますね。 それでも柄の部分は明確に青くなっています。 グレバは茶褐色で迷路状に孔の開いた小腔室があり、このスポンジ状の構造のおかげで弾力があります。


■ 2018年06月09日 撮影

グレバ断面を拡大してみました。小腔室内部を満たす褐色のものが胞子です。 TOP写真の子実体は若いので白かったですが、本来の成熟状態はこの色。


■ 2018年06月09日 撮影

グレバ断面の切片を拡大してみました。小腔室内壁に付着するように胞子が多数確認できます。 この時は胞子形成が進みすぎて担子器までは確認できませんでした。


■ 2018年06月09日 撮影

胞子は本来の成熟状態である茶褐色。紡錘形で内部に油球を1〜2個持っています。 サイズは16〜21μm×7〜9μmで図鑑の記述とほぼほぼ一致しています。 近縁なアオゾメクロツブタケと比べると本種のほうが細長いですね。 しかし最大の特徴は本属菌共通の表面の構造。 胞子の外側にうっすらと輪郭があるのが分かりますか?


■ 2018年06月09日 撮影

立体感が出やすいようにあえて水多めで水封し、油浸対物レンズで観察してみると特徴が見えて来ます。 周囲に見えていたのはと呼ばれるあばら骨の出っ張りのような構造です。 これが4本、ミサイル尾部の4枚の制御翼のように走っているのです。 これは胞子を縦方向から見ないと分からないため、あえて奥行きが出るよう多めの水でスライドを作成します。 観察した結果、3枚のものも混じってるみたいですけど。


■ 2018年06月02日 撮影

ちなみに1周間前の初発見時はこんな状態でした。


■ 2018年06月02日 撮影

本種は成熟すると白色になりますが、幼菌時は見事なねずみ色をしています。 これは和名に納得ですね。表面のフェルト感も成菌の時よりより顕著に現れます。 この状態で採取しても間違いなく未熟なので、こんな色の地下生菌を発見したら採取せず定点観察をオススメします。

■ 2023年05月27日 撮影

TOP写真の子実体を見付けた同日は本種を複数個体発見していました。 特に印象的だったのはコレ。春のベニタケ科菌と一緒に並んでいました。 本種が菌根菌なんだなと感じられる光景でした。

■ 2023年06月04日 撮影

1週間後に同じ場所を訪れたところ、新規個体をまた発見。この場所は安定して発生しているようです。 モコモコした毛が生えていて可愛いです。考えてみれば滑らかな表面を持つ地下生菌が多い中で、 毛の生えている本種は少数派かも知れませんね。

■ 2023年12月30日 撮影

2023年の締め括りとしてド年末に開催された地下生菌オフ。 総勢6名での大規模オフは様々な地下生菌が見付かり、結果的には大収穫となりました。 その最初に見付かったのが本種でした。


■ 2023年12月30日 撮影

一目見てすぐに本種だと分かりました。このねずみ色の毛は凄い特徴的ですからね。 ちなみにこの場所ではセイヨウショウロ属菌やロウツブタケ属菌なども見付かっていますが、 地味にこの場所で本種が出たのは初だったんですよね。凄いフィールドですよ。


■ 2023年12月30日 撮影

切断してみると半透明の髄に弱い青変性が見られ、ネズミツチダマ確定しました。 ちなみに胞子観察は済ませているので今回は採取せず。
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