■Sirobasidium magnum (フクロキクラゲ)

■ 2020年11月03日 撮影

最初に見た時は傷んだキクラゲと思ってスルーしていた広葉樹材に発生したキクラゲ型菌。 少し前まで仮称扱いだったようですが最新版学名一覧に載っていました。 日本では今は2種だけなのかな?珍しい属名の持ち主「袋木耳」です。 クロサイワイタケ科子嚢菌類と深い関係を持っているようです。 ちなみに種小名の「magnum」は「大きい」と言う意味なのですが、比較的小型種です。

本種はかなり珍しい特徴を持つジュズタンシキン属に属しています。 見慣れない属名ですが、由来は顕微鏡観察すると良く分かります。 パッと見はキクラゲの仲間だなって感じですが、子実層の構造が全くの別物なんですよね。


■ 2020年11月03日 撮影

群生しすぎていて単体の構造が良く分かりませんね。 本種はあまり群れない印象があったんですけど。 とりあえず見た目は赤みの強いキクラゲって感じですが・・・?


■ 2020年11月03日 撮影

子実体は半透明ゼラチン質で橙褐色。湿時なので透明感があります。 また子実体表面には微細な凹凸があるので粗面に見えます。 また「袋」と和名にあるように、子実体が丸まって袋状になるのが特徴ですね。 幼菌は粒のようですが、成長すると端が少しずつ巻き込まれるようです。 基部は黒くなっていることが多く、これがクロサイワイタケ科菌みたいです。


■ 2020年11月03日 撮影

本種は顕微鏡観察しないと意味がないと言っても過言じゃありません。フロキシンで染色しての観察です。 本種の和名が「ジュズタンシキン」なのは本種の担子胞子が数珠繋ぎに形成されるからです。 冬虫夏草のアナモルフにあるようなフィアライドに近い胞子形成のパターンです、あれは分生子ですが。 キクラゲ型の担子器はそれ自体がハラタケ型とは大きく異なりますが、本種はそれに輪をかけて特殊です。


■ 2020年11月03日 撮影

フロキシンで染色すると担子胞子の構造も良く見えます。 興味深いことに本種は「紡錘形」と「隔壁を持つ球形」の2種類の担子胞子を形成します。


■ 2020年11月03日 撮影

別角度で見ると隔壁を持つ球形の胞子が良く分かります。 この隔壁がある胞子はキクラゲ型担子菌類では良く見られる構造なので馴染みがありますね。 ただ子実層面の構造が違いすぎて、やっぱり本属菌の特殊さを感じる次第です。

属名自体がまだ比較的近年になって付いたもので、現段階では食毒不明のようです。 個人的には分類的に致命的な毒は無いような気もしますが・・・。 ただキクラゲ型菌としては小型で何となく汚らしいので、仮に可食でも食指が動かないですね。

■ 2019年07月15日 撮影

地元のフィールドで時たま見かける本種。 初発見以降はあまり興味が無かったんですが、子実層面の構造が面白いと知ってからの初遭遇。 今回は顕微鏡観察しようと思い、しっかり撮影と採取を行いました。


■ 2019年07月15日 撮影

水分をしっかり吸っているのでみずみずしいですね。 いつも近くに黒っぽい子嚢菌類が居るあたりシロキクラゲに近いものを感じます。 クロサイワイタケ科菌から直接出たりもするので、やっぱ本種が寄生しているんでしょうかね?


■ 2019年07月15日 撮影

材の表面が黒っぽくなっているのが寄生されていると疑われているクロサイワイタケ科菌です。 流石にコレだけで同定するのは無理でしょうね。 基部は溶けたように光沢があり濃色になっていることが多いです。


■ 2019年07月15日 撮影

キクラゲ型菌は肉が軟質で滑るため、切片の作成が地味に難しいんですよね。 潰してしまうと構造が崩れちゃうし、とにかく試行回数で挑むしかありません。 奇跡的に綺麗な切片が作れたのでまずは低倍率で撮影。担子器が並んでいます。


■ 2019年07月15日 撮影

フロキシンだと菌糸と担子器、形成直後の中身の詰まった胞子が染まっているようです。 菌糸にはクランプが確認できました。


■ 2019年07月15日 撮影

こうして見ると本当に不思議な胞子の作られ方ですね。これが担子菌類だと言われてもピンと来ません。 子実層の表面が粗面に見えるのはこの胞子が外側に向かって並んだ構造のためのようです。 担子器から1〜2個先くらいからフロキシンで染まらなくなるんですが、これやっぱ細胞が死んじゃってるんでしょうか?


■ 2019年07月15日 撮影

本種の担子器がキレイに染まりました。棍棒形で先端ほど太くなり、基部の分岐と隔壁が見られます。 ここから次々と胞子が形成されると言うワケですね。不思議なものです。

■ 2008年09月07日 撮影

初発見はこの時。初見では単に朽ちかけたキクラゲだと思っていました。 この頃は高性能の顕微鏡を持っていなかったので、どのみち細部まで観察できなかったでしょうけど。 黒い点があるなと思っていましたが、これ多分トビムシの糞ですね。

■ 2013年12月21日 撮影

和名に「袋」と名が付くだけあって丸まっている部分が目に付きますね。 何でこんな感じになるんでしょうね。普通にキクラゲみたいにもなるんですけど。
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