■Russulaceae sp. (ミヤマコイシタケ)

■ 2019年12月07日 撮影

収穫物のレア度が凄まじすぎて、ほとんどがネット公開禁止となってしまった伝説の地下生菌調査。 その中で辛うじて安心して公開できるレベルだった「深山小石茸」です。 和名からも分かるようにコイシタケと同属ですが、外見だけではなく担子器や胞子などに違いがあります。 そもそも何属なのか不明なんですけどね。ちなみに現在は日本固有種のようです。 秋に広葉樹林地上に発生しますが本種のほうがやや深い山に発生するようです。

以前は無印コイシタケがキツネタケ属に近縁な地下生菌の「Hydnangium carneum」とされていました。 しかし外見に似合わずベニタケ属に近縁であることが判明。 掲載段階では学名未決定どころか所属している属そのものが未決定と言うフワッとした存在です。 コイシタケ同様に当サイトの学名表記はやむを得ず「科名 + sp.」としています。


■ 2019年12月07日 撮影

子実体は2cmまでですが、平均して結構大きいようで、やや潰れた球形をしています。 表皮は白色で平滑ですが多少毛羽立って見え、成長段階によっては亀甲状にヒビ割れます。 無印のコイシタケと比べると表面は滑らかで白さが際立ちます。


■ 2019年12月07日 撮影

ずっと見たかったミヤマコイシタケの断面・・・この色は本当に衝撃的でした。 真っ白の子実体の中にこんな色が隠れているなんて!


■ 2019年12月07日 撮影

本種の最大の外見的特徴は切断した時に見られます。 真っ二つに割るとグレバがオレンジ色なのです。 あいや、オレンジと言うか「アプリコット」って感じですね。 無印コイシタケのグレバは赤みが無い黄色なので、この差はとても大きいです。 普段地味な色のグレバを持つ地下生菌ばかり見ていると、この彩度の高さはギョッとしますよ。


■ 2019年12月07日 撮影

断面を拡大すると、グレバには無数の小腔室と呼ばれる孔が無数に空いているのが分かります。 これはひだが折り畳まれて出来た構造。胞子を形成する表面積を増やそうとする工夫です。 また本種のグレバは非常に密度が小さく、手に持つと見た目以上に軽いと感じると思います。 何か撮影中にトビムシがグレバの上を歩いて行きました。興味無いのかな?


■ 2019年12月08日 撮影

調査の翌日は顕微鏡観察デーとなりました。本種もしっかり観察しましたよ。 表面とグレバが分かりやすいように黒バック撮影! てか白バックで撮影したら何が何だか分からなくなっただけですけど。


■ 2019年12月08日 撮影

表面をマクロ撮影してみると、滑らかに見えていて実は菌糸が編まれたような構造でした。 本種の表皮はかなり薄いですが、切断時に切断しきれずに端に残るほどしっかりしています。 グレバの色が透けて見えないのも緻密な構造ゆえでしょうか?


■ 2019年12月08日 撮影

グレバ断面をマクロ撮影。肉自体にも色がありますが、メインは胞子の色の模様。


■ 2019年12月08日 撮影

マクロレンズで高倍率撮影してみると、胞子の形状まで見えてしまいました。 本種の担子胞子は15μmくらいのものが多いので、この1粒を60粒チョイ並べてやっと1mm。 凄い世界を見ることができているんですねぇ。


■ 2019年12月08日 撮影

ただコレ以上の倍率となれば顕微鏡の出番です。 グレバをカミソリで薄く切断して切片を作り、低倍率で観察してみました。 小腔室内壁にビッシリ胞子が形成されているのが良く分かります。 この倍率だとまだ実体顕微鏡の領分ではありますが。


■ 2019年12月08日 撮影

向こうが透けるほど薄い切片を作成して本格的に顕微鏡観察開始! 小腔室内壁は驚くほど普通のキノコのひだの表面と似ている、いや同じと言って良いですね。 本種が元ハラタケ型なんだなと実感できます。


■ 2019年12月08日 撮影

これ!コレが見たかったんです!これぞミヤマコイシタケの担子胞子! トゲトゲがカッコイイ!マクロレンズで見えていたように淡黄色球形です。


■ 2019年12月08日 撮影

とその前に冷静に担子器を観察です。当然ながら担子菌類ですので担子器が存在します。 注目すべきは本種の担子器が2胞子性である点です。 実は無印のコイシタケは担子器が1胞子性で、1つの担子器に1つの胞子を形成します。 この違いは種としてはかなり大きな違いなんですよね。


■ 2019年12月08日 撮影

ではしっかり胞子を観察しましょう。まずは深度合成を行った胞子写真です。 本種の胞子は球形で、表面に先端の丸い長いトゲが存在します。 このような胞子にトゲを持つ地下生菌は先端が尖ったトゲを持つ種が多いので異質に感じますね。


■ 2019年12月08日 撮影

コチラは深度合成を行わず正確に胞子のサイズに合わせた写真。胞子の直径は10〜15μm。 内部に大きな油球が含まれているのが分かります。 ですが実はここまでの胞子観察の結果は無印のコイシタケと全くと言っても差し支えないレベルで同じです。 むしろここからがこの2種の決定的とも言える違いなんです。


■ 2019年12月08日 撮影

「ベニタケ科のキノコに使用する試薬」と言えば・・・アレしかありませんよね? そう、メルツァー試薬です。この染色で驚くべき現象が起こります。


■ 2019年12月08日 撮影

メルツァー試薬で染色した後に油浸対物レンズにて胞子を観察してみました。 すると胞子先端にアミロイド反応が見られるではありませんか! 確かに先端だけが青く染まっています。これぞまさに本種がベニタケ科である証拠!


■ 2019年12月08日 撮影

いやそうなんだろ?って思われるでしょう?違うんですよ。 と言うのもなぜか無印のコイシタケの胞子は非アミロイドなんです。 つまりもうベニタケ科である痕跡が肉眼的にも顕微鏡的にも残っていないんです。 よってミヤマコイシタケのほうはメルツァー試薬でベニタケ科である確証が得られるんですよ。

属すら分かっていないような状態なので当然ながら食毒不明です。 菌臭に混じってほのかに甘いような香りがするのは生物に胞子散布を委ねているため? それならば無毒の可能性も高いですが、人間が大丈夫かはまた別の話ですからね。食べないように!


■ 2019年12月07日 撮影

ちなみに遠景も撮ってました。風情がありますねぇ。

■ 2019年12月07日 撮影

本種はあまり地面に埋もれておらず、こんな感じで土から顔を出している子実体が多いです。 正確には地面と落葉の間に居るって感じですね。 なのでレーキや熊手で強く掻いてしまうと傷付いたりするので注意。


■ 2019年12月07日 撮影

白い球形の地下生菌は結構な数存在しますが、本種は手に持ってある程度当たりを付けられます。 軽くて硬いと言うのは他の地下生菌ではあまり両方揃わない特徴なので。 熊手で擦ってしまったのか少し表皮が傷んでいます。


■ 2019年12月07日 撮影

ちなみに上の写真で紹介した切断された子実体はコイツでした。 表面と内部の両方が分かりやすいようK.Y氏が並べた状態です。 やっぱこの断面の色は好きだなぁ。
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