■Sarcoscypha sp. (ベニチャワンタケ)

■ 2019年10月14日 撮影

どろんこ氏との地下生菌オフにて、口外できないほどのレア菌が出ました。 そこで出会ったのですが、発生状態が非常に美しいので良い被写体になってくれました。 広葉樹材上に発生するベニチャワンタケ科菌の美菌「紅茶椀茸」です。 非常に類似種が多く、顕微鏡で子実層の構造を観察する必要がありますが、観察しても微妙ですね。 今までは自信が無い状態での掲載でしたが、今回は一応裏付けが取れたので掲載に踏み切りました。 ベニチャワンタケモドキと言う極めて良く似た種があるとのことなのですが・・・?

正直無印とモドキの違いが分からなくなりました。 と言うのも、そもそも以前から使われてきた無印「S. coccinea」とモドキ「S. occidentalis」がアウト。 現在は無印が「S. hosoyae」、モドキが「S. knixoniana」とされてしまっています。 ですが、従来から言われてきた椀の外側の毛胞子のサイズ側糸の分岐などが互いに一致しません。 どう載せるか迷っていたところ、某チャワンタケのサイト様が同じことで悩んで居られたので、 自分もこの掲載方法を選択することにしました。


■ 2019年10月14日 撮影

本種の特徴は何と言ってもその色!目に悪いような鮮紅色をしています。 人工的な赤色なので遠くにあっても凄まじく目立ちます。 以前からベニチャワンタケの椀は外側に綿毛が生じるとされ、モドキには無いとされていました。 しかしこの綿毛には同個体群内でかなり個体差があり、正直アテにならないと判断しました。


■ 2019年10月16日 撮影

本種はモドキとの区別に顕微鏡観察が必須とされています。ので顕微鏡観察です。 まず子実層の切片を作成。一目見て赤色色素が多いなと感じます。 特に色素が多く含まれているのは子実層表面付近と、子嚢や側糸の基部。 あれだけ子嚢盤が赤いのだから当然っちゃ当然ですな。


■ 2019年10月16日 撮影

特に色鮮やかに見える子実層の表面付近を拡大してみました。 色の正体は側糸に内包された色素を有する顆粒だったんですね。 この倍率とこの切片状態でここまで美しく見える種も珍しいかも知れません。


■ 2019年10月16日 撮影

子嚢が綺麗に切り出せたのでパシャリ。子嚢胞子は8個が一列に並びます。 子嚢の基部付近が複雑にくびれ、曲りくねるのが特徴のようです。 また子嚢胞子は基部に近いほど長くなる傾向があるようです。


■ 2019年10月16日 撮影

さて、問題はこの側糸にあります。 以前から「分岐無し=ベニチャワンタケ」で「基部で分岐=ベニチャワンタケモドキ」と言われて来ました。 しかし今回観察したものは複数分岐が見られます。なので一応どちらかと言うとモドキ寄りの結果です。 でも上に戻ると本種の子嚢盤の外側には綿毛が見られるので、ソチラから攻めるならば無印です。あれれ?


■ 2019年10月16日 撮影

さらに厄介なのが子嚢胞子のサイズです。 ベニチャワンタケは20〜35μm、モドキは12〜16.5μmとされています。 今回のものは20〜25μmと無印側の範囲に入っています。 しかし側糸は分岐するので無印ではない・・・やっぱり合いません。 ちなみに長いものでは30μmに達するので、これを旧モドキとするのは無理があります。

また本種の子嚢胞子は発芽しやすく、そこから分生子を形成します。 ただこの頻度にはかなり個体差があるようで、今回は全く見られませんでした。


■ 2019年10月16日 撮影

ちなみにメルツァー試薬で染色しても非アミロイドなので青くなる部分はありません。 しかし赤色色素が強烈に染色されて黒い点のようになります。

食毒不明です。毒は無さそうな感じですが、そもそも脆いし小さいしで食用価値は無いでしょう。 ただ非常に美しい子嚢菌類なので、被写体としてはかなりポテンシャル秘めますよ。

■ 2018年10月20日 撮影

林道を歩いていて発見。最初は誰かがプラスチックゴミでも捨てたのかと思いました。 以前から赤いチャワンタケは見てきましたが、この和名で掲載したのはこの時が初めてです。 その時は「S. coccinea」として掲載していましたが・・・。


■ 2018年10月20日 撮影

非常に鮮やかな色合いで美しいです。しかし注目すべきは裏側。


■ 2018年10月20日 撮影

裏側はこんな感じで基部にはが存在しますが、材に埋もれて確認しづらい時もあります。 今回注目すべきは椀の外側。本種は以前から椀の外側に白色の綿毛が密生するのが特徴とされています。 となると右側のものはベニチャワンタケモドキと言うことになりますが、ちょっと待って下さい。 右のものも部分的に白いんですよね。明らかに特徴が混在しています。

そしてここからの顕微鏡観察結果は全て外側に毛が無い子実体のもの、 つまり従来ではベニチャワンタケモドキであるとされてきたものの記録です。 その結果、ベニチャワンタケと判断せざるを得ず、外側の毛は判断基準にならない可能性があります。 ただ特徴が完全に一致したわけではないので、そこは要検討です。


■ 2018年10月20日 撮影

子実層面を顕微鏡観察してみると、やはり圧倒的な赤さです。 そしてこの段階で胞子サイズの違いに目が行ってしまいます。


■ 2018年10月20日 撮影

子実層面の表面付近を油浸対物レンズで観察してみました。 側糸は先端部ほど太く、先端部は3μmほど。基部が2μmほどなので少し太くなっています。 ここまではベニチャワンタケの特徴で合ってるんですけどね。


■ 2018年10月20日 撮影

側糸を切り出してみました。隔壁を持ち、細胞内に赤色色素を内包しています。 この段階でやはり側糸は分岐していることが確認できたので、頭の中が混乱しました。


■ 2018年10月20日 撮影

メルツァー試薬で染色してみると子嚢はどこも染まらないので記載通りの非アミロイドのようです。 この写真だと同一子実体内での胞子のサイズが極端に異なるのが良く分かりますよね。 となると胞子のサイズってあまりアテにならない?


■ 2018年10月20日 撮影

子嚢胞子を観察していましたが、なぜか胞子の周囲に小さい胞子が漂っています。 最初はコンタミでもしたかと思いましたが、これ何と胞子が発芽して分生子を形成しているんです。 あまり他のチャワンタケの顕微鏡観察時には見られない現象ですが、本種では良く見られるそうです。 ただこの現象が中々起きないものもあるようです。


■ 2018年10月20日 撮影

子嚢胞子は楕円形ですが長さバランバランで、20μm〜34μmとバラつきがありまくりです。 両端部が潰れて円筒形に近い形状のものも見受けられます。 また厚壁と言うベニチャワンタケの特徴も観察できました。 ベニチャワンタケモドキの胞子は大きいものでも20μmを超えないとのことですが、 本種の未熟な胞子だと小さいものもあるので、胞子のサイズでの判断はちょっと遠慮。


■ 2018年10月20日 撮影

子嚢胞子から形成された分生子です。 顕微鏡観察をやっているとこの現象はたまーに出くわしますが、本種はかなりお盛んですね。 やはりここまで観察しても無印とモドキの概念には納得できず仕舞いでした。

■ 2019年10月14日 撮影

この日は地下生菌探索がメインでしたが、本種も良い彩りとなってくれました。 ちなみに材にはゴムタケも同居していましたが、良く見るとこれ2018年の時と同じ樹種では? 2018年はやや太めの落枝で、今回が主幹なのですが、樹皮が似ているような・・・?

■ 2020年10月18日 撮影

場所は2018年と同じなんですが、やっぱこれ同じ樹種ですね。幹の質感が全く同じです。 こう言う時に樹木の知識があれば特定できるんでしょうが、本持ってるくらいじゃ無理かぁ。 この樹皮はブナ科っぽくはないと思うんですけど。


■ 2020年10月18日 撮影

それにしても鮮やか!遠くにあっても人工物みたいに見えて超目立ちます。 このような彩度の高いキノコは被写体として優秀ですが、変な色に写るので後で編集が大変です。
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